2017/02/05 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」にクロウさんが現れました。
■クロウ > 港町の眠らない歓楽街は、その内面の歪さを形にしたように、歪に増改築の繰り返された建物内は、時に大層入り組んでもいる。
細い通路もあれば、広い通路もある。建物でありながら街でもあるこの不夜城において、それらは通路というよりもやはり道であった。
ここは、そんな歓楽街の一角。
いくつか存在している広い通路、大通りに類する場所である。
この歓楽街の中にあっては、比較的真っ当な部類の場所であるという事でもある。
勿論、この歓楽街の中にあっては比較的、という前置きを決して抜かす事はできないのだけれど。
何せ、一本脇に入って十歩かそこそこ歩いてしまえば、もうそこには歓楽街に付き物とも言える闇が口を大きく広げているのだから。
ともあれ、それでもこの大通りに立ち並ぶのは、酒場だの食事処、そしてカジノ。春を買うような施設が立ち並ぶ一角につながっている通路でもある。
いずれにしても、比較的違法性、否、異常性の低い施設が大半を占めている一角であった。
客層もある意味で最も幅広く、船乗りや海賊は勿論の事、軍人や役人、冒険者、町民なども遊びに来る場所である。
だからこそ、ある意味では最も混沌とした一角でもあり、しかしだからこそ、その街なりには、最も平和な道の一つである筈である。
ある、筈なのだ。
しかし、今夜はどこかが違っている。
何という訳ではない。
何という訳ではないのだが、どこか空気がピリピリしていた。
どこかから聞こえてくる喧嘩の声も、女の嬌声も、呼び込みの声も、悲鳴も、野良犬の遠吠えも、どこかいつもよりザワついていて、落ち着きがないような。
そしてそんないつもとは違う大通りを、男は歩いていた。
悠々と、堂々と、歩いている。カツカツと靴底を鳴らし、肩で風を切るようにしながら。
口元にはうっすらと微笑を浮かべて、男は歩いている。
大通りの人込の中にあって、特に人を避ける様子もなく、人避けられる様子もなく、しかし何故か誰にも肩をぶつける事もなく、男は歩いていた。
男が向かっているのは、娼館などの立ち並ぶ方角。歓楽街の奥の方である。
ふと、そんな男の肩が誰かの肩が当たった。
これまで、誰とも接触する事のなかった肩が。
男は歩を止めて、その誰かへとゆっくりと視線を向けた。
「失礼。」
向けたのは、そんな言葉。
■クロウ > 男の視線の先にいるのは青年であった。
出で立ちから察するに、船乗りである。
青年は男の言葉に、「いや、こっちこそ、」と言葉を向けて、そして男と同じように視線を相手に向けていく。
しかし、彼は男と眼が合うと、ぴたりとその言葉を止めてしまう。
少し、顔が蒼い。
「――では、これで。」
男はそのまま、そんな言葉と共に会話を終えると、また再び堂々と歩き出した。
立ち止まった青年をその場に独り残して。
最早彼には何の興味もないというように、悠然と。
そうして男が10歩ほど進んだ時だった。
ふと、大通りが俄かに騒がしくなる。
どこかで刃傷沙汰があったようだ。
それは、男が今通って来た方角から。
振り返りもしない男の背中から、数えて10歩ほどの位置で起こった。
突然一人の青年がが剣を抜いて、通行人に斬りかかったようである。
周囲の騒めきは増して、悲鳴や罵声が飛び交う。
多くの者が、視線が、揉め事の方向へと集まりって、輪ができる。
しかし男はというと、一向に気にした風もなく、そんな騒ぎを気にもせずに歩を進めていた。
■クロウ > そうやってそのまま男は歩を進めて、進めて、歓楽街の闇の奥へと溶けるように消えて行った。
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」からクロウさんが去りました。