2019/12/14 のログ
ご案内:「セレネルの海 浜辺」にスミさんが現れました。
スミ > 秋も暮れ、次の季節もいよいよ本番。

王都にほど近い海岸に場所に、白く広がる浜辺がある。
海辺とてもう温もった風が吹くことも滅多になく、そのせいもあろう、暖かいころに比べれば格段に人出は減っていて、空が朱色の夕暮れから藍の勝ったものへと変わる今頃には、もうすっかり、足跡ひとつみあたらない。
あるのは、打ち上げられた流木と、海藻と
その他沖からの忘れ物のように岩礁が幾つかひょっこりと。

その夜と昼の間の、色も陰影も曖昧な砂浜を歩く人影がひとつ。

風は殆ど無いが、時折波と共に押し寄せるものは人影の―――赤毛の女の巻き毛をなぶり、体温を奪っていく。
女の方は幾度かそうされては、咎めるように波の方を眼鏡の奥から見て、赤い唇を尖らせてぶつぶつと口中で文句を言っているようだ。

「全く――――ちょっとは手加減してほしいな。
こっちは考え事をしてるんだから。
まあ、光陰矢のごとしというし時は金なりと言うし、そんな情緒は持合せちゃいないんだろうけども……」

どうやら考え事の邪魔をするな、という事らしいが、当然の通用する相手でもないことは解っている。
―――寒いのはともかく、髪が吹き散らされて前が見えなくなるのは困る。

「帽子でも被って来るんだったなあ……」
あと、少し寒くもなって来たし。

―――そう思っているならばさっさと宿に帰れば良いのだが、そのせいで今の思索を中断されたというのも何とも悔しく…
―――いやそもそも備えが足りなかったというのも……
結果、さく、と砂に軽く爪先を埋めて立ち止まり、ううん、と腕組みをしてしまう。

スミ > 考え込んでいても仕方がない。
そうやって腕組みをして風に嬲られているだけで、その手先が冷えて来る。

―――そうしていると今度は、温泉が恋しくなってきた。
(――――嗚呼、これはこれで邪魔な思考だけれども)

このまま浜辺を歩いていても、王都の宿へと帰路を取っても、寒風に吹かれるのは変わらないだろう。
(だったら、宿へ戻って温泉へ繰り出すことにしておいて
ひとまず遠回りして帰る間だけ、この考え事を続けようか…)

早もう唇も凍り付いたのか、白く吐息だけ零しながら考えるともなくそう思って
そのまま、次第に闇に溶ける浜辺を、伝い歩いて行く……

ご案内:「セレネルの海 浜辺」からスミさんが去りました。