2016/11/26 のログ
クロウ > カワイソウニ

誰かがそんな言葉を零したのが、少女に聞こえただろうか。
戻り行く酒場の喧騒の中、どこかで零れたその一言が彼女に届く可能性は決して高くはないのだろうけれど。

我を取り戻したかのような様子の少女を見つめる男の姿は尚健在で、少女は変わらぬ様子のその男と相対する事となった。

「助けた?……さて、どうだろうね。お嬢さんが助かったと思っているのならばそうかも知れんが、別段私にそうした意図はなかったね。」

問いかけの言葉には、やはり愉快そうにふるふると首を小さく左右に振りながら応じた。
と、このやりとりを以て初めて、男と少女の間に会話が成立した。
まるで、それを契機とするように、男の瞳に深みが増したようで。

「―――それに、」

男が言葉を続ける。
謳うように。
はっきりと、その言葉は彼女に届く。
一言一句、決して零れる事はなく。

「それに、あれらに手綱を離されて、どこか行く宛でもあるのかな?……或いは、こんなところにそんな状態で一人投げ出されるくらいなら、あれらに身を委ねていた方が、いっそ安心だったのかも知れんぞ?」

眼が細まる。
言葉は続く。
はっきりと、彼女に届く。

ルキア > 『カワイソウニ』

そう、耳に届いた気がして後ろを振り返るが、誰も目を合わせようとはせず、それきりその言葉は聞こえなかった。

「…そう、ですか。でも、あのままだったら奴隷として売らられてしまうところでした…。だから、ありがとうございました。」

彼には助ける意図がなかったというが、男たちが昏倒したり逃げていったりしたことで少女は自由を取り戻した。
結果的に男性に助けられたことには変わりがない、だから、と少女は男性へと頭を下げて素直に礼を言う。

けれど、それに…との言葉に顔をあげると現実をつきつけられる。

「…それは…。行く宛は、正直ありません…。でも…やっぱり、奴隷になるのもあの人たちの玩具にされるのも…嫌です…」

王都に戻ったとしても、貴族の出した触れの影響で自身の顔を覚えている男に襲われ、追われ、捕まれば犯される。
彼らが自分の事を忘れるまで、それが続く。
地底湖で魔物のようなスライムに犯され続けて、快楽に意識が溶けてしまっていた。
ある意味、嫌なことも忘れ幸せだったのかもしれない。けれど、正気を取り戻したとき、嫌だと思ったのだ。
こんなのは嫌だと。
だから逃げ出した。
言葉を紡ぎながら、不安げにぎゅっと胸の前で手を握り締め

クロウ > 彼女は別段、不思議な事は何一つ口にしてはいない。
当たり前の事だろう。
彼女が口にしているのは、とても真っ当で、当然な、常識的、一般的、普通の感想であり、感覚。
つまるところ、正気の沙汰、だ。

あのままの身の上を厭うのも、これまでの経歴に厭気を感じるのも。
何も不自然な事ではない。

「本当に?」

だと言うのに、男はそれに疑問を投げかける。
男はそれを、『疑わせ』る。

「―――本当に?本当に君は、心からそう思っているのかな?」

問いかけが重なる。
そも、人の意志とか、精神とかいうものは、本当にそんなに堅牢なのだろうか。
否、それ以前に、一貫性と連続性を維持して存在しているものなのだろうか。
これは、断じて否だ。
人には想像力がある。理性がある。
結果的に、選ばれなかった、選ばれる余地すらなく直ぐ却下される選択肢も、しかし必ずその脳裏には存在している。
それは、感情や気持ちとて例外ではない。

「君は行く宛もないと言う。……そんな君でも、この世界でどうにか生きていけると。何とかなる、と。君もまさかそんな風に考えてはいまい?明日の食事、寝床、……君はどうする?どうにかなる、かな?」

男は言葉を突透ける。
ゆっくりと、謳うように。
その瞳で見つめながら。
投げかける言葉は、彼女の尊厳に関してではなく、生存に関して。
彼女はもう、これでもかと言うほどにこの世界の辛さ、厳しさ、不条理さを経験したろう。
その上で、今この状況で『どうにか生きられる』と一部の疑問も、不安もなく、思えるのか。

一部の、疑問も、不安も、なく、だ。

いつしか、世界が遠い。
男との言葉の応酬だけが、やけにはっきりと彼女の鼓膜を打つ。
周囲の喧騒はどこか遠く、淡く、まるで舞台音楽のように他人事じみていく。
そして周囲の景色もまた、どこか色を失って、舞台装置の書割のように存在感を薄っぺらなものへと変えていく。

そんな世界において、ただ男の姿と、声だけが明瞭だ。

「―――少なくともあの男達といれば、或いは売られていった先にいれば、……それとも、君がこの間までいた『ソコ』にいれば、君は生きていられたのではないかな?……迷わずに、済んだのではないかな?」

迷わずに、と。
男はそう言った。
それは同時に、彼女の脳裏には苦しまずに、とも、響いた。

蒼い瞳が見つめている。
昏い瞳が覗いている。

どこか、ふかぁいふかぁい処から。
どこか、くらぁいくらぁい処から。

かのじょをみている。

ルキア > 「――え…?」

ただただ、家畜のように搾取され貪られる。
それは、魔物の池に囚われていたときも、奴隷として売られた場合もあまり変わりはない。
それを嫌だと思うのは、至極当然だと思っていた。
けれど、改めて問いかけられて言葉に詰まる。

更に重ねての問いかけは、少女の精神を揺さぶる。
あの理性も何もかも捨てた快楽の海。
悦楽の波に身を任せて、不安も何もない感覚。
このままでいたい、とずっとずっとこのままがいい、とそう思わなかったといえば、それは嘘だ。

「それ、は…森に帰れば、同じエルフの仲間がいるし…街じゃなくても、山野での過ごし方はしってる、から」

森に帰れば…それは、少女の心の拠り所だった。
同胞がいて、暖かく迎えてくれる事。
帰れる場所があるから、傷ついても立ち直ってこれた。
明日の寝床、食事…地底湖から逃げ出してきた自分は無一文だった。
けれど、元々森の民であるから野宿は慣れている。…ただ、季節的に着の身着のままの状態で夜を越すのは難しいと頭の片隅ではわかっていて、しどろもどろに答える。
喧騒が遠くなる。
まるで世界を男性と自分の狭いこの空間だけ区切ったように、薄いヴェールで遮ったかのように。
どくどく、と無意味に心臓は打つ速度をあげて蒼銀の瞳は不安げに揺れる。

「でも…でも…」

奴隷として、魔物の食料として…主人が決め、主人が命令する事を聞くだけの生。
そこに迷いはない。
そのまま身を任せてしまえば、苦しみは消える。
違う、そうじゃないと思う心と、そうかもしれないと思う両方がせめぎあい、少女は否定しきれずに言葉が途切れてしまう。

クロウ > 「本当に?」

それは彼女の言葉に被せるかのように紡がれた。
語調も声も変わらない。
しかし、はっきりと彼女の精神の、心の脆い部分に向けられる。
まるで、男の言葉に答えるというよりも、自らに言い聞かせるように言葉を紡ぐ少女に。
男は、彼女のもう一つの心の代弁者であるかのように、言葉を紡ぐ。

彼女の正気が紡ぐ言い訳に、容赦なく、言葉を向ける。

「であれば、行く宛がない、ではなく、まず君は故郷へ帰ると言えた筈だ。なぜ、仮に現実的に難しいのだとしても、そう口にしなかった?何故?

―――何故?」

疑わせる。
考えさせる。
想像させる。
思索させる。

「これからの季節、その身体一つで、山野で過ごす事の難しさは、森で育ったという君ならよくわかっていよう。それに、この辺りの山野は物騒だ。ヒトを喰らう魔物も居れば、雌を犯す魔物もわんさといる。
それとも、何か考えがあるのかな?」

言葉は続く。
容赦なく、彼女が既に自ら悟っている彼女の行動方針の穴を、明確に言葉にして指摘する。

「―――君はどうして、『その』場所を捨てたのかな?」

何もかも、男の姿と言葉以外の総てが遠く希薄な世界で、男は尚も問いを重ねた。
もはや言葉もない少女に向けて。
そして、答えを待っている。
言葉ではない。
もはや言葉に出す必要はない。
必要なのは、その言葉を受けての彼女の思考。
心理。反射。
それこそが、もはや答えに等しいのだから。

かつて快楽に浸って、呑まれて、己の存在を預けてしまえた場所として存在していたというその地底湖。
何故捨てた。
何故「嫌」だと思った。

そしてそれは、間違いではなかったのか。

奴隷として、或いは魔物の食料としての生。
苦しみ迷い、傷つき悩むヒトとしての生。

そのどちらも、本来は正解ではない。
間違いでもない。
しかし、後者をこそ、人は選ぶ。
それが、正気の沙汰だ。

だがもし、それを疑ってしまえばどうなるだろう。

ああ、それは知れた事。

正気を疑った先にあるものは、

―――狂気であると、相場が決まっているのだから。

もはや世界には男と少女ただ二人。

くらいひとみが、しょうじょをみつめている。

ルキア > 「――っ」

必死に言葉を紡ぐ最中、再度問いかけが投げかけられる。
穏やかな口調、それがより一層少女の焦燥を掻き立てる。
本当に?何故?どうして?
ぐるぐると問いかけの言葉が、彼の声ではなく自分の声として内側でまわる。

「何故…って…それは…みんなに…は、反対…されたけど、森からでたから、その…がんばらなきゃって…」

自分で言っていて、『違う』と否定する自分の声が聞こえる。
ならば、何故行く宛がないの…
帰れない理由――それは何?
考えたくない、気づきたくない…気づいてしまったら、立ち上がれなくなる。
必死に蓋をして、鍵をかけたパンドラの匣が開きそうになる。

「それは…っっ…そう、なんですけど…。」

ぐっと言葉に詰まる。
季節はもう冬。テントも、魔物避けの香も…それらが入ったポーチごと今は持っていない。
なんの装備もなしで、夜を越せるほど自然は甘くないことは何より森で育った自分が一番よく知っている。
俯き、考えがあるのかとの問いに少し間を置いて首を横に振った。

「どうして…って…『そこ』にいたら、もう自分が自分じゃなくなってしまう気がして、怖くなって…」

だから逃げた。
なのに、男性の言葉にまともに何一つまともに答えることができない。
不安で不安で、足元から地面が崩壊してしまいそう。
間違いだった?
そこで、快楽の海に身をゆだねて自分も何もかも分からなくなって、溶けてしまえば良かった?
苦しい、怖い…こんな思いをするくらいなら、『そこ』にいればよかった?

思考はだんだんと侵されていく。
俯いていた蒼銀が、不安げに大きく揺れながら昏い蒼を見た。
じっと、見透かすように深い深い深海に飲み込まれるようにその瞳に吸い込まれてしまいそうだ。

クロウ > 「君はもう十分頑張ったのではないかな?」

そこに容赦はなかった。
労うような、労わるような、その言葉さえも。
それは容赦なき彼女の心への問いかけ。
否、彼女の心からの問いかけ。

男の声が、言葉が、ただそれを代弁するだけ。

「君はもう十分に頑張り、酷い目にあったのではないかな?それとも、そんな君を無碍にする程に、君の故郷は冷たい場所なのかな?

―――違うだろう。」

では、何故?
男の言葉は……否、彼女自身の心が、もはや彼女を逃がさない。
逃がしてはくれない。
一度芽生えてしまえば、疑念というものは、深く深くその心に根を張り、侵食し、そして決して消えはしない。
見えてしまえば、終わりだ。

いつしか、男は彼女の目前に立っていた。
いつからだろう。
否、もしかしたら最初からそうだったのかも知れない。
最初から男は、こうして彼女の前に立って問答をしていた。

見上げれば、男はその貌をフードで覆っている。
目深に被ったそのフードの向こうから、蒼い瞳が覗いている。

結局、山野での生活に対するプランはなく、首を横に振るしかなかった少女を見下ろし、男は続ける。

「―――結果として君は、明日にも生命を失いかねない訳だ。」

残酷な現実が今一度、まるで彼女の耳元で囁かれたかのように、これまで以上にはっきりと響いた。
それは、問いかけではなく。
まるで、思索と懸念の崖を必死でよじ登って来た彼女を、突き落とすかのような言葉。
しかし、のぼりつめたところで、そこにはしっかりと立てる足場などないのだから、結局は同じ事なのかも知れないが。

「―――いや、違うな。君には帰る場所があるんだった。」

声は続ける。
彼女の蒼銀を、昏い蒼が見返しながら。
段々と、彼女の視界には昏い蒼だけは満ち、ぐんにゃりと世界は歪んでいく。
遠ざかって行く。
彼女の現実が、ゆっくりと捩じくれていく。

故郷の森へ帰る。

「―――帰ればいいではないか。」

彼女には、それが……できる?

「―――それとも、」

彼女は考える。
想像する。
その可能性を。
彼女が恐れる、危ぶむ、可能性を。
想像する。

ああそして、想像してしまったら、

「なにか、恐れているのかな?」

―――彼女の、狂気が始まる。



そして、世界は暗転した。



気付けば彼女は、そこに立っていた。
懐かしい空気。懐かしい温度。懐かしい匂い。

そうそこは、彼女の故郷だ。

彼女は帰って来たのだ。
自らの故郷へ。
辛く厳しい旅路の果て、心凍てつくような挫折を経て、しかしあたたかな故郷へ、帰って来たのだ。
あの酒場での夜の後、あの海賊風の男は意外にも親切な事に、彼女を故郷まで送り届ける手配をしてくれたのだ。
そして、こうし今無事、彼女は故郷に辿り着いた。
彼女が『想像』した故郷へ。

ルキア > 「頑張った…」

そう、必死に頑張った。
辛くて辛くて、わけのわからない熱さを抱えて、無理やり犯されているのに気持ちいいと感じて、けれど心は引き裂かれそうに痛くて。
こんなに頑張ったんだよ。

そう心が訴え叫ぶ。

「違う…森のみんなは、すごく優しくて長老様も辛かったらいつでも帰っておいでって…」

故郷を思い出せば、望郷に胸が締め付けられる。
――けれど、開けてはいけない蓋が開こうとしている。

男性の影が少女にかかる。いつから立っていたのかすらわからない。
そこで初めて気づいたように、涙の滲む蒼銀で見上げた。
フードの影から昏い蒼がこちらをじっと見つめている。

「――っ」

返す言葉もない。寒さに凍え死ぬかそれとも魔物に犯され食いちぎられ無残な死体を晒すことになるか。
この街すら出られずに、暴漢に襲われ犯され殺される可能性だってある。
必死にしがみついていたそこから突き落とされる感覚。
希望すら見えない。
昏い蒼を見ている視界が、ぐにゃりと歪む。足元から崩れ落ちてしまいそう。

「…かえ、れない…」

蓋が、とうとう開いてしまった。
何人もの男や魔物に犯されて、汚れてしまった自分。
夢を抱いて、夢を叶えるために森から出たのに…こんな自分をもう受け入れてもらえない。
突き放される不安、恐怖。それらが一気に胸の内に広がり涙が溢れてくる。

そのまま、世界が暗闇に閉ざされた。
けれど、次に目を開いたときそこは森だった。
つん、と冷えた空気のなか針葉樹の緑は濃く広葉樹の落ち葉が絨毯になっている。
草木の匂い、土の匂い、木々を利用して作られた家々。
そこはまごう事なき故郷の森だった。
帰ってきた、帰ってきた――
涙を溢れさせながら、少女は集落へと駆けていく。

クロウ > そこに矛盾はない。
不自然もない。
不思議もありはしない。

彼女はごく当たり前に、ごく当たり前な手段で、故郷へと帰って来た。

記憶は、ある。
あの後、呆れたように笑う男に宥められ、謝罪され、そして寝床や食事を与えられた。
対価に幾許かの労働を提供し、しかしそのまま彼女は男の伝手を使って故郷の森へと帰り着いた。

ごくごく、当然で自然な流れの果てに、彼女はそこに立っている。

少なくとも、それが今の彼女の現実だ。

駆けだした彼女が、胸いっぱいに吸い込む空気は、懐かしき故郷の大気。
踏みしめる落ち葉の感触が、確かに彼女の肉体に帰郷の実感を刻んでいく。

帰って来た。

そう、帰って来た。
帰れない、と思っていた故郷へ。
帰って来たのだ。

しかし、そもそも彼女は、どうして帰れないと思ったのだったろう。

何を懸念した?
何を不安に思った?
何を恐怖した?

その答えは、誰よりも彼女がよく知っている。

そして、誰よりも彼女が思い知る事になる。

ただいま、と。
彼女は集落へと帰り着く。

『よく帰ったね。』
『辛かったでしょう。』
『心配していたんだぞ。』
『無事でよかった。』
『さぁゆっくりお休み。』

かけられる言葉は温かで、受ける扱いは丁重で、そこは間違う事なき彼女の故郷だ。
あたたかな、ふるさとだ。

食事も、寝床も、用意された。
かつての友、親族、或いは恋人。
そうしたものが皆、彼女の帰還を歓迎して喜んでくれる。

『長旅は疲れただろう。今日は、ゆっくりと休むといい。』

そんな労わりの言葉と共に、食事もそこそこに彼女は半ば以上強引に寝床を与えられた。

そんな幸せな時間が流れ、夜。

眠れなかったのか、或いは目が覚めたのか。
彼女は寝台から起き出して、懐かしき故郷の集落を歩き出す。

ふと、集会場に灯りがともっているのが見える。
もう夜も遅い時刻。
そうして、彼女が、近付いて行けば……

『ケガラワシイ』

その一言が、聞こえた。
かつての友が、或いは親友と呼んだ友が、発した言葉であった。

ルキア > 突然景色が変わったように感じたが、思い出してみればここまでの道程をしっかりと思い出せる。
泣き出してしまったところで、男性は意地悪な質問をしたと呆れたように笑った。
そして、その夜は、ダイラスの宿をとってくれて、次の日から故郷に向けて出発した。

帰ってきた、帰ってきた――優しい森に、懐かしい故郷に。

街にはない、澄んだ空気、柔らかな落ち葉の絨毯。
その感触に心躍る。
集落の手前まで駆けて、そして止まる足。
開いてしまった蓋からあふれる不安。
それはまだ心の中に大きく巣食っている。
けれど、その不安は杞憂なのだと集落から出てきたエルフたちが教えてくれた。

ただいま
ただいま

おかえり、と暖かく迎えてくれるエルフたち。
恋人と呼べるような存在はいなかったけれど、老若男女みんな笑顔で少女を迎えてくれた。
懐かしい郷土料理の数々の並ぶ食卓、陽光の下で干された毛皮の布団。
暖かな気持ちに包まれて、そのまま眠りへと落ちた。

―――夜も更けた時刻、ふと目を覚ますと家に誰もいない。
気になって外へと出ると、集会所のほうに明かりが灯っている。
なんだろうと、そちらへと足を運び聞こえたのは友人の声

『穢らわしい』
『誇り高きエルフの恥だ』
『淫乱』
『淫売』

友人だけではない。故郷のエルフたちが口々に自分を罵る言葉を吐いている。
目の前が真っ暗になる。足先、手先から血の気が引いて冷たくなっていく。
耳をふさいでも、彼らの言葉が突き刺さる。

「やだ…違う…違う…」

否定するのと同時に、やっぱり、と思ってしまう心がある。
汚れてしまったから、もう受け入れてもらえないのだと。

クロウ > 「何が違うのかな?」

声が聞こえた。
彼女の脳裏に、直接響く声だ。
それはあの男の声のようでもあり、彼女自身の声のようでもあった。
酷く、曖昧だ。
耳を塞ぐ彼女の脳裏に、心に、声が響く。

「何が違う?」

彼女の視界に映ったのは、集会所の脇で燃える火。
焚火だ。
そして、不思議な事に、彼女にはその中で燃えているものが手に取るように分かった。

今日彼女が使った食器だ。
今日彼女が踏んだ絨毯だ。
今日彼女が腰掛けた椅子だ。
今日彼女が触れたエルフたちの着衣だ。

それらが、容赦なく、燃やされていた。

「何が違う?」

声が聞こえる。

そして尚も、耳を塞ぐ彼女の鼓膜に、エルフたちの声が届く。

『アレに抱き着かれちゃったのよ……!早く清めないと……!ねぇ、清められますよね、長老様!』
『アレが、うちの子の頭を……!け、穢らわしい……ッ』
『あんなに雄の……悍ましい魔物の臭気まで染みつけて、よくぞまぁ帰って来れたものだ!』
『どうせ旅先でも身体でも売って生きていたんだろう……、穢らわしい。』
『穢らわしい。』
『穢らわしい。』
『けがらわしい。』
『けがらわしい。』
『けがらわシい。』
『ケがラワシい。』
『ケガラワシイ。』
『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』
『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』
『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』『ケガラワシイ。』ケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイケガラワシイ

「何が違う?」

声が聞こえる。
決して、絶対に、聞こえないなどという事は有り得ない。
声が聞こえる。

「だって君は、受け入れたのではないのか?」

問いが聞こえる。

「『あの』場所を。その快楽を。」

いつしか彼女の背後には、男が立っている。
フードを目深に被った、男が。

「そしてそれを、拒絶した事を間違いだったとすら考えた。」

男は言葉を続ける。
彼女の耳に、言葉が聞こえ続ける。

「何が、」

―――ナニガチガウ?

気付けば、エルフたちの声はしない。

彼女が顔を上げればそこには、冷たい瞳で彼女を見下ろすかつての同胞達がいた。
皆無言で、彼女を見下ろしている。

ルキア > 「――っち、が…違う」

耳をふさいでも、問いかける声が聞こえる。
それは、男性の声だったのかそれとも内からの声だったのか、もうわからない。

「あ、れは…」

パチパチと音をたてて燃え上がる炎、その中にあるのは自分が使ったり触れたりした物。
それらが、燃やされている。燃えている。

「――っっ」

『ケガラワシイ』

と同胞の蔑む声が聞こえてくる。耳をふさいでも洪水のように。
がくりと地面に膝をつき目をつむり、耳を塞ぎ必死に否定の言葉を口にする

「違う、違う違う違う!!」

問いが聞こえる。何が違う、と
本当に違う?どこが違う?
自分から気持ちのいいところに、男の人のを擦りつけてたじゃない。
自分から、もっともっとと強請っていたじゃない。
前も後ろも、口もおしっこの穴まで犯されて、それが気持ちよかったじゃない。
自分じゃない自分が、見たくない事実を語る。
思い出したくない現実を突きつける。

「あ…ぁ…あぁ…」

背後から男性の声が聞こえる。
いつの間にか目の前に立つ同胞たち。全てのエルフが無言で、蔑むように、汚いものをみるかのように少女を見つめている。

「――いやぁああああ!!」

魂の慟哭が響き渡る。見たくない、聞きたくない…もう、何も考えたくない…
嫌だ
嫌だ
いやだ…

「どう、すればいい…の…」

途方にくれた声が漏れる。

クロウ > 「取り入ればいい。」

それは、悪魔よりももっと恐ろしいもの。

どうしたらいいの、と囁いた彼女に囁きかける、悪魔などよりもっともっと恐ろしいものの言葉。

「やり方は知っているだろう。」

それは、フードの男の言葉なのか。

否それは、それは彼女の身の内に巣食う狂気。
彼女は知っている筈だ。

彼女がこうなるより前、どのようにして生きる事になりかけていたかを。

魔物の贄、雄の玩具、性の奴隷。

彼らは、彼女を苛み、蝕み、蔑み、しかし―――求めた。
決して、拒絶はしなかった。
快楽を求め、彼女の孔を、肉体を、求めた。

彼女を、求めた。

どうしたらいいの?

彼女は自問した。
しかし彼女には既に生き方は示されていたのではなかったか?

彼女を見下ろし、蔑んだ瞳を向ける同胞達。
少なくともその半数は―――、雄なのだ。

彼らに求められる方法なら、彼女は十分その肉体で学んだのではなかったか?
集落の中に引きこもり、種族の誇りという倫理観の枠で生きてきた彼らを虜にする程度の経験は、彼女の中にはもはや十分蓄積されているのではなかっただろうか?

「何を、迷う事がある?」

それとも、このまま走り去り、暗くて寒い冬の森で野垂れ死ぬのか?
或いは、魔物に犯されて喰い殺されるのか?

「生きたくば、」

永らえたくば。

「選べば良い。」

狂気の沙汰を。
そしてそれは……とても『キモチガイイ』事を、彼女はよく知っている筈だ。

ルキア > 「取り入る…?」

途方にくれた問いに答える囁きが耳に入り込む。
取り入るためにどうしたらいい、何をすればいい…
取り入る方法、それを自分は知っている。
蔑むように見下ろす視線の半分ほどは、何度も見た眼だ。
劣情を孕む、昏い瞳。

「………ぁ…」

死にたくない、生きていたい
寂しく一人で死ぬのは嫌
一人は嫌
一人は嫌

大勢の視線の前に肌を晒すことに、恥じらい抵抗を感じる。
けれど、それをしなければ――

プチ、と震える指でワンピースのボタンを外していく。
するりと布地が滑り、真っ白な雪のような肌が現れる。
ごくり、と男が唾を飲む音と気配がする。
頬を朱に染めながら、するすると脱ぎ落とせば控えめだが形の良い胸と、薄桃色の先端の果実が姿をみせる。
温度差に果実はすぐに固く、その形をはっきりとさせていき。

「ん…わ、…私、を…抱いて、でください…」

頬を朱に染め、涙に濡れる瞳で目の前のエルフたちに乞う。
自分から求めるのは、あまり経験がない。
けれど、その先にある甘美は嫌というほど体が知っている。
きゅうっと子宮が熱くなる。
少女は、自ら体を開くことを選んだ。

クロウ > そこには、彼女の姉たちもいれば、母もいる。
否、かつてそう呼ぶ事を赦されただけの、既に今は他人となった雌たちがいる。
そんな中で、お揉むろに肌を晒して行く彼女に対して向けられる感情は……もはや言うまでもないだろう。

激しい侮蔑。罵倒。嫌悪。

当然のように、それらが雨のように彼女に降り注ぐ―――事にはならなかった。

降り注ぐのは、雄達の熱い視線。
滾る、情欲と劣情に塗れたケダモノの瞳だ。

しかしそれでも、彼女の美しい肌と覚悟、決意を以てしても、男達はすぐには動かない。

「違うだろう―――?」

声が聞こえる。
恐らく彼女にしか聞こえていない声。
男の声。
或いは、彼女の声。

そうだ、違う。
自ら求め誘う経験は少なかろうとも、彼女はこれまでの凌辱と調教でよく知っている筈だ。
どういう言葉で、どういうポーズで、雄が興奮して己を求めて来るか。
求めて、くれるか。
例えば、かつて何か言葉を強要された事はなかっただろうか?
例えば、かつて何か姿勢を強要された事はなかっただろうか?
例えば、かつて何か行為を強要された事はなかっただろうか?

「考えろ。思い出せ。」

生きたければ。
生き、永らえたければ。

閉鎖的なエルフの村の雄たちを、ケガラワシイ雌である己に欲情させ、求めさせるために、己に何ができるかを。

狂おしい決意の先、決断の果て、それでも尚、声は、彼女は、現実は、彼女を安易に甘やかしてはくれない。
その程度でどうにかなる事はないと、どうにかなった事などないと、それは彼女自身が最もよく知っているだろうから。

「お前は、知っているだろう?」

声が囁く。
彼女の視線の先には、エルフの雄達がいる。
そしてその股座は一様に、はっきりといきり立っていた。
老若を問わない。
皆、彼女の突然の痴態に、欲情している。
かつて親切にしてくれた者、厳しくされた者、仲良くした者、苦手だった者。
そのどれもが、彼女に、欲情している。
股座がそれを示している。

「―――大丈夫。お前ならできるさ。」

嘲るような、勇気づけるような、何とも言えない不思議な声が響いた。
あの、謡うような朗々とした語調で。
彼女の狂気を、加速させんと。

ルキア > 血のつながった家族の前で痴態を演じる。
厳しくも優しかった母や姉。けれどその瞳に自分は、娘や妹としてもう映っていない。
穢らわしい異端の者。集落の中の異物。
穢らわしい存在の者が、痴態を演じようともはや一族に関わりはない。
そうなれば、これは女たちにとっても見世物となっているか。
女たちは、嫌悪感と侮蔑に顔を顰めながらも止めはしなかった。
そして、男達は晒した肌に欲情した視線を浴びせている。
けれど、周りの眼を気にしてか動き出すものはいなかった。

「…違う…足りない…?」

独り言のように、どこか遠くをみるような眼で声に答える。
今までこの体を貪った男は何を求めた?
今まで何をさせられた?
求められなければ、一人ぼっちで死ぬだけだ。後ろに下がることは…もう、できない。

「ぁ…の…私の、恥ずかしい所、みて、ください…」

言葉にするだけで、顔から火が出そうだ。
真っ赤な顔で、つまりながらそう言うと、ショーツも脱ぎ落とし男達に向けて足を開いていく。
細い指を秘所へと持っていけば、くちっと小さな水音が鳴る。
男達の熱い視線にすでに少し濡れている。
指を上下に動かして、くちっくちゅっと小さな音を立てながら少女は自慰を始めた。

「…はぁっぁ…っ…いやらしいルキアのここに、熱いの、ください…熱くて、硬くて、太いの…ルキアのおまたのところにください」

指で少し擦るだけで、媚薬の染み込んだ体はすぐに受け入れる体勢が整う。
蜜はとろとろと溢れ出して指に絡まり、捏ねられ水音を大きく響かせる。
秘所はひくひくとものほしげに戦慄き、熱い吐息が唇から溢れる。
男たちの股座には、すでにいきりたったものがテントを張っている。
これで誰か一人が動けば、みんなが一斉に動き出すだろうけれど…

クロウ > 侮蔑。嘲笑。嫌悪。

そうした感情の奔流と、欲情とが綯交ぜになって彼女に怒涛のように押し寄せる。
しかしそれもまた、彼女にとっては最早馴染み深いものであるだろう。
彼女が歩んできた旅路は、そうしたものであったのだから。

自ら脚を開き、本来秘するべき場所を晒して、痴態を演じる。
自らの指で、既に濡れ始めたそこを慰めるように蠢かして音を鳴らし、男を誘う言葉を口にする。

誰に強要された訳でもなく、彼女が自らそのような行為に手を染める現実は……やはり、彼女の正気の選択の中ではきっと有り得なかったのだろう。
それでも、彼女は選んだ。

彼女の仕草は、言葉は、決して巧みに男を誘うようなものではなかっただろう。
もっともっと、雄を煽り、発情させ、誘う言葉や仕草は数え切れない程あるに違いない。

しかし、閉鎖的な集落の中で暮らしてきたエルフ達にとって、それは十分に刺激的な光景であったようで。

そう、一人が動けば、もう後は一気に動いた。

『淫売!』『淫乱!』『エルフの恥!』

罵倒が響き始める。
しかし、その罵倒は最早彼女を求める為の免罪符のようなものに過ぎなかった。
ある若い雄がズボンをズリ下ろしながら、彼女に飛び掛かる。
前戯も準備もあったものではなく、そのまま乱暴に挿入。
彼女の小ぶりな乳房を無遠慮に、力一杯に鷲掴みにして、罵倒の言葉を浴びせながら一気に彼女の最奥まで自らの肉棒を突き立てた。

「―――そうだ、もっともっと、求めればいい。」

声が聞こえる。
エルフの雄達の罵倒に交じって、それははっきりと彼女の耳に届く。
ある雄エルフは、彼女の手首を掴んで己のいきり立つ肉棒を握らせた。
それを見た他の雄エルフも、それに倣った。

彼女にかつて憧れていたのに、と怒る彼女より若いエルフがいた。
あんなに眼をかけてやったのに、と怒る年配のエルフがいた。
ずっと心配していたのに、と怒る年老いたエルフがいた。

しかしそのどれも、自らの雄を滾らせて彼女に襲い掛かる。

しかし、彼らの貧相な性知識では、両手も生殖器も塞がってしまうと、後は順番待ちだ。

今更何のプライドなのかもわからないが、早くしろ、どけ、とも言えずに、彼女を取り巻いてまごつくのみで。

「そうすれば、もっともっと、雄もお前を求める。…見ろ。」

声が続ける。
そして示すのだ、彼らの貌を。彼らの股座を。
皆一様に、欲望に目をギラつかせ、情欲の炎に焼かれて身体をもぞつかせている。
そして物欲しそうに、彼女を見ているのだ。
彼女は悟る筈だ。
今この場の主導権を握っているのは、彼女を犯す雄達では―――ないのだと。

彼女の膣に挿入したエルフが、何やら譫言のように彼女を罵倒する言葉を口にしながら腰を振る。
ぐっぢゃぐっぢゃぐっぢゃぐっぢゃと、彼女の淫蜜で十分に濡れた秘所を、雄エルフの肉棒が激しく出入りする。
その先端は、コツンコツンとどうにかこうにかと言った様子で彼女の子宮口をギリギリで突き上げ、また戻って行く。
媚薬に染まった彼女の身体は、その交わりに快楽を得る事ができる。

できるが。

右手に、左手に、膣に、握り込み、咥え込んだ肉棒の熱さや硬さ、大きさが、どこか味気ない。
それらはすべて、この場にいる雄達が彼女を求めて、受け入れている事の証でもある。
しかし、足りないのだ。

彼女がこれまで経験してきた圧倒的な凌辱、異常なる経験、その相手と比して彼らは、まったく微力。

『っ。ぅっくぁ……っ』

びゅるるっ。
彼女の膣の奥で、雄エルフの精が迸った。
ぴょろぴょろと、彼女がかつてこれまで経験した射精の中で、それは最もひ弱で、微量で、心もとない射精であった。
精が子宮に染み込んでいく感覚も、膣内を満たしていく感覚も、ない。

雄エルフは息を荒くしながら、何やら優越感と侮蔑を滲ませた貌で彼女を見下ろしながら、すごすごと腰を引いて、彼女の膣から肉棒を抜いた。
正直、抜けた事にすら、彼女は気付けないかもしれなかった。

すぐに、別の雄が彼女の膣に群がった。
とは言えそれも、一人目と大差はなかった。

ルキア > 嗚呼―― 一緒だ…貴族の男に公開陵辱をされたときと。
人々は結局嘲笑や侮蔑を浴びせながらも、目の前で行われる痴態を愉しむのだ。
男も女も…。
人もエルフも…。
誇り高い種族であると、幼い頃より教えられそう思ってきた。
それゆえに、汚されたことを受け入れられないと思ったし、自身も心で拒絶し続けていた。
だというのに、一緒だ。
落胆と諦め、そして少しだけの安堵が少女の中に生まれる。
しかし、それが少女の行動を、狂気を加速さていく。

「はぁぁっ、もっと、もっと、中こすって、ぐちゃぐちゃに、かき回して、あっ、痛っぅぅあああっ」

エルフの一人が、少女を押し倒し濡れそぼったそこへと男根を押し入れる。
ぬかるんだそこは、ほとんど抵抗なくそれを受け入れ熱い秘肉がキツく締め付ける。
薄い胸を乱暴に掴まれるのには、流石に痛みを訴えるが聞き入れらることはない。
がつがつと飢えた獣のように男は腰を夢中で振り立てる。
ほかの男に両方の手首をそれぞれ掴まれ幹を握らされると、こすこすと蜜で濡れた手でそれらを擦り上げ始める。
『うっ…』
『くぅぅっ』
にちゃにちゃと蜜を塗りつける音を響かせながらのその動きも、決して巧みというわけでなくぎこちなさの残るものだが、男たちはより一層男根を怒張させくぐもった声をあげる。
罵声もなにもかも、熱のこもった雄の息遣い混じりではただの口実にしか聞こえない。

「もっと…もっと…ああぁっ、んっんっ…」

脳裏に直接響くかのように男性の声なのか、自身の内からの声なのかわからない声が響く。
ぐちゃぐちゃと交わりの音が響くが、股関節が脱臼しそうなほどのものを受け入れたことのあるそこには、物足りなさを感じる。
もっと奥の方、子宮の中まで犯される悦を知っているそこは時折なんとか届けば痺れるような快感が生まれるが弱い。

「もっと、奥までごりごりってしてぇ、おなかのおくまで貫いてぇ…っ」

おねだりに熱がこもり、自ら腰を振るがやはりそうそう届かない。
びゅく、びゅく、と膣内で男根が跳ねて熱い精が放たれるが勢いも量もやはり物足りない。
物足りないから余計にもっと欲しくなる。
あまり間をおかずに、手でしごいていた方の男達も絶頂へと駆け上り少女に白濁液を降りかけていく。
何人ものエルフが少女に群がり、果てては入れ替わりを繰り返すがどれもこれも物足りない。
もっと酷くしてほしい、子宮までなぶって欲しいと被虐の炎が燻る。

「もっと、もっと…ルキアを犯してください、後ろも前ももっといっぱい来てぇ」

また一人エルフが果てると、抜いていく。どろどろと膣から白濁を溢れさせながら起き上がると、自ら男を跨いでいく。
後ろの割れ目を手で押し開いて、窄まりを晒すとそこにも男根を求めた。

『変態め、後ろまで開発されてやがるっうぅっ』

後ろでも、受け入れることに慣れてしまっているそこは男根に極上の快楽を流し込み男を虜にさせてしまう。
空いた両手、口、体のすべてを使って白濁にまみれながら男達に奉仕して、一人、また一人と体力がつきていく。
けれど、少女は物足りずに絶頂できない。
未だに欲情の炎がくすぶり続けている。

クロウ > 口を、膣を、肛門を犯され、両の掌をも肉棒への奉仕を担う。
それは傍目には、どう見ても一人の少女が嬲られているようにしか見えないだろう。
そしてそれは、ある一面から見れば決して間違った現実ではない。

雄エルフ達は、或いはそれを侮蔑と嘲笑を以て見下す雌エルフ達も、それに近しい現実を見ている事だろう。

しかし、彼女にとって、今まさに孔と言う孔で肉棒を咥え込んで、物足りぬ快楽に身もだえしながら腰を振り、肉棒へと奉仕する少女にとっての現実は、どうだろうか。
全身をかつて同胞と呼んだ者達の白濁に塗れさせた少女にとって、この現実はどういうものなのだろうか。

そして、それを見つめるフードの男にとってのは、どうなのだろうか。

一人、また一人と精根尽き果てていく。
それでも尚、少女は満足しない。
絶頂出来ない。
かつての同胞の罵倒を受け続けながら、情欲を受け止め続けながら、それでも尚、その身は半端な快楽に擽られるのみ。

東の空に金色の光が差した。
朝陽だ。
夜通し、雄エルフ達とまぐわい続け、少女は朝を迎えた。
いつしか、彼女は一人の若いエルフの上に自ら腰を下ろして腰を振っていた。
最早、この場の主導権を持つのが誰であるかは明白であった。

周囲には、体力も精力も尽きてぐったりとしている雄エルフ達の姿。

『うっ……このっ、淫魔、めっ……!』

びゅるるっ。
そして最後の一人、今彼女が跨って腰を振っていた雄がまた細やかな射精と共に、ぐったりと動かなくなった。
最後に、彼女の白い脇腹に爪を立ててガリッと2筋のひっかき傷を残して。
無論、彼女は淫魔などではないし、この場にいる者は誰一人死んでなどいない。
しかし、そこにいた雄達すべての精を吸い尽したかのようなその有様は、確かにそのような形容をされても可笑しくないものであった。

そして、それでも尚彼女は―――絶頂にはついに至れなかった。

足りない。
子宮の奥が、直腸の奥が、喉の奥が、疼くのだ。

足りないのだ。
快楽が。
何もかも足りない。

そんな彼女の半身を、朝陽が照らしている。

ふと、彼女の身体に影が落ちた。
朝陽が、遮られたのだ。
見上げればそこには、男が立っている。
フードの男だ。
逆光となって、その姿の細かい部分は判然としないものの、その昏い蒼い瞳だけはハッキリとフードの影から彼女を見つめているのがわかった。

「―――満足かな?」

分かり切った問いかけである事は、明白であった。
それでも尚、男は問うた。
あの、不思議な声で。謡うように朗々と、問いかけた。
くらぁいくらぁい蒼の瞳で、彼女の蒼銀をまっすぐと見つめながら。
いつかの酒場と同じように、問いかけた。

「これで、満足かな?」

ゆっくりと、世界が遠ざかる。
周囲から聞こえる雄エルフ達の呻き。
眩しい朝陽。
彼女の身体に確かに残る情交の倦怠感と、満たされぬ快楽へのもどかしさだけが明瞭で、それ以外のあらゆるものが、目の前に立つ男さえも、希薄になっていく。
捻じれていく。歪んでいく。遠ざかって行く。

問いへの答えは明確。

「もし、」

声が続く。
世界が薄らぐ。

「もし、満足いかないのなら」

そして彼女の狂気はゆっくりと、

「また、選び直せばいい。」

今ひと時、幕を閉じた。




そして世界は暗転する。




気付けば、彼女はそこに立っていた。
そこは、ダイラスは不夜城、大歓楽街が一角にある酒場。
目前には、テーブルについて椅子に腰かけ、ラム酒を片手に煽る海賊風の男。
フードは、被っていない。
つい先ほどまで、彼女は冒険者風の破落戸どもにとらえられていたのだ。
その破落戸どもは、つい先ほど何故か突然奇声を挙げて倒れ、或いは恐慌状態で走り去って行った。

今は、そう、目前の海賊風の男と問答をしていたのだ。

だが彼女には同時に、故郷へと帰って過ごした一夜の記憶も、確かに残っている。
あれは、確かに現実だった。
幻や、まやかしでは、けっしてない。
ただ、あの現実とこの現実は、多分違う現実であるというだけ。

それでも、現実と現実は地続きで、その証に……彼女はその脇腹に、真新しい痛みを感じる筈だ。

「―――君は」

そこで男が口を開いた。

「君はこれから、どうするのかな?」

口元に笑みを浮かべ、あの不思議な声で、謡うように朗々と。
あの、深海よりも昏い瞳で彼女を見つめながら、問いかけた。

ルキア > 「――っはぁはぁ…はぁ…んっんっんん痛っ」

少女の体力とて無尽蔵ではない。
淫魔のように精を糧にすることもできない。
ただ、子宮は快楽と精によって魔力炉となるように変質しているが、それだけだ。
息を切らせ、それでも一度も絶頂できないもどかしさに腰を振り立てる。
最後の一人に跨り、必死に腰を振るが決定打が得られずもどかしいばかり。

結局、その若いエルフも少女を満足させることなく果ててしまった。
それも悪態をついて。
それに傷つかないわけではない、けれど何度も何度も浴びせられる罵倒に感覚が麻痺してしまっていた。
がりっと脇腹にふた筋の赤い線を作られ、そこを手で押さえながら緩慢な動作であたりを見回す。
もう、この熱を発散させてくれる人はいない。男たちはぐったりと地面に横たわり、女たちは汚らしいものを見る眼で遠巻きに見ているだけ。
足りない
子宮も腸も、疼いて熱い。
朝日が上り、白濁にまみれたその体を照らしていく中ふっと影ができて、視線をあげるとフードをかぶった男性がそこに立っていた。
満足か、との問いかけが水の中で聞いているかのようにくぐもって聞こえる。
ただただ、その昏い蒼を見つめていると世界がぐにゃりと歪み暗闇に閉ざされた


「――はっ…はぁ…はぁ…」

一瞬の瞬きの合間。
世界は一転する。
懐かしい故郷の光景から突然、酒場の喧騒が戻ってきて目の前には海賊風の男性が腰掛けている。
白昼夢から覚めたような感覚。体に散々浴びせられた白濁の痕跡すら見つからない。
けれど、溜まりに溜まったもどかしい熱と、脇腹の痛みだけが先程までの出来事が夢ではないことを物語っていた。
そこで改めて投げかけられる問い

「私…は…」

答えられなかった。
浴びせられた罵声が、嘲笑が今になってどっと心を抉っていく。
ぽろぽろと涙を溢し。

「どこにも…いけない…故郷にも、帰れない…淫乱で、淫売で…穢れてるから…、今も、体が熱くて仕方がないの…」

はぁっと溢れる吐息は熱く、子宮がじんじんと疼く。

クロウ > かくして、彼女はようやく口にした。
彼女の抱える葛藤を。
トラウマを。
コンプレックスを。

闇を。

正気が齎す迷い苦しみを、言葉にした。
涙を零し、それでも尚、身の内に燻る情欲と熱に、その身を緩やかに灼かれながら。
男はそれを、変わらぬ調子で聞いていた。

男はゆっくりとラムを煽ってから、そしてやはりゆっくりとカップをテーブルに置いた。
そしてまた、あの蒼い瞳で彼女を見つめながら言葉を続ける。

「そんな事はないだろう?」

何の事はないと言わんばかりに、男は告げる。
何でもない事のように、男は告げる。
彼女の苦しみも、迷いも、不安も、葛藤も、何の事はない、何でもない、と。

「故郷に帰れずとも、行き場などいくらでもある。淫乱?淫売?……それが、何だと言うのだか。」

見ろ、と。
男は朗々と言葉を続けて、周囲に視線を走らせる。
ちらちらと遠巻きにこちらを見ていた客のいくらかが、眼があってしまったのか慌てて視線を逸らした。

「淫乱も淫売も、この街にはそこら中に溢れている。私の船にも、大層なのが一人乗っているよ。」

愉快そうに、くつくつと喉の奥から笑いを零しつつ、そんな言葉を続けた。
しかしそれは、先ほど破落戸たちに向けられた嘲るようなものとは異なっている。

「そこにいる娼婦も、はす向かいの娼館にいる女も、淫乱淫売揃いだ。それらが皆、どこにも行く宛がないと言うのなら、この街は一体何だという事になるな。君の前途は別段、まったく閉ざされて等いない。
そうだな、例えばこの街で娼婦にでもなってみる、というのもあるな。」

やはり何でもない事のように、さらりと男は言葉を続けた。

凡そそれもまた、彼女にとっては正気の沙汰とは言えない選択肢であろう。
しかし、確かに一つの選択なのだ。

だってそうだろう?
娼婦が淫乱で、何が悪いと言うのか。
そして彼女は、つい先ほど自らの意志で男達に体を開き、男たちを誘う、という選択肢を自ら実行してのけたのだ。

無論、外に選択肢はいくらでもある。あくまでこれは、一つの選択肢でしかない。
しかしつまり、それは別に彼女の行く宛が、前途が、彼女の言うように閉ざされていない事を示している。

男はゆっくりと立ち上がって、彼女の隣に立ち、その姿を見下ろす。

「さて君は、これからどうするのかな?」

そして改めて、問いかけた。

ルキア > ぽろぽろと溢れる涙を拭うこともせずに、男性の瞳を仕草を見つめ続ける。
答えを求めるように。
それは逃避といっていいだろう。
けれど、男性は問いかけを投げはするが答えを口にしない。
なんの事はないとでも言うような口調で返されて少女は目を見開いた。

「…だって、あんなに…汚いものを見るような目で見られて、罵られて…」

心の拠り所であった故郷に拒絶された少女にとって、最後の道案内の灯火が消えてしまった。
真っ暗闇のなか、右も左もわからないと嘆く。
そんな少女に、男性は周囲を見るように促して語る。

「娼婦って…無理、です…。あの人たちみたいに、綺麗じゃないし」

娼婦になってみるのもいい、首を横に振った。
彼女たちのように、凹凸のはっきりした豊満な体は持ち合わせていない。
肉付きの薄さのコンプレックスが顔を出す。
それに、言葉に出せないものの先ほど経験した交わり。
男たちばかりが先に果てて、熱を発散することもできずに持て余さなければならない。
それを生業にするということは、自身よりも男性を悦ばせられなければならない。
我慢できる自信もなかった。

「あなたの…船にも一人乗ってるって…私みたいなのでも、乗せてもらえますか」

これは気の迷いというものだろうか。
会ったばかりの、それもどうみても海賊風の相手の船に乗せてくれだなんて、正常な判断力を持っていれば口にはしなかっただろう。
けれど、道しるべもなく五里霧中の中彼との会話だけが、少女に光を見せた。
たとえそれが偽りの光であったとしても、すがらずにはいられなかった。

クロウ > ただ、打ちのめされ、打ちひしがれる弱い少女。
それが、今の彼女の在り様だ。
淫乱であろうと、淫売であろうと、それは変わらない。

悪意とか、害意とか、そういうものに酷く敏感で、脆い。

「―――さて、どうかな。先ほどの猿共も言っていたが、十分な容姿をしていると思うがね。」

確かに肉感的とは言い難い少女であるが、それでもエルフ特有のその容貌は十分優れたものであろう。
変わらぬ調子で男は言葉を続ける。
こうして会話をしている分には、やはりただの海賊風の男でしかない。

「ふむ……。確かに、私の船にも大層な淫乱が一人乗っているが―――、なるほど。」

件の淫乱もまた、己の道に迷い、葛藤し、数多の現実に翻弄され、そして最後に男の船へと流れ着いた。
目前の少女は……おそらく、彼女ほど強く……否、硬く、なかったのだろう。
光なき暗闇の海原は、どうやら彼女には耐えられなかったようだ。
結果、こうして目前にいただけの得体の知れない男に縋った。

男は珍しく、少し考えるように黙り込んだ。

そしてじっと、彼女を見下ろす。
くらぁいくらぁい蒼の双眸が、じぃっと、彼女を見下ろし続ける。

どれ程そうしていたか、ようやく男が口を開いた。

「―――誰でも乗せるという訳にはいかんな。」

愉快そうに。
あの不思議な声で、朗々と謳うように。
そして言葉を、続ける。

「条件を出そう。……試験のようなものだと思いたまえ。」

眼を細めながら、言葉を紡ぐ。
そして片腕を彼女の細い腰に回して、ぐい、とその身を抱き寄せた。
そしてその耳元へ唇を寄せて、今度こそ本当にその耳元で囁きかける。

「私の船は、暫くの間ダイラスに停泊している。―――その間、この街で娼婦として働くんだ。」

あの不思議な声が、彼女の耳たぶに唇の触れるような距離で発せられる。
鼓膜を打つその音は、彼女の脳髄にどう響くのだろう。
面白げな、愉快げな色を孕んだその口調は、しかし本当に男が面白がっていて、愉快がっているのかを全く保証しないもので。

彼女が一度、無理、と断じたその選択肢を、彼女が自ら望んだ選択肢の条件とするその言葉。

意地が悪い、と言えばそれまでだろう。

「元締めや娼館は紹介してやろう。そこでしっかりと客を取って、男を悦ばせて生きてみるといい。
―――それができないのなら、この話はなしだ。」

耳元から唇を離して、男はそう結んだ。

あとは、彼女の選択を待つばかり。

ルキア > 「でも、同じ年頃の子と比べるても発育が悪いみたいですし…」

ちらりとまた視線をやるのは、娼婦だと言われていた女性達。
彼女たちはその肉感的な体を武器に、男を誘惑している。
容姿についても、エルフには容姿端麗な者が多く基準が高いのか自身への評価はあまり高くないようで。

「ダメ、ですか…?」

じっとこちらを見下ろして悩んだ風の相手。
彼に断られてしまえば、暗闇の中の光を見失ってしまう。
ようやく開かれた口からこぼれるのは、断りに取れる言葉で肩を落とす。
…しかし

「条件、ですか…?んっっ…ぁ…」

断られたと思った矢先に続いた言葉に、俯けていた顔をあげる。
それと同時に腰に腕を回され耳元で不思議な響きのある低い声が滑り込んで、未だ冷めぬ熱の燻る体をぴくっと戦慄かせて首をすくめ。

「娼婦を…んっ…ですか…」

耳朶に唇が触れそうなほどの距離で囁かれるその振動に、かかる吐息にぴくっぴくっと体を震わせながら困惑した声を返す。
先ほど無理だと言った職をやれ、と。
どうしよう、と迷いが生じるが今の少女には目の前の男性した頼る人がいないように感じている。
この手を離されてしまえば、どうしていいのか分からない。
彼と出会う前であれば、日雇いの仕事をして日銭を稼ぐことや薬草の知識を生かす事などを考えついたのだろうが、抉られたトラウマが少女の思考力を根こそぎ奪ってしまっている。

「………やってみます…。」

体型にも容姿にも、性技にも全く自身がない。
けれど、光をつかむためにやらなくてはいけないと決断を下す。

クロウ > 「別段、身体の発育だけが女の魅力でもないだろう。」

ひょいと肩を竦めるような動きを見せながら、言葉を返す。
本当に、こうしていればどこにでもいそうな、ただの男である。

ただ、かける言葉や、交わす言葉は、ひどく悪魔的な。

「―――いい返事だ。」

やってみます、と。
己の出した条件にはっきりと彼女は答えた。
男は彼女の腰から腕を離して、そしてそのまま揚々と歩き出した。
最早彼女を振り返りもせずに。

「しっかりと、務めてみると良い。
しっかりと、向き合ってみると良い。」

そんな言葉を、やはり振り返りもせずに彼女へと向けて。
そして適当な店員を捕まえると、怯えた様子の彼女に「酒代は先ほどの猿の財布からでも出しておいてくれ。」等と嘯いて。

そしてそのまま、海の男らしい揚々とした、堂々とした、軽快な歩みで酒場を後にした。

酒場の中に、どこかホッとしたような空気が流れるのを彼女は―――果たして、感じ取れたか否か。

だって、男の背中が遠ざかる度、また彼女の世界は希薄になっていって、ぼんやり、ぐんにゃり、歪んで、揺れて、捻じれて、ねじくれて、そして、



そして、世界は暗転したのだから。




暗転した世界で、彼女が立っている場所は、もはや語るべくもあるまい。
そこは、娼館だ。
男に言われた、と言って彼女を迎えに来た者に連れられて、彼女は娼館へとやって来た。
そしてこれから、娼婦として働くのだ。
相変わらず、それらの記憶はしっかりと持っている。

それが、彼女のこれからの現実だ。
彼女はここで、娼婦として生きていく。

―――名前も知らぬ海賊風のあの男が、彼女を迎えに来るその日まで。

ルキア > 「そうなんでしょうか…。男の人と、気の利いた会話とかもできなさそうですし…。」

身体的な男性経験は、異種も含めると多いといえる。
けれど、一方的な事が多く褥での会話など数えるほどしか経験がない。
かなり偏った経験値といえるだろう。

「…はい」

不安がないわけではない、というよりも不安しかない。
けれど、不安だからこそやると決めたからには真摯に取り組むのだろう。

「はい…頑張ります…」

歩き出し、背を向け振り返りもしない男性に不安は大きくなる。
今すぐにでもその裾を掴んで引き止めたい衝動に駆られるが、出された条件をクリアしなければ先には進めないのだ。
ふぅとため息をこぼすと震えを抑えるようにぎゅっと手を握り締めた。
どこか張り詰めていた店の空気が、いつのまにか和らいでいる。
しかし、男の背中を見送る少女にそれを感じ取る余裕はなかった。
彼の背中が遠ざかるにつれて、世界がまた膜を通した景色のように変わり目眩のように歪んでいく。
ふっと暗闇に世界が包まれたあと、瞼を開けば娼館のベッドの上に座っていた。
肩を出したベビードールを身体に纏って、受付で手続きを済ませている客を待っている。
あれから、男性の紹介で娼婦の元締めが店にきて娼館へと連れられていった。
そして、彼の迎えが来ることを信じて客をとっている。

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」からルキアさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」からクロウさんが去りました。