2015/10/09 のログ
ご案内:「カジノ施設内」にクラリーチェさんが現れました。
クラリーチェ > 「ミラは待っていてね。そんなに遅くはならないから…」

両親の仕事での不在の間を狙ってカジノにやってきた少女は、馬車や入店の手配のために唯一連れてきたメイドに指を立てて言いつける。
今にも店の奥へと駆け出していきそうな明るい雰囲気と対象的に、少女の細い指の先に居たメイドはあまり目立ちたくないという雰囲気を全身から放ちながら、雇い主の大事な一人娘に首を縦にふるしかなかった。

メイドの承諾を得れば、少女は早速とばかりにトランプの散らばる大きなテーブルを迂回して、粗悪な銅貨にも似たチップを両手に抱えたまま小さくなっていく。
途中であまり身なりの良くない日雇いと思われる人間に楽しげに声をかけていたが、きっと旦那様はこの光景を喜ばないだろう……と、見て見ぬふりをしながらもメイドは入り口の近くで壁の花となってその帰りを待つことにした。

ご案内:「カジノ施設内」にアダン・フェリサさんが現れました。
クラリーチェ > カジノの店内でまずクラリーチェの目を引いたのは、あまり他ではお目にかかれない大きなルーレット。
カラフルで小気味良い音を立てる事だけではなく、それが止まる度に人々の一喜一憂する空気の移り変わりもまた、上品さを強要されることに疲れ始めた少女には魅力的に映る。
さり気なく椅子に座れば爪先だけが床に届いて踵が浮いてしまう。
そんな有様だから華奢な身体がテーブル越しに見る人々の視界にあまり大きく割って入ることもなく、チップを賭けもせず楽しそうに両肘をついて見ているだけの様子に気づかない者も居たほどであった。
それほどまでに熱狂していると言えば聞こえは良いが、今まさに切羽詰まった人間が居るという事でもある。
素知らぬ顔で物珍しい賭け事の様子を眺めている少女が緊迫感を感じ取るのは、足を揺らして楽しそうに笑っている様子を見る限り、もう少し後になるかもしれない。

ご案内:「カジノ施設内」からクラリーチェさんが去りました。
ご案内:「カジノ施設内」にクラリーチェさんが現れました。
アダン・フェリサ > 煌びやかなカジノの前に馬車が停まる。そこから降りてきたのは小太りの男だった。
アダン・フェリサ、フェリサ家の当主だ。表向きは丁寧な態度の男だが、あまりいい噂はないような男だ。
今回は特に公務というわけではない。いつもこの店は利用している。
主に、獲物を探すために。
入り口を過ぎると、カジノの店員に静かに金を渡す。店員の男も下卑た笑いを浮かべていた。

「飽きないものだな。どんなからくりがあるやもしれんというのに……ん、あれは」

静かに歩きながら、カジノ内を見ていると、小柄な少女が不意に目に入った。

王都で目にしたことがあるような顔だった。確か下級貴族の娘である。
とはいえ、アダンは下級貴族の名前など一々覚えてはいないし、向こうもこちらの事などさして知らぬかもしれない。
静かに笑みを浮かべると、アダンは椅子に座る少女へと近づいていく。

「……おや、お嬢さん。おひとりですか? お遊びにならないので?」

そして、声をかけた。人のよさそうな笑みを浮かべて。

クラリーチェ > 声をかけられたのが自分だけとすぐに気づかなかった少女は、重ねた手の上に顎を乗せたまま視線だけで相手を見やる。
だが、相手の身なりの良さと自分に向けられているのが明らかな態度に、ふんわりとスカート部分のフリルを靡かせて椅子から飛び降りる。

「こんばんは、今日はメイドと二人で参りました。恥ずかしながら遊び方がまだ分からず、見よう見まねで覚えようとしていたのですが……」

言葉は礼儀を叩きこまれただけあって丁寧なもの。
しかし、丁寧にドレスの裾を摘んで深くお辞儀しながらも、相手の素性には気がついていない。
見識のなかった権力を持つ者にコネが繋がる可能性を持てたのだから、貴族の底辺に居る少女にはその利用価値を考え始める良い機会だったのだが、あいにく社交界デビュー前の少女自身の名前が充分に広まるのは数年後だろうし、相手の名をよく知らばければならないと自覚するのもまだ先だろう。
純粋に声をかけられた遊び相手の一種として礼儀を見せたに近く、椅子に戻ってしまわないまでも、緊張の色は見せずにすぐに少女の視線は手元のチップの元へ。

アダン・フェリサ > 「なるほど、メイドと。私は一介の利用客でしてね、エドワズと申します。
 賭け事は好きなのですが得意ではありませんでね。いつも負けてばかりで。
 ああ、失礼。私の事ばかり話してしまいまして。そちらのお名前は……?」

肩を竦めながら言う。エドワズというのは今思いついた偽名だ。あまり意味はない。
メイドと来ていると聞くと、ほうと声を漏らす。
こんな少女がカジノに来ているのだから、お忍びということなのだろう。それならば、大金をわざわざ持ってきている可能性は少ない。そう考えていく。
男の唇が吊り上る。少女の丁寧な礼儀作法にこちらも一礼で返しながら、その目は少女を値踏みするかのように見ていた。

「ハハ、何。私も最初はそうでした。……どうでしょう、ここは私が教えて差し上げましょうか。
 私はギャンブルに弱いのでね、練習相手には丁度良いかと思われます。如何でしょう? ゲームは好きな物を選んで構いませんよ」

人のよさそうな笑みを崩さず、男は言う。いつもの手段だ。
こうしてゲームに誘い……少女らを餌食にしていく。ここの舞台の上に立たせようとするのだ。

クラリーチェ > 相槌を打つ少女の顔は目に見えて笑みが深まっていく。
態度を偽り、カマをかけ、自分だけの利益に繋がる話題を良しとする世界では、少女の素直な反応から教育が遅きに失したことが透けて見える。
そして口にする言葉もまた隠すことを知らなかった。

「エドワズ様ですね。お話相手がいらっしゃって嬉しく思います。
 申し遅れました……クラリーチェ・ブロンディです。お友達からはリーチェやクララなどと呼ばれます」

探りあいも無く友達感覚で話している事を即座に露呈する。
そんな油断を見せながら相手が笑っているのに吊られて唇を少し浮かせ、白い歯を覗かせてキョロキョロと辺りを見回す。

少女が目を留めたのはディーラーがまだついていない、目の前のモノより一回り小さいルーレット付きのテーブルだった。
番号の列挙されたテーブルもまた狭いとはいえ5,6人程度の集まりでゲームをする場所だろう。
そこを指差しながら無邪気に顔を上げて答える。

「あれも同じものでしょうか? ご存知でしたら私もやってみたいのですが…」

アダン・フェリサ > この娘の家も大変だな、とアダンは思った。
あまりに素直すぎる。恐らく家族には秘密で来たであろうに、どうにも本名らしい名前を語っていく。
その家の名前は聞いたことがあった。特にアダンと接点がある家ではなかったが、名前まで聞いてしまえば色々とできる。

「……それではクラリーチェ様、今後ともどうかよろしくお願いします。
 ええ、あれはルーレットですね。同じものです。
 今ディーラーがいないようですし……ではあれにしましょう。
 私が教えて差し上げますよ」

本来客同士の直接の賭博など認められるはずもなさそうだが、おそらくこの少女は気づくまい、と男は考えた。
ルールさえ大して知らないのにやってきたような少女だ。
アダンは店員の一人に目くばせすると、店員も頷く。既に準備は整った。

「こちらへどうぞ、クラリーチェ様」

そう言って、少女を席まで案内し、簡単にルールを説明しはじめる。
ただ、敢えて説明しないようなこともあった。倍率を異様に高くしてあること。
そして、金が底を尽きた時の処遇などは。

「……と、このような具合です。球がどこに転がるか当てるというものですね。
 ご理解いただけたなら始めたいと思います」

テーブルの向こう側に立ちながら、男は言った。他にも数人客が座っているが、全て男の息がかかった者たちだ。
さらに、このゲームは仕組まれたものであった。無論、目の前の少女にそんなことを告げはしない。