2020/09/30 のログ
リチェット > 湾港都市――船の行き交うこの街は、王都とはまた違う意味でこの国の中心だった。
人や物が集まれば、必然的にそこには金も集まるわけで。
商人にとっては、ある意味では王都よりも儲けられる場所といえる。

この街に着いたのは夕暮れ近くの最終便だったのだけれど、船から降りるのにずいぶんと掛かってしまった。
何でもオークションに出される品が積んであったのだそうだけれど、それが一部盗まれてしまって、急遽、船内で犯人探しが始まったのだ。
結局のところ、犯人が捕まったのか、分からず仕舞いなのかは、あやふやなまま。
すっかり待たされて、疲れ切った他の乗客と一緒に船を降りたのがついさっきのことで。

「ようやくだねぇ……、おじさんまたね。良い話があったら、声かけてよ。」

あまりに暇で、あれやこれやと世間話をしていた中年の行商人に小さく手を振って別れを告げる。
できればバザーを見て回りたいのだけれど、この時間では少々微妙。
バザー自体は夜でも開いてはいるのだろうけれど、客層が違い過ぎて相手にされない。
というよりも、自分が商品になってしまいそうな勢いなので、今日のところは大人しく宿を探そうかと。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にミシェリさんが現れました。
ミシェリ > 港に着いてから船を降りるまでに暫くの時間を要した。
不用意に出歩かないように指示されて、逃げ出してやろうかと考えはしたものの、無駄なトラブルを避けるために結局大人しく、船室での時間を過ごす事に。
ようやく船を降りる頃には空もすっかり暗くなってしまっていて、陸地に足をつけてから欠伸をひとつ。
この時間からでは近場で宿を取るのも苦労しそうだと考えながら、大きな旅行鞄を両手で持ち上げた拍子に、少しふらついてしまい。

「……っと…と、…すみません。お怪我は…?」

ちょうど近くを歩いていた少女にぶつかってしまった。とはいえ肩と肩が軽く触れ合った程度。
突き飛ばすほどの勢いにはならなかったから大丈夫だろうとは思いつつも、謝罪を口にしながら小柄な少女の身を案じ。

リチェット > 「わゎっ……!?」

不意打ちのような衝撃に、ちょっとばかりつんのめってしまうけれど、どうにかバランスを保つ。
船の上で鍛えたバランス感覚が活きた感じ。――というほどに、大げさなものでもないのだけれど。
振り返って見て見れば、いかにも魔女といった装いのお姉さんが立っていて。

「大丈夫ですよ。こう見えて、一応、丈夫なのが取り柄なので!
 その鞄で殴られたら、ちょっとヤバかったかもだけど。」

全然へーき!とばかりに軽く手を振って見せる。
実際、当たったといっても、痛みなどは全くない。
そのくらいで慰謝料を請求するほどには、がめつくはない……つもり。

「長旅です? もしかして、この街に詳しかったりは……?」

代わりと言っては何だけれど、良い宿でも知っていれば紹介してもらおうと水を向けてみる。
もちろん、初めての来訪ということならば、それはそれで仕方がない。
それでも旅慣れた様子ならば、幾ばくかの情報は得られるかもしれず。

ミシェリ > ぶつかった衝撃で相手の方もよろけさせてしまったようだけれど、幸いにして怪我はなさそうに見える。
元気のいい返答に静かに笑いながら、安心したとでも言うように、自らの胸に手を添える仕草。
小さな子供一人くらいなら丸々収められそうな大荷物。確かにこれを振り回されたら、並の大人でも痛いでは済まないだろう。
片手で持つには重たい鞄を、とりあえず地面に置いて。

「これを振り回すほどの力持ちに見えますか……?
 そんな危ない事はしないので、…ご安心ください」

まだ幼さを残した顔だちの少女。平気だと主張する顔を面白がるように見つめて。
これからの宿探し、重い荷物を持って一人で彷徨うのは決して楽しくないだろう。どうせなら、この少女を誘って一緒に歩くのもいいかもしれないと思う。
そんな風に考えていたところ、渡りに船という感じの問いかけを受けて。

「…いえ、ただの観光ですよ。…こちらにも何度か、足を運んではいますが……
 あなたは…?もし、これから宿を探すようであれば…、…この時間に、女の一人歩きも物騒ですし」

変な連中に絡まれても逃げ出す程度の力はあると自負しているが、それはそれとして。
改めて少女の姿を上から下まで舐めるように観察しながら、誘いの言葉をかけてみる。

リチェット > 「お姉さんの場合だったら、そんな鈍器よりも杖の方が似合いそう。
 もしくは、箒とか?」

何泊分かは分からないけれども、ずいぶんな大荷物。
そんなものを振り回すくらいなら、見かけに沿ったものを振り回して欲しいと笑って答え。
海の近くだけあって荒くれ共が多い中にあって、おっとりとした感じの美人さんには、ホッとしてしまう。

「そうなんだ? だったら、おススメのお店とか教えて欲しいなーって。
 うんっ! こんな時間になっちゃったし、今からだと宿を探すのも苦労しそうなんだよね。」

こちらから言いだそうと思ったことを先に相手から切り出されてしまう。
それに被せるように勢い良く頷くと、すっかり暗くなった海の方へと視線を向け。
まだ街の方は明るいものの、それは逆に言えば盛り場が賑わっているということであり。

「あっ、あたしはリチェット。よろしくー」

品定めをされるような視線には頓着せずに、明るく名前を名乗る。
第一印象は重要。堂々とその視線を受け止めて。
ついでとばかりに、手を差し出してみる。

ミシェリ > 「…そうね。どうせなら、危ない事をするよりも箒に跨って逃げる方が…」

帽子の形や服装を見て、武器らしくない箒という単語が出たのだろう。
それならば振り回すよりも、空を飛ぶための道具として使う方がもっと似合うだろうと話を合わせる。
元々人懐っこい性格なのか、すっかり気を許してくれている様子に、こちらも笑みを深めて。

「おすすめのお店…ですか。お酒は…飲める?
 だとしたら、少し歩いたところに、以前はいいお店があったのだけれど…」

15か16か、見た目からしてそのくらいの年頃だろう。お酒に誘うのは早いかと考えながらも、以前この街に立ち寄った時の記憶を思い浮かべる。
少女の視線の動きにつられて海を眺めて。差し出された手に気がつくと、胸に添えていた手を自らも差し出す。
お近づきの印に、というわけではないけれど軽い握手を交わして。

「…私はミシェリ。こちらこそ、よろしく。
 それじゃあ…とりあえず適当なところまで歩きましょうか」

こちらの視線にもまったく警戒する素振りのない無防備な雰囲気。
思わず、ふっと意味ありげな笑いを零すものの、とりあえず今は移動するのが先と考えて、重たい鞄を改めて両手で持ち上げた。
まずは記憶を頼りに宿が並ぶ通りまで歩こうかと、足を踏み出して。

ミシェリ > 同じ船から降りてきた乗客の人波が、街へ向かって流れ始めていた。握手を交わしたばかりの二人の姿も、その雑踏の中に紛れて、すぐに見えなくなった事だろう。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からミシェリさんが去りました。
リチェット > 「お酒……うーん、お付き合い程度…かな?
 できれば、甘いのが好きなんだけど。」

父親ならば質より量といった感じにがぶ飲みするのだけれど。
その辺りは幸いなことに似なかったらしい。
とはいえ、交渉事にお酒はつきもの。多少なりとも嗜みくらいはあると答え。

「うん、楽しみー♪」

自分の知らないお店を開拓するのも、また遺跡探索に似ている。
わくわくと胸を高鳴らせつつ、夜の街へと消えていき――

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からリチェットさんが去りました。