2021/09/20 のログ
ご案内:「セレネルの海 海岸」にジギィさんが現れました。
■ジギィ > 海上に丸い月が昇った夜。
月影は白く路を海上に延ばして、波はそれを複雑な絹の絨毯の様に揺らがせる。岩場に打ち寄せる波も穏やかで、寄せては引いていくそれは飛沫が見えぬほど。
王都からほど近いその海岸は、砂浜が近いこともあって昼間はよく賑わうが、夜ともなればその名残もない。動くものといえば海辺の生き物が波音に潜む様に密やかに駆けて、岩陰から岩陰へ、砂浜から海岸へと影を奔らせている。
そんな人気のない海岸に、今宵は人影ひとつ。
海辺へと突き出た岩礁の一つの上に腰掛け緩い海風に髪を嬲らせながら、竪琴の密かな調べを奏でている。
「―――♪……」
よくよく耳を澄ませれば、歌声も聞こえたろう。
それは最早この地上で僅かの者しか知らない言葉で、音だけ捉えるならばひどく寂しい響きを孕んで、尚且つ眠りを誘うかのように穏やかだった。
竪琴をつま弾く人物、銅色の肌のエルフは瞳を閉じて旋律と歌とに集中している。時折薄眼を空けるのは、手元の弦の存在を確かめる程度。
セイレーンか何かと間違えた誰かが忍び寄っていれば、気付かないかも知れなかった。
■ジギィ > 白い月は中天まで昇って、その白を影となって鳥が過ぎって行く。
風も波も穏やかな時が過ぎて、潮が段々と満ちてきて、エルフの歌声はようやく止んで、やがて竪琴の旋律も風に紛れて途絶える。
「……わー、結構時間経っちゃったかな」
岩礁から降ろした爪先を洗わんばかりに迫った海面を覗き込んで、エルフは先ほどの歌声の響きとそぐわない呑気な声を零す。
しばらくその爪先を弾ける飛沫と戯れるように揺らしてから、すっくと立ちあがり
ぐいーと身体全体を伸ばして伸びをすると、竪琴を抱えたまま器用に波間から覗く岩礁を伝って浜辺へと至った。
「は――――……」
ざん、と軽く砂音を立てて着地して、水平線を振り返る。波間を揺れる月光の路を辿って、白い月まで見上げると緑の瞳を細めて眩しげに微笑む。
それから胸いっぱいに潮風を吸い込んで踵を返し、浜辺を囲む森へと姿を消した。
ご案内:「セレネルの海 海岸」からジギィさんが去りました。