2017/08/08 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にイーリスさんが現れました。
イーリス > ぎらぎらと照りつける太陽は夏そのものであり、海はそれに照らされ、きらりきらりと輝いている。
船着き場近くの倉庫群。
近くには酒場もあるし宿もあるから、賑やかで人通りも多かったが、
倉庫群の辺りまでくれば、人通りもすくなく、その喧噪も遠くに聞こえていた。
代わりに、海鳥たちの鳴く声や波の音、それに、どこからかおこぼれの魚を咥えてやってきた猫たちが、
倉庫の日陰で昼食の最中、と言った長閑な風景が広がっている。

「祭りが終われば、まぁ…こんなものか」

倉庫群の一角にある空の酒樽が並ぶその一つに腰を下ろし、退屈そうな声色で呟きを落とす。
祭りの間は、客船も商船もそれこそより取り見取り、海域に出ていたから、商売繁盛、大繁盛、であった。
だが、今はご覧のとおり、いつもの港の光景が広がっているから、暢気に昼食中の猫たちを眺め、
時に気まぐれな1匹が足元へとやってきて、その可愛らしい面を足首辺りに擦り付ける様に表情を綻ばせる以外になかった。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にエズラさんが現れました。
エズラ > 倉庫群の一角に集まる男達が、一列に並んで日当を受け取っている。
つい今しがたまで、貨物船からの荷下ろしが行われていたのである。
この男もまた、そうした日雇いの港湾労働者の一人であった。

「さぁ~て、どうすっか――」

今日の仕事はこれで終わり――遅めの昼食でも摂るか、いきなり酒場に向かうか――
そんなことを考えながら歩いていたのである。

「……お!?」

そんな矢先、視界に入ったのは――完璧に男装した麗人の姿である。
軽く手を振りながら、猫と戯れる相手の元へ歩み寄り、名を呼ぶ――

「イーリス、じゃねぇか。久しぶりだな――」

イーリス > 昼食の魚にありついた猫たちは、腹を満たせば、その日陰でごろん。
暢気に腹を見せたり、近くの猫とじゃれたりと微笑ましい光景を眺めては、己の足元に擦り寄る猫へと手を伸ばす。
だが、指先が触れるより早く、猫は顔を上げ、あさっての方向へと視線を向けて、ぴんと尻尾をたてたかと思うと、
たたっ、と身を翻すようにして倉庫の影へと走り去ってしまった。

触られるのを好まないのか、と残念そうに首を竦めたものの、そうではないと知れたのは、
ちょうどこちらへと歩んでくる人影が見えたから。
そして、それが見知った人物であると解ると、ふっと穏やかな笑みを浮かべて、ひらり、と手を上げ、

「やぁ。久しぶりだな、エズラ。元気そうで何よりだ」

物静かに海を眺めていれば、怜悧さが際立つ面立ちだが、猫に触れたり、見知った人物を見れば、
柔らかな表情を浮かべる姿は、年相応のものであった。

エズラ > 「ちょうど仕事が終わったとこだ――っと」

逃げ去る猫が足もとをすり抜ける――どうやら自分の登場に驚いたらしい。
一度振り返って猫が戻る気配を見せないことを確認する。

「っ……邪魔しちまったか?」

こちらに向けるその柔らかな表情に、思わず息を呑む。
初めてであった時は――恐らく多くの者達がどうであるように――相手の性別を勘違いしていたのである。
しかし、そうでないと分かっている今――その身を包むエッジの効いた男装と、それに反した朗らかな顔に、何とも言えぬギャップを感じて。

「そっちは相変わらず堅苦しい格好してるな――暑くねぇのか」

その心持ちをさとられまいと、何でもないことを口にする。

イーリス > 港の魚を目的に集まっている野良猫たちにとっては、人に迎合する気などさらさらないのだろう。
先ほどまで日陰でじゃれついていた猫たちも、人の声に反応したみたいに、今は姿を消してしまっている。
だが、それを見ても、ましてや相手がかけてきた言葉にも、いや、と短く返事をして首を振ると、

「邪魔というわけじゃないさ。彼らは気まぐれ、そういうものだろ」

気にする様子もなく、首を振って。
でも、触りたかった、とぼそりと小さく呟くのは、すでに己の正体…というと大げさだが、素性を知る相手だからこそ、
そんな子供じみた…海域を荒らす海賊の頭目の言葉とは思えぬ呟きも零れてしまう。

「ん?…あぁ、これか?…海が近いだろ、風が心地いいし、じーっとしてればさほど暑くはない。
それに、まぁ…あまり薄着をするわけにもいかないからな」

彼のようなラフな格好をしたいところだが、事情が事情である。
さすがに船上でも、陸上でも、女の身体、と解るような恰好はできないから、苦笑いを浮かべて、やや大げさに首を竦める姿をする。

エズラ > 「まぁ……確かにそうか……――」

あまり薄着をするわけにはいかない、という点については深く頷かざるを得ない。
窮屈なジャケットの向こう側を知る男は、ふと脳裏にそのことを思い浮かべてわざとらしく咳払いして誤魔化す。
そして、何やら思いついたらしく、相手の隣の樽の上に腰かける。

「なぁどうだ――これから時間あるならよ、ちょっと付き合わねぇか」

いくら涼しい潮風が吹いていようと、やはりその姿は暑そうだぜ、と付け加える。
どこか涼めるところに行かないか――という誘い。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からエズラさんが去りました。
イーリス > 理解を示してくれたのは、己の状況を理解してくれているが故のもの。
そういうことだ、と相槌に合わせて言葉を返すも、咳払いをした相手を見上げて、ん?と不思議そうに首を傾げる。

「今のところ、船を出しても無駄足な毎日だ。時間はあるが…はは、この前の、何だったかな、あの酒。
あの酒はカンベンだぞ、海の匂いのする……う、思い出しただけで悪酔いしそうだ」

言葉を交わしながら、思い出したあの悪酒。慣れるどころか、思い出しただけでも眉を顰めてしまうほど。
そんな冗談とも本気ともつかぬ台詞を言いながら、一足先に樽から腰を上げる。

「慣れだな、これも。どうだ、エズラもたまにはこういう恰好をしてみれば?」

なるべく素肌を見せない姿を示しつつも、やはり午後の夏の日差しは強すぎる。
彼の提案に乗って、涼しめる場所へと共に向かっていく………。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からイーリスさんが去りました。