2019/02/17 のログ
ホアジャオ > 港に面した中規模程度の酒場。夜の帳が下りた今、海の仕事に従事する面々が溢れ、陽気な声と歌と音楽で満たされていた。

その奥、カウンターにほど近い場所に今はちょっとした人だかりが出来て、たまにワッという歓声が上がる。
その人だかりに囲まれて、一目でシェンヤン出身と解る衣装の細身の女と、その女よりも身の丈なら頭1つ半、体格ならば2倍と言えるような男が向き合っていた。
カウンターの上、両者の近くにはそれぞれ簡素な兜と、長い厚紙を丸めて作った棒がある。

(很焦躁(いらいらする)…)

女は男を睨みつけ、男は女を睥睨している―――そうして、周囲から声が上がる

「じゃーん、けーん…!!」

ぽい!の掛け声で両者が振りかぶった手を前に出す。

女は拳。
男は広げた手のひら。

(―――もォ!)

電光石火、女はカウンターの上の兜をひっ被る。それに数舜遅れて、男が手にした紙の棒がばこん、と兜の上で音を立てた。

ホアジャオ > 再度上がる歓声。女はいらいらしているのを隠そうともせず、口を尖らせながらゆっくりと兜をカウンターの上に戻す。
先から全然、じゃんけんで勝てない。あいこか男の勝ちで、ちっともこっちが攻撃する機会がない…
…次、負けても殴っちゃおうかしら、何て自分でも本気とも冗談とも思えるような事を考えながらまた、拳を振りかぶる。

「……じゃーん、けーん…!!」

ぽい!

「!!」

女は2本指。
男が手のひら。

(やッた…!)

思うが早いか、再度振りかぶった腕を思い切り男に振り下ろした―――
…拳を握って。

ホアジャオ > 男が白目を剥き、ゆっくりと後ろへひっくり返る。
…野次馬がしん、と静まり返って……女は恐る恐る、カウンターの向こうに居た審判たる店主へ視線を送る。

「………」

元船員だという、良く日焼けして体格のいい店主がゆっくりと首を振る。
――――女の反則負け。

「えーッ!!」

不満顔の女をよそに、ワッとまた歓声が上がる。
女と男、どちらが勝つか掛けをしていた連中は悲喜交々の様子で大騒ぎ。
倒れた男は、見守る輪の中に居たらしい、海の男に春を売る類の女に取り囲まれて大もての様子だ………

ホアジャオ > 「你好狡猾(ずるい)…!」
(アタシのが早かったのに!)

思わず顔を真っ赤にしてカウンター向こうの店主に詰め寄るが、自業自得だろう、というしれっとした声が返ってくる。
ぐっと詰まって目を瞬いて……はあっと盛大に溜息をついて、カウンターに突っ伏した。
賞金は逃すし、店主に約束して貰っていた一杯も貰えないということだろう……

ホアジャオ > 「…わかッた、自分で出すから……」

一杯ちょうだい、と突っ伏したまま店主に伝える。そうして店主が仕事をしている音を聞きながら、口の中でぶつくさと悪態をついた。
程なくしてグラスが置かれる音。ゆっくりと身を起こして、不機嫌な顔をしながらありがと、と言ってグラスを手に取る。

「………」

そうしてまた、盛大なため息。

ホアジャオ > たまに労いの言葉を掛けられ、上の空の返答をしながらちびりちびりとグラスを干して行く。
グラスが空になると、カウンターの奥へ押し戻しながらもう一発、溜息をついて。

「………ごちそうさま。…今度はちゃんと勝つから…」

渋面を作りながらまたやってよね、と代金を探って、これまたカウンターの奥へ滑らせる。
それからずるりとスツールから滑り降りると、すこし肩を落とすようにして、女は酒場を後にした…

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール” 港近くの酒場」からホアジャオさんが去りました。