2019/09/03 のログ
ギュンター・ホーレルヴァッハ > やがて、積みあがるチップが少年の目線まで届く頃。
溜息と苦笑いを浮かべた少年はチップを全て見物客へばら撒き、支配人と共に奥の部屋へと消えていくのだろう。

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」からギュンター・ホーレルヴァッハさんが去りました。
ご案内:「トゥルネソル商会 本店」にリスさんが現れました。
リス > トゥルネソル商会、港湾都市ダイラス本店。
 ここは、トゥルネソル商会の出来た土地である、父親で、商会の主、エルヴ・トゥルネソルが一から作り上げた商会であり、その原点。
 今も、父親が店長として此処にいて、商いをやっていて、少女はマグメール店での売り上げや状況の報告に戻ってきていた。
 そして、それが終わった後は、訓練と称して店の手伝いをするのだが。


「―――ん、開放感。」

 少女は、嬉しそうに顔なじみの冒険者や幼馴染に挨拶をするのだ。
 別に、店長としての仕事や書類整理などに否やはないし、嫌いでもない。
 が―――やはり、仕事とするので負担が増えるものなのである。
 こういう風に接客だけしていればいいという状況が、とても気楽なのは確かである。
 此処には、幼いころからの友人なども多いから、向こうよりも気安く会話もできるし。

 こう、久しぶりな友人とか来ないかしらね、とワクワクしながら一回の受付に座るのだった。

リス > 近くに住むおっちゃんとか、変わってないのが嬉しく思える。
 この店は、大きくなって立て直したが、それでも地域の人との交流は変わらない。
 時折、お茶を飲むだけに、父親に会って雑談するために来る客もいるけれど、父はそんな客を受け入れて楽しそうに茶を飲んでいる。
 それでも、今現状は成り立っているのだ、店員たちはみな自分のいるマグメールよりも洗練されていて、羨ましい所である。
 それでも、自分にも挨拶してくれるのは嬉しくて思わずにこやかに挨拶を返して見送るのだ。

「早く、こういう空気にしたいわ。」

 少女の目標である、値段とかそういうのも大事だけれど、もっと交流のある、温かな店が良いと思う。
 そういう意味では、地元に密着し、今現状を作り上げられているダイラス本店はいまだに見習うべきところの多い所なのである。

「いらっしゃいませ、トゥルネソル商会へようこそ。
 何か、お困りの事ございましたか?」

 少女は、新たに来た客に挨拶を掛ける。

ご案内:「トゥルネソル商会 本店」にナインさんが現れました。
ナイン >  ふむ。実は、な――

(そんな、新たな客の一人。
時折別宅に逗留するこのダイラスで、有名所である商会にも、度々足を運んでいる。
繁々と並ぶ商品に目を向けていた所、見止めたのだろう彼女に声を掛けられて。是幸い、と振り返れば。)

 実は捜し物というか。目当てにしている品物が有るんだ。
 ―――此処なら。取り揃えてくれるというか、取り扱ってくれているかもしれない、そう思うから。
 此方に来た序でに寄ってみたのさ。

 …マジックアイテムの類。上の階に有る物を見せて欲しい。

(そうして。常々、此処で見掛ける店員とは別の女性…だが。
遠慮する事なく注文を告げる事にした。
立ち振る舞いを見ていれば。充分、此処に慣れた相手なのだと。見て取れるのだから。)

リス > 「はい、マジックアイテム、でございますね?
 3階に取り扱いがありますわ、基本的には、マグメール第二師団の発明した量産品が殆どでございますが。

 ―――お客様は、どのようなものをお望みでございますか?」

 少女は、新たにやってきたお客様にたいし、にこやかに対応する。
 この周囲の人間ではない、知っている顔ではないので、自分がマグメールに移動した此処2・3年の内に来た人だろうか。
 それとも、旅行客なのだろうか。
 旅行客としては、荷物が少ない気もするが、冒険者にも見えない。
 それに、この店に慣れている所作があるので、恐らくは一番最初の認識なのだろうと、考えてすぐ、思考をやめる。
 なぜなら、客は客である。客が求めている者に案内するのが、商人であるから。

 彼女がどのような物を探しているのかを問いかけながら。
 少女は受付から席を立つことにする。

 マジックアイテムなどの説明であれば、他の店員よりは自分の方がよく知っているからである。

ナイン >  …第二師団の。それはそれで…丁度良いのかもしれない。

(ふむと肯いてみせる仕草は鷹揚に。
取り敢えず、偉そう、だとか。そういった見え方はするのではないか。…当人も自覚済み。
ちなみに、荷物が少ないのは当然だ。王都から別荘への小旅行なので、必然、物品は大半がその中に。
市街の方迄ぶらりと足を運んだ折、目に留めたこの商会へ。久々に訪れる事としたのだから。

頷肯しつつ、此方も、彼女に――店員に目を向けていた。
幾度か訪れた際、お目に掛かった事はないが。かといって新規の店員だとは思えない。
態度が落ち着いているし、扱う品についても、スムーズに話が通る。
他の支店で既に経験を積んでいる、そういう人員なのだろうと当たりを付ける…よもや。
商店主のご息女だと迄は、察する事が出来無かったが。
これで王都の支店の方にも、足を運んだ経験が有ったなら。亦別の結果となっただろうに。)

 有難う。…私は、亦別の師団で。少しだけど魔術を教わっていてな?
 けれど、普通の人間…否、恐らくはそれ以下なんだ。魔術の才能という奴には、どうにも縁が無いらしい。
 取り分け今困っているのが――魔力を生み出すという事さ。

 …少しずつ、少しずつ、しか出来ないそれを。例えばそうだな、術一回分だとか。蓄積しておける、そういう品物が欲しいんだ。
 いざという時に、力が足りない、使えなくて困る、という事が無いように。

(立ち上がった彼女に、ついて歩き出し乍ら。第二師団と親交があるのなら、確かに詳しかろうと。
目的に関してはつらつら、一息に述べる事として。)

リス > 「成程……魔力を溜めておくための道具、でございますね。
 千差万別有りますわ。
 用途に応じてお値段も変わってきます。」

 彼女の偉そうな態度に関しては特に少女から言うようなことはない、貴族であれば当然の行動であろう。
 マグメールの方でもよく見た物であるが故に彼女が貴族だとしても動じることはない。
 客として来ているならば、そうあれ、と対応すればいいのである。
 それに、貴族と言う割には良識のある人物であることもまた、認められる。
 本当に酷いのは、客だという事でなんか勘違いしてくる輩もいるのだから。

 閑話休題
 少女は、階段を上り、三階にある武器や防具、魔法の道具を販売している階層に案内をした。
 此処にはずらりと、並んでいる武器防具、その奥に魔法の道具が並んでいるのだ。

「それでは、そちらにおかけになって、少々お待ちくださいませ。」

 店員に、テーブルと椅子を準備するように願い出て、少女は、自ら品物を確認しに行く。
 様々な魔道具の中から、幾つかの道具をチョイスして、彼女の許へ。
 テーブルの上に並べられるのは、大小さまざまな道具であった。

「用途によって、同じ効果でもさまざまありますので。
 使い捨てと言うのであれば、この、透明な石は、魔力の塊でありますわ。
 一定分量魔力を引き出すと、壊れてしまいますの。

 こちらの指輪は、小さいですが、溜めておいて、好きな時に使えますが―――、溜めておけるのは一日程度。

 此方のネックレスは、先に説明した指輪と同じ効果で、大きく、魔力を溜める量が増えて溜めておける日が長いですが、此方はお値段が少し張りますわ。

 こちらの武具についているものは、多く溜められますが、見ての通り武具なので、常に持ち歩くには、少しばかりかさばりますわね。」

 取りあえずは四種類。
 これで気に入る物がなければ、また別のモノを探して来ませんとね。
 少女はにこやかに考えて、次は何を探すべきだろうか、と。

ナイン >  助かる。
 用途は言った通り、いざという時の為の物だから……蓄積量よりも、期間の長さを優先したい。
 その都度毎回貯め直すというのも。言った通り、私の力ではなかなか出来ないのだし。

(話を続けつつ店舗の上階へ。
確かに、見て取られた通りの貴族だが。此でもし、貴族イコール良識不足や非見識を論われたなら。
少々機嫌を損ねていただろう。…確かに、そういう輩も多いのは確かだが。
少女にとっての貴族とは、在って当然の権利権力の事ではない。斯く在るべしという生き方だ。
其処を勘違いして権利だけに目を向け、義務を忘れては意味が無い。
言ってみれば立ち位置への自尊。生業へのプライドのような物。
商売人としての彼女が、自分自身をどう考えているか…等と。同じような物の筈。
もし、語り合う事が出来たなら。それはそれで、話の種にはなるのかもしれないか。)

直辿り着いた上階、促された席に腰を下ろせば。
差程待たされる事もなく、直ぐに品物を手にして戻って来る彼女。
簡単な説明だけで、直ぐに当たりを付けられるという辺りにも。プロを感じられて好ましい。

早速並べられた品々と、それぞれに対する説明口上。
ざっくりと簡潔で、過剰な美辞麗句で自画自賛する事もなく、必要な情報を的確に述べてくれる。
取り扱う品物への自信と、立て板に水の手際の良さとが。亦何とも快く。)

 先程の説明に則するなら――このネックレスが良いな。
 値が張るのは、仕方がないというか。価値に見合うのなら当然の事なのだろうし。
 っ、っふふ。確かに武具は難しいよ。振るどころか振り回される光景しか浮かばない。

 …ではネックレスと。念を入れて此方の石も二つ、三つ。用立てて貰おうか。

(…現状、「姿を変える魔術」は、剰り良い使い方をしていないが。
今後は安全確保や情報入手等、重要な意味合いで用いる機会が増えてくるだろう。
その為なら、正直、金に糸目をつけないのも当然だ。必要な犠牲という物だ。
軽く前に躰を乗り出して。 …さぁ。幾ら位となるのだろうか。)

リス > 「困りましたわ、そうなると……、この魔道具大きさが、蓄積量と蓄積時間に依存してますの。
 長さを優先と言うと、自然と大きくなりますわ。蓄積量もまた。

 貯めるだけであれば、誰にでもできるので、何方かにお願いするのも良いと思いますわ。」

 彼女の言葉に、少女は少しだけ困った表情、取り扱いのある量産品では、期間の長さと貯蔵量は比例してしまうのだ。
 なので、小さい物を勧めることはできなくなってしまった、という事である。
 利益だけで見れば、大きい方が値段が高いのでいいのだが、商売とはそういうものではない。
 必要なものを必要な分だけ、そこに、価値があると思うのである。

「畏まりました、確認ですが、石の大きさは如何されましょう?
 石は、使い捨てではありますが、そちらの道具とは違い長い年月そのままでございます。
 大きさに対してのお値段になりますので。
 ああ、そうそう。今、その場にある石の大きさで、魔導ランプが一年動きますわ。」

 彼女がどのような用途で使うのかはわからないが、少女は問いかける。
 石の大きさに関しては、一番目にするだろう魔法の道具、一般市民でも取り扱いのある明かりの魔道具を基準にして説明する。
 日常的に使うものを引き合いに出せば、大きさもちょうどいいのが選べるだろう、と。

「ネックレスの方は、一万ゴルトでございます。」

 そして、魔道具にはある程度の値段は決まっている。
 第二師団の副団長と知己故に、どの程度の価値があるかを教えてもらっている。
 なので、そこから導き出される適正な価格、少女はそれを。
 敢えて、少し下げて表示するのだ。

 理由は簡単で、基本的な適正価格は、運んだりするという労力が発生する。
 トゥルネソル商会のネットワークでは、運ぶことに関しては他の商会よりも抜きんでている部分がある。
 安全に大量に運べるゆえに、運ぶための費用が抑えられ、それを値段に反映できるのだ。
 だからこそ、しっかりとした品質を安く提供できている。

ナイン >  …あぁ……剰り大きすぎると。それはそれで、悪目立ちしてしまう、よな。
 急に身に着け始めた、と露骨に取られて、其処から内実を悟られるというのも――困り物だ。

 力だけなら、誰か頼める者を見出して――後は、そうさな。丁度このネックレスくらいが。
 小さすぎず、目立ちすぎず、で。勘繰られる事なく身に着けておけると思うから…

(その辺りも選択の理由だった。
値段云々は置いておき、実際に用いる場合を考えて。…この場合、常に身に着けておけるか否かが、それこそ。
冒険者が武具に関して、手を抜けるかどうかと。同じ位の重要事項。
見た目と実用性。双方のバランスと落とし処を、上手い事見出す必要が有りそうだった。

ただ、貯めるだけ貯めた所で、出来るだけ長く――という部分に関しては。
この場合、最優先事項から、一つ下へと落とす必要が有りそうだ。
小さく吐息を零すものの、何から何迄思い通りにいく、そんな都合の良い事は有り得ない。
必要事項の幾つかを満たせる、それだけで万々歳と取るべきだろう。
ならば。先ず、ネックレスは確定として。)

 それは、…凄いな。いやいや、其処迄大仰な物は必要ないさ。
 辺り一面薙ぎ払うでもなし、私自身に、小さく作用するだけの魔力なのだから…
 これと、これと。くらいが丁度良いのかも知れないな。

(今目の前に在る石。其処に秘められただけの魔力は――どうやら。己ではとてもとても、使いこなせない量だ。
なので、使い切りの石に関しては。許容量よりも、持ち運びし易いサイズを、最優先とする事にした。
目の前に有る物より、二回り程小さな物を。改めて二つ、持ってきて貰い、それを選ぶ。
亦、小さな石を選んでおけば。例えば他の宝飾品として持ち歩く事もし易いだろう。
其方に関する職人は――それも。頼めば此処で。どうにかしてくれるのだろうか。)

 解った。では、先ずはこの一品だ。
 ――届け先が要るんだろう?王都マグメールの富裕地区、この辺りに在る…

(此方に関しては、即決。少なくとも、高い、買えない、等と今更言う事はない。
さらさらと小切手に金額を書き込んだ。
次いで記載していくのは届け先、グリューブルム家の所在。
…この商会が、商品輸送に関して一家言以上の物を有しているという事は。
よくよく承知している故に慣れた物。)

リス > 「ふふ、このくらいの大きさならば、おしゃれと言っても問題のない大きさですもの、ね。」

 貴族の世界と言うのは、色々ある物なのだろう。
 金を貸している貴族の奥様などのボヤキを色々聞いているし、そういう事に全くの無知ではない。
 身を守るための魔法を使うために、必要なのでしょうね、と考えたうえでの発言であった。
 彼女の欲する魔道具は、恐らく市販品では難しいだろう。
 第二師団に直接願い出て、そのうえであれば、用立ててくれるかもしれないだろうが。
 絶対数が少なくなるのは間違いない。

 ――――というのは、少女の考えであり、実際い訊いてみればできるかもしれないけれど、魔導に明るくない少女には、今現状知りえる事の出来ないものなのだった。

「では、そのようにさせていただきます。
 この大きさであれば、一つ250ゴルトですわね。」

 あまり大きなものは必要ないらしく、彼女の言うものであれば、ととたた、と走って取りに戻る。
 そして戻ってくれば、彼女の望む大きさの石を。
 これなら、二つで500ですわね、と。

 そして、彼女が求めて書き記るした場所。
 しょうじょはそれをかるくながめて、あら、と。

「この住所であれば。
 何時ごろまでにお届けに上がればよろしいのでしょう?

 お急ぎでないのであれば、私、家に戻る際に寄りますので無料で引き受けますわ?
 遅くて、三日程度です。」

 船で内海を突っ切って、最速でそのぐらいの時間はかかるだろう。
 街道をぐるりと回る馬車であれば一週間くらいはかかるだろう。
 其処を、遅くて三日。
 その理由は、王国のトゥルネソルを知る物なら判るだろう。
 ドラゴン急便。
 竜と契約し、使役している商会ゆえに、空での荷運びができるのだ。
 圧倒的速度であり、一日経たずに、ダイラスとマグメールを往復できるほどであるからで。

 急ぎならば、すぐ届けに行きますが、と、ナインを見やる少女。

ナイン >  ――其処を優先しないといけないのが、困り物さ。
 けれど仕方がない…それこそ、こういう物こそが。
 私のような人間にとっては、立派な、武器となるんだから。

(そう、色々だ。
貴族にとっての戦いとは。政であったり、権謀詐術であったり…直接得物を振るわないだけであり、剣呑である事は変わらない。
武器、というより今回は、謂わば防具だが。そう考えれば、手を抜く事が出来無いのは当然だろう。

…尚此方が縁の有る師団は、亦別であり。その上口止めし合う仲である為、具体的な師団名は出せないが。
其方に頼んでも、恐らく、第二師団と同じ物を提供して貰うのは難しいだろう。
序でに、第二師団の人間とは、直接の縁など無い為に。
偶々訪れたこの商会が、第二師団と繋がりを保つようになってくれていた事が。この上なく有難い。)

 あぁ。では、500ゴルドの方も、先の一枚に追記で。
 …と、…ん?

(石の方も、これならば丁度良いと。購入決定。
細工師の方は…別に急がなくとも良いだろう。この石が届いた後、王都で探す事にする。
…そういえば、王都の方にも。この商会の支店が有った筈、と。それを今になって思い出しつつ…
小切手の金額を追加分修正している所で、ん、と。彼女が何か、気に留めたらしい様子に。小首を傾げ。)

 家? ……あぁ、あぁそうか。
 貴女が支店の方を任されていると言う御息女なのか。…っくく、思わぬ所で出会った物だよ。
 そうさな、今直ぐと急ぐ訳ではないから。三日後に、屋敷に届けて貰おうか。
 折角だからその時に、亦、別の話もさせて貰うよ。

(ぱちりと瞬き。それから、彼女の言葉を理解した。
たった今思い浮かべたばかりのマグメール支店。彼女が、噂に聞く其処の店主なのかと。
なら、同じ王都に住まう者同士、此処で縁を作っておくのも悪くない。
矢張り石の細工に関しては、改めて王都で、彼女に相談する事に決めておいて…
その時には。屋敷に来て貰うのだ、然るべき迎えの準備もしておくべきだろう。
ドラゴンによる空輸、その速さは。確かに大きな魅力だが。
今回に限っては、また違う部分を優先するという事で。…今後の為にも。)

リス > 「大変なのですわね、本当に。」

 彼女の苦労を、辛さを知ることができない、聞くことができてもそれを想像できない。
 なので、只々感想の一言を紡ぐだけにしておこう。
 共感できないことを無理にしても、ちぐはぐになるだけなのであるから。
 親密になり、詳しく話を聞けばまだ別であるのだろうけれど、今はそんな関係ではないのだ。

「……?
 どうか致しました……?」

 さらりと、小切手を切っている相手が、動きを止めるのだ。
 不思議そうな雰囲気を感じ取って少女は問いかけることにする。
 何か不備や、値段など、ミスが有ったのだろうか。
 三日と言うのが早すぎるという常識的な返答の方だろうか。

  ――彼女の言葉に氷解した。

「ああ、申し遅れて申し訳ありませんわ。
 マグメール支店であれば、すぐに名乗っておりましたが。
 ダイラス本店は、お父様が店長をしている場所なので、お父様が私を紹介されたり、とかなければ、一店員としておりますの。

 私、リス・トゥルネソル―――ええ、この商会の会長、エルブの三姉妹の長女でございます。
 そして、マグメール店の店長をしておりますわ。」

 自分の事に思い当たった模様。
 なるほど、と少女は笑みを浮かべて見せて改めて名乗り出る。
 向こうでも、良しなにお願いしますわ、と、お辞儀も一つ。

 別の話、と言うのは気にもなるが。
 それは、今話さないのは理由が有るのだろうと問いただすのはやめた。

「それはそれとしまして。
 他に何かご入用の物はありますか?」

 購入をしてもらったのは嬉しいことだが。
 まだ、用件があるなら、今のうちに全て済ませてもらおう、と。

ナイン >  けれど、やりたくてやっている事、さ。
 苦労話は出来るけど――話の種、という程度だよ。

(彼女の気遣いは理解出来た。だから、己もさらりと流そうか。
実際、どれだけ苦労するのだとしても。それを理由に、貴族社会から目を背けるなど出来ないのだ。
やりたい事であり、やるべき事。理解程度は求めたいが…共感や、まして同情迄求めるつもりは、毛頭無い。
世間話にもならないそれは、だから、今口にする事はなく。あくまでも本来の目的、商取引に勉め。)

 成る程。いや、成る程と思っただけさ。
 噂話には聞いていたのだけど…どうしても。彼方では、赴く機会も無かったから。
 …此方の本店は、さ。小さな頃訪れたりもしていたから。つい、此方を選んでしまって。

(もっと幼い少女であった頃は。どちらかと言えば…諸々不穏な王都よりも。
このダイラスに有る別邸の方で育てられていた。
尤も本当に幼い頃であり、誰か覚えている者など居ないとしても、当然だが。
そんな折から、ちょくちょく。此方に訪れていたとすれば。どうしても、別店舗を選べないのも仕方がないか。

ただ、これで縁が出来た。近い内、王都支店の方にも。お世話になる事にしようかと決め込んで。
大した事ではない、と。やんわり片手を振る仕草。)

 ……そういえば名乗ってもいなかった、か。済まないな。
 レーヴェナイン・K・グリューブルム…お見知りおきを。

 あぁ、勿論。向こうに帰ってからは、貴女の店にも。足を運ばせて貰うとするよ。

(貴女の、と。本店は本店、支店は支店、きちんと区別――彼女が、責任有る立場なのだろうから。
其方に用が有るのなら、彼女を立てるのが当然だ。

直に、全ての手続きは終わる。小切手へのサインも終え、此処ダイラスの口座を記し。
…別の話、は。まぁ言ってしまえば。後回しにする事で、次も話題を作りたい、そんな悪戯心というべきか。)

 いや。今日は、これで充分だよ。――有難う。偶々貴女が来てくれていた事に感謝する。

(そうして席から立ち上がろう。これから縁が出来るなら、また、話してみたいとも思うが。
一店員として此処に居るというのなら、長話で時間を取らせるのも、彼女の為にはならないのだろうし。)

リス > 「それならば、お茶の時のおつまみ程度が、宜しそうですわね。」

 話のタネ程度の物であるなら、お茶の時にゆっくりとお話しできれば、と言う意味を込めて少女は微笑んで見せる。
 今、話すべき時ではないという事は少女も理解しているがゆえに。
 今盛り上げたり、取り上げることはしなかった。

「ありがとうございます、わ。
 こちらも、あちらも、等しくトゥルネソル商会ですが。
 やはり、上が違えば色も少しは変わります、本店をお選びいただきありがとうございます。
 今後とも、ご愛顧の程よろしくお願いいたしますわ。」

 彼女には彼女の想いがあり、此処の店を選んでくれている。
 それは感謝すべきことであり、トゥルネソルの娘として礼を言おう。
 縁は大事なのである、縁があるから、人は継続して選んでくれるものなのだと、おもう。
 なので、マグメール店を選ばずとも、本店を選んでくれるのは、うれしい。
 でも、一つだけ。

「精進いたしますから。」

 マグメール店、本店に負けぬように頑張りますわ、と。
 ただの分店では終わる気はない、其れこそが、商売、肉親であろうとも、競争相手になりえるのだ、と。
 現に、竜の輸送を実現したのは、娘の方である。
 もっと、盛り立てて見せますわ、と。

「レーヴェナイン様でございますね。
 しかと、覚えましたわ。
 その際には、此方のてんぽもよろしくおねがいいたします。」

 王都に戻った際には、寄ってくれるという嬉しい申し出に少女は微笑みを一つ返して見せて。
 ありがとうございます、とお辞儀を一つ。

「レーヴェナイン様にとって、この店がメインのお店である様に。
 私にとって、此処は実家ですもの。
 偶に報告や相談などできますわ。

 毎度、ありがとうございます、又のお越しをお待ちしておりますわ。

 最後に、お見送りさせていただきますわ。」

 たくさん買ってくれたお客様なのだ。
 その位しても罰は当たるまい。
 彼女が立ち上がれば、彼女の影を踏まぬよう少し後ろに立ち、お店を出るまでは付き従おう。