2023/05/03 のログ
ご案内:「セレネルの海」にホアジャオさんが現れました。
ホアジャオ > 黒い夜空へぽっかりと穴が開いたような月が光る夜

春を迎えて久しく、昼間は初夏とも言えそうな気候でも、夜の帳が下りれば空気はつめたい。
海を渡る風もそれは同じようで、さざ波の音とともに浜辺へ吹き付けるのは、行く人影の背筋を震わせるには十分だった。

「哎呀(あちゃー)… もうちょっと風弱いと思ってたのになァ…」

ざくざくと砂を踏みしめ点々と浜辺に足跡を残しつつ、抱えた紙袋を抱きしめなおす。
中身は店じまいしかけの屋台で買い占めた中華まんじゅう。ふれればまだ温かいそれは、しかしこうしてうろうろしている間に体温よりも冷たくなっていきそうだ。

「…どうしよ」

足を止めないまま月光に落ちる自分の影を見て、降り注ぐ月光を見上げて。

「……走ろかな」

背筋を震わせながら食べるのは性に合わない。
砂の上は走りづらくてあまり好きじゃないが、女にとってそれは暖をとるには最上の方法だ。

ホアジャオ > そうと決まれば早い。
とん、と弾みをつけるように跳ねると紙包みを抱えたまま波うち際を駆けていく。なぜ波うち際かというと、乾いたところよりは足場がしっかりしているように思えるからだが

「哎!(おっと)」

当然足元が濡れそうにもなる。
まあそれはそれで、この女にとっては面白い遊びだったようで続けて聞こえてくるのは笑い声だ。

そんなこんなで気のすむまで浜辺を端まで駆けるころには当の中華まんじゅうはすっかり人肌。
本人は真っ赤な顔で、温かいものを改めてほおばるには少し具合が悪かったが
見渡す限り誰もいない、独り占めの風景の中での食事は
それはそれで満足した様子で去っていったとか……

ご案内:「セレネルの海」からホアジャオさんが去りました。