2021/10/30 のログ
リコリス > その膠着の時間は、唐突に破られた。
上から何かが、悲鳴と共に路上に落ちてきたのだ。
重く嫌な音を立てながら落ちてきたそれは、一人の男だった。
まだ息があるのか、弱弱しく呻いていたが、
ホアジャオが何かする前に、もう一つ影が落ちてくる。
そして着地と同時に、ごきり、と嫌な音が鳴った。

「……」

今度落ちて、いや降りてきたのは女だった。
彼女は男の首をピンポイントで踏み抜いてへし折っていた。
王国らしくない、どちらかと言えばホアジャオの故郷によくあるような服を着た女。
彼女は冷徹な眼差しで男の絶命を確認すると、男の首の上から足を降ろす。

「証明は…これでいいか」

女は男の死体に目線を走らせ、その手にしていた指輪に目を付けるとそれを外して懐にしまう。
そして、そこで初めてホアジャオに気付いた。

「……下を確認しておくんだったな」

そんなことを言いながら、やってしまった、とでも言いたげな顔をする女。
当然ながら、ホアジャオが手招きしていた猫は既に遠くに逃げ去っていた。

ホアジャオ > 悲鳴が耳に届いて女が弾みもつけず背後へ跳ぶまで一挙動。
たん、と軽い音と共に着地したころに、2つ目の影が落ちて来る。

(哎哟(あー)…)

当然のように影へ溶けて駆け去る猫を視界にとらえつつ、2つ目の人影の動作を見守る。体を曲げて、指輪を拾い、懐に仕舞って
その後、じっとそちらを見ている視線が相手のそれとようやくぶつかる。夜目はそこまで利く方ではないが、なんだかあんまり芳しくな顔をしているのも呟きも聞き取れた。

「べつにぶつからなかったら構わないケド。
 …時間があるなら、代わりの猫捕まえて来てくれるか、アタシと喧嘩してくンない?」

特に何か構えるでもなく、だらんと両手を下ろし仁王立ちで、首を傾げて見せる。
その紅い唇はにんまりと笑っている。べつに殺人狂ではないが、状況が状況なので血の匂いに充てられておかしくなった女、だと思われても仕方が無いが、これは通常運用だったりする。

「そンで、勝ったほうが点心おごるってことでどう?」

にやにや笑う女の、その顔を黒装束の相手はどう思うのか。

リコリス > 「…………は?」

リコリスの頭が疑問符でいっぱいになる。
猫と言われ、そういやちらりと見たような気がし。
代わりとはアレの代わりだろうか。いや、それにしても…。

「普通は逃げるか誰か呼ぶかしないか?」

目の前で人が死んでいるところを見た人間の発言とはとても思えない。
笑っているあたり狂人なのか何なのか。

「殺人者に喧嘩を吹っ掛けるなんてお前、面白いな…。
問答無用で殺される心配とかはしなくていいのか?」

彼女は目撃者ということになるし、普通の殺し屋であれば彼女を消すことを考えてもおかしくはないだろう。
別にリコリスからすれば誰かを呼ばれようとも逃げられる自信はあるのでどうでもいいのだが。

「…まぁ、言われれば腹も減ってるし食事をおごってくれるなら付き合ってやってもいいが、まずは付いてこれたらな」

死体の前で喧嘩なんて、もし誰かがやってきたら何て言われるか。
リコリスは場所を変えるべく、跳躍する。
そこから壁を蹴り進んでひょい、と屋根の上へ。
そしてそこから一旦ホアジャオのことを見下ろすと、風のようにどこかに疾駆していく。

ホアジャオ > 相手のある意味とてもまともな反応に。シェンヤン女はけらっと笑う。

「そンなの。この辺り歩いてる時点で気にするほどのことでもないでしょ。
 問答無用で殺そうってェなら、こっちもそのつもりでやり返すだけだよ」

其処此処である恫喝やら恐喝やらも気配は相変わらずある。こちらの声も聞こえているだろうが、この辺りでは聞かぬふりがルールか何かなのかも知れなかった。
相変わらず両手は体側でだらんとさせたまま、にやにやと笑う女は言葉を続けた。

「おごるのは『勝ったほう』だかンね!アタシが勝ったらおごったげるけど、負けたらソッチのおごり!」

付いてこれたら。
そう言って倉庫の建物を駆けあがって行く女を見上げて行きながら、女はにいーと満面の笑みを浮かべる。
丁度その時、下を見下ろした視線とまたぶつかっただろう。

「你(上等)!」

たん、と軽い音を立て、わざと彼女の足跡をたどって屋根へと駆け上がる。
登ってしまえば周囲は同じような高さの建物だ、彼女を見付けるのに難はない。

「哈哈(はっはー)!」

黒装束といえど、見晴らしの良いここで見失うことは無い。その背後を疾駆というよりは跳躍するように、三つ編みを後ろに靡かせて後を追う。

途中
余った屋根材だったのか積んであった煉瓦をひとつ、駆け抜け様に一つ拾い上げ

「―――ぃよっ!」

黒装束の疾駆するそのちょっと先へ、爆弾まがいに投げつけた。
中を飛ぶその物体の影は、彼女に捉えられたか―――

リコリス > 「……場所を変えてからだと言ったはずなんだが」

リコリスは走りながらはぁ、とため息をつき、振り向きもせずに何かを背後に投げつける。
それは彼女に向けて投げられた煉瓦とぶつかり、バラバラに粉砕した。
くるくる回転しながら飛ぶ十字型の刃、手裏剣である。

「よっ、と」

目的地に着いたのか、リコリスは屋根から飛び降りて、倉庫の一つの前へ。
大分昔から使われていないのか、扉を閉めるはずの錠前は壊れており、難なく開けられた。
少し埃っぽい、ガラリとした空間。リコリスは壁際まで歩くと、魔導照明を点灯した。
途端に倉庫内は昼間のように明るくなる。

「入ったら扉を閉めろよ?」

ホアジャオが追い付いてくれば、リコリスはそう言いながら倉庫の中央に立つだろう。
そして、改めて明るい場所でホアジャオのことをまじまじと見て。

「……薄々思っていたがもしかして同郷だったりするか?」

と、少々今更気味なことを口にする。

ホアジャオ > 「哎(わぁー)!」

バラバラに粉砕された煉瓦は、当然のごとく彼女を追う自分に降りかかる。
それをケラケラ笑いながら掻い潜り、彼女と同じくとある倉庫の前へと下り立った。
それから扉が開けられて、彼女がその中に消えてから灯りが灯る。
へえーと鼻息混じりの感嘆と共に歩みを進めて中に入ると、懐かしいような埃っぽい匂い。
ああ、むかしよくこういう所でカツアゲとかしたっけ。

「ン?わかった。
 律儀だね、アンタ」

扉を閉めろという言葉にきょとんと細い眼を瞬くと、素直に後ろ手に扉を閉める。それから中央に立つ相手から問いかけがあると、ハテとまた細い目を瞬いてその姿をじっと見つめた。

「ン―――…どうだろ。アタシん家田舎だったから。
 大雑把にあっちのほう、ってエことならそうかもしン無いけど、同郷ってえほどご近所じゃないかも」

シェンヤンとて広い。
国としては同じなのかもしれないが、住むところが離れていれば陽が沈む時間が違うほどの距離だったりもする。故に多分共通の『故郷』のイメージはないのではなかろうかと、そんな意味の言葉を返しながら
両脚屈伸運動して足首をほぐして、最後に首をぐるりと回してからその場でぽんぽん、と弾む。

「ま、それは点心食べながら話そーよ。なンなら喧嘩しながらでもいいケド。
 いつでもいいよ?武器も遣うのも任せるから」

そういってまた、最初の頃の笑みをにまーと浮かべる。
今度は少し足を開いて腰を落として、両手は軽く拳を握って。

リコリス > 「職業柄用心深いんでね…」

明かりがついた倉庫で物音がしても、扉が閉まっていればわざわざ覗き込む者はいないだろうし、
例え覗こうと思っても扉を開く音でバレるだろう。
野次馬や衛兵、役人が来ても面倒なので、なるべく見られない方がいい。

「そこまで近所だとは思ってないな。私だってド田舎の出だ。
シェンヤン人なのか、って話だ。そうだとすればこうして話すのは久々でね」

リコリスの出身はド田舎というか秘境の類なのだが。
シェンヤンは広いといえど、広く共通する文化もないではない。
細かな差異はあっても言語、食事、衣服は似通っている。
点心だって、どちらの故郷でも食べることはあっただろう。

「未だに勝利条件とかルールとかを聞かされてないんだが…。
まぁ、気絶するか参ったと言わせたら負けとかか?じゃあそれで」

ストレッチする彼女を腕組みしながら見つめながら、リコリスは勝手に話を進め。
それが終わって戦闘態勢となれば、リコリスも腕組みを解き。

「なんだ、武器使ってもいいのか。……じゃあ、遠慮なく」

そう言いつつも、何かを取り出すそぶりもせずに軽く腕を振れば、
次の瞬間、常人には目にもつかない速度の手裏剣がホアジャオの額に迫る!
刃は落としてあり刺さりはしないだろうが、鉄の塊である。当たればかなり痛いだろう。

ホアジャオ > 彼女のあずかり知らぬ所であろうが
最近ずっと公主の周りに居たので『シェンヤンの都会人』に食傷していたのである。彼女たちの『アレ知ってる?』はどっちにしろ興味のない事だったがややホームシックになっている様子から無碍にもできず、適当に相槌を打っていた今日この頃。

「ヘーエ?今王都にいけば結構ごろごろいるから、気が向いたら行ってみると良いよ。
 お陰様で点心が美味しい店も増えたし」

ふーんと相手の話に相槌を返して、相手の述べる勝利条件にも同じく相槌をうつ。喧嘩の勝ち負けを決めるのに、それ以外どういう方法があるんだろう?というふうに。そもそもふつう『喧嘩』をしない相手のことは思い至らないらしい。

「――――ッ」

腕を振る動作は見えたが飛んだそれは見えなかった。
反射とでもいうように仰け反ってソレを避けられたのは、一見その風圧を感じたとでもいう風だった。

「ぃょ――ッと!」

仰け反ったそのまま後方へ一回転、着地のその脚をそのままだん!と蹴ると
彼女の速さには及ばないかもしれないが、そのひと跳びで互いの距離はゼロまで縮まる勢いで―――

「――ィアッ!」

カウンターと突き出して来たのならその腕を捻り上げて、無いのであればそのままの跳び蹴りを、相手の正中へ。

果たして相手は受けるか、避けるか
どちらかの相手のその動作の間に
三つ編みの女はいつの間にか手にしたのか、相手の放った手裏剣をお返しとばかりに頭目掛けて放つだろう

ホアジャオ > 【後日継続】
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からホアジャオさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からリコリスさんが去りました。