2020/04/16 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にモルファナさんが現れました。
■モルファナ > コロッセオの中心。
犬獣人の娘は、垂直に構えた長杖-クォータースタッフ-で地面を規則的に突いた。
カツ、カツ、カツ、カツ。 同じリズムで四回。
『照覧あれ、戦女神イシュタル。我、眷属モルファナ。御身にこの戦いを捧ぐ』
紡いだのは、普段の訛ったマグメール共通語ではなく、己が生まれたミレー少数部族の言葉。
獣娘は、フォン、フォン、と風を切る音を立てて杖を頭上で横回転……後に虚空に紋様を描いた。
ステップを踏み、跳躍。尻尾と毛並みをなびかせ、踊る。
それは神に奉納する舞であり、己自身のウォームアップであり、間を繋ぐための余興でもあった。
舞は終局へ。
カ、ァァァァッ……杖先が地面に半月を描く音を立て、下段構えにて静止。
空気は、動から静へ。
ふわふわとした獣毛に覆われた顔を上げ、対面のゲートを見て。
対戦相手を、待った。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にヴォルフさんが現れました。
■ヴォルフ > ゆっくりと、ゲートが開く。重々しい轟音と共に上がるゲートは、その向こうの暗闇の中に一人の闘士を孕んでいる。
細身の、けれど鍛え抜かれた身体のそれは、少年。
肩まで伸びた黒髪を、質素を通り越し粗末な鉢金にて留めて、眼にはかからぬようにと心掛けていた。
編み上げサンダルに、腰巻。
そして、手にはバックラーと呼ばれる小盾と、グラディウスと呼ばれる剣闘士用の剣を。
少年は、眩し気に闘技場の天井を見上げ、そしていっそ侮蔑めいた視線を、満員の観衆へと向ける。
その、仔狼のような瞳が相手へと向けられたのは、少年が見回してゆくその、最後の最後であったのだ。
ゆっくりと、白い砂を噛むようにして、サンダル履きの足が前へと。
肩と胸には、まだ包帯を巻いていた。
そこには微かに血が滲んですら、いる。
それでも少年は、今まさに演武を終えた獣人を、無感動にただ、見据え…。
■モルファナ > 「お、来たかナ? けど、これハ……」
訛りのある共通語をひとつ。
ゲートを潜り、現れたのは細身の少年……
古き良き古代剣闘士スタイルの彼からはビリビリとした殺気を感じた。
アケローン闘技場のルール上、殺しはご法度ではあるが、それでも油断すれば怪我は免れない。
アナウンスが選手を紹介した。
娼館所属の異色拳闘士、モルファナ。
新進気鋭の若き剣闘士『シンドゥラの狼』ヴォルフ。
黒目勝ちの瞳を細め、犬娘は獣毛を逆立たせる。
恐怖? 否、歓喜。娘は犬歯をむき出し、笑った。
「ヴォルフくン、ネ。んじゃ、やろっカ」
腰を落とし、半身姿勢。構えは下段のまま。
■ヴォルフ > これまで、少年が相手をしてきたのは、いずれも格上の男の闘奴達ばかり。
それもこれも、この有望株の芽が出ぬうちに潰したいという、闘奴の主達の中でも有力な者の意向によっていた。
そういう苛烈な闘いを、少年は勝ち残ることで生き抜いてきた。
そして、遂に『商品価値』を認めさせた、ということであるようだ。
ならば…べつの『使い方』もできようか、と。
牝の獣人相手のこの場へと、今宵は追いやられたのだった。
「………」
少年は、黙したままだ。
黙したままに、身体をほぐすように首を捻り、肩を回した。
そして…闘いの始まりを告げる鐘が鳴った刹那…。
少年は闘技場の満員の観衆のその歓声すら圧するような雄叫びを上げ、一息に女闘士へと襲い掛かった。
愚直なほどにけれんのない、ただ迅さだけを突き詰めた一刀が、女闘士に叩き込まれ…。
■モルファナ > 風が鳴いた。
さながら、少年自身が矢となったような、そんな動き。
己とてスピードには自信があるが、彼に勝れるかどうかは、難しい所か。
「……うぅぅぅあぁゥァアアアッ!!」
つんざくような雄叫びが、少年のそれと重なった。娘もまた前へ。
『気』を乗せて硬質化し、突き出されたクォータースタッフは、グラディウスと交差してギャリギャリと摩擦音と火花を散らす。
攻撃ベクトルを反らしながらのすれ違い。剣と逆サイドに。
横薙ぎに杖を振るう。バックラーは受け流しに長けた盾だが、持ち手に衝撃を伝える叩き方なら、どうか。
■ヴォルフ > あろうことか少年は、その小さな盾を垂直に立て、横薙ぎに薙ぎ払われた鉄棒ともとれるその杖を受け止めたのだ。
白い砂が、少年のサンダルに噛みつかれるように踏みしだかれる。
そして少年は、受け止めたままの盾をそのまま、女闘士へと向けて押し出すようにしての体当たりを挑んでいった。
その眼には、苛烈で哀しいほどの怒りがある。
この闘技、勝敗だけではないものが賭けの対象となっていた。
狼の仔が先に跨るか。
それとも、犬の娘が狼に跨るのか。
そのため少年には今、大量の媚薬が投じられていた…。
命を的に自由を得るのは是非もない。が、見世物になってたまるかと。そんな怒りがこの少年を突き動かす…。
■モルファナ > 「本気-まジ-ッ!?」
小盾らしからぬ、鉄板を叩いたような手応え。
打面ではなく垂直受けなど、正気の沙汰ではない、と犬娘は目を丸くした。
勢いを殺さぬシールドバッシュに、娘は杖を弾かれ、後ろ受け身を取らされる。
「熱チチチッ!?」
布鎧越し。ザリザリとした摩擦ダメージは痛みよりも熱さを感じる。
ギラついた少年の瞳を見て、同時に犬獣人特有の嗅覚で、少年が何を盛られたかに気付き、娘はハッと息を飲んだ。
「可哀想ニ。でモ……」
獣毛に覆われた四肢を、相手のそれと絡めようと試みた。
特に気を付けるのは剣を持った手首を掴むこと。
同時に内股に柔らかな毛並みの尻尾を滑らせる。
相手の攻撃への防御であると同時に、愛撫という名の攻撃。
背後にいる者の賭け云々は知る由もない。
だが、こちらも闘士であると同時に、娼婦でもある。
戦う手段は、こちらにもあるのだ、と。
■ヴォルフ > 食いしばった八重歯は、どこか牙めいてすら見える。
狼、という二つ名は伊達ではないということか。その敏捷性も瞬発力も、そして…誇り高さも文字通り、少年は狼そのものの気迫と気構えを以って立っている。
弾き飛ばしたその身体。やはり、軽い。
己より軽い者との闘いは初めてではあったが、純粋な力勝負ならば負けぬと、そういう確信を少年は抱いた。
にも関わらず、女闘士が組打ちに出たのは、少なからず少年の意図の外であったようだ。
「……っ!?」
短い呻きと共に、少年は驚いたように飛び退った。
手首をつかまれることは免れたが、グラディウスはもう、その手指に残っていない。
傷みと苦しみ。そのふたつを以って責め立てられることが当たり前の少年に、女闘士のその『手』は、少年を警戒させるに十分なもの。
何をしてくるのかわからぬ相手とみたものか、少年は姿勢を低く低くして、ゆっくりと一定の距離を保ち、女闘士の周囲を回り始め…。
■モルファナ > 少年が飛び退り、距離をとったのを見て、犬娘は下半身の反動を使って跳ね起き、片膝立ちの体勢に移行した。
娼婦としてのバトルフィールドに持ち込めなかったのは残念だが、即敗北を回避できただけでも上々。
互いに武器を失い、無手VS無手。
低く構え、己の周りを回る少年に視線を向けた。
「……怖いノ? おいでヨ?」
呼吸を整え、少しでも体力を回復させようとしつつ……発した言葉は、余裕、というよりはハッタリだ。
言葉が通じるかも解らないが、相手をわざと怒らせるような挑発の口調だというのは伝わるかも知れない。
■ヴォルフ > 「…怖い」
意外とも思えただろうか。少年はそう、率直に答えたのだ。
北の、乾き果て凍てついた風をそのまま感じさせるような、そんな荒々しい訛りがある。
「…何をしてくるかわからない敵は…怖い」
こうなっては、盾も邪魔だ。
少年はそう言いつつ、左手のバックラーも背後へと放る。
そして…再び少年は雄叫びを上げると吶喊する…!
目指すのは、女闘士の下半身。
組み付き、ねじ伏せ、体重に任せた勝負に持ち込むことを、それは明らかに狙ったものだ。
■モルファナ > 「素直なんだネ。知らない事は怖いコト。みんなソウ」
言葉が返ってきたことに驚きながらも、娘は答えた。
再びの吶喊。真向勝負をしかけてくる少年。
彼に向き直るが、パワーでは勝ち目はない。ならば……
「突進の勢イ……利用させて貰ウッ!」
下半身を狙ったタックルに対し、上から、彼の腰を狙ってしがみつきに掛かる。
身体の上下は互い違い。仰向けに倒されながらも太ももで顔をホールドする形を狙って。
あわよくば、腰布越しの股間までもまさぐろうと。
■ヴォルフ > 体重を利しての組打ちを狙ったものの、それは少年が本来得意とする闘い方ではなかったようだ。
覆い被さられたことへの対処がどこか、ぎこちない。
否、そればかりではなかろう、至近に触れた牝獣人の肌の感触と、匂い。それに今、苦しめられているに違いない。
けれどそれは、女闘士も同じであるのかもしれぬ。
組打ちをし、密着することで、その鋭い嗅覚が拾うものがあるかもしれない。
それは、少年の筋肉に塗りこめられていた、香油。
そこにはありありと、牝獣人を嗅覚から犯す媚薬の香りが立ち込めている…。
「ぬ…っ、ぐ…ッ!」
白い砂の上、なんとか身を捩り手をついて。少年は自らが下になった姿勢を返してそして、女闘士の身体ごと巻き込み、その首に腕を回さんと試みる…。
■モルファナ > 戦いの行方は、観衆の立てる喧噪の果てに……
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からヴォルフさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からモルファナさんが去りました。