2018/05/09 のログ
ご案内:「セレネルの海/小さな入江」に紅月/コウゲツさんが現れました。
紅月/コウゲツ > ーーーざざん、ざざん、ぽろん。

人魚から竪琴をもらった。
その竪琴は貝のような真珠のような不思議な素材で出来ており、一見高価なオブジェの様でとても美しい。
けれども胸元に抱えられる程度の小振りなそれには、弦がなかった。

では何故その額縁のようなものを竪琴と呼ぶのか。
…それは,『魔法楽器』と呼ばれるものだった。

紅月/コウゲツ > 「うぅん、手強いなぁ…」
胸元に抱える真珠色を見詰め、呟く。
もしかしたら眉間に皺が寄っているかもしれない。

晴れた空、澄んだ水面…美しい蒼と碧の世界にて、紅の鬼は頭を抱えたいような心持で空を仰いだ。

「『心で弾く』ねぇ…」

人魚からの宿題を思い返し、再び呟く。

紅月/コウゲツ > 確か、これをくれた人魚はこう言っていた…海賊のように自由に、深海のように静かに、夜空のように美しく、真珠のように無垢な心で弾くのだ、と。

「無茶を仰る…」
紅の鬼は今度こそ本当に頭を抱えた。

無垢って、無垢って…子供ならまだしも。
そのようなモノ、寿命の短い人間でさえ成長と共にどんどんと無くなり消え失せてしまうじゃあないか。

「ついでに、別に美しくもないしなぁ…」

数百を裕に超えたこの鬼神には、到底不可能に思えていて。

紅月/コウゲツ > うつむき片手で頭を抱えたまま、静かに眼を閉じる…

「持ち主の心が弦になり、持ち主の心が音色になる楽器…かぁ。
なんでまたそんなモンを、私に」

溜め息ひとつ、呟いた後にまた眼を開く。

人魚はこうも言っていた。
『あなたにあげる、あなただからあげる…これがヒントよ』
…いやぁ、そんな楽しげな笑顔を向けられましても、ちょっと私にはわからないです。

「凹んでても何も変わらないし、なぁ…」

紅月/コウゲツ > 座りっぱなしで尻も地味に痛くなってきた…一休憩だ、と立ち上がる。
竪琴を、己の体温で温くなった小さな岩に置く。
…私の心もついでに温めてほしい、尻でもいいから。

「…あー、腰痛ぁー……」

伸びをひとつ、なにやら腰から盛大にバキリという音が鳴ったが気にしない事にする。
百歳超えても肉体年齢は20代、人間とは身体の作りが違う故に気にする必要もない。

数歩前に歩けば、ぱしゃぱしゃ、ざざん、と波が足についた砂を浚ってゆく。

「……綺麗、だなぁ」

紅月/コウゲツ > もう一度、眼を瞑ってみる。
…波音、海鳥の鳴き声、近くの洞窟から聞こえる空洞音。
その瞬間に向き合うモノが違うだけで、同じ場所で同じように眼を瞑っても全然違うもののように感じる。

そうしてまた眼を開く…自分とは真逆の、あおいせかい。

「まぁ…差し色だと思えば丁度いいのかな?」

ほんのり場違い感というか疎外感というか…そんなような何かを感じて苦笑し、自分の髪を弄る。
この身は少々、色々な意味で目立つのだ。

紅月/コウゲツ > 「…ふふっ、やれ、気落ちしてるなぁ」
ふぅ、と一息…困ったように笑って。
髪から手を放し、また前を向く。

入り江の向こうには、遠い遠い水平線…
確か、このずっと向こうにティルヒア?とかいう島があるとか何とか…そんな話を酒場で聞いたと何気なく思い出す。

そこより近いんだろうか、遠いんだろうか…このセレネルの海が抱く、海底遺跡とやらに私は行ってみたい。

炎と大地の加護を強く持つ私にとっては、人間の国より遥かにアウェーである海の中…正直、探し始める前段階で苦戦している現状。
それでも、行きたい。
…故郷にも探せば海底洞窟とかありそうなものだが、やはり此処にしかない物も沢山あろう。
私はそれが見てみたい。

未知とは、無限の夢である。
焦がれて焦がれて仕方がない。

紅月/コウゲツ > 「いやはや、いけないなぁ…いけない」
困ったように、それでも楽しげに、笑う。
後ろ手に指を組んで、軽く伸びをしながら。

好奇心は猫をも殺すという。
『もしかしたら鬼も殺すかも知れないぞ?』
友人に笑いながら言われた事を思い出す。

いけないと思っても、忠告されても…やはり好奇心には勝てぬのだ。

「ま、仕方ないやな…それが私だもの」

また友人を困らせそうだと思い至れば、何だかおかしくなってきて…思わず、笑った。

紅月/コウゲツ > 笑いながら、何となしに振り返る…引けるようになったら友人たちにも聞かせてやりたい真珠色と光の糸。

「…えっ、光の糸?」

竪琴に、いつの間にか弦が張られている。
眼を擦ってみるものの、見間違いでは…ない。

物は試しと弾いてみる…音が、鳴った。

「おおぉ、友情パワーってやつかしら…確かにそれなら条件に当てはまるかも?」

嬉々として竪琴を陽光にかざす。

…本当は違うのだが、それを知るのは人魚のみ。

紅月/コウゲツ > 「さーってと、帰るか」
とりあえず満足!である。

「帰ってランチ…いや酒場……祝杯かな、うん」
満足したら腹が減った。
己の単純さに笑って、もう一度だけ海を振り返る。

そして再び前を向き、歩き出した

ご案内:「セレネルの海/小さな入江」から紅月/コウゲツさんが去りました。