2018/06/17 のログ
ご案内:「セレネルの海」にエズラさんが現れました。
エズラ > 「ふー……いい天気だ……――」

小舟の上で男が天を仰いでいる。
船縁に固定された釣り竿がぴくりとも動いていないことを除けば、経ほど釣り日和という日はない。
それほどに、燦々と陽光は照りつけ、海風は優しく舟を揺らしていた。
この海は、時に恐ろしい怪物を差し向け、時に海の恵みをもたらす。
幸か不幸か、今日はそのどちらも得ていないのだが――

「ま、それはそれでいい――」

戦場帰りには、こうして身体を休めてのんびりするのも悪くない――

エズラ > いっそこのまま一眠りしてしまおうか――
波も穏やかで、沖まで流されてしまうこともなさそうである。
そんなことを考え、船底に仰向けになった、まさにその瞬間。
激しい揺れが小舟を襲う――

「んおっ!?」

飛び起き、周囲を見渡す。
これまた幸か不幸か――釣り竿はやはり動いていない。

「なんだ?」

身を乗り出し、水面を見渡す。
水上に顔を出すものは何もないが――
小舟の周囲に蠢く、巨大な影が水中に見えた。

エズラ > 「ったく!この長閑な日に水差しやがって……!」

水中をぐるぐると蠢く長い影――およそ魚類のそれとは泳ぎ方が異なる。
おまけにその身体は、ウミヘビよりも遙かに長い――
時折水面に浮いて見える鋭い背びれ――

「海蛇竜(シーサーペント)か……まだ子供みてーだがッ……!」

単なる海上のゴミと誤認してくれれば良かったが――
舟から顔を出してしまったせいで、ここを離れようとしない。
完全に姿を確認されてしまったのである。
やおら、水面が盛り上がり、魚類と蛇を混ぜたような奇怪な顔をした怪物がその姿を晒す。

「うおおっ……――」

そしてそのまま――船上へとその巨体を突進させてくる――

エズラ > 「うぐっ!」

激しい勢いで小舟が揺れる。
突進を受け、もともとそれほど頑丈ではない舟が軋む音。
頸をもたげた怪物が、こちらに食らいつこうと襲いかかる――

「……っ!」

とっさに舟の櫂を振るい、その顎先を一撃。
少しはひるんだようであったが、僅かにうめき声をあげるのみであり、さらに二度、三度、噛みつき攻撃を繰り出してくる――

「うおっ……っとぉ!」

間一髪でそれらを躱して船上を転げ回る。
業を煮やした海蛇竜が、再び海中へ没した。

「見逃してくれたか――?」

エズラ > 無論そうではない――小舟めがけて高速で迫る海蛇竜。
今度は殴られないよう顔は出さない。
どうやらまずこのおんぼろ小舟を破壊し、その後ゆっくりと狩りを楽しむつもりらしい。

「冗談じゃねぇ、舐めやがって…!」

魚を突くための銛を手に取ると、険を引き抜き、その柄を銛へくくりつける。
回収用のロープを片手に銛を構えて船上に立ち――波の揺れをものともせずに構えて。

「くらえっ!」

もう少しで強烈な体当たりをもらう寸前――男の放った銛が海蛇竜の背に深々と突き刺さる。
次いで、青白い電光が海面をまばゆく照らす。
括り付けた剣に、雷属性の魔法を付与していたのである――
とっさのことで簡単な呪文を付与したのみであるが――海ではその効果は抜群に発揮されたようである。

エズラ > 高電圧を体内に浴び、海蛇竜がのたうち回って苦しむ。
程なくその巨体が海面に浮かび――黒煙があがる。

「ふー……ったくヒヤヒヤさせやがるぜ……――」

のんびり海釣りのつもりが、とんでもないことになってしまった――
とはいえ、この骸を持って帰れば、それなりの臨時報酬を稼ぐことができそうである。

「仕方ねぇ……ちと力仕事だが折角だしな――」

ロープでその死骸を舟に縛り付けると――えっちらおっちら、港の方へと漕ぎ出すのであった――

ご案内:「セレネルの海」からエズラさんが去りました。
ご案内:「セレネルの海」にヒマリさんが現れました。
ヒマリ > 逢魔が時の海岸沿いを歩く。
普段年齢より背伸びした行動をとる少女にしては珍しく、周囲に視線がないのを確認してブーツを脱ぎ始める。
従者は馬車で待つようにと言いつけておいたし、長居するわけでもない。
少しくらいいいだろうとの判断で、裸足で砂浜に侵入してみた。
足の指の間に小さな砂の粒子が入り込む気持ち悪さに、気持ちよさ。
それに気をよくして、少女は着物の袖を靡かせながら砂浜を駆ける、駆ける。

「………美しいな」

そうして不意に立ち止まり、夕日を受けて細かなまばたきの様に煌めく海面に見入った。
己の醜悪な心が際立つ美しさに、嘆息をもらす。

ヒマリ > やがて遠くから呼ぶ声が聞こえる。
振り返れば、痺れを切らした従者の姿があった。
少女の性格は決してとっつきやすいものではないのだが、
それでも若さゆえに妹の様に、子どもの様に接してくる家臣がいる。
邪魔くさい、と思うことがないわけでもないが。

「今、行く」

呆れた様な表情混じりに、少女は海から背を向けた。
束の間の息抜きは幕を閉じる。

ご案内:「セレネルの海」からヒマリさんが去りました。