2021/09/25 のログ
ご案内:「セレネルの海」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル > ――夕間暮れの穏やかな海に向かって、

「せいっ…!」

 堤防から大きく竿を振って垂れる釣り糸。魚はこの時間が比較的活発だと聞き、ついでにこの辺で大物が釣れると聞いて竿と餌とバケツを用意してやってきてみた。
 
「んー……、この、堤防際の海藻や貝を食べに寄って来る……のよね? 釣ーれるかなー」

 刻々と傾くにつれて濃さを増してゆく茜色の夕焼け。西から東へ赤から紫に変じてゆく鮮やかなグラデーション。中秋の夕空が反射して白衣はほんのりと朱に染まり、景色を金細工に仕立てている。
 きらきらと黄金に照り返す和いだ海を眺めながら堤防に足を投げ出して座り込み、のんびりと引きを待つ。

「――ぅ……ゎわ……!」

 やがて、ポイントが良かったのか程なくして釣り糸を、つい、つい、と引っ張る感触が竿を握る手に伝わってきて。

「キタキタキタァー!」

 よっしゃあ、と俄然気合が入り急いで立ち上がって竿を握り直し、ぐぐん、と引いていく。

「っわ、とぉ、んく…! ど、どーすりゃ、いーのぉー!?」

 思えば釣りとかあんまりしたことない。行けるような気がしてなんとなぁーくで来てみたが、まさかの引き揚げ方が分かんない。

 汗を飛ばしながら堤防の縁で踏ん張って、あわわと焦る。

ティアフェル >  「あ、あっ……きゃ……」

 不意に、ぐん!と強く竿を引っ張られる。垣間見える魚影は思ったよりも大きく力も強かった。
 釣り初心者が下手に踏ん張るよりも諦めて竿を手放してしまうのが得策であったものの――竿は借り物で紛失するわけには、という焦燥がそれを許さず。

 そのまま、命懸けの獲物も波間で激しく暴れ海面で水しぶきが弾け。

「~~~っ、く……ぁ――きゃああぁぁぁぁー!!」

 どぽーん!

 悲鳴とひと際大きな水柱が夕日に輝く波間に上がった。
 引っ張り込まれる力に負けて堤防から身体が投げ出されたと思った瞬間、水面に向かって叩きつけられ、一瞬息が詰まる。

「ふぐっ……あ゛ぅ゛……」
 
 波を掻き、泳ごうと藻掻いたが一緒に落ちた竿に繋がる釣り糸が足に絡んで海底から引っ張られる。
 あっぷあっぷと海中と海上の景色が浮き沈みに合わせて交互に切り替わる。足がつくような深さではない。

 ばしゃばしゃと激しく波を蹴立てて溺れる手が何かをつかむように、救いを求めるように海面に伸ばされた。
 ごぽ、と波に沈んだ口から吐かれた息が泡となって浮かんで散る。
 苦しさと海底に引きずり込まれていく恐怖に気が遠く――

ご案内:「セレネルの海」からティアフェルさんが去りました。