2017/05/14 のログ
ご案内:「セレネルの海 王都近くの小さな灯台」にニコルさんが現れました。
ニコル > マグメールにほど近い場に在る小さな岬。
古めかしい灯台が建ち、長閑な海辺の光景が広がる。
岬という立地上、周辺には浜ではなく岩場が多い。
洞穴も多いと聞くが、それは海の側から見た話で、灯台の麓に立って海を眺め下ろす限り、それらしいものを見付けることは出来そうになかった。

「いい眺め。やっぱり市内を抜けると空気が違うわね」

天気の良さに誘われての遠出には最適な場だった。
遠出、といっても、市内までは馬車なら然程にはかからない。
歩いたとしても、散歩にしてはやや時間的に長いと感じる程度の距離だ。
辺りには草原が広がり、点在する小さな林は灌木のような木々しかないお陰で見晴らしも良い。
渡る風がまだ若い草の香と潮の匂いとを運び、灯台の麓に立つ女の遅れ毛を揺らしていく。

ニコル > 暫し海原を眺めてから、傍らの灯台へと視線を投げる。
古めかしい石造りの灯台は静けさに包まれ、白茶けた入口の扉はいかにも重そうに見えた。
が、普段は兎も角、嵐の夜などには現役で灯を入れることもあるのだろう。
扉の横には薪の束が積み上げられていた。

「……ということは、中に入れるのかしら?
この上から見たら、もっと遠くまで見ることが出来るわよね、きっと」

呟く声には好奇心が色濃く滲んでおり。
勝手に入っていい場であるかわからないために、扉へと手を掛けてから一瞬だけ躊躇を見せる。
が、それも飽くまで一瞬のみで、直ぐに取っ手を強く引いた。
ギィ…、と、軋んだ音が響く。
鍵は掛けられておらず、扉を開けておきながら自分で驚いて瞬きを繰り返し。
そろりと扉の中を覗き込み、一応声を掛けてみる。

「ごきげんよう…? どなたかいらっしゃいますか?」

ご案内:「セレネルの海 王都近くの小さな灯台」にエズラさんが現れました。
エズラ > 「……ん、んん?」

重い扉が開く音を聞いて、覚醒する男――
扉の向こうは、灯台の一階部分に簡素に設えられた灯台守のための生活空間。
上層部に続くらせん階段の基部の他には、必要最低限の家具が置かれていた。
灯台の整備に使うと思しき道具などが散乱しているところを見ると、倉庫も兼ねているようである。
ならば、そこに据え付けられたベッドから起き上がった男は、灯台守――ではなかった。

「ンム、灯台守さんかい――すまねぇ、すぐ出ていく――」

あてもなく海辺を散歩していた時、たまたま見つけた灯台。
ひとしきり最上階からの景色を楽しんだ後、誰もいないのをいいことに、昼寝に興じていたのである。
よって、ここに入ってくる自分以外の誰かは、本来この場所にいるべき者か――
そう思い、ともかくもベッドから起き上がって扉の方を見た。

ニコル > 余りに静かな場であった為に、灯台の中から声が聞こえたことに驚いて目を瞠る。
声の主を探して視線を彷徨わせ、それが寝台から、―――否、寝台を使っていた男から発されたものと気付くと、再度目を瞠った後に瞬きを繰り返した。

「ごめんなさい。お邪魔してしまったみたいで。
……この上からの景色を見てみたいと思っただけなの。
ご迷惑なら無理は言わないわ」

てっきりこの灯台の主かと思い口にしたものの。
先方より向けられた言葉も自分を灯台守と勘違いしている様子であることに気付くと、首を傾げて一歩灯台の中へと歩を踏み入れた。

「……あなたが灯台守なのでは…?」

日傘をたたみ、ドアの横に立て掛けて。
訝し気な眼差しを其方へと向ける。

エズラ > 「んあ……――いや、別に邪魔になりゃしねぇさ。」

扉の向こうから現れた誰か――少なくとも、否、間違いなく灯台守ではないということだけは分かった。
仕立てのいい漆黒のドレスに身を包んだ、亜麻色の髪の婦人。
まさか、灯台守の――とも考えたが、続く台詞で我に返る。

「――ああ、いや、違うんだ――」

寝起きのあくびを放ちつつ、自分が何故ここにいるのか――そのいきさつを簡単に話して聞かせ。

「そういうわけだから、ま、オレもあんたとご同類――てなもんだ。いい景色だったぜ、何だったらご案内致しましょうか、ご婦人」

ベッドから立ち、階段の側まで歩むと、やんわりと頭を下げる。
お手をどうぞ、と自らの手を差し出して――

ニコル > 「まぁ……」

驚きでも感嘆でもない響きの声でどうとでもとれる当たり障りのない相槌を返し。
まさかこんな場で他人様の寝起きに関わるとは思わなかった所為で、どことなく申し訳ない思いになりつつ、欠伸をする彼を見遣った。
とはいえ、相手が寝台から出ると、押し戻すのも憚られ、ついクスリと笑ってしまう。

「お邪魔をしてしまったのに何だか悪いわ、……って言おうかと思ったけれど。
おかまいなくお休みあそばせ、っていうのも何だか変ね。
……ではお言葉に甘えて」

きちんとした夜会でダンスでも申し込まれるかの一礼に対し、此方もドレスをちょいと摘んで軽く腰を落とすことで礼の代わりとし。
差し出されたその手へと片手を重ねた。

「どうもありがとう。
……ここに登ると市内の方まで見えたりするのかしら?」

問い掛けつつ、意識は灯台からの景色へと既に向けられており。
階段を上る足取りも軽やかなものとなる。

エズラ > 「ああ、小せぇ灯台だが、それでも結構遠くまで見える――」

相手の手を柔く取ると、らせん階段を昇り始める。
これまた簡素な造りの階段であったが、大工の腕が良かったのか、二人して歩いてもそれ程大きく軋むことはない。
程なく最上階――強力な光源を据え付ける台の他、何もない場所である――に到着する。

「ほら、ちゃんと手すりを掴みなよ――」

そして、重い扉を開ければ――爽やかな潮風が吹き込んだ。
一歩外に出れば、最上階をぐるりと囲む足場の向こうに、セレネルの海がどこまでも開け、そのまま後ろを向けば、街の様子がありありと眼前に浮かんでいるのである――

ニコル > 灯台内部が薄暗い所為だろう。
扉を開かれた途端に初夏の陽射しが差し込み、その眩しさに一瞬視界が真っ白に染まった。
目を眇め、彼の手を頼りに外へと踏み出し。
そこへ開けた光景に大きく目を瞠った。
広がる海の景色は先程もこの灯台の下にて眺めたが、高さの分だけより開けて見える。
言葉も発せられずに振り返り、今度は遠く街の景色に目をやれば、そこで漸く大きく溜息が零れ、沈黙を破った。

「……嗚呼。…本当ね。街が見える。
―――此処から見ると、なんて綺麗なのかしら」

喧騒も混乱も、此処からなら遠い。
地上にいるよりも些か強い風にドレスの裾を靡かせつつ、目を細めて飽かず景色を見詰め続け。

エズラ > 「あんた……――」

絶景を楽しむ相手の姿をぼんやりと眺めつつ、言葉を発すが、そこで止まってしまう。
その出で立ちは黒――そういえば、日傘もそうであったように思う。
陽光の中で見れば、やはりその生地も仕立ても一級品。
相貌にもおよそ貴族的なものが――というより、どこか人間離れしたものを感じる。
それは、男が長年異種族入り混じる集団で過ごしてきた故の違和感か。

「……何者だい。見たとこいいとこのご婦人っつう感じだがよ。共も連れずに、ってのは物騒じゃねぇかい。」

むふ、と口端を持ち上げると、おもむろに歩み寄り――相手の身体を手すりの合間に挟むような格好になりつつ、左右の手で檻のようにその身を囲う。

「――オレのような、ケダモノに襲われちまうぜ?」

碧の瞳を覗き込みながら、問う――

ニコル > 「―――……?」

暫し景色に見入っていた所為で、掛けられた言葉の意味を直ぐに解せずに其方へと視線を向け。
自分の手を引いていた筈の彼の手が、いつの間にか導くためではなく、閉じ込めるためのものに変わっていることに、この場に相応しからぬきょとんとした顔で瞬きを繰り返す。
数拍の後に、口元だけに微かに笑みの気配を浮かべて。

「私の名前をお尋ねになっているのなら、先ずはあなたが先に名乗るのが礼儀というものではなくて?」

わざと取り繕った口調で告げるも、相手の問いがそんなことを訊ねるものではないことは何となくわかっている。
更に続く言葉に対しては軽く顔を俯けてから首を竦めて。
相手の真意を探るように、黒い瞳を覗き返す。

「私には夫がおりますの。揶揄うのならばもっと可愛らしい娘さんになさいな」

逆に揶揄い返しているかの口調。
嘘は吐いてはいない。
夫が既にこの世にはいないというだけのこと。

ご案内:「セレネルの海 王都近くの小さな灯台」からエズラさんが去りました。
ご案内:「セレネルの海 王都近くの小さな灯台」からニコルさんが去りました。