2020/10/07 のログ
ご案内:「セレネルの海 浜辺」にホアジャオさんが現れました。
ホアジャオ > 季節は秋深まり、空高い日の夕暮れ時。
薄水色から赤に染まる空を、渡り鳥らしき姿が過ぎるのを横目に浜辺を歩く人影がひとつ。
岩礁が多いために船も近くには見えない。
昼間は子供たちでもいたかもしれないが、人里までほどほどに距離があるここは他に人影は見当たらなかった。

「うー…有点冷(さむ)…」

海風はやや強く、運ばれてくる空気は冬の訪れを感じさせる。
水平線を眺めながらさくさくと足取り軽く歩いては居たが、三つ編みを嬲る風にひとつ身震いすると、不満げに紅い唇を尖らせる。

「まァでも…そのぶん美味しい筈だモンね」

独り言ちればすぐに上機嫌に抱えた紙包みを見下ろした。
中にはまだ暖かい中華饅頭がある。
海を眺めながらの食事と決めて、王都で買ってすぐさま駆けてきて、何とか日暮れ前に辿り着いたといったところ。

何処か丁度いい流木か岩棚かを進む先に探しながら、さくさくと砂浜に足跡を残していく。
本当は波打ち際まで行きたいが、それは帰り道に取っておこう。
名残惜しげな細い目の視線を寄せる波に投げてから、また行く先に戻す。

もう少し暗くなってきたら、適当に砂浜に座ってしまおう。
何て言ったってお腹も減ったし。

ホアジャオ > 行けども行けども丁度いい場所もモノも見当たらない。
ムキになって速足が駆け足になって浜辺を行くが、浜辺が藍色に沈んできても目指すものは見付けられない。

「――――…!」

三つ編みを靡かせて駆けている内に身体も温まって、ますますむきになって女は駆ける。

――――秋の夜は鶴瓶落とし、何ていう言葉がどこかの国にある。
白い頬が桜色に染まって足元が闇に沈んで、眼前に砂浜を遮って聳える崖が見えてきてからやっと鼻息荒く立ち止まる。
むっと口を尖らせて水平線のほうを見遣れば、もうどこからが天で海か判然としない。

「哎呀!这还了得(なんてこと)…!」

ざざあ、と穏やかな波音とともに吹いて来る風は、火照った頬に心地いい。
細い目を更に細めると、ふーっと一際大きく鼻息を漏らして
やけくそのように、その場にぽんと弾むように座り込んで足を投げ出し、抱えていた紙袋から中華饅頭を掴んで取り出す。
すっかり温くなってしまったそれにかぶりついて、頬を動かしている間に瞳からは険が抜けていく。

思い描いていたものではないけれど、暮れた浜辺を独り占めしての食事は悪くない。

食べ終わるまで、また食べ終わってからも暫く波の音を楽しんでから
すっくと立ちあがると身体にひとつ、伸びをくれて。

「…かえろ」

たん、と砂を蹴る。
そうしてまた浜辺を元の方向へ影が、駆けていく…

ご案内:「セレネルの海 浜辺」からホアジャオさんが去りました。