2019/10/20 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール” 裏通り」にジンライさんが現れました。
ジンライ > 黒い夜空にぽっかりと白い月が浮かんだ夜。
雲の影ひとつない夜空の静けさとは正反対に、今宵も今宵とてハイブラゼールの繁華街は光と喧騒に溢れている。
各建物から溢れる光に照らされるのは、揃いもそろって熱気に浮かされたような顔の様々な人種の老若男女。
行き交う通りを満たすのは黄色い声からドスの利いた声、はたまた優雅な管弦楽に、戦場もかくやと思えるくらいの銅鑼の音やら太鼓の音まで。

そんな景気のよい光景を展開する大通りから一転。豪奢で巨大な賭場の裏口から、暗い裏通りへ現れる長身の男がひとり。
扉の蝶番が如何にも不景気な悲鳴を上げて、男の背後で閉じる。
男は同時にすうーと肩ごと息を吸って

「――――ツいてねェー」

ため息とともに、これまた不景気な言葉を吐き出した。
肉の薄い顔の頬と額に傷もちの目つきの悪い男だが、こぼれた声は如何にも情けない。
短く刈った額の生え際を撫で上げるように顔を一度、手で攫うと、路地までの短い階段を下りて、その場に腰掛ける。
同時に腰の後ろをまさぐってその手指に煙草を挟んで

「……―――。」

もう一発、溜息だ。

ジンライ > 王都で娼館を手広くやっている叔父貴が、ハイブラゼールにも手を広げ始めたおかげで出張が増えた。
息のかかった娼館へと娼婦を送り届けた後、こうして賭場へ繰り出すのは毎度、お決まり。

―――素寒貧になるのも毎度、お決まり。

薄い唇に煙草を咥える。
相当に人相が悪いが、濃い眉毛の先が下を向いてしまった今ではその効果も3割減。
口の代わりに鼻から吐息を漏らしながら、また腰の後ろを探ってマッチを取り出すと火をつける。
締めたばかりの賭場のドアに、『火気厳禁』と書かれているが知ったことか。
火の消えたマッチを放って雪駄で踏みつけながら、吸い付けた煙草の煙を細く吐き出す。

「――――どっかに上手え仕事、ねえかな……」

低い声を零しながら、薄暗い裏通りの壁に鋭い視線を這わせる。
当然、そんなものは裏通りに張り付いていない。あるのは、探し猫とか犬とか、人とかだ。

(……金払いさえ良けりゃァ、猫探しでも良いかもしれねえ)

男はぼんやりと表通りから流れてくる喧騒を聞きながら、ほぼ、末期に近い思考になりつつ
そんな張り紙に賞金はついていやしないかと。

ジンライ > ぽろり、と咥えた煙草の先から灰が落ちて、足の間の石畳に散る。
煙草を指に挟んで、三白眼の目をさらに鋭く細めながら、煙と息を細く吐き出す。
賞金がついているのもあるにはある。
大概が、賞金首のものだが。

(―――まァ、覚えておいて損はねえか)

じつはコチラの人種の顔立ちはほぼ同じに見えるので、たぶん、役には立たないだろうが
それでも一番値が張っている賞金首をじいーと眺める。

やがて、短くなった煙草をぽろりと落とす。
点々と赤く小さな焔を零すそれを、ゆらり、立ち上がりながら雪駄で踏みつける。
がりがり、と後頭部を掻くとくわーと大あくびを一発。

「―…行くかァ…」

自分に景気をつけるように呟くと
人気のない暗い裏通りを伝って、何処かへと。

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール” 裏通り」からジンライさんが去りました。