2016/02/06 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にリィンさんが現れました。
リィン > 午後を過ぎたころ。
ダイラスの港に入港する多くの船舶の一つから、一人の少女が降りて行く。
銀の髪を持った小柄で幼い少女だ。
名はリィン。偽名であり、実際は王家の一員だったものの、陰謀によりリィンの王家は滅亡し、リィンは逮捕を逃れて身分や名を隠して生活していた。

「……やっと帰ってきた」

船から降りてあたりを見渡す。
海沿いの街ということであまり柄は良くない。
あらくれ者や娼館に賭場、闘技場など、少女には似合わぬ場所が多い。
少々不安そうにしながらリィンは船を降りて、宿を探すこととした。
リィンは、ティルヒア動乱の後の復興支援に当っていた。
聖職者のひとりとして戦後の千年の女王の都に赴いて慰霊などを行っていた。

それが今日、舟で王都近くまで帰ってきたのである。

リィン > この港湾都市にリィンはあまりいい思い出はない。
とある王子に捕らえられて、ここで辱めを受けたことがあった。
それからしばらくの時が流れている。
ティルヒアの動乱での混乱もあったために、一々そんな事を覚えている住民がいるとも思えなかったが、
それでも恐怖故にリィンは顔を隠していた。ローブのフードを深めに被って足早に歩く。
即座に王都に戻らなかったのは、王都から離れていたためにその状況がわからなかったためだった。
ある程度周辺の街で情報を得てから戻りたい、そういう考えだった。

「宿は……」

歓楽街めいた路地を歩きながら、やや顔を上げて看板などを眺めていく。
所持金が多いわけでもなく、自身に強力な力があるわけでもない。
泊まる場所は慎重にならざるを得なかった。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にイニフィさんが現れました。
イニフィ > 潮風が気持ちいい。港は活気があって好きだ。
一部異様な光景は確かにあるものの、それを含めても活気がいい。
潮風に髪を靡かせながら、鼻歌なんかも歌いつつ旅行カバンを手に、散歩がてら今日の宿を探していた。

「さーってと、どこにしようかしら……」

出来れば料理の美味しいところがいい。
朝には潮風を浴びながら、海鳥の鳴き声に目を覚まし。
少し苦めのコーヒーをいただきながら、薫り高い焼きたてのパンに舌鼓。
うん、最高とばかりに右手を口に当ててくすくすと一人笑い。
そんな、少しだけ妖しさを滲み出しながらも歓楽街を横切り、宿を探していた、まではよかったが。

「…………あら?」

その前方に、フード姿のそれを見つけた。
明るい雰囲気の町並みに似つかわしくないその姿は、どこか余計に浮いて見えてしまう。
小柄なその姿をどこか気にして、後ろをついていくことにした。

リィン > 「……」

歓楽街の一角で立ち止まり思案する。
柄の悪い男たちなどが行き交い、時折、フードの奥に潜むリィンの顔を見て、下卑た笑いを浮かべていく。
そんな中、宿を物色していくものの、良さそうな場所はない。
港湾都市には何度か足を運んだことはあるが、当然カジノや闘技場を利用したことがあるわけでもなかった。
土地勘はなく、どの宿がいいなど判断する材料に欠けていた。
安そうな宿は怪しげな気配に満ち、安全だと思われる宿は宿泊料が高い。
リィンは王族とはいえ、その頭に元がつく。
冒険者として依頼をこなすが、幼い少女が稼げる金銭などたかが知れていた。

「どうしよう……」

このまま別の街に行ってもよかったが、時間が掛かり過ぎる。
既に正午を周り、夕刻に差し掛かりつつあった。
今から王都に行くのは現実的ではなかったし、別の町に行くにも夜になってしまう。
夜の街道は危険が多い。一人の今は歩きたくはなかった。
肩を揺らしながらリィンは宿街をとぼとぼとまた歩く。

後ろに付いてくる者に気づく様子はない。
リィンは特殊な力はあるとはいえ、気配を察知するような訓練はしていない。

イニフィ > どう見ても妖しい。いや、自分も多分ニヤニヤしていた先ほどまで妖しかったかもしれないが。
時折街角で立ち止まったと思ったら頭を垂れてため息らしいものが聞こえてくる。
すぐ後ろ、というわけではないのだが、それでも割りと近い位置に
いる自分にも気づいてそうにない。
何か捜しているようにも見えるのだが、周りの男の笑みを浮かべている当たり娼婦なのだろうか。
―――いや、とてもそうは思えない。どことなしか―――香りが違う気がする。

「……ねえ、ちょっと?
 どうかしたのかしら、なんだか困っているようにも見えるんだけど?」

たまらず声をかけてしまった。
妖しさからというよりも、どこか困っている雰囲気がしてしまったから。
もし、その声に振り返れば町娘が旅行カバンを持って笑みを浮かべているのが解る。
金髪はポニーテールでまとめて、割りと庶民的な格好。
人のよさそうな笑みを浮かべて、軽く首をかしげて。

顔を見せてもらえば解るけど、この子女の子だったのかと驚くのはきっちり10秒後。

リィン > 「……ッ」

不意に後ろから声を掛けられ、びくっと見を震わせる。
相手と距離を取るように数歩踏んだ後に振り返る。
後ろにいたのは一人の女だった。格好からすれば町娘。平民に思われた。

「……いえ、その。宿を探していましたから」

リィンは俯き加減になりながらそう答えた。
フードをかぶっているとは言え、顔が完全に隠れているわけではない。
幼気な顔立ちと、銀色の髪が、金髪の女を見る。
リィンは明らかに見知らぬ人間を警戒していた。
何せ追われる身である。今更リィンを捕らえたところで何かがあるわけではないのは自身でもわかってはいた。
しかし、見知らぬ人間にすぐに心を許せるような生活をしてきたわけでもなかった。

「どこか、ご存知ですか」

小さくそう尋ねた。相手の様子をみるように。
とはいえ相手は見ればただの町娘だ。それを確認できたために、こわばった表情は少し緩む。
リィンは救世姫として、国中の様々な穢れをその身に受けて、浄化するという使命を担っている。
そのために、様々な陵辱に晒されることが運命付けられている。
そのことにまだリィンは気づいてはいないが、これまでいろいろあったのは事実だ。
相手が、深層の魔力を感じ取れるものであれば、リィンの奥底の、奇妙な魔力を感じることができるだろう。
あるいは、その身の秘密にさえも。

イニフィ > ずいぶんとした怯えようだ。
無理もない、いきなり見知らぬものに声をかけられたのだから警戒だってする。
少し後ずさった様子に、かがめていた身体を起こしながら笑みを崩さない。
―――平民である自分には、彼女の隠している顔などさして興味もないのだ。

「宿?あら、貴女も旅人か何かなのかしら?
奇遇ね、私も――――え?」

幼げな顔立ちに自分とは対照的なシルバーの髪色。
まだまだ年端も行かない女の子なのだというのはあっさりとわかったのだが、問題はその後だった。

正体を隠しているものの、イニフィの正体は淫魔。
それもかなり位の高い名家の名前を持つがゆえに―――気づいてしまった。
彼女のそのうちに眠っている力、魔力ともなにともつかない。
いうなれば、そう。聖女のような力なのだろ
うけども、自分の力――欲望の力にも似ている。
こんな力を持っているその存在を、一つだけ知っていた。

「……………。奇遇ね、私も宿を探していたところなのよ。
どうかしら、見ず知らずのお姉さんと一緒でよければ同じ部屋に泊まらないかしら?
勿論、お金は私が出しけ上げる。」

どうだろうか、との提案である。
試して見たいこともある、もし本当に彼女が「それ」であるならば。
ほのかに、甘い香りを漂わせながら笑みを深める。

リィン > 「はい、冒険者をしていて……。
 ……どうかしましたか?」

何やら驚いたように声を漏らす女に首を傾げる。
リィンは救世姫としての力が完全に覚醒しているわけではない。
リィン本人はもちろんのこと、その中に眠る力もまた、魔族や魔力を感知することはまだできなかった。
だから、目の前の女は本当にただの町娘にしか見えていなかった。
元々人のよい少女である。王家が謀反の疑いを立てられるまではまさに籠の中の鳥であった。
故に世間知らずだ。様々な陵辱などにであっても、相手が女とあらば少し安心してしまっていた。

相手が、自分の正体や、その力に気づいたという様子も、気づけるはずもなかった。
救世姫としての力、ある種の魅了の力だ。
それは男女や人間、魔族を問わずに、こちらを襲われ安くする力だ。
穢れを受ければ受けるほど救世の姫としての使命が果たされていく。
そういう過酷な運命なのであった。そして、リィン自身もそれに気づいていない。
ただ、悪しき神を打ち倒せる力があると、そう教えられただけなのだ。

「……わかりました。お金まで出していただけるなんて、何といっていいか。
 私はリィンといいます。今晩はお世話になります」

そう言って小さく礼をした。礼儀作法が自然に出てくるというのは、元は位の高い身分にあったことを示すものであった。
見ず知らずの女と泊まるということに不安がないでもなかったが、相手は町娘だ。宿泊代も出してくれるという。
リィンが断る理由はもうなかった。
何せ、行く末に怪しげな目でこちらを見る男たちがいたためだ。
彼らに無理やり宿に連れ込まれる運命はこれで避けられそうであった。

(甘い香り……?)

どこか甘い香りを彼女から感じ取った。
少し身が震えたものの、それだけであった。
救世姫の力は、リィンが誰かのものになるということを拒む。
それが今、リィンを守ったのであった。
多少身体は敏感になったものの、リィンとしては香水の匂いかと思った程度であった。

イニフィ > 「気にしないで。旅は道連れってよく言うでしょ?
私はイニフィ。フルネームは長いから、いつもこれで通してるわ。」

もっとも、フルネームを名乗ったところで彼女が自分の家のことを知っているはずもなかったが。
ずいぶんと品のいい礼はリィンが高貴の出だという事をうかがわせる。
高貴の出身でありながら「それ」であるとしたら、これはなんと残酷なのであろうか。
しかし―――自分にとってはこれ以上の逸材はいない。
彼女に見えないところで、その笑みは妖艶なそれを移していた。

「んふふ……。いいのよ。にしても大変ね?
ずいぶんと小さく見えるのに、冒険者っていろいろと大変なんでしょ?」

見たところ、武器のようなものは持ち合わせていなさそうだ。
冒険者といえば無骨な男で、剣を下げて下品に笑い、そして大暴れする。
そんなイメージしかないがゆえに、冒険者を名乗ったリィンがどこかものめずらしかった。
警戒心が幾分和らいだところで、そっと右手を差し出す。
彼女が手をとってくれたら、それを優しく包み込むように握って先導していこう。
周囲にいる猟師だろうか、その視線を気にも留めず、さっさと大通りへと足を進めた。

(ふぅん……、この程度じゃやっぱり…か)

元々、甘い香り―――フェロモンは誰かを自分のものにするためではない。
頭をぼやけさせ、自分の正体を知っても違和感がないようにするための手段なのだが、やはり弱いそれでは効果をなさない。
とはいえ―――ここで完全に開放してしまえばあたり一面が群がってくる。
香水程度のそれを漂わせながら、大通りに面した場所の、比較的しゃれた宿へと向かった。

リィン > 「そうですね、旅は道連れ……。
 じゃあ、イニフィさん。少しの間と思いますけど、よろしくお願いします」

彼女を見上げてそういった。
相手の正体に気づくはずもなく、どこか安堵した表情を見せる。

「いえ……家族ももう死んでしまいましたから。生活していくためです。
 大変ですけど、これしかないんです。いつも、そんな大変な仕事なんて回してもらえませんし」

差し出された右手を取って、相手に連れられて歩き出す。
リィンが持っているのは短剣や杖のみだ。ローブのなかに仕舞いこんではいるが、特別なものではない。
今のリィンは多少魔術が使える少女に過ぎないのだ。
冒険者としての自分を話す。これは嘘偽りないことだ。
リィンは幼い。そんな幼い少女に、巨大な怪物討伐の依頼も来るはずはなく、受ける依頼はごくごく簡単な物が多い。
だからこそ、常に金に困っているのだった。

「……」

周りの男たちも、リィンがイニフィに連れられるのを見ると、諦めて去っていった。
流石に二人相手だと面倒だと判断したのだろう。

「……ここ、ですか。こんなところに泊まるのは久しぶりです」

大通りまでくれば治安は安定し始める。
ここの宿も、船乗りが泊まるような木賃宿ではなかった。
比較的洒落た宿。今のリィンでは泊まれそうにないところだ。

イニフィ > 気づかれていない、らしい。
どうやら彼女の魔力程度では自分の正体を見破ることは出来ないようだ。
まあ、それもまた好都合なのだが。

「あ、それは悪いこと聴いちゃったかしらね…。
まあ、でもそれなら其れでいいんじゃない?命がないと何も出来ないわけだしね?」

血みどろな世界なんてごめんでしょ、とばかりにウィンクしてみせる。
故郷が故郷なだけに、少しだけリアリティがありそうな言葉を選んだつもりだが、イニフィの雰囲気からどこか軽くも思えてしまうかもしれない。
大通りに面した、少しだけ洒落た宿のロビーでリィンとの二人分の料金を支払い、部屋の鍵を受け取ると足早に部屋へと向かった。

「んー、まあ受ける依頼…っていうのかしら?
それの難易度で報酬って決まってくるんでしょ?」

そんなにたいした依頼をまわしてもらえないならば致し方ないだろう。
先に自分が部屋の中へと入り、リィンを誘う形で中へと引き込む。
少しだけ眼を細めて、彼女が入ったのを確認してからゆっくりと扉を閉じ、カギを閉めた。

「…………。其れで…旅の目的を聞かせてくれないかしら?」

ただのお仕事?それとも何か別の目的?
そんなことを、笑みを深めながら尋ねる。
その、赤い瞳を光らせながら。

リィン > 「……ええ、命を奪うことはしたくありません」

血みどろな世界はごめんだということばに頷く。
この乱世、血みどろででないほうが珍しいのだが、リィンは心優しい少女だ。
命を奪うことに積極的になどなれない。
相手が魔物ならば致し方ないとも思うが、リィンが勝てる魔物など今のところほとんどいない。
そして、その身の弱さは、救世姫として穢れを集めるのに好都合であった。

宿の受付など済ませた後、先にと言われたために小さく礼をして部屋へと足を踏み入れた。
これからの自分の運命をまだ知らぬ様子で、フードを外す。顔立ちの整った、幼い少女の顔が露わになった。

「……旅の目的、ですか。それは……」

部屋の様子を眺めていたところ、不意に問われる。
彼女の方を向きながら、やや口ごもる。
救世姫として偽神ヤルダバオートを倒す、などと正直に話すわけもない。正気を疑われかねないだろう。
元王族で逃げている、などというのも明かすわけにはいかない。
故に、少しうつむいて。

「……実は、聖職者としても働いてるんです。その、ノーシス主教では、ないんですけど。
 冒険者として旅の目的というほどのものはないです。ただ、そうやってお金を稼ぎながら、
 戦いで傷ついた人たちを助けたり、祈ったり……それが目的です」

あくまで真の目的はぼかす。言っていることが嘘というわけでもない。
自身がミレー族との混血で、アイオーンを信奉するということは禁忌の言葉だ。
憲兵にでも聞かれれば奴隷にされてしまうこともあるだろう。だからこそ隠している。
そう言って彼女を見ると、目が赤く輝いていた。

「なっ……」

妖しく輝くそれを見て、思わず後ずさる。

イニフィ > その少女の姿は正しく高貴であった。
銀色の髪は夕暮れに輝き、端整である顔立ちはまだまだ幼さを残しつつも、将来有望株なのは間違いない。
蚊だ、成長しきっていないその体を見下ろしながら、そっとイニフィも頭に巻いているナプキンを外し、髪を下ろした。
腰まで伸びる、その金髪をかき上げ、妖艶な笑みを浮かべながら。

「ふぅん、聖職者ね。まあ、あながち間違いではないわね?
冒険者としてとか、そういう道だとかを問うつもりは無いわ。
私が知りたいのはもっと奥底。…ねえ?」

初めて顔を合わせたときに感じたあの違和感の正体。
それを知るための手がかりは自分の家の古い書物にあった。
何かを信仰しているわけではないし、ヤルダバオートがどうとかそういう話も興味はない。
自分はただ、自分がしたいように愉しく過ごしたいだけなのだ。
だから―――彼女のその「力」には大いに魅かれていた。
この子の運命を伝承だけでとはいえ、知っているからこそ。

「……救世姫さま?んふふ、まさか本当にいるとは思わなかったし、まだ半信半疑なんだけど…。
リィンの、その奥底にある力、ものすごく魅かれちゃうわ?」

だから、苛めてあげる。
ぺろり、と自分の中指を舐めるそのしぐさは町娘のそれではない。
正しくそれは魔族の瞳―――。ゆらり、ゆれながら甘い香りを放ち、リィンへと近寄る。

リィン > 「な、何を言って……今、今言ったとおりで、他には何も……!!」

赤い瞳を輝かせる姿に不穏さを感じる。
その気配は凡そ人のものではないように思われた。
質問の内容にも警戒を抱く。
「もっと奥底」とはどういうことであろうか、と。

「……なっ!? どうして……!?」

そして、次の言葉に大きく目を見開く。
「どうして救世姫のことを」と口走りかけて、止める。
だがその反応は既に肯定を示したも同義であった。

「わ、私は、そんな、救世姫、なんかじゃ……!」

自分自身も、救世姫のことについてはよく知らない。
事によれば、相手のほうが知っている可能性もあるだろう。
リィンに望みを託した者たちは、その運命の苛酷さ故に、リィンに全てを話してはいない。
狙われ、怪我されることによって力を増す救世の姫のことなど、少女に話せるわけもないのだ。
しかしそれは、とても残酷なことでもあった。

リィンはローブを外し、動きやすい装備へと変わる。
ローブの中に持っていた杖を構えるが、おそらく彼女に敵うことはないだろう。
リィンの意志はどうであれ、救世姫としての身体は、そうされることこそを目的としている。
白を貴重とした軽装とスカート。その丈は短く、白い太ももも露出している。
それからあふれるのは魅了の力だった。自分を、襲わせるための。

「貴女、まさかッ……!」

赤く輝く瞳、町娘のそれとは思えない妖艶なしぐさ。そしてその雰囲気。甘い香り。
魔術師か、それとも魔族か。リィンの力はそう告げていた。
甘い香りがリィンの身体の力を徐々に奪っていく。

イニフィ > 「いいえ、違うわ。…んふふ、どうやら何も知らされていない見たいね?」

その様子からして、どうやら救世姫という事がどういう事なのかを知らされている様子はない。
そんな眉唾物の伝承など、イニフィ自身も今の今まで信じることはなかった。
自分とも、聖職者とも違う「不可思議な」力を感じ取ってしまうまでは。
違うといっても、その奥底にある力を感じ取ってしまった以上、リィンがそれではないというのは証明が付かなかった。

「いいわ、教えてあげる。…って言っても、私も伝承程度にしか知らないんだけどね?」

甘い香りは、徐々にこの部屋へと充満していく。
あたりを紫色に染め上げ、異次元へと移り変えていく。
その場所は既に現実の場所ではない、ここで暴れたとしても、宿のものは誰も気づかないだろう。

ローブ姿を外したリィンは、年端もいかぬそれ特有の魅力があった。
人間ならば、その艶やかしい太股と軽装から見える肌。
そして、その力によってあっという今に魅了されてしまい、そして彼女を貪るのだろう。
笑みを深め、その姿を徐々に町娘ではないそれへと変化させていきながら、なおもリィンへと近寄る。

「貴女は救世姫。…その身体は貴女のものであって貴女のものじゃない。
リィンは、生まれつき『犯される』ことを義務付けられているのよ。そう、貴女は世界の家畜なのよ。」

力がどうとかの当たりは伏せておいた。
背中には蝙蝠のような翼、そして露出度の高いレオタード。
臀部の付け根辺りに尻尾を生やしたそのイニフィの姿を見れば、もうその正体は知れるだろう。
さらにいっぽ、リィンへと近づけばそっと指先を差し出し。

「んふふ、救世姫さまはどんな味がするのかしら。
ちょっとつまみ食いしちゃおうかしら?」