2020/03/15 のログ
■ホアジャオ > 武器はあってもどっちでもいい。
そう提案する前に武器を外して樽へと置く仕草を、目だけで追う。
「――そォ。良い買い物だと思う――――よッ!」
独特の構えを取った彼女の前、猫を解放する暇も有らばこそ。
顔面へと放たれた拳の圧に吹き飛ばされるように、猫と女の上体は後ろへごろん―――
そのまま樽の上を転がり、上がった両脚が身体の上を行きすぎた腕を挟むように捉える。
ぐい、と樽から転がり落ちる勢いを乗せてミレーの彼女の腕は引っ張られる。
耐えられなければ空いた腕と上体の間の脇腹へ、シェンヤン女の立ち上がり様の掌底が狙うだろう―――
■イエナ・イズバック > 腕を捉えられたイエナの身は勢いに泳いだ。
まずい!
彼女の意図が解る。
相手の掌底が自分の脇腹に来る。
未来を読んだイエナは、その勢いに逆らわず、地を蹴った。
蛮族女は引っ張られる勢いをさらに加速し、敢えて彼女の方へ飛び込む事を選んだのだ。
キメられた左腕が痛む。
しかし、それでもイエナは蹴りだした足の力任せに樽を膝で蹴り、更に身体を前へと押し出す。
樽がバランスを崩して傾いだ。
このまま、相手が何か手段を取らなければ、二人はそのまま、港の岸壁から海へと飛び込む事になる。
■ホアジャオ > 「哈哈(はッはぁ)!」
自ら飛び込んでくる身体は掌底が狙うタイミングとずれる。
女の紅い唇が面白げに笑う。
舞い上がった掌はそのまま手刀の形に変えて頭上を薙ぐ。
そのまま流れる動きで両足を開き身体を低くしつつぐるりと手刀は振り下ろされる。
着地の彼女の肩か、肘かを狙って―――
「!?哎呀(わぁ)!?」
樽が傾く。
シェンヤン女の身体がぐらつく。
手刀が当たれば、その代りと言う様にミレーの彼女の身体は陸へと押し戻されるだろう。
シェンヤン女の方はぎりぎり……身体を揺らし大分のけ反りながらも淵で耐えている―――けれども
どう見ても時間の問題、のように見える
■イエナ・イズバック > 「とォッ!」
ハイエナ女の長い脚が樽を海へと蹴りだした。
その勢いで自分の身体は半端な宙返りを打ちつつ、港の岸側へと戻る。
しかし、それは相手のシェンヤン女にも樽をぶつける事で彼女の身体を岸へと戻るバランスを与える事になる。
イエナの身体は足から降りれずに背を地面にぶつける事となった。自分では素早く立ち上がったつもりだったが、その姿勢は隙だらけだ。
夕陽が今にも海に沈もうとしている。
無防備をさらけ出したイエナは一筋の汗と共に、かろうじてファイティングポーズをとった。左腕と背中が痛い。
■ホアジャオ > 「ぅわは……!」
転がってきた樽を飛び越え様蹴って、港の石畳へと身体が戻る。
背後でザブーン!と樽が海へと落ちる音。
落ちたら色んな意味で危ない所だった……内心冷や汗かきつつ、手を豹拳にして腰だめに構えながらミレーの彼女へと視線を戻し、ひゅっと鋭い息を吐く。
夕日に隙だらけの毛皮の彼女が映る。
―――――シェンヤン女は細い目を数度、瞬かせて。
「――――ね、
ねェさんて、武器持ってた方が強かったりする?」
殺気も怒気も欠片もない、単純な好奇心の声音で尋ねる言葉を。
■イエナ・イズバック > イエナは意外な質問に意表を突かれた。
それでも、眼の前で為された様に自分も鋭い息を吹き、
「強いさ。色色とね」
と強気で答える。
本気の答だったが、何故かシェンヤン女の態度で毒気を抜かれた様な気分になってしまう。
この喧嘩を続けるべきか?
そんな曖昧な葛藤がイエナの心中に泡の様に浮かぶ。
それでも木箱に置かれていた大太刀を取りに行く。その姿は相手の不意打ちを想定していないかの様に無防備だ。
彼女は鞘に納められたままのグランドシャムシールを肩に担ぎ、極端にタメを作る大振り構えまでに身を背を捻る。
「この一撃で最後にする。よけられたら……お前の勝ちだ!」
思い切っての全力の一撃が、全身の回転をもって押し出される。
それは強烈な風切り音を伴った、凄まじい風圧の一撃だった。
■ホアジャオ > 武器を取りに戻る彼女を見守る。
獲物―――シェンヤン女からしたら、振り回せば身体ごと引きずられそうな大太刀を手にした彼女は、その見事な体躯全体を使う様に身を捻る。
風切り音と共に振り落される一撃
避けれたら。
―――――勿論、避けられる。
それでも。
ぎぎぃ・ん!!
鼓膜を貫くような金属同士が擦れる音。
すんでで取り出したヌンチャクの鎖と太刀の刃が擦れ合い、かみ合って火花が散る。
そのまま刃を鎖の上、滑らせていって勢いを斜め後方へいなしながら
太刀の元、前へ泳いでいるであろう彼女の腹部目掛けて鋭い蹴りをまっすぐに放つ!
狙いは直線、太刀を諦めさえすれば、こちらも避けるのは容易なはず―――
■イエナ・イズバック > 剥き出しの腹部を狙う鋭い蹴り。
イエナはその蹴りをまともに丹田で受け止めた。
その瞬間に腹筋を引き締めている。
しかし、それでもその蹴撃の威力は彼女の身体を後方へとはねとばすに十分だった。腹から背へと抜ける痛打が全身から汗を吹かせる。
太刀を放せばよけられた一撃だ。
だがそれはイエナの選択肢になかった。太刀は特別ではない。無銘の量産品だ。だが、長年の相棒を戦いの最中に手から放すという気持ちは起きなかった。
イエナは太刀を手放さないまま、無様に地面を転がり、四肢を地面に伸ばして大の字になった。
「……あたいの負けか」
その時、夕陽が沈んだ。
■ホアジャオ > ドッ、と柔らかくも硬い感触が衝撃と共に足裏に響く。
それでも太刀を手放さなかった彼女が石畳に転がり、大の字になるのを見てから漸く
ふぅ――――と細長く吐息をついて、蹴りだした脚を地面へと下ろした。
彼女のつぶやきと同時、陽が沈む。
何か返そうとした紅い唇を一度閉じて水平線へと視線をやってから、また彼女を見る。
「―――まァ、最初ッから武器アリだったらまたわかンないケドね。
タイマンの素手だッたらアタシのほうがまだ分があるみたい」
軽く弾む息が少し白い。
じゃら、と鎖を鳴らし腰裏のベルトに獲物を収めながら、大の字の彼女へ近寄って、手を差し出して。
「ありがと!
ねェ、動いたンだしお腹減ってない?アタシ最近バイトして結構懐あったかいからさ、ごはんおごるよ!」
喧嘩付き合ってくれたお礼、と付け足して
手を握り返すならば、思わぬ程の膂力で以て引き上げられるだろう。
■イエナ・イズバック > イエナは差し出された手を取ると、自分の身体が思いがけないほどの力で引き揚げられるのに驚く。
彼女の身体能力と筋力は、初めて見た時の樽に乗って脚をぶらぶらさせていたその動きと姿勢からしてある程度は見当がついていた。
しかし、これほどとは、戸惑う力だ。
「やれやれ、あたいも修行が足りないな。いや足りないのは実戦かな?」
ある程度まで身を起こすと自分の力で立ち上がる。
「おごりならば、おごられるか。さっき言った様にあたいは無料でもらえるなら何でももらう質だからな」
そう言いつつもこの喧嘩のダメージでいつもほどには食えないだろうな、と自分の体調に見当をつける。
「あたいはこう見えても剣闘士では『蛮勇のイエナ』として知られてるんだよ。今はただのしがない冒険者だけどさ。……あんた、名前は? よかったら教えてくれないか」
■ホアジャオ > 「まーね、アタシ喧嘩の実戦だけは数こなしてるかンね!」
立ち上がった彼女の、高い位置にある肩をバシーン、バシーンと叩く。遠慮が無いのは、親愛の証
と取ってほしい。
剣闘士、と聞くとヘエーと細い目を精一杯丸く見開いて、また上から下までを眺める。
「アタシ、あンまあそこ好きじゃァないンだよねえ。大概女がいじめられるばっかだし。
でもねェさんが出るンなら、応援しに行ってもいいかな」
けらっと笑いながら、シェンヤン女は船着き場への出口へと歩み出す。その女の足元にはちゃっかり、先の黒猫が纏いついている。恐らく『おすそ分け』を狙っているんだろう。
それを見てまたけらけら笑って、弾む足取りは止めずにミレーの彼女を振り返った。
「アタシは『ホアジャオ』てェの。今は王都のほうで用心棒やったり、コッチでカツア……ゴロツキを締め上げたりしてるよ」
果たしてちゃんと身分を名乗れているのかわからないが
兎も角も喧嘩に付き合ってくれた彼女を、お気に入りの食堂へと案内しながら、夜の街に消えていくことになるだろう―――
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からホアジャオさんが去りました。
■イエナ・イズバック > 「ホアジャオ。憶えておくよ……というより忘れられないな」
言いながら、自分の身体をずっと見つめていた彼女の眼線が自分の淫蕩な身体のほてりを見抜けているのだろうか、とふと気になる。
まあ、今夜はそんな夜じゃない。
イエナは新しく増えた自分の喧嘩痣を白茶色の体毛の下に隠しながら、ホアジャオの後をついて、彼女のお気に入りの食堂へと案内されていった。
鼻の奥にはまだ港の潮風の香りがあった。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からイエナ・イズバックさんが去りました。