2020/04/30 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にナランさんが現れました。
ナラン > その小さな客船が寄港したのは、昇った月も中天を過ぎたころ。
当然のごとく閑散として、街灯がぽつぽつと灯るだけの港へと、下船の人影が散っていく。

波は穏やかで、ざざぁ、という音が規則正しく波止場へ打ち寄せる。
海岸特有の風の強さはあるが、せいぜい人々の帽子や髪を吹き散らしていく程度だ。

「――――っと…」

船から桟橋へと降り立った影のひとつが一瞬立ち止まる。
続いてすこし、抗議のような声。
立ち止まった影、編んだ黒髪をターバンから零す女は、後続へと一度頭を下げてからは危なげなく桟橋を渡って、そうして港へと降り立った。

(――――誰もいない)

見渡して確認するまでも無いが、人影は今の客船から降り立った者たちくらい。
今日は良い天気だった。
昼間はきっと、陽光に照らされた人々でにぎわっていたんだろう―――多分。

ほんの少し残念そうに、鳶色の瞳が曇る。
船の旅は面白く興味深いけど、こうして辿り着く先に賑わいが無いのは寂しい。

(――…今度は少し無理してでも、早い便をつかまえてみようかな)

そこそこ遅い時間だ。今夜の宿へ向かうのだろう後続の人影たちも思い思いに散っていく中、女は一人海風に吹かれながら立ち尽くしてそんなことを思う。