2017/10/03 のログ
ご案内:「セレネルの海」にマーシアさんが現れました。
マーシア > 凪いだ水面に銀色の光を投げかけていた月は、西の水平線へ姿を消した。
代わりに東の空を淡く染め始める陽光の気配に翼を煌めかせながら、
己は一糸纏わぬ裸身を、腰辺りまで澄んだ蒼のなかへ沈めていた。

ひとの多い場所には慣れない、温かい湯に浸かるよりも、
冷たくともこうして、穏やかな流れのある水のなかに身を浸す方が、
ずっとずっと、身も心も清められる気がしていた。

白い両腕を括れた細腰へ絡ませ、豊かな胸の谷間が際立つ格好ともなりながら、
俯く眼差しを鏡面のように澄んだ水面へ落とす。
眉宇に淡い陰りが生じ、濡れて艶めく唇が微かに動いて、『彼』の名を呟いた。

「――― お、にい…さま……。
何処に、いらっしゃるの……如何して、戻って来て下さらない、の……?」

―――寂しい。
そんな感情を己に抱かせる者など、きっと『彼』以外には居ないだろう。
まるで片翼をもがれたような、魂を引き千切られたような。
絶えず肌をざわつかせる焦燥めいた痛みは、強くなりこそすれ、
『彼』を見つけるまで、決して癒されはしない気がした。

マーシア > 生命の祝福を与えられた瞬間から、片時も離れず、共に居た相手。
『彼』と居ない己自身など、己ひとりで永い時を歩むなど、
一度たりとも考えたことは無かった。

けれど――――――此の侭、では。

「寂し……い、………寂しいわ、おにいさ、ま――――」

吐息に、熱が籠る。
閉じた瞼の奥に温かい潤みを感じて、瞼が、睫毛か小さく震えた。

嗚咽は密やかに、噛み締めた唇の奥に押し殺したけれど。
眦から溢れ、白い頬を伝い落ちる雫までは、隠すことも叶わず―――。

マーシア > ―――――嗚呼、そろそろ夜が明ける。

世間知らずの己であっても、明るい陽の光の下で、
女が裸身を晒すべきでないことぐらいは知っている。
ゆえ、ひとつ大きく羽ばたいて翼を消し去ると、己は踵を返して砂浜へ向かった。

ひた、と一歩浜へ踏み出した素足を、ブーツが覆う。
拭いもせぬうちにさらりと水気から解き放たれた身体へ、
ローブを纏い、もう一方の足をさくりと。

更にもう一歩歩み出れば、己の姿はすっかり、
沐浴を楽しむ前の、何処にでも居る女の姿に戻っている。
たっぷりしたフードを目深に被り、まるで陽光から逃れるように。

涙の痕ばかりは消し去れぬ侭、海辺を後にして何処かへ、と―――――。

ご案内:「セレネルの海」からマーシアさんが去りました。