2021/07/24 のログ
ご案内:「セレネルの海 海岸」にナランさんが現れました。
ナラン > 黒い夜空に月が真っ白に穴を穿つ夜。
海岸には穏やかな波が押し寄せる音だけが響いて、水平線までゆらゆらと月光を照り返している。

王都から続く海沿いと言えど、少し離れれば人気もない。
岩場と砂浜が入り組んだそこを、今は月光に照らされて歩く女がひとり。足元を確かめるように視線を落として進んで、時折吹く海風に目を細めて水平線を見遣る。
今宵は夜釣りの船影も夜行の客船も見えない。穏やかなリズムで以て波音だけが響いて…振り向けば見える筈の王都の光さえ見なければ、この世でひとりきり、彷徨っている様にも錯覚できそうだ。

「!あ…っ、と」

小さな蟹が一匹。
岩陰から走り出て危うく踏みそうになる。
恐る恐る持ち上げた靴の影から、元気に横歩きで駆け去って行くのを見送ってほっと一息。

王都での用事を済ませて、住処である自然地帯へと向かうところ。
昼間の陽光が強くなったので、移動は陽が落ちてからに限られる。
街道を行くのはいかにも怪しいと思われそうなので、あえて遠回りにもなる海岸を選んでいる、ものの

(…ここで見付かってもそれはそれで、怪しいと思われそう)

事ここに至ってそう考えて、思わず苦笑い。
それでも海が珍しくて面白く、女の進む足取りは軽い。