2018/04/26 のログ
フラニエータ > なんとかして取り繕うとしている彼。その言葉に女は笑顔を絶やさす、揺らすグラスをそのままにこう告げる。

「そうね…こういうテクニック。ほんとなら…同業者に手の内は晒さないの。当たり前よね…
でもどうして貴方に…晒しているのか…」

彼の手に因って揺れるグラスが止まった。丁度女の唇が彼の目に入る位置で。
グラスを持つ女の手。それを包む彼の両手。そしてその脇から更に彼に近づく女の顔。
それはもう鼻先同士が触れ合う程の距離。
そこで女は極々小さな声で言葉を続ける。

「――…解るでしょう?」

吐息を絡めながらの囁き声。その言葉は甘く、ゆったりとしたもの。

セイン=ディバン > 今まで、どんなダンジョンでも、どんな戦場でも。
男は、命の危険から逃げてきた。逃げ延びてきた。
それは、男にとって自分の実力の証。自身の自慢でもあった。

「そ、そうだな。同業者だからこそ。手札は晒さない。
 特に盗賊は、それが不文律、だからな。
 ……っっっっ」

よかった、話を逸らせたか。そう思っていたのも束の間。
相手が意味深なことを口走るのと同時に、その手に触れてしまう。
近づく相手の顔。呼吸まで感じ取れるその距離。
耳に飛び込む、甘い声。逃げられない。この状況からは、逃げられない。

「……い、や。口に……。
 はっきり、言葉にしてもらわないと」

分からない。そう、男も小声で囁き返す。
自爆第二段。これではつまり。
そういう言葉を期待している、と。そう暗に宣言してしまっているようなものだ。
男は、ごくり、と喉を鳴らしながら相手を見る。
もう、何もかもが分からない。相手の考えも、どうしてこんなことになっているのかも。
なぜこんなにも相手に惹かれているのかも。熱にうかされた頭では、まったく理解が及ばない。

フラニエータ > 動揺の色が濃くなっていく彼。その割には己の手を包む両手を離さず、しかも視線を逃さない。
女は軽く口に弧を描かせ、妖しく笑う。

「あら…女の口から言わせるつもり?
貴方の口から聞きたかったのだけれど…フフ…」

もはや年上の彼も子供扱い。女は頬杖をしていた手を解き、己の頬から彼の頬へと手を運んだ。
そして彼の頬をゆっくりと撫で下ろし、指先で彼の顎をほんの少し持ち上げて。

「素直に言えば良いのに…私の中…見たいって…味わいたいって…」

顎を持ち上げた指を左右に揺らし、彼の顎を擽りながらのその言葉。
視線はしっかりと彼の瞳を捉えていて、耐えぬ微笑は優しさの代わりに妖艶さを纏っていた。

「もう一度言うわ…貴方の口から聞きたいの…どう?貴方から言う気になった…?」

女がほんの少し顔を押し出すと、鼻先同士がつん、とぶつかった。

セイン=ディバン > 世界が頼りなく感じ、体がふわふわふらふらするのは。酒のせいだと思いたい。
相手の笑顔はを見れば見るほど。その魅力に、心が引き寄せられてしまう。

「……な、なに、を……」

その言葉を聞けば、この呪縛から逃げられる気がしていたのに。
見事、はぐらかされてしまう。結局、からかっているのか。そうでないのか。
もう一度、強く問い詰めようと思った瞬間。
男の頬に相手の手が触れ。男は身体をびくり、と震わせる。
顎まで撫でられれば。喉どころか、舌まで渇いて、口の中に張り付いてしまったよう。

「……はっ……はぁ……」

呼吸がまったく調わず、男は相手の言葉を聞き、息を吐くだけであった。
その言葉は、つまりそういうことで。さて、ここで男は自問自答した。
自分は、どう答えるべきなのか。
時間にして、僅か二秒。だが、男の脳はこれまでの人生で最高クラスの計算を見せた。そして、男が出した答えは……。

「……それ、は。
 見たい……フラニエータのこと、もっと、知りたいし……。
 できるなら、味わいたい……」

見事陥落。遊び人の男が、逆に手玉に取られた瞬間であった。
触れる鼻先。相手の顔が、近くて。もう、緊張で逆に動けない。

フラニエータ > 彼の振り絞るような言葉を聞けば、女は優しさを全く帯びていない笑顔を向ける。
それは後悔しないのね?と問いかけているような顔。
そして女は椅子から腰を浮かせ、体を前のめりにした。
鼻先を彼の鼻先に擦り付けながら女は吐息交じりの言葉を続ける。

「もっとはっきり言えば良いのに…抱きたいって…
――シたい…って…」

一言一言、一文節をゆっくりと告げられる言葉の間には小さなリップノイズが乗っている。
彼の情欲をこれでもかと焚き付ける女…。

――女の顔が滑った。それは彼の唇を避け、その耳元へと向けられる。

「はい…おしまい…。お気に召して?」

悪戯っぽく彼の耳に伝えられる言葉。お酒のお礼よ、と付け加えられた言葉と共に、女は体を椅子へと戻した。

セイン=ディバン > 口にしてしまった。その一言を。何か、とてつもなく重大な選択をしてしまったような。
そんな不安感にも似た何かが、男の中で荒れ狂っていた。
相手が前のめりになり、鼻先の感触が、とてもくすぐったく。

「……そ、それは……。その。
 こういう、場所では……」

人目もあるし、流石に、それは憚られる、と。男は視線を右往左往させながら小声で言う。
次の瞬間。

男の耳に、その言葉が投げかけられれば。

「……~~~~っっっっ!」

ゴンッ!! と。テーブルに顔面を叩きつける男。
撃沈、であった。ここまでの会話を思い出せば、まさに死にたくなるほど恥ずかしく。
さりとて相手の手管に乗ったのは男自身なので怒りを露にすることもできず。
顔面オンザテーブルの状態のまま、ぷるぷると小刻みに震えている。

「……い、いい趣味してるよ、お前」

恨みがましい声を発しつつも、内心自分をタコ殴りにしたい、と思っている男。
どうやら、相手のほうが一枚も二枚も上手のようだ。

フラニエータ > 彼の姿にくすくすと笑う女。その姿が無様だからではなく、純粋に可愛らしいと思ったからだ。
それを証拠に、テーブルに乗っている彼の頭を数回、あやす様に優しく撫でていた。

「アハハ、勿論…乗ってくれても良かったのよ?貴方なら…ね?
色々愉しめそうだし…きちんと対価も払ってくれそうだし…」

またもや含みを帯びた言葉を発する意地悪な女。しかしこれも、彼だからこそ続けられる言葉だろう。
女はグラスに残った酒を一気に呷ると落ち込んでいる彼をそのままに席を立った。

「――可愛かったわよ…凄く…。
次に期待してるわ…。私から…抱いてってせがんじゃう位、素敵な貴方を、ね?」

続けてごちそうさま、と告げると、女はテーブルに突っ伏した彼をそのままに家路へと着くだろう。
その表情が楽しげだったのは、時間を忘れる程までの語らいが出来たから。勿論彼のお陰なのだ。

セイン=ディバン > ずど~ん、と。撃沈轟沈沈没していれば。頭を撫でられる感触。
それがまた逆に惨めで惨めで。男の震えが大きくなっていくが。

「……え~い、もう騙されるかっ!
 いたいけで純情な男心をからかいやがって!」

がばっ、と顔を起こす男。目の前で楽しそうにしていた相手が、席を立つのを見れば。あきらかな不機嫌顔だ。

「か、可愛いとか言うなっ!
 おま……本当に、覚えてやがれ!?
 次はこうはいかねぇかんなっ!!
 ……はぁぁぁ……」

どこまでも同じ調子。からかいなのかどうなのか分からない言葉。
しかして、本日痛い目を見た男としては、その言葉を額面通りには受け取れず。
再度、机にごちんっ、と顔をぶつけながら、男はぶつぶつと文句を言っていたのだが。

「……ッキショー……。
 あんな可愛い顔で笑いやがって。ずりぃじゃねぇかよ……」

男、30代にして未だ女心を分からず。まだまだ未熟だ、と自分に言い聞かせつつも……。
相手のことを意識してしまっているのだから。どうにも……。
まさに、参ったのは男の方、ということであろう……。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からフラニエータさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からセイン=ディバンさんが去りました。