2020/10/17 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にホアジャオさんが現れました。
ホアジャオ > 空が茜色に染まり、係留されている船の影が長く伸びた夕暮れ時の船着き場。

来訪者目当ての出店もひとつまたひとつと看板を下ろして、たまに響く投げ売りの声は昼間の喧噪の名残の様。
着いたばかりらしい貨物船からは荷降ろしの掛け声。その隣、貨物船よりは幾許か装飾のある客船からは船員たちが賑やかに掛け合いをしながら降りて来る。今日はここに停泊で、明日また客を迎えて出港するのだろう。

そんなちょっとした人だかりや喧噪を行き過ぎて、港の端へと足を運ぶ女がひとり。
高く結った細かい三つ編みを揺らし、弾むような足取りで空の木箱が積み上げられた場所へと進んで行く。
到着すれば抱えていた紙袋をまず箱の上に置いて、それから隣にぽんと飛び乗る。
積み上げられる木箱の高さは変わるけれども、ほぼ定位置と化した所に納まると女はにまーと笑って満足げに鼻息を漏らし、ほんのちょっとの間沈みゆく夕日と緩やかな海風を嗅いで

「话说(さてと)…」

隣に置いておいた紙袋を取り上げて、膝の上に置くとまだ暖かい。
その温度にまたにまーと笑みを浮かべると、ぶらぶらと木箱からはみ出た爪先を揺らして早速ひとつを取り出す。

見かけた点心屋で買った中華饅頭はふたつ。
女の片手に余るくらいの大きさで、片方は牛筋肉まん、片方は確か角煮だったはず。
手にしたのはどちらか解らない。
それもまた楽しみのひとつとして

「好香(おいしそう)…」

一口ぱくつくと、湯気と共に溢れた肉汁の香りが鼻腔へと届く。どうやら牛筋の方だったらしい。
もぐもぐと頬を動かし紅い唇の端から湯気を零しながら、またぶらぶらと爪先を揺らして視線を水平線のほうへと放る。

茜色の高い空を渡り鳥らしき影が横切って行って、水面すれすれを海鳥が舞う影。
水面にちらちら光るのは、魚の背だったりするのだろうか…

ホアジャオ > 一口目をもぐもぐごくんと飲み下すと、またむふーっと鼻息を漏らして満面の笑み。鼻息には白いものも混じったりして。

海風は緩く、ヒトの喧噪を縫って遠くからみゃあみゃあと海鳥の声も運んでくる。
そのうち足元にするりと纏わりつく感触。
覗き込むと、辺りを根城にしている猫の一匹だろう、やや太り気味の白い毛玉が、黄色い瞳で以て見上げて来る。

「…真是沒辦法啊(仕方ないなァ)…」

ぱっと見渋々、本当の所そうでもない感じで、肉まんの餡付きで分けてやる。

そうやって饅頭をひとりと一匹で平らげて、ふたつめを片付けるころにはすっかり辺りは藍色に染まって、波音だけで満たされている。
遠くのほうで、酔漢ががなる声がする。

(……骨のありそうなヤツだったら、とっちめても良いかなァ…)

ぺろり、と肉汁のついた指先を舐めるとぽんと木箱から飛び降りて
食後の一休みを決め込む猫をひとしきりもふもふした後、たん、と地を蹴って声のする方へと…

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からホアジャオさんが去りました。