2018/05/12 のログ
■レキ・キドー > とりあえず見に行ってみようか。
――などと考えながら暗がりを歩いていると、剣呑な気配が駆け寄って来た。
外国人のチビが一人きりで珍品を探している、そんな状況は、治安がよろしくないこの街ではこういう状況を招くのかもしれない。
『アンダテメックラナメテンヌカックラ』 『カネダセヤックラジャンプシテミロックラ』 『シニテーヌカックラヤッチマウゾックラ』
例によって何を言っているか分からない男達が前後を挟み、後の展開は以下略である。
「――誰が抜けないって!? じゃあ見せてやるッ!」
小柄な和装が掲げ持っていた刀を回転させるように背へ回す。
多少指が長めでも決して大きいとは言えない手で柄を掴み、鞘の突起を草履で踏んづけた。
鞘が蹴り出されるように、両腕では抜ききれそうにない長刀が抜き放たれ、夜に煌めく。
勢い余って後方へすっ飛んだ鞘は、その先に積まれていた木箱に突っ込み、ドガッチャァン!とイヤな音を立てた。
――悪いのはコイツらだ。
私を食い物にしようとしたって事は私に食い物にされても良いって事だ。
善人ぶりたいのは山々だけれど、空気を求めるように命を欲して、
向けられた害意に昂ったカラダは比較的容易く殺害を決意する。
しかし。
「――? …え??」
命乞いなど聞かないぞ、私の兵に加われと睨みつける先で、男達は鮮やか過ぎる逃げっぷりだった。
『ヤッベーヨマジヤッベーヨ』×3。
…あまりにもあまりな変わり身の早さに思わず呆気に取られ。
例によってそんなに悪質なやつらではなかったのかもしれないなとため息をつく。
もう見えなくなっているし見逃してやろうと肩をすくめて――
そういえば何かイヤな音がしていたなと、胸にザワりとするものを覚えた。
ガチャンって何か割れるみたいな高い音が。
「……。」
煌めく長刀引っ提げて、そそくさと鞘を拾いに行ってみれば、
出荷か入荷か、積まれた木箱のうち下段の一つが四分の一ほど鞘によって潰されており――
それでも何とか乗っかっていた上段のいくつかが、今、崩れた。
「――ちょちょちょちょちょちょまああああああッ!」
支えようとするが間に合わない。
超人的な脚力・膂力によってもセーブできるのは一箱が限界で残りは。
――ほんのしばらく現場を離れていた荷役らしい人影が路地から現れ、悲鳴が上がった。
特にこの辺りの住人を敏感にさせる音だったようで、近所の倉庫にも明かりが灯る。
「――え。えっ、これっ… 私っ!? ち、違うアイツらが…」
まだ誰にも詰め寄られていないが時間の問題で。
早めの弁解をオロオロ零し、木箱の中身はと目をやれば、崩れた木箱から溢れ出る梱包材の中に、いかにも高価そうな陶器らしき――
「ごっ―― ごめんなさい! ごめんなさああああああい!」
さっと鞘を引っ掴んで逃げ出した。
先ほどの男達が一目散に逃げ出したのも、これが原因だったのかもしれない。
逃げる姿を誰が見たかは、その者にしか分からない事。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からレキ・キドーさんが去りました。