2018/07/20 のログ
ご案内:「セレネルの海」に影時さんが現れました。
影時 > ――如何に忍びと言えども、度が過ぎれば疲労が溜まる。心が折れる。

心身ともに極限まで鍛えていると言っても、閾値を超えれば破綻をきたす。
それが人間という存在の限界なのかもしれない。
如何に鍛錬の果てに半ば仙人じみた存在となっていても、性根までは超俗していないとなればこそ。
故に暫くは身を休める。技の冴えを保つための鍛錬は続けながらも、気儘に生きる。

「……おぉ。いかん、寝てたか」

ふと、目を覚ます。潮騒の音色が耳を擽る。
海岸線を織りなす岩肌に敷いた敷物代わりの黒外套の感触を覚えつつ、身を起こそう。
ここはセレネルの海。近隣に砂浜が広がる海岸線の一角だ。
並に削られる果てに生じた洞穴じみた箇所も見える岩の多い辺りに座し、夕刻から釣りに勤しんでいた。

夕餉にするため、という程重要視はしていない。
ぼんやりと流れる時間を愉しむ、心を無として余分な思考を消し、自然と同化しながら唯在る。
そこにいて。そこにいない。隠形を為すための心の境地を鍛え直すにも良いのだが、こういうこともある。

近くの街で買った安い釣り竿だが、流されていない。
岩肌に空いた穴に差し込んだ竿を掴み、特に当たりもないことを確かめて針を戻そう。

影時 > 刻限は夜。程良く膨れた月が顔を出す、夜。

日中はじっと汗ばむ時間が途切れないが、風があれば陽が失せた分だけまだ楽だ。
纏う装束のうち、薄いメッシュ状のインナーを剥き出しにするように上衣の左肩側を片脱ぎにして。
左手で簡素な竿を保持し、小刻みに動かす。
細糸の先に付いた針をくい、くい、と。水面の上を蟲が跳ね、泳ぐように繰る。

無論、餌がある方が食いつきは良い。
それでも偶にいるのだ。つい、気になって食いつく魚は居ない訳ではない。

「……渓流で釣る方が、自生している山葵もついでに探せて良いが、こういうのもタマにはなァ。
 王都に確か水遊びの施設もあるやら聞くが、このナリじゃな」

しかし、やはり。じんわりと汗が滲む。
こんな季節は滅入る。暑さに頭がやられてしまいそうになる者が出ても、全くおかしくない。
完全防備の騎士や戦士であれば、鎧の形状と色が悪ければ蒸し殺されても不自然ではない程に。
心頭滅却しても、風が無ければ死にそうな心地になる。