2020/04/27 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にカグヤさんが現れました。
■カグヤ > 薄曇りの空の下、水面を滑る潮風も、心なしか湿りがちな昼下がり。
異国から到着したばかりの船は、商人、貴族、様々な人種の乗客を吐き出してゆく。
色とりどりのドレスを纏った貴婦人、鎧姿の方が似合いそうな屈強な大男、
――――そんな人々に紛れて、異装の娘が一人、桟橋に降り立とうとしていた。
紫がかった紅色の風呂敷包みを背中へ斜め掛けに、右手には緋色の巾着を提げて。
少女然とした見た目にそぐわぬ程、毅然とした表情で、眼差しで、真っ直ぐに前方を見据え。
好奇心か、下心か、手を貸そうと申し出た男を、其の儘の表情で睥睨し、
「……結構、一人で大丈夫です」
凛と透き通る声音で断りを入れ、自らの足で、第一歩を刻む。
草履履きの特徴的な足音を連れて、桟橋を静かに進み――――
「――…港町は、何処も変わらないわね」
ふと、そんな感想が口をついて出た。
声にする心算の無かった其れは、潮風に紛れて掻き消されてしまう程度のか細いもの。
荷物も、人々も、雑然と行き来している、其の只中で。
王都とやらを直ぐに目指すか、此処でひと晩滞在するか。
其れすらも決めていない流離い人は、暫し、思案顔で佇む。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にルヴィエラさんが現れました。
■ルヴィエラ > (何事も無く、恐らくは普段通りの日常が繰り返されて居る街
悪徳も平穏も、いずれもが隣り合わせに在る大陸の一都市は
在る意味で様々な人種が一様に集う、世の縮図でも在る
そんな中で――ふと、女で在れば気付くだろう。
街中に点在する、幾つかの魔の気配。
そして、其の中でも、特段大きな――巧妙に隠されては居るが
其れでも、気配に聡い者であれば気付けて仕舞う、強い気配、を。
緩やかに移動する気配は、街の奥から、港の端、倉庫街の辺りへ動いて居る
その場に居る、他の誰もが気に留める様子は無い、が――
女ならば、其れが、女自身が良く知る気配と『似ている』と気付くやも知れぬ
全く同一とは言い難い、が――似ている、と)。
■カグヤ > 船旅の間に、此れから向かう大陸について、一通りの知識は詰め込んでいた。
何処ぞの物好きが綴った旅行記の類、出典も怪しい自称歴史書の類、
知り得た情報は玉石混交、結局は実際行ってみるのが一番、という、
いつもの結論に落ち着いたのだが。
―――――だから勿論、遠く北方に魔族と呼ばれる者達の支配地が在るとは知っていたし、
彼等は密やかに王都にすら入り込んでいるのだとも、何れかの本に書いてあった。
とすれば、其れ自体は珍しくも無い事、の筈だ。
チリリと首筋が痺れる様な、馴染みの感覚、其れだけならば。
「――――― 強、い」
そっと呟く。此度は、意図して低く。
右手に提げた巾着の紐を手繰り寄せつつ、もう一度、周囲へ視線を巡らせた。
視線を、と言うよりは、意識を、感覚を。
―――――強い、魔の気配。
黒々と佇む煤けた建物群は、港町には付き物の倉庫街だろうか。
其の気配はやはり、間違い無く、其方へと移動していた。
緩やかに、恐らくはヒトの歩く速度で――――其れは、つまり。
今直ぐに動き出せば、追い付けるかも知れぬ、という事だ。
そう判断をつけた瞬間には、娘の足は動き出していた。
滑る様な足取り、足音を忍ばせているにしては、目を瞠る速さで。
見出してしまった気配を追いながら、懐から一枚の符を取り出す。
『隠形の符』と呼ばれる其れを唇に咥えれば、娘の姿は常人の認識から外される。
唇を開き、符を離してしまわぬ限りは。
勿論、其れなりの力の持ち主であれば、看破される可能性もあるだろうが――――
そんな風にして、周囲の人の目を誤魔化して。
ある意味、自らの退路すら断ちながら、娘の追跡は始まった。
■ルヴィエラ > (ゆっくりと、娘の推測した通り「歩む速さで」
倉庫群へと辿り着いた気配は、其の奥で移動を止める
娘が距離を詰め、気配の下へ近付いて来ようとも
少なくとも逃走したり、或いは気配側から近付いて来る様子は無いだろう
煤けた倉庫群の、とある一つ――
数多の荷物が積み込まれ、凡そ一杯になって居る事が殆どで在る建物の中で
随分と、全く積まれている荷物が無い訳では無い、が――空間に余裕が在る、倉庫の前
一人の女と、ローブ姿の者が、何か言葉を交わしている。
娘が追い付くとすれば、きっと、其の辺りだろう
そうして、言葉を交わす其の二人が別れ、女は街の方へ
そして、ローブ姿はその場へと残り――すぅ、と、倉庫の中へ入って行く
気配を探れば、片や別れた側の女にも魔の気配は在れど
娘が初めに感知した、より強き魔の気配は、倉庫の中に残った儘だと判る筈だ
そして――倉庫の入口より、もしも踏み込むならば
其処に、魔力の薄膜が張られて居る事にも気付けるだろう
外と、内側を隔てる様な、境界線――其処が、人の領域では無い事を示す、モノが)。
■カグヤ > ――――『歩いて』いる、人間の様な顔をして、恐らくは平然と。
其の後を追う、チリつく痛みが四肢の末端全てに及び、知らず眉宇に深く影が生じても、
此の追跡を止める気は無かった。
近づけば近づく程、似ている、と思うのだ。
生国を遠く離れ、飽かず探し続けてきた、其の、モノに。
もしかすると、遂に、と思うだけで、鼓動が躍り上がる程の。
恋慕にも似た憎悪を抱いて、娘は其処に辿り着く。
周囲の建物と寸分違わぬ、一棟の倉庫の前。
立ち話をしている――――身長から推測するに、恐らくは男女であろう。
女より頭一つ分程も背の高い、灰色のローブを纏った人影は、此方に背を向けている。
少し離れた建物の陰に立ち、窺い見ていれば直ぐに、彼等は別れた。
女は街の方へ、そして、もう一人は倉庫の中へ。
娘の傍らを、如何やら気付かず通り過ぎて行った女からも、魔の気配は伝わるが。
――――― 違う。
間違い無く、本命は倉庫の中へ入って行った方だ。
護符を口に咥えた儘、娘は素早く歩を進めた。
一歩、また一歩と距離を削る程に、強くなる、鋭くなる。
痛み、と言うよりは最早、熱い、と呼ぶべき感覚に苛まれながらも、
覗き込んだ薄暗い倉庫の中へ、草履履きの足を踏み出し―――――
「―――――――― っ、 」
危うく、声を洩らしそうになった。
咄嗟に奥歯を噛み締めて堪えたが、明らかに空気が違う。
たった今、此の足で踏みぬいたものが、彼我の領域、其の境界線だと気づいて、
咄嗟に考えたのは、一時退却の四文字。
振り返って、後退って、外へ抜け出そうと―――――して、叶うかどうか。
■ルヴィエラ > (薄膜の様な其の境界線を、踏み越えた先で
娘が気付き、そして後退を始めようとするならば、きっと
其の瞬間、其の両脚を、絡み付く影が捕らえて戒め、拘束する
ほんの数歩、其の境界線を踏み越えるだけで人の世に戻れるのだろう
けれど振り返った先、外に在る筈の光景は、まるで波紋立つ水面を覗き込む様に揺れ動き
其処が、明確に『届かない』場所なのだと言う事を、知らしめる
そして――倉庫、で在った筈の闇の中から、姿を現す先刻のローブ姿が
確かにその瞬間、護符を加え、常人には見えぬ筈の娘の姿を、捉えた。)
「――――――……異国の客人が、如何なる御用かな?」
(そう、響かせた声は、何処か中性的で在り
敵意や、或いは警戒と言った物を欠片も滲ませぬ、のんびりとした響き
だが――その瞬間娘に、其の身にて受け止めて居た「熱」と呼ぶべき感覚が
一瞬にして、其の火種を燃え上がらせ行き、萌芽するだろう
目前にしただけで、声を掛けられただけで、其の身を蝕まれるかの
――そんな感覚なぞ、彼の東の大陸では、早々に逢い見える物ではあるまい。)
「――――……気配は上手く隠れているが…其れは、私に対する意識かな?
其れほどまでに逸る感情では、気付いて欲しいと言って居る様な物だ。」
(言葉を発する度に、娘の脳髄を揺らす様な感覚を齎しながら
一歩、一歩、娘へと近づき――其の、眼前へ。
伸ばされた其の指先が、ふと、口元に加えられた護符へ伸び
其れをつまみ、外させようとする、が――果たして、叶うか否か)。
■カグヤ > 振り返った其の眼前で、世界が揺らいで、歪む。
例えるならば其処に、一瞬にして硝子の障壁が生じていた様に――――
そして其れが、見えない焔に焼かれ、熔かされ、どろりと濁ってゆく様に。
手を差し伸ばす事すら躊躇われる程の隔たりが、其処に在ると知らしめる、異変。
ほぼ同時、後退ろうとした足が何物かに捕われる。
見下ろした先で、足首から先がうねる黒影に呑まれていた。
ぐるりと細い踝を巡り、柔らかく、然し容赦無く締め上げて、
無様に立ち往生の様相を呈した処へ、人影が近づく。
もう一度、其方へ顔を向ければ――――倉庫であった筈の場所はもう、深い闇と化していた。
其の中から、滲み出す様に現れた、其の人影が『声』を発する。
「…… っ、っ……――――― 」
男の様でもあり、女の様でもある。
何れにしても其の『声』は、まるで娘の鼓膜では無く、脳髄を直接揺らす様に響いた。
搔き乱される、焙り立てられる、―――――浸蝕、される。
目も眩む程に強烈な、人ならざるモノの発する力の発露に、ともすれば意識すら刈り取られそうになる。
左の手をきつく握り締め、掌に深く爪を立て、正気だけは手放すまいと足掻きながら、
―――――護符を離さぬ為に、声は発する事無く。
眼差しだけが鋭利な刃とばかり、其の姿を凝視していた。
そうして、右手はじりじりと、手繰り寄せた巾着の口を開こうとする。
其の中に常備している符の何れかを、あるいは全てを投げつけてでも、
現状を打開しようと目論むも――――
ク、と、長い指先が護符を摘まみ上げた。
何気無い風情で引く力は存外強く、結んだ唇は解けてしまう、けれども。
言葉を発するより先に、右手の指先が巾着の中へ忍び入るか。
あるいは其の動きすら、容易く封じられてしまうもの、か。
■ルヴィエラ > (恐らく…娘が巾着へと差し入れる腕を、止める事はあるまい
娘の行動を、一挙手一投足を、興味深げに観察する様に。
己が指先に摘み、そして娘の唇から剥がれ落ちた護符
其処に描かれた紋様は、如何せんこの大陸における
魔術、魔法、魔導、何れとも違う系統の、独自性を持つ
己が唇に、戯れに咥えて見ようとはする物の
恐らくは、娘の様に扱う事は出来ぬのだろう
直ぐに符を唇から外しては、少々残念そうに。)
「―――――……出来の良い玩具には違いない、がね。
遊べぬのでは仕方ない。」
(――だから、其の符を、娘の胸元、羽織る装束の布地の隙間へ、差し入れては
娘が、巾着より取り出した何がしかの符を、恐らくは、己へと向けて振りかざすのと同時に
掌で、とんっ――と、其の下腹へ触れるだろう。
刹那――胎の奥が、爆ぜる筈だ。
意識を、正気を保とうと足搔く娘を嘲笑う様に胎の奥が
別の生き物が目覚めたかの如くに、蠢き、うねるのを
果たして、娘自身は、其れが何を示すか、理解して居るだろうか
そうして――はらりと、娘の指先に携えられた、数多の護符を目にしながら
きっと、魔は、呟く。)
「――――――……もう一度聞こう。 ……私に、何の御用かな、御嬢さん。」
(今度は――先刻とは違う、僅かな圧を以て
娘に、投げかけられる筈だ)。
■カグヤ > もしも、相手が凡百の――――然して力を持たぬ魔であれば。
護符に触れた指先は、其れだけで何某かの衝撃を受けただろう。
けれども相手の白い指先は焼かれもせず、弾かれもせず、
清められている筈の符は只の紙片となって、ゆらりと其の手の内へ。
そうして、相手が唇へ食んだ其の紙片は、強大な『力』に耐えかねた様、
娘の懐のうちで、さらさらと砂の様に解け、崩れてゆく。
相手にとって、娘の操る術が全く未知のものである様に、
娘にとっても相手の存在は、其の力は、―――――異質、そして、何よりも強大。
理解出来るのは、危険であるという、只、其れだけで。
だからこそ、探り当てた封印符の一枚を――――可能な限り素早く、
振り翳し、相手の胸元めがけて叩きつける、筈だった。
「きゃ、―――――――― っ、っっ ……!!」
此度は、声を堪える事が出来なかった。
掌が触れた、翳した符が相手を捉えるより早く。
封ぜられて久しい、此の身の奥に眠る女の部分が、音も無く爆ぜる感覚。
護符が剥がされたのでは無い、そんな生易しい感覚とは違う。
例えるならば、不意打ちで胎の中へ飛び込んできた異形が、
身体の内側から肌を、其処に貼り付けられた護符を、焼き尽くそうとする様な、
刹那に意識が遠退く程の、苛烈に過ぎる衝撃。
手にした符が、巾着の中から零れ落ちた紙片が、はらり、はらり、舞い落ちる中で。
半ば茫然と見開かれた双眸に、僅かな揺らぎが生まれる。
相手がひと言、問いを繰り返した瞬間に、背筋を駆け上ったのは悪寒。
感じた事の無い恐怖に、がたがたと情け無く震えながら、
「――――― 父様、を、 …母様、を、殺したの は、」
貴方なのか、と―――――問い質す言葉すら、無様に途切れた。
■ルヴィエラ > (――おや、と、小さく声が零れたのは
相手の胸元で護符が形を崩し、砂となったが故に
随分と脆いものだ、と、呟いた言葉は何気ない一言で在ったが
其れも、在る意味で娘にとっては脅威を感じさせる物やも知れぬ
力の差、器の差、相対する娘と己とを隔てる圧倒的なる、差。
はらり、辺りへ舞い落ちた新たな護符へと視線を向け、ゆっくりと其れを拾い上げれば
また興味深そうに其の護符を、しげしげと眺めて。)
「――――……ふむ、確かに、私に襲い掛かる者を相手取った事など
長く生きていれば、相応に在る事だがね。
……生憎乍ら、覚えて居ないと言ったら…信じるかな?」
(否定、ではなく、肯定ですらなく――忘却、或いは
「気にも留めて居ない」とすら受け取れそうな、言葉を
娘に対して響かせると同時、摘み上げた護符が、其の瞬間
元在った形を変え、変容し、娘が知る力とは異質な、禍々しきモノへ、と
そして、其の護符を、震え慄く娘の、其の下腹へと再び押し当てれば
其の符が、すぅ、と装束を潜り抜け、肌へと届き、其の奥にまで融け込んで行き
――爆ぜたばかりの娘の、其の奥に喘ぐ雌が、『護符に守られたままで』暴れ出すだろう。)
「――――……良い子だ、問いには素直に答える物だからね。
だが…生憎乍ら、"少しばかり"力が足りない様だ。
此処まで、態々飛び込んで来た勇気と覚悟は、認めるがね?」
(そうして――片腕が、娘の腰元を抱く。
ローブに隠れて居た瞳が、娘の瞳を覗き込む、其の刹那に
漸く、娘は其の容貌を、封じるべき魔の、其の顔を知るだろう
そして、其れを知る次には。 ――其の唇は、唇によって、塞がれて居る
深い、吐息すらも奪う様な口付けによって――恐怖を、別の感情へと、塗り変える為に)。
■カグヤ > 脆い―――――そんな呟きに、娘の頬が紅く染まった。
砂と消えた符では無く、娘自身を、脆い、と貶められた気がしたからだ。
けれども、目の前の相手には確かに力が有る。
先刻の衝撃に、今も胎の奥でずきずきと疼く気配に、頽れる事も許されぬ程、
両脚は今や袴の膝上辺りまで、闇に呑まれ固定されていた。
頬を染めるものが屈辱で無くとも、震える理由が純粋な恐怖のみであっても、
逃れる事はおろか、身を捩って避ける事すら叶わずに。
「―――――… 信じ、る、信じない、の、話では、無い……、
貴方が、……… 貴、様が、確かに、仇、なら、……… 私、は」
仇討ちを―――――そう、続けたかったけれど。
相手の指先で、娘の眼前で、護符が禍々しい変容を遂げる。
其れが向かう先を悟り、抗おうと身を捩ってみせるも、
――――― ぞ ぶ 。
緋袴の奥、戦慄く肌の内側へ、這入り込んでくる。
侵入を阻む筈の護符は黒く煤け、新たなる符に籠められた力が、
無防備になった娘の胎を、無遠慮に犯し、穢し始めた。
穢れを知らぬ巫女の身体が、生涯、味わう筈の無い粘つく熱感。
小さな爆発が、胎の彼方此方でばちばちと爆ぜて、瓦解を招いて――――
其れだけでも、娘には制御し切れぬものであったのに。
「い、――――――――― っ、 …ンぅ、 う、ふ、ッんん………!」
震える身体を抱き寄せられ、至近に娘は魔の『貌』を見た。
此の世の者ならざる美貌、禍々しい紅の瞳。
そうして、呪を唱えるべき唇が、形の良い唇で封じられた、瞬間に。
―――――余りにも無力な娘の意識は、フツリ、闇に溶けて消えた。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からカグヤさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からルヴィエラさんが去りました。