2017/12/16 のログ
ご案内:「セレネルの海」にチルユキさんが現れました。
チルユキ > 海岸線に切り取られたような岩が幾つもあり、その内の一つに靴とワンピースをまとめて放り。

とぷんと音を立てて海の中に身を沈める。

長い髪が水面でゆらゆら漂う、
海の水は思う程冷たくは無くどちらかというと温い程。
一度海の中に頭の天辺まで沈み込んで、再び浮き上がる。映し出す海と同じく空は澄んで蒼く。浸かるのか漂うのか、岩場から少し距離が開く。

ご案内:「セレネルの海」にセイン=ディバンさんが現れました。
セイン=ディバン > 「……はぁ」

海を見ながら、男はため息を吐く。手に持っていた羊皮紙を破り、海へと捨てる。
風に巻き上げられた紙は、しばらく空中を漂っていたが、しばらくして、海へと散っていった。

「あの道具屋のジジイ。何が間違いない宝の地図、だよ」

少し前に道具屋で入手したその宝の地図。暗号を解読し。
財宝のありかをつきとめ。宝を入手した。場所はここ、セレネルの海。
水底に沈む宝箱をなんとか引き上げれば。出てきたのは、ボロボロの武器防具に、くすんだ金貨が数枚だけ。いわゆる大赤字だ。

「クソッタレめ。いつかボコボコにしてやる……うん?」

海を眺めながら、そうぼやいていれば。なにやら人の姿が見えた気がした。
男は水辺に近づきながら手を振る。

「おーい! 誰かいるのか!? 溺れてるのかー!?
 溺れてても溺れてなくても、反応してくれー!」

まさか、とは思うが。だれかが水難事故に巻き込まれているなら面倒だ。
男は、必死に声を張る。

チルユキ > ゆらゆらと浮いたり沈んだり。
繰り返していたら、長閑な海を突き破る大きな声が聞こえてびくりと肩が跳ねる。
溺れた、誰が、何が、何処に。
足の付かない海場で一度バランスを崩して、大きな飛沫を上げて頭まで沈みきり。


水面下で間。



――相手が破り捨てた羊皮紙の破片がこちらに届く頃、水面から貌を出す。
幾らか水を飲んで咽かえりながら、八つ当たり混じりにギッと岸辺を振り返る。
声がした方へ。

「溺れ、…ったら、 反応出来、 るかー…!」

セイン=ディバン > ちぎった羊皮紙がほぼほぼ波に飲まれた頃。
男はその人影を見つけ、声を張り上げる。
瞬間、どぼん、という音。その方向を見れば、何かが沈んだような痕跡。
円の形に広がる波紋が見え。男は急いで岸を走り、少しでもその地点へと近づくようにと。

「おーい、大丈夫かー!!」

走りながら声を張る。ある程度まで近づいたところで、ちゃぽん、と。
水面に浮かぶ人の姿があり。よかった間に合った助けなくては、と思っていれば。
ものすごく睨まれて、ものすごく怒られた。

「……? ……おぉ、そりゃあごもっともだー!
 っつーか、キミなんでそんな所にいるんだー!?
 助けは必要かー!?」

確かに。溺れてたら反応をするのは少し難しいだろう。
だが、男は軽く頭を下げて謝りながら、再度声をかける。
溺れてはいないようなので、まずは一安心、ではあるが。

チルユキ > 「!?」

見当をつけて叫んだほうに誰もいなかった。
男が移動していたからだ。
また掛けられた声に再び肩が跳ねるが、今度は幾らか心構えがあったので足を引き攣らせずに済んだ。
男が走り寄るその辺が、もし服靴を雑に置いた地点だとすれば。入水自殺と思われなければ良い。否、靴は脱いでも服は脱がないだろうか。


「今溺れたけど、溺れてはない。水浴びで……。………?」

応じる声が相手に届くかどうか、ふつうに小さい。心配されているのはいまいちぴんと来ていない様子。
濡れた肩先にくっついていた、千切れた羊皮紙を摘み上げる。
濡れそぼっているが、長い間波間を揺蕩っていたという訳ではなさそうだ。
地図のようにも見えるが、破片では何が書いてあるかまるで分からずに。

意識が一度逸れると怒っていたことを半分忘れた。
涙目になった目元をごしごしと擦ると、

男が呼びかけている岸にするりと身を動かして近づく。岸に指先を掛けて男を見上げ。
はい、と羊皮紙の破片を差し出す。捨てた主と分かった訳では無かったが、そこにいたので。

セイン=ディバン > 別段、人が溺れていたとして助ける義理もないのだが。
もしも溺れていたとして、それを見過ごしたら寝覚めが悪い。
男は走る中、岸に置かれた服と靴を見つける。

「……? 服と、靴?」

何か事故に巻き込まれた人物が、服と靴を岸に置きますか? ノー。
入水自殺する人が、服まで脱ぎますか。ノー。
いや、この服と靴が水中の人物の者とは限らないんだけれども。

「……もしかしてオレ、早とちりした?」

岸に立ち、つぶやく男。見れば、相手は羊皮紙を摘み、こっちに向かってきた。
明らかに、溺れたり事故にあったり自殺するという雰囲気ではなく。
男は、差し出された羊皮紙を受け取り、相手に手を伸ばす。

「えっと。驚かせてスマン。てっきり何かの事故かと思って……。
 ……あー、俺ぁセイン=ディバン。冒険者だ。
 お名前聞かせてもらえっかな、美しいお嬢さん?」

指し伸ばした手。捕まるかい? と視線で訴えつつ。
勘違いしてあわてたのが、今さら恥ずかしくなってきて、男は若干赤面していた。

チルユキ > 「………?

ああ、溺れてるかって、わたしを。
………お前は人がいい、んだね。セイン。」

幾らか遅れる受け答えと、人間とは違う気配。
溺れている相手と思って、そんなに急いで声をかけたのだろうか。
くるくると変わる表情が己と対照的に見える。

「………チルユキ」


美しいの処を聞き流してしまう、社交性と装飾に疎い身。
差し出された手をじっと見下ろす、無機質な硝子玉のような双眸が。
やわらかく温かく綻んで、稀にしか無いような満面の笑顔になる。

濡れた両手を水面から出す。鎖骨と、胸の稜線が幾らか水面に露わになる。
差し出された手を外からひやりと冷えた手が包み込み、――――ぐい、と。口元に引き寄せる。
唇から覗く歯が細く、いやに鋭く――――手首に牙を突き立てようとする。

セイン=ディバン > 「いや、マジすまねぇ。普段この海は、船で渡ってたりばかりしてたから。
 まさか泳いでる人間がいるとは思わなかったんだよ。
 ほら、ここって海魔も結構いるだろ?」

よくよく考えれば、泳いでる人影を見かけて即溺れてる、と判断するなど。
冒険者としても早計に過ぎる話であった。男は何度も頭を下げる。
瞬間、男の首にチリチリとした違和感。……何かは、わからないけど。
この女性は、どうにも普通ではないぞ、と。男の冒険者としての勘。
そして、保有する『生存本能』のスキルが訴えていた。

「チルユキ、ちゃんか。珍しい響きの名前だな。
 あ~。これ、この服と靴の持ち主、キミか?
 えっと。後ろ向いてた方がいいなら、後ろ向くけど」

差し出した手を掴まれる。水中にいたからだろうか。ずいぶん冷たい手だ。
ちら、と。相手の鎖骨と胸へのラインが見えそうになり、男は視線を横へそらす。
紳士的な男ではないが、その辺は一応弁えてる。だが、視界の端に映った相手の顔が。ずいぶん大げさな笑顔に見えて。

瞬間。脳の中で最大級の警鐘がなる。慌てて視線を相手に戻そうと。
するのと同時に、腕を引かれる。思わず水中に落ちないよう、足を踏ん張る男だが。そのせいで反応が遅れた。
見える牙。引かれる腕。手首。歯にしては鋭すぎる。判断が遅れる。

チルユキ > 「いい、よ。勝手に驚いたの、わたしだから。
……海魔………獲物を選別しているのかも…ね…」

心配をしたんだろうに、繰り返し頭を下げる男の旋毛を見上げていた。

「ちゃん…?
そう、これはわたし…の。」

後ろを向く、に。こくりと頷きはするが、正面に引き寄せるのはこちらの手。
気遣われていることに気付きもせずに、踏みとどまる様力が込められた手に、逆に己が岸辺に引き寄せられる。
ちゃぷりと、背肌で揺れ動く波の感触
手の中にあたたかな、ひとのいのちの鼓動。

手首の内側に柔らかく触れた唇が、慰撫するように動いて。
鋭い刃が血管の太い処にずぐりと沈む。
細い針で穿ったような強い痛みが一瞬、と。
入れ違いに重ねられる舌から触れる濡れた質感と、入れ違いに痛みが消え失せ。
強い酒をすきっ腹に流し込んだような感覚が相手に訪れる。
酒のように、体質次第だけれど。

溢れ出る血を飲みに喉が何度も動く。

ひとにしては強い力。
其れでも、目先しか見えずに血を飲む以外は気も配らずに。

セイン=ディバン > 「そう言ってもらえっと気が楽になるわ。
 ……あー、海魔もアホじゃねぇから。そういうこともありえる、か?」

相手の言葉に苦笑しつつ、男は考える。魔物。モンスターが獲物を選別する。
……なくもないかもしれない。同じところで同じような獲物を狙って毎回撃退されれば。少しは学習もするだろう。

「あ、ちゃんって呼ばれるのイヤだったか?
 でも、俺のほうが年上っぽいし。やっぱチルユキちゃんってのがしっくり来るんだよな。
 ん~。ってことは、やっぱ服着てないんだし。俺、見ないようにするわ」

許されたからか、男は幾らか気安い話し方になり。後ろを向こうとする。
正直男としては全裸の女性とか半裸の女性とかは大好物なのだが。
さすがにこういった形での初対面でジロジロとハダカを見るのも良くないし、それではムードとかもない。
しかし、その判断こそが間違い。更に言えば、踏みとどまったのも間違い。
ここで男は、とっさに相手を突き飛ばすか、さもなければ、水中に落ちるべきであったのだ。

「……っ……!」

唇が手首に触れた。瞬間理解する。この相手の正体、あるいは……種族、とでも言うべきか。しかしそれすらも既に遅い。
脳の中と手首に同時に熱が生じる。だがそれは一瞬のことだ。
そこに、舌の触れる感触。生じた激痛は、ウソのように消え。
次の瞬間には、ぐわぁん、と。脳が揺れる感覚があった。
思考能力にブランクが生じ、酩酊したかのような感覚。

「……はっ……ぁっ……」

相手の喉を見る。動いている。嚥下している。血を。
そう、吸血鬼。吸血種。夜の支配者。男もまだ数回しか出会ったことの無い、超越者級に相当するバケモノだ。
このままではまずい。どれだけの血を飲まれるか判らない。
いやそんなことより、ヘタしたら自身も吸血鬼に転化するのではないか。
そう男は考えているのに。ぼやけた頭が打ち出した行動は。

もう片方の手で、相手の頭を優しく撫でる、という行動だった。

チルユキ > 「どちらかというと、お前の方が慌てていた…気もする。――――…」


強い者に比すれば然程力のある人外ではないが、それなりの力を有する魔は、少しだけ好戦的に声もなく笑う。

「揶揄以外で呼ばれるの、珍しい。……見たがると、隠したくなるけど、見たがられないと、悪戯したくなるね」
天邪鬼な発言をしながら砕けた話し方に変化する契機がよくわからずに頭を傾げる
とことん機微に疎いのか。

咽喉から流れ込む血が温かくて、髪の先、手指の先にまで満たされていく感覚に陥る。
膜一枚通したような世界が次第に明瞭に変わり、先程と違ったように唇が小さくまたつり上がる。

手首から溢れる血が少し鈍くなると思うと、埋め込んだ牙をぐりと中で掻き回して繊維を幾らか引き千切る
痛み、よりも。倍加するように酒精に似た感覚が強まって、感じる不安を、何らかの感情を正負反転させるちからがはたらく。

夢中になって貪る、本能の楔をふと揺らされる。
頭を撫でる掌が、目の前の血潮が、あたたかみを持った人なのだと思い出させて。
視線が僅かに揺れる。

軽い貧血を呼びかねない程の、只、吸血鬼に転嫁する程ではない量の血を飲み込みながら、
深紅に染まった瞳が、手指越しにちらりと男の双眸を見上げる

セイン=ディバン > 「うっ……そ、そりゃあ……。人が溺れてるかも、ってなったら慌てるだろ」

鋭い指摘に、男は言葉に詰まる。基本、女性の前ではクール&ワイルドを目標にしている男……実際そう演じ切れているかどうかは別としてだが。
とにかく、女性の前で慌てた姿を見せたのが相当恥ずかしいらしく。そのまま黙り込んでしまう。

「揶揄? そりゃどういう意味だか……。
 あ~、いや俺も見たいけどさ。かといってそんな簡単に見れてもありがたみがないっつーか」

男特有の、面倒くさい理論である。見れるなら是非とも見たいが、簡単に見えても詰まらない。
まあ、実際据え膳的状況になれば簡単に手を出すのだから実に自分本位な理屈だ。

相手と対照的に、男の方の状況は楽しいものではない。
明らかに血が奪われる感覚、熱がじりじりと失われていくのが判る。

「……っ、があぁっ!?」

瞬間。突き立てられた牙が腕の中で踊る。
不思議なことに痛みこそないものの、やはり不快感と驚きは強く。
男は苦悶の呻きを上げてしまう。だが、それと同時に身体を蝕む浮遊感の様なものも強くなっており、次第に思考は形を失っていく。

「……え、っと。お気に召していただけてる、かな?」

頭を撫でながら尋ねる男。違和感により歪んでいるものの、その表情はかろうじて笑顔と呼べるものだ。
腕越しに視線が交錯すれば、男は更に笑いを強くし。

「なにせ、葉巻と酒を嗜んでるものだから。
 あまり味は……良くないんじゃないかと思って」

なんとも的の外れた言葉だ。怒るでもなく、何故、と尋ねるでもなく。
男は、その血液の味について詫びていた。

チルユキ > 「慌てて、助けるひとは、少ないと思う」

己なら果たして、どうするだろうか。
遭遇してみないと、いまいち想像しきれない。今ならそのまま通り過ぎてしまいそうな気もする。

「普段「さん」付けしないひとを、敢えてする時、威圧とかからかいとか、あると思う。
………わかった。セインは、むっつりで、恥ずかしがるより堂々としてる方が、やらしくない」

羞恥で縮まるよりも堂々としていれば良いらしい、と。
何処で一体生きるのか分からない知識が頭の中に刻まれて小さく頷いた。

きれいに整えられたひとの体の中を掻き乱す行為。
嗜虐性はそこまで持ち合わせていないと思っていたが、違うのかもしれない。
身体の奥に響くような苦悶を間近に、本能的な何かがざわざわと騒いで歓喜する。
包み込んでいた指が知らず、手首に食い込むように爪を立てる。
しがみつくにも似て、いのちの味を嚥下し続け。

赤い唇が淡く開く。
どうして笑顔なのかが分からない。
力づくでも、強請って貰った時も、あるが、笑顔と言うのは余り記憶にない。

「美味しいよ、これでまた、いきられる」


生きたいのかもわからないが、本能的には絶えたくない。お腹は満たされた。
たくさん頂いた血に蓋をするよう舌で傷口をぬるりと舐めて、掴んでいた手首を緩めていく。

「どうして笑うの」

セイン=ディバン > 「……あ~……」

更に踏み込まれた言葉に、いよいよ男はお手上げ、とばかりに。
唸るので精一杯。そもそも、自分だってなんで助けようと思ったかなんて判らないのだから。

「なるほど、ね。確かにそういうのはあるか。
 ……いやそういうのはわからなくていい。忘れなさいな」

言われてみれば。男も、侮蔑や威嚇などの意味で敬称をつけられたことに覚えはある。
ということは、相手もそういう経験をしたのだろうか、などと考えつつ。
相手が余分なことを覚えたようなので、それは忘れるように言っておく。

「……か……っは、ぁ……」

男も、吸血鬼の吸血行為については、ある程度は知っている。
あるいは、食事。あるいは繁殖行動。あるいは魔力を奪う行動。
様々な説があるが、あるいはそのどれもが正解なのかもしれない。
握られていた手首に、また痛みが。爪を立てられ。
それでも、男は声を漏らすのみで。頭を撫でていた手は、いつしか相手の頬に触れるように。

「そりゃ、良かった……。ハハハハハ。
 生きられるなら、なお良かった良かった、だ」

体内の、生命としての力が目減りしているのを感じる。
だが、相手は手加減してくれたのだろうか。死ぬほどダルいとかは無いし。身体に変調だって……そう。吸血鬼になりそうな予兆とかもない。
傷口を舐められれば、体が小さく震え。なんだか、エッチだな、なんて場違いな思いが。

「……え? いや、なんで、って。なんでだろ。
 なんとなくだけど……。キミに、血を飲ませてあげなきゃいけない気がしたから……」

きょとんとした表情のまま、男は答える。
どうやら、本当に自分でも拒まなかった理由とか、笑った理由がわからないらしい。
あえて言うのなら。男が掲げている、全種族の共存、という夢が原因なのだろう。

チルユキ > 「心当たりが…ありそうだね。どんな時?」

いいえ忘れません、とばかりふるふると頭を振る。
敬称をつけられた時の状況の方は確りと聞きに行くけれど。

頭から頬に移る指に視線を寄せる。あぐ、と、唇を開いて暫く考える。
野生の動物は腹がいっぱいになれば余分な狩り等は行わない。
果たして牙を突き立てられることは無く、無事に唇が、閉ざされる。
頬に移り変わる指を多少気になるように見てはいたが。

「ごちそうさまでし、た。

………手を取ったのは不意打ちでも、張り倒すとか、出来たと思うのに。振り払わなかったから。
飲ませなきゃ………。わたしがもし凶悪な質なら、…命ごと失いそうなのに。」

良く分からないとばかりに首を傾げて、少しばかり身を震わせる。
流石に陽が落ちてきて、海に浸かり続けているのも全身が冷え込んでいきそうだった。

頬に触れた手をそのまま、岩場に無造作に手指を掛けて、ざぷりと音を立てて海から上がる。
薄闇の中、一糸纏わぬ白い肢体がぼうと浮き上がる―――が。
本人は矢張り無造作に。髪を掻き上げると、温かな風を指先に招いて。肌の上の水気を散らし、

セイン=ディバン > 「ははっ、それ聞いちゃう?
 そうさな、例えば……。冒険者として名が売れ始めた頃。
 俺の仕事っぷりにムカついた自称ベテランのジジィが、俺に『セインちゃん』ってね。他には……」

苦笑しながら男は過去の出来事を口にする。大抵は男が若かった頃、舐められたいた時代のことで。

「……? お代わりは不要?
 ダイエット中だとか?」

再度血を吸われるかと思えば。そんなことはなくって。
そのまま、頬へと移動した手は、優しくその頬を撫でていた。

「どういたしまして、だ。

 ……はぁ? 美人に手を握られて拒むなんざ、ありえねーだろ?
 そうだね。でも、そうじゃなかった。だったらいいだろ?」

相手の言葉に、男は当然、という様子で答える。この男は心底、本気でそう思っている。
女の子は助ける。美人ならなおさら助ける。その過程で自分の命が危険に晒されたとして?
生きてるなら大丈夫、おーるおっけー! そんな考えなのだ。

相手が岩場に上がろうとすれば、頬に触れた手は相手が上がるのを補佐するようにしながら。
薄闇の中とはいえ、男の職業適性的な能力……。要するに。
夜目の利きからすれば。その体は見えてしまい。
男は平静を装うが、それでも股間は反応してしまい。どうしたものか、と頭を掻く。

チルユキ > 「気になる。

……そんなジジイ、乾涸びるまで吸ってやればいい」


吸血鬼視点の意趣返し。
問われて目をぱちぱちと瞬かせる

「無防備だと思ったら、誘っていたのか、お前」

今しがた血を与えた相手の頬に手を寄せる、等。
まさか問われるとは思わずに我慢した己褒めたいくらいの勢いだったものが。
頸を緩く傾げて男を見遣る。

手を借りて、
水滴を飛ばしたら、緩く身をかがめて指先にワンピースを拾い上げる。
頭から被るだけの極簡単な着脱。下着に脚を通しながら、上が無い。

「命がけのフェニミストだよ。……美人じゃない」

やっと反応しました。
結果よければいいか、的なものは己にもあるので小さく頷いた。

「反応してる」

裸を隠そうともせずにいた癖して、そんな処は言ってしまう吸血鬼。
羞恥心零な訳じゃない、が。

セイン=ディバン > 「ハハハ、そりゃあいいや。でも、もうその心配なら無用さね。
 そのジイさんは、その後程なくしておっ死んじまったから」

言って男はケラケラと笑う。まさか干からびるまで吸う、とは。
そんな発想は男にはなかった。

「……あー、ちょちょちょ、ちょい待ちちょい待ち。
 そういう訳じゃ……いや、ない、とも言わねぇけど」

誘う。なるほど、そう取られても仕方ないかもしれない。
実際、美人を目の前にしたらなにはなくとも口説くのが主義ではある。
とはいえ、今の今になるまでそんな気は少ししかなかったので。
そこは弁明させてもらう。

「美人さ。とびきりの、な。
 フェミニスト、ね。そういう表現もできるか」

ワンピースを着る相手の後ろでそう言う男。
フェミニストなんて上等なものじゃない。どこまでいっても。
ただの女好き。それだけなのだ。故に、どこまでも愚直に命を賭けられる。
阿呆で馬鹿だからこそ。女を助けることに全身全霊を注ぐだけなのだ。

「あうっち……。
 いや、そりゃあ。だからチルユキちゃんが美人過ぎるから。
 そんで、裸なんざ見せられたら……」

男はしどろもどろになるが。その間にも股間は膨らんできており。
服の上からでもわかるだろうか。男の物が規格外なサイズだということのが。

チルユキ > 「腕が悪かったの、…罠に掛ける…ようには、見えないね」

少し気にした爺さんの行方は、多分三歩も歩けば忘れてしまうものなんだろう、が。


「誘う。血を、どんどん吸って良い、て、言ってるのかと」

ナンパの方じゃなく、て。
頬に手を当てたことについてはそんな風に言いながら、美人と繰り返されると少々―――胡散臭いものを見る眼差しになった。眉間の皺も著しく。

「美人だからじゃなくて、…したくなったからなんじゃ」

情緒とか何かを拾ってきた方が良い発言を。

「お前は話した感じイヤな感じしないし、くっつくのもわたしは嫌いじゃない、けど
カラダに誰かの強い情が絡むのが苦手なんだ、わたしは疎いから」

男の指環を軽く示して頸を傾げつつ告げた。
多分なければ、吸血の高ぶりに任せて悪戯の一つや二つ仕掛けたかもしれないけれど。
ぐう、と大きく伸びをして靴に足先を差し込む。

「血、ありがとう、セイン」

セイン=ディバン > 「冒険者なんでそんなもんさ。どれだけ腕が良くても運一つ傾けば死ぬ」

罠にかける必要すらない。慢心、油断。そういったものが冒険者を殺す。
男は肩をすくめながらニヤリ、と笑う。

「あー、そっち? ……まぁ、そっちはそうだね。
 キミは無遠慮、かつ限度無く吸うようには見えなかったし?」

男は勘違いを正され、照れたように笑う。
そのまま、いわゆるただの直感だったということを素直に白状し。

「そこまで口にしちゃあムードがねえさ。
 だから。あえてノーコメントで」

ずばっ、と来た言葉に男は笑う。やれやれ、と首を振れば、ニヤニヤと笑い。

「そりゃ光栄。ただ、イヤな感じがしないだけかもよ?
 案外俺、すっげぇクソな野郎かもしれないぜ?」

くつくつと笑いながら冗談めかして言い、相手の言葉に驚いたような表情になる。
そのまま、指輪を見なおせば、男は困ったように頭を掻き。

「あー、この指輪ね、うんうん。付ける位置変えたほうがいいのかね。
 この間別のヤツにも言われたんだけど。『そういう』意味はないんだけどねー……。
 ま、そーいうエロエロなやつは、また今度。お会いできた時、でいいさね。
 それかキミがノリ気になったときで」

指輪を見ながら、うむむ? と首を傾げる男。相手が伸びをして、靴を履くのを見れば、うやうやしく一礼をしてみせる。

「どういたしまして。ご満足いただけたのならば恐悦至極」

チルユキ > 「そういうのが、楽しいのでしょう?」

笑みと共に告げられたから、小さく笑った。
うん、と一つ頷いて。


「じゃあ、お前にはいないって言うの?愛する女、唯一の女」

指輪は違ったらしいが、もう一つ問いを重ねる。己が指輪を見てそういったのは、そういうことだ。
悪い男、なんだろうか。どちらでも。潮風に髪を靡かせて、とん、と岩場を降りて陸へ。

幕を下ろす道化のように頭を下げる男を振り返る。

「じゃあ、また」

血を頂戴、等戯れて。

セイン=ディバン > 「……そりゃそうさ」

相手の言葉に、男は凶悪な笑みを浮かべる。財宝、スリル、飽きない人生。
冒険者とは、それ即ちその生き様に取り付かれた人間が就く仕事なのだ。

「……えっ? えーと、あーと。はっはっは。
 ……います。妻が。ハイ」

とことんまで鋭い指摘に、途端にうろたえる男。視線を左右に泳がせ。
なぜかいきなり汗とかかき始めたが。観念して、頭を下げてそう言う。
そのまま、相手が軽やかに岩場から陸へと飛ぶのを見る。

「……また、ね」

自分への言葉に、男はゆっくりと頭を上げる。幸い、身体を包む違和感などは消えてきており。
男も何とか帰ることは出来そうだった。
空を見てため息を吐くと、男は今日の出会いのことを記憶に刻んだ。
と、いっても。しばらくは忘れられそうに無いが。

チルユキ > 小さく笑い声を立てる。
男が動揺した様子が面白かったのだろう。

バイバイと手を振って、後は振り返らずに。
満ちた腹と、穏やかなひとときがそこにあり。

ご案内:「セレネルの海」からチルユキさんが去りました。
ご案内:「セレネルの海」からセイン=ディバンさんが去りました。