2020/02/27 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル > 「――っは、は……っ、はぁっ…! もぉっしつこい!!」

 息を乱しながら駆け抜けて行く足とそれを追う足――
 依頼を受けてとある商船から今日運びこまれた荷を確認し、代わりにある商品を仕入れてくるように云われたのだが、それは余り公に出来ないものらしく。探している内に商人に雇われた用心棒に不審感を抱かれて、捕らえられかけて逃げ出した。
 現在はそんな状況。

 奴隷市を突っ切って波止場を走り抜けて、倉庫街まで駆けてきたが――追っ手はなかなかの健脚らしく撒けない。

 じぐざぐに走って角を曲がったり人込みに突っ込んだりするが、背後からなかなか離れてくれない。「待てコラァア!!」と時々怒号を浴びせられながら。

「誰が待つかってーの! もぉお、諦めなさいよー!!」

 ぜいはあしながらこっちも足には自信がある。どうにか振り切ろうと、我武者羅に港を走り周り、時に通行人にぶつかり、

「あっ、ごめんなさい…!」

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にセイン=ディバンさんが現れました。
セイン=ディバン > ダイラスで酒場の用心棒の仕事を追え。
お役御免、となった男。さて、メシでも喰うか、と。
港周辺の食堂を眺めていたのだが。
いきなり、横から人にぶつかられた。

「うぉうっ。……おいおいお嬢ちゃん。
 人間ってのは歩く時走る時は前と足もとをしっかり見て移動するもんだぞ?」

どすんっ、という衝撃は決して小さくは無かったが。
鍛え上げた冒険者たる男はよろけることもなく。
逆に、相手の身体を支えてそう声をかけるのだが。

『待てやゴラアアアアアアアッッッ!』

そんなぶつかってきた相手の後ろから。凄い剣幕の男たちが数人こちらに向かってくるのを見て。
男は、ある程度事情を予想する。

「もしかしてだけど。お嬢ちゃん。
 なんかヤバいことに巻き込まれてる?」

ふむ、と男は相手に。念のために状況確認の問い。
もしもそうでないなら、まぁ。ここでお別れすればいいんだけれども。
目の前の少女が困っているのなら、事情によっては助けるのもやぶさかではない、という考え。

ティアフェル >  夢中で駆け抜けるさなか、避け切れずにどん、とぶつかって互いの肩に走る衝撃。

「あっ! ごめんなさい!!
 ちょっと急いでいるのでこれにて失礼――って、えっ?」

 派手にぶつかってしまったが、引き倒すことにはならず逆によろめいたところを支えられて、その間にも背後から飛ぶ怒声と距離を詰めてくるガサツな足音に、慌てて再び駆けだそうとしたが。
 尋ねられて軽く目を瞠ってそちらを見上げ、ついでに下から上まで観察して瞬時に『頼れるクチ』と判断。ピンチは一目瞭然かもだがわざわざ訊いてくるということは、無視するほど冷徹ではないのかもとアタリをつけると大きく首肯して。

「そうなの! わたしなーんもしてないのにあのおっさんたちが怒って追っかけてくるのぉ! 助けてー」

 被害者ヅラ丸出しモードに入った。
 さささ、と徐に素早くその背後に忍んで丸っきり連中が悪いと云わんばかりの態度をとった。

セイン=ディバン > ぶつかってすぐに謝り、駆け出そうとする相手。
明らかに自分のほうへと向かってくる用心棒たち。
まぁ、そういうことだよねきっと、と。
男は考えつつ、相手の言葉を聞き。

「ふむ。わかった。
 とりあえずは助け舟を出そうか」

なんだか胡散臭いなぁ、と思いつつ。
男は相手を背中に隠す。そこで、用心棒たちが追いつくことになるのだが。

『げぇっ……!』
『せ、セイン=ディバン……』

男の姿をみた用心棒達は、そこで足を止めることになる。
のみならず、明らかに萎縮した様子だ。

「よう。あんま、往来でちっちゃな女の子を追い掛け回すのは感心しねぇぞ?
 ……なんでこの子のこと追ってたんだよ。説明しな」

この男。見た目はうらぶれた中年オヤジだが。
その実国内有数の冒険者の一人である。
威嚇するでも、凄むでもない詰問。だが、用心棒達はバツが悪そうな表情になり口ごもるのみだ。

「もしも説明できないんなら、この子のことは俺が預かる。
 それで問題ないか?」

こりゃあ双方事情アリの厄介ごとか。
そう判断し、男はそう宣言するが。用心棒達は納得はしていないものの、男に対して強く出れないようだ。

ティアフェル > 「やったー! 助かったー!
 もう、足がくがくだったわあ」

 現金に軽くもろ手を挙げて喜色を浮かべる。ぜえ、はあ、と乱れた呼吸を整えばくばくと弾む胸を抑えつつ大きく息を吐き出し。
 この後ろに隠れて、ヤバくなったらなんならこの人を連中に突き飛ばして逃げる、とそこまで後ろ暗いことを考える腹黒。

 やがて、追い詰めてくる、向こうは向こうでお仕事中な連中は彼を見てあからさまに動揺を見せている。「あら、有名人…?」と好都合な事態にぱちくりと目を瞬き、一旦突き飛ばす案は取り下げてそちらを斜め後ろからまじまじと見つめ。
 ちっちゃくねえし、とその科白には引っ掛かったようにアホ毛を揺らし。

 説明を求められた男たちは、
『ソイツがちょろちょろと荷を嗅ぎまわってたから、ツラ貸せっつったんだよ』
 と問題のある個所は割愛し憮然としながら簡潔に説明し。

「わたし依頼受けた品を探してただけだもん! そう云ったのに捕まえようとするから逃げたんじゃん!」

 何も悪い事してない!と彼の背中から主張し。
 実際なにか具体的な問題行動を起こした訳でもないので、男たちは実力行使に出れなければそれ以上は打つ手がないようで忌々し気に舌打ちをカマしていた。小娘一人ならともかく、よりによって面倒な相手が首を突っ込んできたものだと云うように。

セイン=ディバン > 「そんなに逃げ回ってたのか」

どれほどの距離逃げていたのかは知らないが。
どうやら、かなりの大逃亡劇だった様子。
男は、相手の身体をまじまじと観察。体力がある子なのか、と考え。

そうして、男は助け舟を出す、と言いつつ。
事態の穏便な解決へと仲介役をこなすことに決めるのだが。

「つまり、お前達は嗅ぎまわられるとヤバい荷物を運んでいた。
 で、お嬢ちゃんは少なくとも、全うな方法で依頼品を探してはいなかった、ってことだな」

双方の説明を聞きつつ、男は用心棒達、そして少女と。
双方のことをじろり、じろり、と睨む。
だが、そこで男が下した判断は。

「……だがまぁ、この子が荷物を盗んだりはしていないのは確かなんだろ?
 だったらオマエさんたちがこの子を捕まえるって権利は無い。だよな?」

そう。この両者の問題において、そこは絶対の部分なのだ。
あくまでも、少女が荷物を調べていただけだというのなら。
被害が出ていない以上、用心棒達はこれ以上手荒なことは出来ない。
しかして、用心棒とは信頼仕事。ここで男たちが引き下がれないのも男は理解している。なので……。

「今回はオレの顔に免じて、この子のことは許してやってくれ。
 ……オマエさんたちだって、持ち場離れて女の子追い掛け回すのが仕事じゃねぇだろ?」

男は用心棒達にそう言いつつ。こっそりと皮袋を手渡す。
もちろん、中身はそれなりに入った金貨袋だ。まぁ、賄賂、である。
それを貰った男達は、微笑を隠しながら。

『まぁ、そういうことなら』
『おいガキ、じゃなくって、嬢ちゃん。
 今度からは変なマネはすんなよ!』

などと。形の上は怒りを維持した演技をしつつ、その場を去っていった。

「……さて。お嬢ちゃん。
 詳しくお話聞かせてもらえるかな?」

そこでようやっと。男は、相手に向かい。
本当の事情を聞くことができた。

ティアフェル > 「ちょー走ったぁー……」

 めっちゃ疲れたぁー。と肩を落としながら大きく首肯する。
 持久力には自信あり。しかし、これ以上は持たなかったかも知れずここでこの人にぶつかったのは実際非常にいいタイミングだった。

「ぐっ……」
『ぐっ……』

 そして、彼の下した判断に、双方ハモりながら呻いた。図星、と頭の上にそれぞれ浮かんでいるかのようだ。
 睨まれて全員が言葉を失う。
 アホ毛をへたらせて思わず目を反らしていたが。

 男たちは確かに、実害が出たわけでもなく、ただ目障りな子ネズミを捕まえて何ならその後おもちゃにでもしようと邪な考えで追っかけていたもので、捕らえていい正当な理由などない。
 しかし、代わりに金貨の入った革袋が手に入れば事を荒立てる必要もまったくなくなった訳で。
 めっちゃ素直に引き下がっていった。

「えっ、あ、ちょっと、待ってそれ……」
 だが、いくら何でも身受け料代わりに袖の下まで用意されては、そこまでしてもらう理由はない、慌てた様に革袋を渡した彼の袖を引いて留めようとするものの、もう取引は終わってしまい。
 追っ手だった男たちはもう立ち去ってしまった。

 残されて向き直った相手を見上げるようにして困ったように眉を下げ。

「助けてもらったのは……ありがとう。
 でも、お金は困るよ……。
 いくら渡したの……?
 ――話っても、わたしは依頼で来てて……依頼者のプライバシーに関わるから詳しいことは云えないし……」

 一応守秘義務もある。
 お金を買えそうにもそんなには持ち合わせも、普段の余裕もない。
 困ったように眉を崩しながら。

セイン=ディバン > 「そうかいそうかい」

超。走った。なるほどね。
男は内心色々と考えつつ、顎をさすっていた。

「別段。互いの仕事に干渉するつもりは無いが。
 その事情ありきで往来で騒動を、ってのはどうだろうな」

用心棒。少女。互いがどんな事情、どんな仕事をしているかは男にとってはどうでもいい。
追求も糾弾もする気はないのだ。男はそんな立場に無い。
だが、往来で騒動は起こすな、と。男にしては珍しい全うな意見であった。

男の提示した問題解決策に、用心棒達は多少問題はあれど納得し、去っていく。
なんだか、袖を引かれた感触があるが。男がそれに気づくよりも先に。
問題は解決してしまったのだ。

「あぁ、いいってことだ。
 キミみたいに可愛らしい子を助けるのは義務だからな。
 さぁて、いくらだろうねぇ?
 ……ま、そりゃあそうか。ただ、それってつまり。ヤバい仕事だ、ってことだな?」

相手の問いには、のらりくらりと回避行動。
女の子を助けるのに出費をしました、なんて。男に取っちゃあ名誉以外の何物でもない。
相手が事情を説明できぬ、と言うのなら。男は納得し、とことこと歩き始める。

「走り回って喉渇いてるだろ?
 酒場でメシでもどうだ? 奢るぞ?」

話せないなら、追求しない。男の様子は、そんなことを雄弁に物語っていた。
そして、この少女が悪人ではない、と。男はそう信じている。
だからこそ、背を向け、のそのそと歩き始めるのだ。

ティアフェル >  どこか鷹揚に肯く相手に、隙の無い印象を抱きつつも。

「その通りだと、思う」

 往来で騒動を起こすなというお説教に、わたし好きで逃げた訳じゃないもん、とTHE棚上げに勤しんで至極真面目な表情で腕組みして同感し。「もー追っかけてくんなっ」と余計なことを生意気にほざいて、無駄に男らの神経を逆なでていた。
 そんな感じなので、賄賂でも積まなければなかなか収まらなかったかも知れないが。こちらはそこまでしてもらうと困ってしまう。
 弱ったような表情を浮かべていたが、

「えー? その義務はまったく天晴だし、どうぞそのままがんがん義務を負ってくださいと推したいもんだけどさ。
 さすがに悪いなあ……。
 ……まあ、そうでなきゃ自分でどうにかするだろうしね。わざわざ人を雇ってまでさせないっしょ」
 
 うーむ。と太っ腹な相手にとても悩み顔をするが。
 払います!いくらでも!と云えないところがツライ。
 依頼内容や依頼者に関しては伏せるがそのくらいの遠回しな表現で応じて。

「え? なにこの人どこの神?
 いや、賽銭もなしに神が動くはずもないってか、賽銭しても動かんってか。むしろ銭を出してくるあたりが神じゃない。
 ――むしろこれは、奢れっていうところだろうに。
 もしやあなた、金持ちか! 大金持ちか! 持て余してんのか!」

 自分の感覚ではまずないような行動を見せる相手に驚愕の表情を浮かべながら歩き出す歩に合わせて隣を進みつつ。

セイン=ディバン > 「調子にのんな。お前さんの行動もきっかけだろう」

責任。どちらが重いか、などという気もないが。
双方共に行動を改めよ、と。男は重々しくその場の関係者を睨み。

「イイ男が美少女を救うのが義務なら、美少女はイイ男に救われるのが義務だ。
 だから、甘んじてこのラッキーを享受してくれや。
 だろうなぁ。ま、キミにも事情があるんだろうし。もう深くは聞かんよ」

質問攻めにしても、困るだけだろ、と。
男はあくびをしつつ、相手の仕事内容からは完全に興味を無くした様だ。

「人間だよ。微妙に人間辞めつつあるけど。
 バァタレ。まだまだ若い女の子に奢ってもらうほど落ちぶれちゃいねぇ。
 あぁ、わりと金は持ってるぞ。ま、仕事が冒険者だから収入は激不安定だけどな」

稼ぐ時は鬼のように稼ぎ。飢える時は貧民が如き飢える仕事だからなー、などと笑いつつ。
男は相手と共に歩き、適当な酒場に入る。
席に着けば、男は黒麦酒と、ツマミを数種注文し。

「あぁ、好きに注文していいぞ。
 ……そうだ。自己紹介してなかったな。
 オレはセイン=ディバン。さっきも言った通り冒険者だ」

よろしくな、と笑みを向けながら。男は懐から細巻を取り出し、ぷかぁ、と吸い始める。
先ほどまでの仲裁の様子とは違い、かなり気安い様子だ。

ティアフェル > 「ふぐっ……」

 正論に他ならなかったので、胸に刺さったように苦し気に抑えて呻いた。
 
 「すいませんでした……」

 素直に項垂れる辺りはそれほどすれっからしてもいないようで。

「分かったよ、イイ男。
 それならこっちもせいぜい女を磨いておくよ。
 という訳で、――超ラッキー! お母さん可愛く産んでくれてあーりーがーとー!」

 ここで激しく母に感謝。遺伝子に感謝。した。そもそも弁償できるような金子はないので申し訳ないという態度を表すくらいしか手はなかったのだが。
 必要以上に追及しない様子にほっとして。「そうしてくれると助かる」と呟き。

 人間やめかけているという科白に小首を傾げて明後日な科白を口にした。

「駄目だよ、まだマダオになるには惜しいよ?
 じゃあせめて割り勘でもいーんだけど……奢ってくれるというのにあんまり遠慮するのも悪いかしら。
 えー? 大丈夫? 確かに冒険者って不安定だけど」

 自分もその端くれなので理解できる。今はちょうど羽振りがいい時期なのだろうと納得し。
 酒場に連れられて行くと慣れた様子で注文する相手とは逆に、何にしようかなぁ…と悩み顔でしばし考え込み。

「えーっと、じゃあレモネード。
 後チーズサンドお願いしまーす。
 ――あ、うん。
 セインさん? わたしはティアフェル。ヒーラーで、一応冒険者、です……」

 注文を終えると名乗りを聞いて、ひょこ、とアホ毛を揺らし。冒険者と云っても結構立場に差がある。どことなく気後れ気味に名乗り返すと。

「いつも困った女の子がいると助けてるの?」

セイン=ディバン > 「よろしい」

男の言葉を聞き、素直に謝るところを見て。
なるほど、そういう子なんだな、と。
男は少女のことを見極めていく。

「おぅ。そうしとけ。
 女の子はみんな自分を磨いてナンボだから。
 いや、男もか」

なんとも愉快に感謝の気持ちを叫ぶ相手に、男は微笑みつつ。
完全に相手のことを、可愛らしい少女というカテゴリに入れる。

「マダオ? なんじゃそりゃ?
 そうな。目上の相手が奢るって言ってる時は、ちょっと遠慮しつつ、遠慮しすぎないようにしな。
 こう見えても貯金もしっかりあるよ。安心しろ」

マダオとは、なんぞや。そう思いつつ、男は実に気楽な様子で歩く。
相手に対して奢ることなど、なんとも思っていない。
むしろ、それもまた義務である、と言う風に思っているくらいだ。

「ティアフェルちゃんな。……ヒーラーで冒険者か。
 珍しいな、って。あぁ、オレの知人では、ってことな」

なんだ、同業か、と男は少し驚いた様子になり。
そのまま、相手の問いに、ん? と首を傾げる。

「いっつもって訳でもないぞ。悪人は助け……助け……。
 ……悪人も時と場合によっては助けるな、俺。
 え~っと、可愛い子は助ける。あとは、同業者はまぁ、サポートする」

だから、キミみたいな美少女は助ける対象、などと笑いつつ。
届いた酒を手に持ち、乾杯、と掲げて見せ。
ぐぃっ、と一気に飲み干していく。

ティアフェル > 「はい先生」
 妙なノリで真顔に肯いて。
 至って真面目で素直であるが、思考回路は少々オカシイ。

「全くだよ、気を抜いたら太るし弛むしカサつくし。
 気を引き締めて、イイ男が助けたくなるようにしてなきゃね。
 そっちもがんばれー」

 容姿は持って生まれたもので手柄でもないが、維持するには磨くには労力がエグイぐらい要る。ふむ、としみじみ首肯してから、そちらも、と軽く笑って。

「人間辞める=まるでだめなおとこ。じゃないの?
 全然駄目じゃないから思い直して。
 それではありがたく。ゴチになりまーす」

 つい最近もこんな感じでごはんを貰ったりしてたな。餌付けられてしまいそうだ。
 最近わたしツイてる、と思うことにして遠慮もそこそこに。お言葉に甘えた。

「ティアでいーよ。大体そう呼ばれるから。
 今は所属しているパーティがないからソロなんだけどねー。
 そういう意味では珍しいかもね」

 仲間がいて補助する立場にいるから冒険者として活きる職業である。
 一人でふらふら活動しているのは確かに少数派だ。

「結構色々助けてんじゃん。
 見上げた吾人め。
 いやははは、わたしもわたしで助けてくれたのがセインさんみたいなイケメンで気前もいい人で良かったわあ」

 乾杯、とこちらは届いたレモネードを掲げて。
 走って大分喉が渇いていたのでこっちも、ごくごくと喉を鳴らして一息で半分ほど飲み干し。
「っぷは……全力疾走の後のレモネードやばい」

セイン=ディバン > 「……先生、か」

そういや。そんな風に呼ばれた記憶があるような、と。
男は、ん~? と首を傾げるが。
当然、男は弟子や後輩に先生なんて呼ばれたことも無く。

「や、見た目の話だけではなくな?
 こう、内面とか。スキルとか」

いや見た目も大事なんだけど、と言いつつも。
こういった言葉などは、裏表のなさの表れかな、と納得する。

「あぁ、そういう意味か。
 いや……まぁ、あれだ。魔術を習得しすぎて、ちょっと人間離れしちゃってる、って話。
 あいよ。たんと喰うとイイ」

実際のところ、ある意味ではこの男はとんでもないダメ人間なのだが。
ソコに関しては内緒にしつつ、男は胸をどん、と叩き。
支払いは任せろ、と言ってのける。

「んじゃ、ティアって呼ばせてもらうわ。
 ん。ソロでヒーラーって珍しいな?
 仕事の度にパーティを組んでるとか?」

冒険者の中には、固定のメンバーで冒険する派閥と。
仕事ごとにメンバーを切り替える派閥が居る。
いわゆる、フリーランスに近い働き方というやつで。
男もまぁ、そっちのタイプではあるのだが。

「別に、気が向いたら助けるってだけだよ。
 それに、オレだって完全に無償で人助けしてるわけでもないしな?」

相手がレモネードを飲むのを見て、そこで男がニヤリ、と笑う。

「義務うんぬんは置いといて。
 助けてもらったらお礼の気持ちは大事だよな?」

ニィィィ、と。実に凶悪な笑みであった。

ティアフェル > 「ん?」
 首を傾げている様子に疑問符を浮かべる。
 気に入らなかっただろうかーと。
 気に入る訳ないが。

「内面も外面も気を付けないと肥えるし弛むしカサつくのよ」

 重々しく腕組みで呟いた。外面も内面も努力なくしては保てません。

「そっち。チートずるい。チートいいなあ。
 チートの奢りなら遠慮しないぞ」

 と云っても食べ過ぎると太るし動けなくなるので量はそこそこ。
 せめてサントイッチに高いチーズを挟ませるくらいだが。
 しかし、この人はこんな感じでタカられないのだろうか、と至極太っ腹な態度に逆に心配になってくる。

「うぃうぃ。それで。
 そうなんだよねー。なかなか手頃なパーティがなくって。
 今はそうだね、募集してるパーティがあったらちょっと入れてもらって……。
 馴染めそうならそのまま所属したいんだけど……いいパーティに出会わなくてねえ」

 できれば馴染んだパーティで活動したいのだが、難しい。
 それは後衛の癖にモンスターをみたらカチ割に行くようなポジション無視の性分故かも知れない。
 うまくいきません、と悩まし気に眉を寄せて小さく嘆息し。

「じゃ、今日は気が向いたんだ。
 良かったよ、次回も困ったティアを見かけたらぜひ気を向かせてください」

 レモネードを早々と一杯飲み干してすいませーんお代わりと二杯目を頼んで。

「や、そりゃま……そう、ですね……?
 感謝は溢れんばかりにしてます、が…?」

 含みのあるような笑いに少し顔を引かせて小首を傾げ。
 窺うような視線を向けた。

セイン=ディバン > 「あ、や。気にしないでくれ」

相手が首を傾げるのを見て、男は掌を振る。
別段、深い意味は無いんだ、と。

「そういうもんですか」

へぇ~、と相槌打ちつつ、案外深い言葉だな、と。
男は相手の言葉を心に刻み込んだ。

「チートって。習得するのに結構苦労したんだぞ?
 遠慮なんてすんな。若いんだから」

中年オヤジはなぜ若い子に奢ろうとするのか。
それは、過ぎ去った若き日を懐かしんでいるからかもしれない。

「なるほどな。ま、オレもソロが多いから気持ちは分かる。
 出会いは一期一会だからなぁ。
 その内、ティアがすごしやすいパーティに出会えるさ」

男がソロな理由は、気楽だから、なのだが。
やはり冒険者は、仲間と行動するのが一番安全。
特に、相手のように後衛職ならなおさらだ。

「そういうことになるな。
 あぁ、いいぜ。こうして出会ったのも縁だからな」

いくらでも助けてやるさ、と笑いつつも。
男は、相手がお代わりをするのを見て、更に笑みを強くする。

「ははははは、感謝の気持ちなんて1ゴルドにもなりゃしねぇだろ。
 ……ぶっちゃけ、ティア。生活に余裕があるわけでもないだろ?
 だったら、金が無いなら。支払う方法は分かるよな?」

余裕がある人間は冒険者などやっていないだろう、と。
男はそう予想し、笑顔のまま相手に向かって、カウンターのように首を傾げてみせる。

ティアフェル > 気にしないように云われて「ん」と素直にひとつ肯き。

「心にも身体にも贅肉つけないように行きたいものよ」

 イイこと云った態で渋みがかったような表情を敢えてキメてのたまうが――微塵も大したことは云っていない。

「どんだけ苦労してもできないのがチート以外だよ。
 ――お父さんかい」
 
 勧めるような言葉に肩を揺らして笑い。
 オヤジだとは思っていないが、言い方が親戚のおじさんとかお父さんに似ているとおかし気に。

「あなたソロで充分やってけるんじゃん?
 パーティ追い出されたことすらあるわたしの気持ちは分からんよ!
 無責任な~……そんなパーティあるかなァ……」

 パーティプレイ向きの職業なのに性格がパーティプレイ向きじゃない。
 根本的に彼とは属性が違うのである。
 なかなかこんな曲者ヒーラーに馴染むパーティなど存在しない。
 ふう、と遠い目になりつつ。

「やった、心強さが芽生えたわ。
 陥りたくないけどピンチに陥った時はなるべくこの人の前で陥りますようにー」

 変な祈りを捧げて、神に願う代わりに彼の前で手を組み合わせて拝みだした。
 しかし続く要求染みたい科白には、キタコレ、とアホ毛を寝かせて。

「やー。まー。今さら金払えってことにはならないだろーし、感謝されてもってことだろうけど……。
 参ったな。こう見えても純情可憐で通してるんだよねー」

 云いたいことが分からんでもないので、うむむむ、と悩み顔をキメてから。
 はぐらかすより直球で云おうと顔を上げ。

「率直に云う。好きな相手じゃなきゃヤダ」

セイン=ディバン > 「お、また名言いただきました」

心にも身体にも、か、と頷きつつ。
つくもんなぁ、心の贅肉、と。自身の生活について思ってみたり。

「ふぅん。そんなもんかね。若い子の言葉はよくわからん。
 お父さん、って。お前さんくらいの年齢の子供はいないぞ」

お父さん言うな、と笑いつつ。しかして、文句の言葉は、ずいぶんと柔らかい。

「まぁそうなんだけどな。
 いや、俺もパーティ追い出されたことはあるぞ。
 冒険者暦20年だもん」

追い出されたり、他のメンバーが全滅したり。
そんな経験、いくらでもしてきた、と。
男は苦笑いしつつ、あるさ、と慰めるように。

「いや、ホント。
 なるべくは窮地に陥るな?」

イザって時は助けるけどさ、と笑う男。
しかして、続く言葉に対しての相手の反応には、笑みを消し。

「……。……クッ。
 アハハハハハハハハッ!」

ハッキリとした物言いに、男は膝を叩いて笑い。

「アハハハハッ! まだ何も言ってねぇって!
 いや、身体で払ってもらおうか、とは言うつもりだったけどな?
 そんで、お前さんが照れるのを見てからかうつもりだったのに」

ヒィーヒィー、と笑いながら、目元をぬぐう男。
そのまま、しばらく笑った後に。

「ま、要するに。今度俺が人手が必要になったら。
 ヒーラーとして助けてくれ、って話なんだけど。
 ……ふ~ん。ティアはそんな想像をしちゃうのかぁ」

なるほどねー、と。意地の悪い笑み。

ティアフェル > 「うん、ちゃんとメモっといてね」

 真顔。完全に調子に乗るが、迷言しか口にしてはない。

「そんなにイミフな若者語使ってないっしょ。
 そーだろーけどさ。言動がお父さんそっくりよ」

 くすくすと肩を揺らしながら、少々故郷のことを思い返して懐かしむように目を細めて。

「えー。そうなんだ? 意外意外。
 性格的に難を認められて?
 で、もうソロに落ち着いちゃったの?」
 
 それは完全に自分のことだが。もしや同じクチだったりするのかと期待したように問い返した。
 

「心がけるよ、でも陥りたくなくても陥っちゃうのが窮地ってもんでしょ?」

 積極的にピンチにはなりたくないが、大体想定外のことが起きてなってしまうもので。
 防げる範囲では頑張るよ、と真面目に応答して小さく拳を固めた。

「爆笑。」

 お腹痛いくらい笑っている反応を見たまま呟いた。ウケているが気持ち的には滑っているような感覚で、
 
「――だって男なんてみんなサルじゃん」
 大量のサル(弟)を従えたボス猿はとんでもない暴言をさらっと口にして。

「いやあ、先に云っといた方がトラブルが少ないですし?
 うん、回復役ならばいくらでもお任せあれ。
 怪我したら一報くれたら飛んでくよ!」

 ぴ、と親指を立てて二つ返事で応じた。

セイン=ディバン > 「おう。しっかり心に刻んだぜ」

面白い子だなぁ、と思いつつ。
もっともっと深く知り合ってみたいとも思う。

「イミフ? いや、そうでもないっていうか。
 この歳になると、若者の言葉は分からんし、親父臭い言動になるんだよ」

自分の理解の外の言葉などに、男ははぁ、とため息を吐く。
こうしてギャップを感じるのは、歳を取った証拠だな、と。

「ま、そうな。パーティの女に手を出したり。
 あとはまぁ、衝突したり。あとは……親しかった仲間が死んだり。
 そういうのの繰り返しで、ソロが気楽になってな」

ふ、と。男は遠い目で過去を懐かしみつつ、酒を飲み干し、お代わりを注文する。
つまみの湯で豆を、ひょいぱく。

「そうかもしれないけれどもな」

まぁ、どれだけ警戒していてもピンチにはなる。
それが冒険者稼業というものであるからして。

「いや、スマンスマン、ちっと、からかいすぎたな。
 はぁ……でもまぁ。当然。
 そういう下心が無かったわけでもないんだぜ?」

すまん、笑いすぎた、と。男は素直に頭を下げ。
下心があったことも認める。

「でもまぁ、好きな人とじゃなきゃヤダ、っていうのは大事だよ。
 オレも、回復魔術は使えるんだけど。一人しか回復できないし。
 やっぱ仲間がいると心強いからなぁ」

好きな人、ねぇ。と。相手のピュアな言葉に目を細めつつ。
相手に、その時はよろしく頼む、と改めてお願いする男であったが。

「……となると。ティアがオレに惚れたら。
 そ~いうんをしてもいいわけだ」

などと。冗談とも本気ともつかぬ言葉を吐き出し。

ティアフェル > 「よーし」と満足げに深々と肯いた――お調子者。
 そろそろ鋭い突っ込みが必要な気はする。

「この歳って、いくつなの?
 あ、「いくつに見えますぅー?」てホスト的な返しは不要です」

 誰もそんな返しはしなかろうが、無駄に予防線を張って尋ねた。
 まだまだジェネレーションギャップを感じるのは早いのではないかと。

「……な・か・ま。
 ふむ!ふむふむ! 性格に難ありで追い出されたのね!
 よーしよし、人間味があって大変よろしい!
 わたしはそのくらいの方が好きだな!」

 すっかり自分と同じようなものだと思い込んだ。
 結構違うが。皆一度はパーティ追い出されればいいんだ、とすら思いこんでいる性格難ヒーラー。
 食べ忘れていたいつの間にか届いていた注文のチーズサンドをここでようやく思い出して頬張り。

 そうなのだよ。と避けられないピンチはあると重く首肯して。
 ドジを正当化にかかる。

「いいよ、笑いは身体にいいんだよ、存分に笑い転げるがいいよ。
 あと、下心のない男なんて珍獣でしかないと思う」

 笑い過ぎたことに関しては非常に寛容であった。そんなに気にしてはいない。
 下心に関しては姉ゴリラ的によく知っています。

「うん、ヒーラーとしてなら任せといて。
 どっからでも頼っていいよ。
 クエストとか必要があったらガンガン声かけて」

 喜んで出動する、と二つ返事で請け合ってから。

「そりゃ、好きな人まで拒否ったらビョーキでしょ。
 惚れさせて下さるなら、期待しておりますことよ」

 おほほ、とわざとらしく笑ってこちらも軽口のように軽快に応じた。

セイン=ディバン > 「ホスト? ってなんじゃい?
 ん。今年で34になるよ」

余裕でオッサンである、と。
男は若干の落ち込みを込めながらそう吐き捨てる。

「それだけじゃないけどな。
 まぁ、性格面に関して、当時問題があったのは確かだな。
 あぁいや。今もか」

若い頃はパーティを組んでて追い出されて。
今は、ソロメインだから追い出されていないだけ。
多分、この男がパーティを組んだら、やっぱり追い出されることは多いだろう。

「なんか、ティアって若そうな見た目の割りに、大人びてるな?」

ギャップがあるなぁ、と微笑みつつ。
その、相手の大人びた様子に、笑みを強める。

「助かるねぇ。ま、その時は。
 クエストの報酬は7:3で。ティアが7な」

あとは、欲しいアイテムとかがあれば優先して回してやろう、と。
男はその時についての話を詰めていく。
後輩冒険者を育てるのも先輩冒険者の仕事である。

「お、言ったな?
 じゃあ、チャンスがあったらガンガン狙っちゃおうかなぁ」

口説き落としてみせようか? などと。
自信満々に言い、微笑みつつ。男が相手の頬にやさしく触れ……。

ちょい、と。ほっぺたについていたチーズサンドの欠片を取り、相手の口にぷぃ、と入れてあげる。

ティアフェル > 「男娼。
 ふーん、なんかもうちょっと若い感じするね?
 ってか、別におじさんじゃないじゃん」

 そうも思わないとふるり、首を振って。
 落ち込む必要なしなしとお気楽な態で。

「そうかあー。今も性格に難があるのかー。
 全然、いいと思うよ!
 人間ひと癖あってこそだよ。
 没個性よくない」

 怒涛のように芽生える仲間意識。
 全然こちらの性格難とは事情が違うというか。
 相手の方は大したことなかろうが。めちゃめちゃ親し気ににこにこ笑いかけていた。

「しっかり者と呼んで。なんかねえ、子育てを経てすっかりおばちゃん化しちゃったよ……」
 自分の子ではないが。遠い目をして実家で弟飼育に奔走していた日々を想い返した。

「えっ? そんな高くていいの?
 悪いなあ……7分の働き、できるかなー?」

 うむむ、とアイテムまで優先してくれるという超好条件に悩み顔を見せた。顎に手を当てて考え込み。
 けれど、懐の広い先輩冒険者には甘えとくのが吉かとは思い。
 その代わりしてもらったことを後輩に返せばチャラか、と。

「はあん、物好きだねえ……。
 別にセインさんなら女の人には困らないだろうに。
 何人でも即釣れるだろうに。わたしに手を掛けんでもと思うけど。
 ま、イイ男に狙われるのは気分がいいので。楽しみにしとく」

 中身は全然女らしくないし、思考回路は変だ。
 わざわざ相手に使用とは奇特だなと感心しつつ。レモネードを傾けて。

 はむ、と齧りついていたチーズサンドの欠片を自然に口に入れられてもくもく咀嚼しながら。

セイン=ディバン > 「だったら男娼でいいじゃんか。
 若者の言葉の自然発生って不思議だねぇ」

ん~。と。新たな言葉に困惑しつつも。
いやいや、もうオッサンだよ、と。
相手の言葉には苦笑を返す。

「大声で言うな、悲しくなる。
 ……ま、そういう感じで。怨まれたりとかもしてるから。
 やっぱり、今もどうしてもソロが多くなっちゃうんだよな」

つまり、ソロができるからソロなのではなく。
ソロでやるしかないから実力を付けていったという話。
相手のように若くも無いので、いまさら仲間を見つけるのも面倒なのである。

「子育て!? なんだ、ティア、子供いるのか!?」

マジにっ!? と驚く様子を見せる男。
なおさら、最近の若い子すげぇ! と思ってしまう。

「当たり前だろ。オレはある程度ソロで稼げるんだから。
 後輩に優先して報酬を回さないと」

そうして、後輩が育っていけばまた新たな冒険者への先輩になれるのである。
なにせ、仕事の関係上、割と人死にが多く、若手もすぐいなくなる業界だ。
育てられる若手は育てるのが吉、である。

「……? いや、何言ってんだ?
 ティアフェルは可愛いし、魅力的だ。
 明るいし、元気だし。ステキな女の子だと思う。
 だから口説いてるんだぞ? 俺が、キミを口説きたいと思ったから」

変わり者だとか。女に困らないとかはどうでもいい。
目の前の少女と仲良くなりたいから口説いているんだ、といいつつ。
男は、酒を飲み、相手をまっすぐに見る。

ティアフェル > 「そこは敢えて直接的な表現を避けたいお年頃。
 自分でおっさんおっさん云うと余計に老け込むよ?」

 気持ちまで老け込んでたらおっさんからじいさんまでの距離があっという間だ、と釘を刺すように告げて。

「ごめんごめん。
 余りに同士感が込み上がったもので。
 ソロは気楽だけどねえ。ちょっと寂しい」

 こうして話してる分には気さくで協調性もありそうなので、パーティに向かないようには思えないが。
 人は分からぬもの……。
 観察するようにじーっと眺め。

「ううん、弟。家、下に弟五人いるのよ。
 で、わたしが長女。お察しください」

 もう子育て一生分やった。…と遠い目。
 自分の子供はしばらくいなくても大丈夫だと思えるくらい。

「やっさしーい。
 こんな人間できてる人を追い出すパーティがあったなんて信じらんないね」

 優遇してくれることにかーなーり気をよくして超上機嫌で誉めた。
 しっかり周りのことも考えているのに追い出すパーティは人を見る目なしと判断。

「おほぉー…。
 全弟に聞かせてやりたーい。
 ありがとう、ありがとう、実家じゃボス猿だのゴリ姐だの云われ慣れていたものだから。そう云われるとうっかり容易くときめいてしまうわ」

 ものすごく簡単な娘だった。
 頬をはにかんだように赤くして両手で抑えて、無邪気にきゃっきゃした。
 録音技術などと云うものがあれば即やってた。

セイン=ディバン > 「そうなのか。まぁ、そうして色んな言葉が生まれるんだな?
 いや、ぼちぼち老け込まないと。いつまでも冒険者として最前線にいるのも問題だからな」

確かに、まだまだ実力は成長中だが。
どうせなら、若いヤツ等が上に行かないとな、などと嘯き。

「同士感、ね。
 まぁ、基本気楽さに勝るものはないんだけれども。
 時々、キツくなるときもあるよな」

例えば、どうしても一人では出来ない仕事、などもあるのだ。
それを受けるべき依頼候補から外さなくてはいけない時などは、ちょっともったいない、とか思う。

「あ、そうなのか。びっくりしたぁ……。
 しかし、兄弟多いんだな」

じゃあ、それを面倒見てるんだから。
子育て経験、が豊富なわけだ、と。男は納得する。

「昔はオレもガツガツしてたからね。
 報酬ちょろまかしたり、仲間を見捨てたり」

そういうことしてると、ダメなんだ、と。
男は、そんな過去の自分を苦々しく思う。

「ありがとうもなにも。本心を口にしてるだけなんだがな。
 ティアフェルは可愛いよ。グリーンの瞳もきれいだし。
 肌も白くて、本当に魅力的だ。
 俺がもう少し理性が無かったら本気で襲ってたかも」

頬を赤くする様子。はしゃぐ様子。
それらも実に可愛らしく。男はよしよし、と。
相手の頭を撫でてみたり。

ティアフェル > 「た、多分……?
 そーいうもんかな? ベテランの冒険者が前線にいてくれると安心できたりするけどね」

 若者は無茶をしがちで、簡単に散ってしまう。
 そんなに早々と老兵のように引こうとしなくてもと微妙な表情をして。

「わたしは、まだまだ気楽というより不安な気持ちになるから、ソロでの活動はあんまりしたくないんだけどね」

 気楽だと云うにはまだ早い。
 確かに受注できる仕事もソロ向けになってしまう。
 自分はまだまだ使い程度の依頼しか受けられないのも難点だ。

「多いよね……全部弟って何かの呪いかと。
 セインさんは?兄弟いないの?」

 見事に全部荒くれ猿としてやんちゃ坊主なのもきっと呪いだ。
 そしてふと気になったように尋ね。

「今はこんなに余裕な大人になって……。
 成長、したんだね……」

 まったくそんなしみじみする立場ではないが、ぽん、とテーブル越しに伸ばした手で肩たたきなんぞしつつのたまった。

「いーやぁー。さすがに照れるー。
 まあ、でも、そう云ってもらえるとやっぱり嬉しいから。
 ありがとうはありがとうだよ。
 あっはは。理性的なお方でなにより」

 恐縮です、とおどけて頭を下げたりして。
 その頭を撫でる手に、無邪気に笑いかけては。
 肩を揺らして笑いつつ、女の扱いを心得ている様子に感心気味で、

「ほんと、セインさんに口説かれたら女の子はころっと落ちちゃうねー」

セイン=ディバン > 「それはそうなんだが。
 それで居座り続けて、若手が上に登れないのも可哀想だろ」

その辺は実際、バランスが難しいんだよなぁ、と。
男は、腕組みしつつ、考え込むような仕草を見せる。

「ふむ。まぁ、しばらくはいろんなパーティに加わるしかないなぁ」

焦るのも良くないし、いろいろな人と一緒に冒険してみればいいさ、と。
男は、先輩としてアドバイスをする。

「はははは、確かに。全員弟ってのは稀有なケースだな?
 ……あぁ、オレは。一人っ子でね」

妹がいれば、家のことを協力してくれたかもな、などと笑う男だが。
相手に問われれば、少し、悲しい表情を見せる。

「別に、成長したっていうか。せざるを得なかった、っていうか。
 ま、そういうことだから。ティアちゃんは仲間を大事にね?」

肩をたたかれながら、ん~、と天井を見る男。
男は、運もあってここまで生き延びてこれたが。
言ったら、それは運あってのことで。

「そうして照れるところも可愛いな。慣れてない感じが。
 まぁ、でも。どうせならきっちり惚れさせて。
 そんで、そういうことしたいからな」

だから今は手を出さないよ、と言いつつ。
男は、二杯目の酒も飲み干していく。
相手の頭を撫でていた手を引き、ふぅっ、と息を吐き。

「いやぁ、そうでもねぇよ。
 結構、フラれたりもするし」

別にそこまでモテてもいない、と。
男は、ちょっと苦しそうな表情で告白する。

ティアフェル > 「引き際を心得ているってことかな。 でも、まだ引くにはちょっと早いんじゃないの?
 隠居するにはねえ、まだまだ」

 若いうちのような行動は確かにふさわしくはなさそうだけれど、後続の為に道を開けるには少々時期尚早にも思えて。首を捻った。

「そだね、そんなことしてる内にわたしもソロに慣れて、あっと云う間に引退を考える年齢になってなきゃいいけど……」

 結局定着するパーティがなかったらしい先輩を眺めて自分の生末を思い浮かべてしまう。
 ふう、と小さくため息をついて。がんばりまーす、とアドバイスに片手を挙げた。

「ね。せめて妹がいてくれればもう少し楽だったかも知れない……。
 ふーん? 面倒見いいから下に兄弟がいるのかと思った」

 そっか、と頷いたがどこか悲し気な表情が過ると気がかりそうに見つめて。

「いつまでも子供のままじゃいらんないもんね。
 ……うぇーい。大事にはしてるつもりだけどねー」

 でも大事にはしてもらえない。
 いっそ街ヒーラーになった方がいいのかも知れないが。心は冒険野郎だった。

「そりゃあ、そんな面と向かって云われると照れるよ。
 ――おぉ。立派。拍手」

 口で云いつつ本当に軽くぱちぱちと拍手した。
 なかなか紳士的。これがモテ男の秘訣なんだろうかと思っていたら、意外と持てないと自白がきて。意外そうに目を瞬き。

「ここでモテモテ、って主張するよりそういう風に云っといた方が好感度は上がるね。 
 マジで女殺し臭いな。
 実際どきどきするもんなー。かんしーん」

 すっかり感心の態で眺めた。残ったチーズサンドをぱくっと食べ切り。

セイン=ディバン > 「さぁて、どうだろうねぇ。
 まぁ、ムリだな、と思ったら引退するさね」

今のところは、まだまだ現役ではいるつもりだが。
いつかは必ず、引退するつもりだ、と宣言する男。

「おいおい、ずいぶんな物言いだな。
 でもまぁ、そうならないようにしないとな?」

皮肉かな? と思いつつも。
そういった心構えはある程度しておいたほうがいいな、と。
アドバイスを重ねる男。

「もしくは兄か姉、か?
 ……まぁ、オレもいい歳だからな。面倒見も良くなるさ」

ふぅっ、と煙を吐き出しつつ。男は、一度目を閉じ。
次に目を開けたときには、表情は笑顔に戻っており。

「そういうことだ。
 ははは。だったら、いつか理解してくれるヤツが現れるさ」

自分が仲間を大事に思っているのなら、きっと分かってくれる人間は居る。
だからがんばれ、と。男は相手の肩を軽く叩き。

「普段だと、割とムリヤリ抱いたりもするんだけどな。
 今日は、ティアフェルには優しくする気分なのさ」

だから、あんまりオレを信用するなよ、と苦笑いする男。

「だから、そんなんじゃねぇって。
 ……ん、食べきったか。
 さて、オレはこのあとは王都に戻るんだけど。そっちは?
 もしも戻るなら、一緒に連れて行ってやるぞ?」

オレ、転送呪文使えるから、と。
相手にこのあとの予定を聞き。

ティアフェル > 「じゃ、まだまだ頑張って前にいて下さいよ、先輩」

 後続としてはその方がある種安心感はあるし、目指すべき場所も見えやすい。
 引退は残念だが、無理をするようなものではない。
 宣言に無言で受け止めて。

「誰も、あなたのことだとは云ってませんがー?」

 明言してはいないが暗に含ませていた分際で空とぼけた様に。
 アドバイスには、気を付けるよと素直に首を縦にし。

「そうそう、上がいたらなーってめっちゃ思ったわ。
 余りに虚しい想像だったけど。
 ……そ?」

 一瞬見えた様な陰りだったが、笑顔が掻き消すようだった。
 少し不思議そうに双眸を瞬かせたが言葉にはせず。

「んん、そう願うね。どこにあるのやらわたしに優しいパーティは」

 期待するしかない。諦めないで入りうようにしよう、と励ましてもらって気を取り直したように、へらりと肩を叩かれて笑い。

「っはっはっは、襲い掛かって来てみろ――
 再起不能にしてやるぅー」

 信用するなと云われて、逆にこっちも嘗めんな。とまったく可愛げない科白でにやりと口角を上げ。

「はいはい。そういうことにしーとく。
 うん、ごちそう様でしたー。
 おいしかったぁ。
 あ、じゃあ…よろしく。助かるわ」

 今日はもう戻ることにした方がいいだろう。相手の申し出にありがたく肯いて。

「なんだか今日はお世話になりっぱなしだね」
 微苦笑気味に笑いつつ、レモネードも飲み干して立ち上がろうか。

セイン=ディバン > 「おぅ。そうするから追いついてきな後輩」

男は、ニヤリ、と笑い。逆に言葉を返す。
追ってくる人間がいるのなら。前に立つのも悪くは無いと思えた。

「白々しい。でもまぁ、そうだなぁ。
 引退するなら、こぅ、華々しくってのがいいな」

なんか、寒々しく引退するのは悲しいな、と。
男はそう言って色々と考えるように黙り込み。

「色々と助けてもらえたかもな。
 そうなんです。そういうことにしときな」

兄か姉ねぇ、と。男は、そんなことも考えたことがない、という様子だった。
相手が不思議そうにすれば、手を振り、終わり終わり、とジェスチャーする。

「無ければ作るのもアリ」

募集して作ってみたら? なんて提案してみる男。
案外、それで上手くいくパターンもあるのだ。

「おぉ怖い。ケガしたくないからやめておくよ」

相手のとんでもない言葉に、男はひえぇ、とわざとらしく声を上げる。
もちろん、そんなヒドいことをするつもりなんて欠片もないのだけれども。

「はいよ、オソマツサマ、だっけかな。東の地の言葉で。
 おっし。じゃあ手ェ握ってくれ。
 ……なれないと、転移酔いするけど。
 ま、耐えてくれや」

転送呪文での空間跳躍は独特の感覚がある。
一応、それを伝えつつ。男は料理の代金をテーブルに置き。
相手に手を差し出す。

「そうか? まぁ、そんな日もあるのさ。
 それじゃあいくぞ」

そんなに気にしなくてもいいぞ、と。
男は笑みで答え、相手と手を握れば王都へと跳躍するため。
呪文を詠唱し……。

ティアフェル > 「すぐに追いついてやるからそこで待っててよ」

 なんてハッタリを口にするが――一長一短にはたどり着けそうもない。
 に、と不敵に笑みを形作るが、追いついてくるのを待つ時間は非常に長いだろう。

「えー? 白々しくなんかありませーん。
 華々しく、ね……。じゃセインさんが引退する時には華を添えられるように精進するわあ」

 確かに、活躍した冒険者が枯れるように一線引いていく様は物悲しい。
 そうはならないように手を貸そうと。

「実際いないから虚しいわ」

 ふう、思い出し溜息を吐いて。
 終わりと手を振る様子にこくり、と黙って首肯し。

「あー。その手が。そうねえ。考えてはみる」

 パーティを纏める自信はないから無謀なことだろうが。
 一応できるかどうか考えてみるくらいはいいかも知れない。ふむと顎に手を当てて思案顔。

「それが賢明だね」

 わざとらしい声に、ふっと喉で笑って肯いた。
 冗談だと分かってはいるから非常に気楽に。

「お腹いっぱーい。
 うん。よろしくね。
 ……がんばる」

 転送酔いは確かになかなか慣れるもんじゃない。
 少し覚悟したように肯いて、その手を握り。店員にもごちそうさまと告げて。

 そして気にするなと笑う声に、「ありがと」と柔らかな笑顔で応じては詠唱を耳にし、転移というと何となく目を閉じて。
 そして、呪文が発動すれば二人の姿は掻き消え王都へと戻るのだろう――。

 今日はハプニングから始まったけれど、なかなか楽しい一日になったと送ってもらってまたお礼を云って、またねーと手を振って別れたこと。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からセイン=ディバンさんが去りました。