2023/06/17 のログ
ご案内:「セレネルの海」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > ――その船は、沈没した。
少数の客も乗せた貨物船は、黒い塗料を流したような夜の海を順調に進んでいたかに見えたが――、暗礁に乗り上げて座礁し大きく揺れ。甲板にいた人々を海上に跳ね飛ばし、船底に空いた穴からみるみる内に浸水し――あっさりと沈んだ。
「っふ、っふ、ぅ、んんっ……けふっ…!こふっ…! ――っっうーそーでーしょー!!?」
そして、そんな沈没船に乗っていた女がひとり、夜の海に投げ出されて手近に浮かんでいた木箱に必死で捕まりながら叫んだ。
漂流物と化したそのエプロンのような白衣を纏ったヒーラーは、凍える程ではないが遊泳するには低い水温の海面で時折海水が口に入って噎せながら、
「ちょ……助けて…!! たーすーけーてー!!」
星月の瞬く灯りだけが頼りの真っ暗な海上では、同じ船舶に乗っていた人々がどこにいるのか、どの程度無事なのかも分からない。
船員たちは乗客を全員思い切りよく見捨て、僅かばかりの貴重品を積み込んだ非常艇にいち早く乗り込んで――ズラかったらしく、散り散りに海へ投げ出された乗客たちを救助する、などという倫理観とは縁を切っていた。
赤の他人と貨物を天秤にかければ貨物に軍配が上がったようで。
そんな見捨てられた哀れな乗客の一人は、多少は泳術の心得があり、一緒に投げ出された浮力のある木箱のお陰もあって溺れずには済んでいたが。
「だ、誰も…助け……来ない、感じ……?
うそ、でしょ……? こ、これで助かる例とか、初心な人魚を出来のいい顔でイチコロにするよーなどこぞの王子くらいじゃないの……?
一般人の上、イケメンでもなければ、むしろ海の女神には嫌われてる説のある女子のわたし、生存確率絶望的過ぎじゃない……?」
木箱に掴まってぷかぷか浮きながら、いくらか錯乱気味な絶望のシナリオを口走っていた。
■ティアフェル > ぷかぷか ぷか ぷ か……
浮かんだ木箱に前かがみになる様に両腕で掴まり、夜のまだ冷たい海上に漂い、虚ろな目で暗海を見つめながら。
「うぅ……百合の人魚ちゃんとかいたりしないかしら……? いたところでわたしにイチコロに落とす力はあるまいが……心優しき人魚ちゃんならばきっと泣き落としに屈してくれる……と信じたい……。
マーメイドじゃなくていい……マーマンとか、お人よしのマーマンとか……「アッ、人間の女が漂流してる、助けなきゃかな~」とかそんなノリでいい、充分。……この際半魚人とかそういうのでもいい……なんでもいい、夜の海から救い出してくれるのなら!」
溺死という命の危機に直面して唇から滔々と迸る現実逃避。
それにしても、たまたま通りかかった漁船などの船舶が一番可能性がありそうなのにそこら辺を完無視して人魚だの半魚人だの、海の妖怪(妖精?)に救助の望みを夢想するのは……精神的均衡の大きな傾きが見受けられる。
「とにかくダイレクトに! 助けてー!」
最終それ。
要は生き残れれば、この暗闇に満ちた夜の海から救い出してくれるのならば相手など問わない。問う訳がない。
■ティアフェル > けれど、やっぱり王子でもイケメンでもない一般女子は、ファンタスティックな救助など期待できるはずもなく。敢え無く暗海に沈むのか、はたまた明るくなれば思ったより近いことが分かった岸部まで馬力を総動員して泳ぎ着くのか、どうなることやら。その始末はまだ、分からない。
ご案内:「セレネルの海」からティアフェルさんが去りました。