2020/01/19 のログ
ご案内:「セレネルの海」にレクスさんが現れました。
レクス > 月が曇天に隠れて、薄い星明りさえ見えない闇夜だった。
王都から程近い砂浜には静かな静かな波の音だけが響いていた。
海の潮と、冬の寒さを含んだ風が音もなく、砂を撫でて過ぎていく。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ――その中に光るものがあった。
それは、それ等はまるで光の蝶、あるいは人魂のように見えただろう。
温度のない紫色の光。焔のように揺らめきながら、が、ふわり、ふわりと舞う。
幻燈のように灯って、消え、また灯り、浮かび、沈み――あるいは、それは誘蛾灯のように。

「…………。」

その中心に、波打ち際に海を向いて佇む、一人の男がいた。
ぼろぼろの旅装に身を包んだ男性の姿だ。
褐色の肌を照らし出すように舞う光に、右手を伸ばしている。緩く開いた掌に力は感じられない。
だらりと落した左手首には、鎖に繋がれた長い長い剣。鞘に収まって、更にその上を幾重にも鎖で巻いている。
光を見つめる眼差しに、けれども光は無い。深いが、ただ、それだけの膜が張ったような瞳。
散大し切った瞳孔に光が映ることがあるのか、どうか。
ゆるりと弛緩した唇は薄っすらと開き、声にならない吐息を微かに零す。
さながら、海辺に佇む幽鬼のように彩の無い男。あるいはこのまま海に帰っていくような。
それが、いくつもの光を漂わせながら立っていた。

レクス > どれほど時間が過ぎたことだろうか。
やがて、ひとつずつ、消えていく燐光。
最後のひとつが消えた時、男の姿もまるで幻のように消えていた―――。

ご案内:「セレネルの海」からレクスさんが去りました。