2019/09/05 のログ
ご案内:「セレネルの海 入り江」にジナイアさんが現れました。
ジナイア > 雨の日から一転、良く晴れた日。

王都からほど近い浜辺から隠れるように存在する入り江の砂浜に、佇む女がひとり。
午前中は真夏もかくやと思われるような日差しも、午後にもなると色に茜色を混じらせ始めている。
入り江に寄せる波は穏やかで、波間に静かに暖かな色の陽光を照り返しているが、狭い入り江に吹き込む風だけは少し冷たく、強い。
その風に長い黒髪を嬲られながら、入り江から覗く水平線へと翠の視線を投げていた女は、やがて吐息を漏らすと、波打ち際へ打ち上げられている大きな流木へと歩み寄る。

ざあ、と流木へと打ち寄せる波の音。
少し近くで、海鳥の鳴きかわす声。
さく、さく
軽い音は細かに砕かれた砂が立てる音。

聞き覚えのある、懐かしいようなそれに目を細めながら流木へと辿り着くと、その足からサンダルをひとつずつ脱ぎ、流木の上へと。
そうしてからまた一呼吸おいて、意を決した様に赤銅色の爪先を、そうっと波打ち際へと運ぶ。

ジナイア > ざあ、と風と共に波が打ち寄せる。
流石に真夏よりも温度は低くなったのだろうが、足元を浸して、細かな砂を攫って行くそれはまだ暖かさを含んでいる。

「―――…泳げない、こともない、かな…」

爪先を眺めながら、女はすこし物憂げな声音で呟く。
今年の始めに泳ぎを体得しようと思っていたものの、あれよあれよと夏が訪れ
真夏の水游場や海は人で溢れていたため、遠慮をするつもりで先延ばしにしていたら、あっという間に秋が近い風が吹く頃になった。
すこし慌てて、今更な気もしつつ、この場所へ来たものの……
いざ、練習が出来るとなっても、踏ん切りがつかないでいる。

(我ながら、少し呆れる)

爪先に視線を落としたまま熟れた唇が少し笑って、その翠をまた水平線へと上げた。

ジナイア > そうして二つほど瞬きをしてから浜へと向き直り、流木から脱いだサンダルを取り上げた。そのまま、砂を軽い音と共に素足で踏みしめながら、浜へと上がっていく。

海から吹いた風で前へと吹き散らされた髪を、目を細めながら押さえる。
歩きながら段々と爪先が、また足裏が乾いてきて、纏わりついた砂がぱらぱらと落ちていく感覚。

砂浜から草地へと変わろうとする境目まで来ると、また水平線の方へと向き直って、足元へとサンダルをひとつ、またひとつ、落とす。
その間、思案するような翠の視線がを足元と、水平線へと交互へ渡される。

言い訳はいくらでもある。
何も後始末が大変そうな海でなくても良いと思うし、そもそも泳げないことで今すぐ困る訳でもない。

(―――そうやって、また)

今年も過ぎてしまうかもしれない……

ジナイア > 苦笑を零すと、シャツのボタンをひとつひとつ外す。
合間から、赤銅色の上半身を黒の下着だけにして風に晒すと、強い風に少し肌が粟立った。

海水に浸かってしまえばこれも解消されるだろう
そう、思うものの
今はこの秋を含んだような少し冷たい潮風に、暫く当たって居たい気分でもある。
勿論、ただの言い訳かも知れない。

「―――…」

嬲られる黒髪を押さえながら、女は背後を振り返り、辺りを見回すと人気の無いのを確認する。
やがて波の音へまた向き直る。
ハーレムパンツの足元を、少したくし上げる。
そうしてそっとまた裸足の足で砂地を踏みしめて、波打ち際の流木へと近寄っていった。

その日が暮れるまで、或いは、流木が波へと浸されていくまで
波打ち際で流木に身を預けながら、波に洗われる足元を、眺めて過ごすつもりで……

ご案内:「セレネルの海 入り江」からジナイアさんが去りました。