2020/04/07 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にスミさんが現れました。
スミ > 水平線に沈む太陽が空と海とを赤く照らす頃。
空には何処かへ向かって飛ぶ雁の群れ、穏やかな波間には時折跳ね飛ぶ銀色の魚。
昼間には大小形状さまざまな船が着きまた発って行った船着き場も、或いは停泊したままになり或いは行ったままその場に空白を残していって、海と陸とする人々もまばらだ。

そんな夕暮れの船着き場の、縁石に腰かけて所在なげにしている、赤い巻き毛の女がひとり。
両手をポケットに入れたまま、顔からはみ出そうに大きな眼鏡の奥で緑色の瞳を不安そうに曇らせ、海の向こうを見つめている。

船員らしき男たちが互いに冗談を言いながら賑やかに女の前を過ぎていく。
恐らく、この後一緒に酒場で今日の労をねぎらいあうのだろう。
その背中をぼんやりと見送って、女は視線を海の向こうへと戻す。

(今日、届くはずなんだけどなあ)

船の旅は想定外がつきものだ。もしかしたら、待ち焦がれている貨物船は今日は間に合わないのかもしれない。

(沈んでいなければ良いけれども………)

溜息が漏れる。
人命を優先して、積み荷が捨てられることだってある。
いや、それは人命が優先に決まってはいるのだけど。

「いけないいけない……」

嫌ぁな想像をポケットに入れていた両手で巻き毛をぐしゃぐしゃと掻き回して打ち消す。
通りすがりの子供が奇妙な目つきで見て通り過ぎていく。
薄汚い格好だしぐしゃぐしゃだし、浮浪者かなんかかと思われたかもしれない

スミ > はあーとため息を漏らすと、膝に頬杖をついてまたぼんやりと水平線へ縋る視線を投げる。
そうしていると、いつの間にやら足元に虎猫がすり寄ってくる。
もう一発、はあーとため息をついてから手を伸ばして、喉の辺りをうりうりとくすぐってやる。
ごろごろ、と喉を鳴らしながら、虎猫は匂いでも付けているのだろうか、すりすり、と足元に何度も身体をすり寄せてくる。

ふと女が両手を猫に伸ばし、ぐわ、と目の前まで持ち上げてみる。
猫は嫌がるでもなく、ぶらんとぶら下がって『なぁ~』と挨拶。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にシュバルトさんが現れました。
シュバルト > 口に咥えたるは薄荷とシナモンをちょっと混ぜて、あるハーブを更に加えて練りこみ紙で筒状にまいた……口寂しい時に咥える菓子みたいな物、菓子みたいな物である。

今夜は何時ぞや旅商人に依頼した仕事に使う品が何点か届く日であったのだが、一向に宿に届く気配が見えないし、その商人と連絡もつかず、仕方無しにその商人か或いは品が載っている筈の貨物船を探しに来た。

――…船の特徴は聞いていた。
しかし、どこを探しても特徴に合致する船がなく、さまよい歩いていたところに視界に飛び込んでくるカワイイ猫。

その姿を後追いし、ふらふらーっと歩いていたところで猫は消え、次にその猫を見かけたのは猫が誰かに確保され、持ち上げられた姿であった。

一撫でしたかった。
その思いを込めて人の手で持ち上げられてぶらんとぶらさがってる猫に向けて一声をかける。

「……やっと見つけた。逃げなくてもいいじゃないか……ずっと探してたんだぞ?」

猫に向けてである。
猫に向けてであるが、場合によっては猫を持ち上げている女性に向けてのナンパ師みたいなセリフに聞えなくもないと、言った後に気がついて、猫に女性に向ける笑顔は何処と無く気まずそうな笑顔となってしまった。

――…女性が行き成りの意味不明な発言にドン引きするか、それとも石でも投げつけられてしまうか、相手の第一声を待つにも心臓がバクバクと。

スミ > 「……うう
 キミ、結構重いなぁ……」

持ち上げていた女の両手はほどなくぷるぷると震え、段々と下がってくる。
どさ、と膝の上に猫を乗せる、その瞬間だったか

「………――――はあ」

声がして顔を上げると、見知らぬ男性が生温い笑顔を向けて立っている。
しかも、言葉はどうやらこっち方面にかけられたようで―――一応背後も確認して―――改めて男性を見て漏れたのが、間の抜けた返答である。

「ええと……私は貴方にとんと見覚えが無いのですが…
 ああ、もしかして近眼でいらっしゃる?」

女の方もナンパなどされた事がないもので、ちょっと的外れかもしれない言葉をぽりぽりと後頭部かきながら。

「申し訳ないけれども私の眼鏡は視力矯正用ではないので貸して差し上げることもできないのですが。
 私は『スミ』と申すものでしがない学者をやっています。いやはや、お探しのお嬢さんと見間違えられるとは光栄ですな!」

にこにこと笑いながら石の代わりに言葉を浴びせて、もう片方は膝上の猫を撫でている。
ある意味、見せつけていると言うことになるのかもしれない。