2022/01/01 のログ
ご案内:「セレネルの海 崖」にイファさんが現れました。
イファ > 足元で波が散る音がする。
海上直ぐ上は風が少し強いのだろう、波音は不規則で砕けた波が白く渦巻くのがうっすらと見える。
視線を少し上げれば満月の夜、水平線に触れた月光は真っ直ぐに月光の路を波間に散らしている。

(―――良い夜)

崖上に人影ひとつ。ゆるく吹く潮風に長い黒髪を嬲らせる女がひとり。
夜に溶けるような赤褐色の肌にぴったりした黒いスーツ姿は、月夜である今は月光にくっきりと浮かび上がる。
女は水平線から視線を動かし、月光で落ちた自分の影を足元に見てから、胸元へと手をやる。
しゃら、と取り出したのは銀のプレートが付いたネックレス。
…先日、戦場で隣り合わせた男のものだ。

女は紫陽花色の瞳で一瞥すると振りかぶり、一歩崖際へ踏み込んで波間へとネックレスを投げる。月光に一瞬だけ光を返してそれが白く砕ける波間に消えていくのを女は見送って、軽く吐息をひとつ。
表情は切ないとも悲しいともいえない。

「……酒のひとつでも、持ってくればよかった」

暫くしてからこぼれたつぶやきは、波音と風に紛れていくだろう。

イファ > 何度か頼まれたことはあったが、果たすことになったのは初めてだ。
感傷がないではない。

「最後まで、残念がらせたかもしれないな」

酒の一つも持って来ない
献杯をしあう仲間を連れて来るでもない
逆巻く波はその抗議のように見えないでもない。

「…今度は、もう少し賑やかにしよう」

苦笑を唇の端に浮かべてから拳を胸に当てて、女は長い黒髪を翻して踵を返す。
月夜に浮かぶ崖の影の上には、揺らぐ繁みだけが残る――――

ご案内:「セレネルの海 崖」からイファさんが去りました。