2016/12/10 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」にホウセンさんが現れました。
ホウセン > (大歓楽街の一角は、健全さと不健全さの均衡が取れた喧騒で満たされている。これが酒場やカジノなら今暫し陽気な騒がしさであっただろうし、娼館が立ち並ぶ区画であれば今少しじっとりとした騒がしさだっただろう。故に、不道徳さに浅く足首まで浸からせながら、緩々時を抜いて過ごすには此処が丁度良い。そう思って足を踏み入れたまでは良かったが、その妖仙の顔にはほんのりと渋みがあった。)

「……要約すると、儂に金を融通せよと。そういうことじゃな?」

(薄暗い、または薄明るい程度に明度の保たれているフロアの中、ステージに程近い上客用のソファ席でこの場にそぐわぬ高めの声が漏れた。不満さを隠そうとする努力を投げ捨てた、棘のある響き。無論、ステージ上で肌を晒しながら妖艶に踊る女達への不満ではない。ソファに腰掛けるというより、ソファに埋もれるような小柄な体の向かい。椅子に座るでなく、絨毯の上に膝をついた四十路頃と見受けられる男に対しての感情だ。)

ホウセン > (東方に出自を持つ大商人の放蕩息子。ここ数十年ばかり子供の容姿に固定している妖仙が、王国内で活動する際の肩書きだ。実際に傀儡を主として商業活動を展開しており、資金は潤沢。おまけに物珍しい文物を融通できたりもすることから、何かと他人に融通を利かせて欲しいと縋られる事は少なくない。これが自前の商館での話ならば、もしくは妖仙にとっても旨みのある話ならば、こうも刺々しい物言いにはなるまい。だが、床に跪く男は、機を見誤ったのだ。妖仙が遊興に身を浸している時に、無粋にも割り入ってしまったのだから。)

「却下じゃな。儂とて金を溝に捨てる趣味は持ち合わせておりゃあせん。何が『次は勝てる』じゃ。斯様な保障が出来るのなら、今のお主の置かれておる状況にはならぬじゃろう。」

(話の相手は、以前に土地の取引で関わりを持った没落貴族の当主だった。賭け事に嵌って身を窶したのか、身を窶してしまったが故に一発逆転を狙って賭け事に深入りしてしまったのかは分からぬが、にべも無い。呉服の袂から煙管入れを取り出し、手の内で弄ぶ。)


「ま、それでも尚、金を求めるというのなら、お主の妻なり娘なりを担保にしてもらわねばならぬのぅ?」

(チラリとステージ上の女達に目を向ける。それで言わんとしている事は伝わるだろう。貸し手の遊興の為に、最愛の家族を差し出せ…と。さぁ、如何すると迫る視線には、一転して愉悦の色。人間が追い込まれ、懊悩する様は見物だと言わんばかり。)

ホウセン > (金銭と引き換えにあんまりな対価を求められた没落貴族は、それでも即答できなかった。家族を生贄とするぐらいなら、金等要らぬと決然として立ち上がれず、さりとて応諾する事さえもできず。魔法仕掛けの空調が行き届いているフロアだというのに、額にはじっとりと脂汗。視線は床の上をのたくたと蛇行し、定まる事を知らない。余程、金策に苦労しているのか、差し迫った取立てでも控えているのか。追い詰められた人間の見せる醜態を肴にしつつ、煙管入れから、精緻な彫り物の施された黒漆と銀でできた煙管を取り出す。)

「のぅ、ご当主よ。儂とて無限の時間を持っておる訳ではない。にっちもさっちも行かぬ事情がある事は重々承知しておるが、ここで結論が出せぬというのなら、日と場所を改めるが良い。」

(愉快な見世物ではあるが、一晩を食い潰すだけの価値はない。見た目の年齢に相応の小さな手の内で煙管を回す事、かっきり六十度。その末に吐き出した退場の勧告は、いっそ穏やかで慈しみに満ちてさえいる。遊興場にそぐわぬ光景でも、店員が出張らなかったのは妖仙が暫し捨て置けと制していたからであり、脱線は終いと、二度煙管で席の前のテーブルを叩けば、屈強な男衆が哀れな没落貴族を抱えて店外へ放り出す事だろう。)

「御内儀とご息女に、くれぐれもよろしく。」

(引き摺られる男の背中に、しれっと斯様な追い討ちを掛ける。幕間は終わり。火皿に煙草を詰め、燐寸で火をつける。立ち上がる紫煙と、ここら辺では嗅ぎ慣れぬ少しばかり毛色の違う香り。見るともなく視線をステージ上に戻す。裸体がくねる様を眺めつつ、今宵の闖入者の登場はこれで打ち止めか否か思いを馳せる。立て込む時は不思議と立て込むものだ。どうせなら、何か愉快な要素を孕んだ突発事項が待ち受けておらぬかと、煙管を咥えた唇の端を歪ませる。)

ホウセン > (ふっくらとした唇を開け、プカリと煙を輪の形にして吐き出す。煙管と小僧小僧した姿形はアンバランスな事この上ないが、煙草の呑み方ばかりは堂に入っているというちぐはぐさ。ステージの女達は、徐々にテンポを上げる背景音楽に合わせて舞い、其の度に揺れ惑う乳房やら尻肉やらに、妖仙の視線が惹き付けられる。先刻の一悶着を忘れたように、どの女の肉付きが好ましいか等と見定めんとする視線の邪さはあからさまで、定着しつつあるであろう好色などら息子という風評は、補強されこそすれ、拭われる事はあるまい。)

「ふむ、今宵の娘共はまずまず。中々に粒揃いじゃ。」

(感慨深げに感想まで口にしてしまっては、弁護の余地は無い。助平。それに尽きる。こんなちんちくりんでも上客扱いされているのは、金払いの良さと、何かにつけて顔が広いことに起因している。今の没落貴族相手にするような規模の小さい金貸しばかりか、王国の有力貴族に対しても政争の為の資金を融通しているのだ。彼らの口利きがあるのなら、多少の無茶は「無かった事」にされる。――但し、彼らの懐に切れ目無く金が入る限り。と、同時に取扱う商品の物珍しさから、引く手数多という事情もある。特に、異国の薬学に基づいて作られている薬等は、この国の一般的な治療では改善しなかった心身の症状を、快方に向わせる手助けになることも少なくない。治療に、研究にと引っ切り無しに求められて常に品薄状態であり、それらの品々を手に入れるために何かと便宜を図ってくれる取引先が複数存在するのだ。)

「さて、何れかの娘を買おうかのぅ?」

(故に、気に入った踊り子を褥に連れ帰るのも許される。当然、相応の報酬を店と女に支払うことになるのだけれど。精々が齢二桁になったばかりに見受けられる妖仙の姿に、気を許すなり甘く見るなりした女達を捻じ伏せるのが心地良く、抱いた女達にも店にも、持ち帰られた後のことは口外せぬようにと釘を刺している。紫煙を燻らせながら、煙管の先で舞台上の女達を一人ひとり指し示し、口の中でどれにしようかと呟く。)

ホウセン > (口の中での数え歌が終わると同時、煙管が指していたのは金髪で長身の女。肉付きが良好であるのは大前提として、腰周りの縊れと、其処から下半身に向う曲線が何ともそそるとか、選ぶ基準は完全にエロオヤジなりエロ爺の所見だ。一番悩み、時間も要する女選びの行程が過ぎたのなら、後はスムーズ。カンっと煙管で灰皿を叩き、煙草を火皿から落す。音で店員の注意を引いた後は、目配せで呼び寄せ、恭しく腰を折った店員の耳に意中の踊り子を伝える。前もっての手筈は是だけ。)

「さぁさ、愉しめると良いのじゃがな。」

(短躯を身軽に跳ねさせ、ソファから立ち上がる。煙草を詰めていない煙管を、形ばかり咥えて雪駄をペタペタ鳴らしながら、店員の案内に続いて店の奥へと姿を消す。妖仙に宛がわれた客室からは、踊り子の獣じみた嬌声が一晩中漏れ聞こえていたようだが、真相は何時もと同じく闇の中へ――)

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」からホウセンさんが去りました。