2021/11/09 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にジギィさんが現れました。
■ジギィ > 暖かで穏やかな日だった。
風は強く吹くことはあったけれども、それは船着き場に立ち並ぶ屋台や道行くお嬢さんのスカートに悪戯をしたくらい。
きらきらと光を弾く波間にウミネコが時折舞い降り遠く沖で魚が跳ね、港は今日も旅立つ人、送る人、辿り着いた人、それを相手にするひとで賑わった。
秋の日差しが夕暮れ色になるのは早い。
まだ風が冷たくなってはいないけれども日暮れと共に冷たい風が吹くようになったせいか、日差しが橙色に替わり始めると人の流れは圧倒的に街へと流れるものが多くなってくる。
自然、船着き場には段々とヒトが少なくなってきて、やがては露店も投げ売りの掛け声を上げ始め、または店をたたみ始める。
そんな露店の立ち並んでいた一角、木樽に座ってリュートを奏でているエルフがひとり。
「―♪ἀκρόπολις Έρέχθειον ――」
リュートの音に乗せる歌声は、ひとびとには言葉のようで言葉に聞こえない。ただ音色だけで人々の耳を潤わせて、意味を知りたいような、知りたくないような気にさせる。
特段の美貌を持ったエルフでもない。ひとびとはただ気になった、というふうに暫く足をとどめて聞き入っては、長居はせずに立ち去って行く。
「♪Σ΄αγαπώ ――Κι εγώ σ’ αγαπώ…」
つま弾く指先を見詰めるエルフは時折観衆に笑顔を向けるけれども、特に収入を見込んでいるわけではないらしい。立ち去る姿を見てもとくに関心を向けるでもなく、音楽を奏で歌声を紡ぐ事を楽しんでいる。
■ジギィ > 「♪――τέλος」
歌声は陽気なものではなかったが、さりとて悲しげでもない。
ただ穏やかに穏やかにリュートの音と波音に乗せて、エルフは歌う。
やがて最後につま弾いた響きが潮騒に紛れて消えて、ぽつぽつと残ってくれた観衆からお世辞とも取れるくらいの拍手。
エルフ女は顔をあげると
「ありがとー最後まで聞いてくれて♪」
先ほどまでの真剣に歌っていた顔から一転して天真爛漫な笑顔を振りまいた。そうしておしまいの合図とばかり、リュートを膝の上に置いて、傍らに置いておいた水筒から一口呷って
それを見てまた去っていく人々へにこにこと手を振る。
「あー 歌った、 歌ったー 」
すっかり茜色になりつつある空を見上げて零す。首筋を撫でる海風はまだ暖かい。
投げ売りの声はまだ遠くにある。
もしかしたら、今夜の夕食に丁度いいものが見つかるかもしれない。
エルフ女は木箱から降りるとリュートを背中に背負い
ひとつ身体に伸びをくれると、商魂たくましい屋台の並びの方へと弾む足取りを向けて、雑踏の中へと
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からジギィさんが去りました。