2017/12/26 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にイーリスさんが現れました。
イーリス > 宵の海はひどく凪いでいた。
船着き場近く、多くの船が停泊する桟橋傍だというのに、潮騒の音も僅かなものだ。
それに、今夜はどういうわけか、海から流れてきた霧が港湾を包んでいるから、
船着き場近くの酒場や娼館の賑やかな声も、どこか霞んで聞こえている。

「…こうも凪いでると船は出せんが…とはいえ、こういう状況は、まるで陸に閉じ込められた気がするな」

細身の男と思しき人物は、軽く酒を呑んで、酒精の残る吐息をゆっくりと吐きながら、桟橋へと続く通りを歩く。
常であれば、この辺りまでくれば港の出口となる岬が見えるが、
今夜はその岬にある灯台の明かりさえ微かに判別できる程度だ。
だから、桟橋に停泊している船の数も多くは見受けられるのに、人の通りはほとんどないから、
幻想的な、と表現すれば聞こえはいいが、霧に閉ざされたゴーストタウンのような気がしないでもない。

ではあったが、豪胆なのか、それともそういう感慨もないのか、ゆっくりと霧の包む中、歩んでいけば倉庫群へと出る。
酔い冷ましの心算で酒場から出てきたから、風はないが、外気の冷たさは十分にある。
その中で、倉庫群の脇へと無造作に並べられている木箱へと腰を下ろし、一息ついて。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にエズラさんが現れました。
エズラ > 目と鼻の先――倉庫群の奥まった場所で、言い争いのような声が聞こえてくる。
正確には、複数の男達が一人の男に向かって罵声を浴びせているのである。
その中心――罵声を浴びせられている側の男が、ゆらゆらと両手を挙げて無抵抗の意志を示しつつ、面倒くさそうに告げる――

「おいおい、兄さん方――こんなゴロツキ囲んだってよう、金目のものァ持ってねぇぜ」

著しく濃い酒精の芳香――男達が皆酔っているのだと分かる。
罵声の声音はますます高まり、霧深い闇に良く響く。
やがて、リーダー格の男が、胸元から得物を取り出す――戦闘用の小型ナイフ。
その白刃が目に入った瞬間、無抵抗だった男の目が据わった。

「……ああ、おいおい、そいつぁいけねぇ――困ったな、まったく――」

酔った男達は気付かない――「狩る」側と「狩られる」側が入れ替わろうとしていることに。
このまま「止め」が入らないと、恐らく、血生臭い芳香が霧の夜を濡らすことになるか――

イーリス > 木箱に腰を下ろし、酔い醒まし、とは言えども、「嗜む程度」に飲んだくらいでは、
精神にも肉体にも影響を与えていないが、こういう夜だ、のんびりと………―――。

「………まさか、ウチの連中じゃないだろうな」

シェンヤンの追手が居るだの、なんだのとこのところピリピリしていたから、
少しは落ち着いて一人の時間を、なんて思ったところで、耳に届いた喧騒。
万が一にも、「狩る」側か、「狩られる」側か、配下の者がどちらかにならないとも限らない。
となれば、その喧噪の中へと飛び込むのが、この人物である。

木箱から腰を上げ、霧の中、歩を進めて数歩。
目を凝らしてみれば、数人の男たちが一人の男を囲んでいるのが解る。
だが、霧も手伝って夜闇を照らす街灯の明かりでは、人を判別するのは難しい。
となれば。

「ずいぶんと賑やかだな。………やぁ、兄さん、一人で困ってるっていうなら加勢をしようか?
まぁ、タダってわけにはいかんが、こいつらから身ぐるみ剥されるよりは安く済むかもしれんぞ」

助けに来たんだか、ゴロツキその2なんだか、いまいち解らない言葉を掛けて、
にこやかにその喧噪の中へと踏み出す。
なるほど、囲んでいる男たちは、幸いにして配下の者ではない。
が。

「…これは。………ははっ、助けに入らなきゃよかったかな」

囲まれている男は見知った男である。
しかも、こうして首を突っ込まなくても切り抜けられるであろう人物なのだから、
己の野次馬根性とお節介に笑ってしまいながらも、片手はダガーの柄へと伸びて。

突如現れた細身のカモに、周りの男たちは、お前も痛い目見る前に、などと古典的な台詞を吐くものだから、
ますます笑みを深めてしまう程度には、荒事に慣れてる様子。

エズラ > 「……!」

ゆっくりと身を沈め、まず武器を持った者を制圧しようとしていた矢先に聞こえてきた声。
深い霧のせいでその輪郭ばかりが目に入るが、聞き間違えることはなかった。
思わず苦笑が漏れ、おもむろに両手をぶんぶんと振って、大声で叫ぶ――

「お頭!助かりましたぜ!こいつらをふん縛って、「黒き栄光号」のマストに吊るしちまいましょう!」

それを耳にした男達がびくりと身体を震わせる。
その船名と、女と見紛うほどに見目麗しいという頭目の噂。
ダイラスの住人に、悪名高き海賊の知らぬ者はない。
急激に戦意を喪失していく男達が、一塊になって転げながら、情けない悲鳴すらあげて霧の中へと逃げ去っていく。
それをニヤニヤ笑みを浮かべて見送ってから――改めて、「お頭」の方へ歩み寄る。

「いや~……いいとこに来てくれたな、イーリス。余計な体力使わねーで済んだぜ」

「お頭」と「部下」という関係ではあり得ないフランクさで、そう告げる。

イーリス > 鮮やかなお手並み、というべきか、彼の機転に、思わず軽やかに口笛が響く。
そういうところは、さすが男の中で生活し、男として過ごしてきているだけあって、女性らしさはないのだが、
囲っていた男たちの視線が己へと一身に注がれて。

「…ちなみに、マストに吊るした後はどうなるか知ってるか?
………鱶の餌ってことだ。そうすれば、陸も海も綺麗になる」

ダガーの柄から手を離し、にこやかな表情で男たちを見る。
強ち嘘でもなく、海賊船や奴隷船には鮫が付いてくるのだから、
彼らに餌を提供するのも、船乗りの役目…かもしれなかった。
そんな追い打ちをかける台詞を半分も聞かないうちに逃げ出すから、ひょい、と首を竦めるや、

「少し声をかけるのが早かったか。…どうせなら君の腕前を拝見したかったんだがな。
…しかし、あれは失礼じゃないか?まるで私は、モンスター扱いだ」

笑いながら彼の方へと歩んでいき、不躾ながらその体躯を見遣る。
彼の身体にある傷痕を思い出せば、相応の腕前なのだと察しが付くが、折角のチャンスを潰したことは残念そうではあるが、
しかし、顔を見るなり逃げられる、というのは何とも複雑で。

エズラ > 「フカのエサたぁ、考えるだけでも背筋が震えちまうね――」

己が身を両腕で抱え、冗談めかして上半身を震わせる。
彼女と協力して男達を蹴散らすという大立ち回りを演じるのも、確かに面白そうだった。
実際、ほんの数分前まで、男は臨戦態勢を整え、その心を戦場のそれに研ぎ澄ましていたのである。
それ故に――

「……もしまだオレの腕前が見てぇんなら、じっくりお見せしますぜ、「お頭」――」

――まだ、その身の奥には熱を帯び、暴れ足りぬ、と心の奥が告げている。
しかし、その方向はといえば、「戦闘」とは別の方を向いていて。
ゆるやかに歩数を詰め、向かい合ったまま、相手の細腰へとゆっくり両手を伸ばし――
己の腰を、ぴたりと相手の下腹――女にしかない器官を内包する場所へと押し当てて。