2020/05/12 のログ
ご案内:「◆ゾス村(イベント開催中)」にティクスさんが現れました。
ティクス > 【お約束待ちです】
ご案内:「◆ゾス村(イベント開催中)」にギュンター・ホーレルヴァッハさんが現れました。
ティクス > 「…なるほど。それなら、仕方ありません…よね。――余計な事を言いました」

そっと頭を下げるのだが。これでまた一つ、解った。
明らかに貴族なのだろう、この少年は。首魁ではなく。更に上からのお達しなのだという事。
更に上位の貴族なのか。或いは…国、その物か。
一筋縄ではいかない懸念材料なのだという事を。これでますます確信させられつつ。
平伏するという動作によって、二人で三つの視線は、暫し、交錯せずに済む。
その間に手早く纏める思案。恐らくこれ以上、この件について、相手から引き出す事は出来ないだろう。
案内してくれるという詰め所には、兵士達が居るのだろうが…当然。彼等についても同様だ。
村の警備状況等は、わざわざこれ以上探らなくとも、充分に把握出来ている。

顔を上げたその時には。もう、逃げる算段ばかりに。思考は偏っており。

「そういうの。何と言うんですっけ。…びじねすらいく?
いえ、良いと思いますよ。余計な事ばかり、絡んでくると…どんな仕事も。滞るので」

つくづく思う。女だから、という事柄一つ、頭に付けられるだけで。どうあっても扱いが変わってしまうのだから。
傭兵を傭兵として。それだけで見てくれるという方が。少女にとっては、なまじ親身になられるよりも。
裏を考えずに済む分、余程気楽だし、安心出来た。
もっとも…本当の所、少女は傭兵でも何でもない。盗賊でしかないのだが。

だから、少しでも。露見する可能性が増した段階で。速やかな撤退を図る事にした。
これで、周囲に兵士達の姿でも有ったなら。貴族の少年へと突進し、人質とする事を選んだかもしれないが。
幸か不幸か、今二人の周りには、誰も居らず。ならば一人だけの目撃者の、口封じを図り――

「……!?な、何だ、それ…っ…!」

いや。矢張り、不幸であったらしい。
一見すれば、直接的な武力とは無縁。そう見えて然るべき少年は…予期せぬ別種の”力”を見せた。
突如現出した盾が、矢を弾く。無かった物を招き寄せたのか、創り上げたのか、其処までは解らないとしても。
尋常ならあるという事さえ理解すれば、きっと充分。
二歩目が地に着いたと同時、大きく膝を曲げ…

「―――― …!!?」

ぞ、とした。全くの偶然だろう。
盾の護りを交い潜れるかと、背後よりも上方へと跳んだ瞬間。とんぼを切って逆しまとなる頭を、髪を掠める剛風。
これまた何処からともなく”現れた”怪物が、背後から突進していたのだと気が付かされ。流石に声も出ない程に驚きつつも。)

「冗談、は聞けないよ。こっちはもう、聞きたい事、無いみたいだ――し…!」

(回避した事で。通過しきったグリフォンが、再度反転する迄にも。亦タイムラグが有る筈だと踏めば。
着地と同時に脇目もふらず、元来た方へと全力で駆け出した。

…目立ちすぎないようにと、過剰装備を置いてきたのが拙かった。
隠し置いた其処迄戻れば。煙幕だの火薬だの催涙玉だの。逃げる為の道具が、幾つも備えてある為に。
何としてでも、先ずは其処を…差程遠くない、村外れの茂みを目指すのだ。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「気にするな。冒険者とはこと依頼に関して身長かつ、情報を集めたがるものだというのは理解している。後は、何処まで首を突っ込んで良いのか、という線引きを覚えていけば良いだろうさ」

少女の理解の通り、己もまた誰かの道具に過ぎない。
個人的に思う所はあれど、それが命令であるならば淡々と従うのみ。己の場合は、命令と言うよりは業務、と表した方が最適だろうか。
何にせよ、外れた視線の先で少女が何を考えているのか。どういう算段を立てているのか等、此方には判断も予想もしようがない。唯漠然と、向けられた警戒心と湧き上がる仄かな疑惑を感じ取るのみ。

「中々に難しい言葉を知っているな。まあ、概ねそんなところだ。結果に対しての対価。それだけで繋がっていた方が、互いに気楽であるしな」

己が損得に見合わぬ行動をとるのは"興が乗った"時だけ。
そうでなければ、此方が提示した条件を満たしたものに相応の対価を払って御終い。結果を出すのであれば、極論魔族でも構わない。男女や種族によって差が出るのならまだしも、既に完了した結果にその差は生まれないのだから。

そんな和やかでは無いにしろ穏やかな会話は、少女の行動によって終焉を迎える事になる。
放たれた矢。それは、或る意味で少女に取って最適解であり、或る意味で最悪の行動だったのかも知れない。
少なくとも己は、少女が此方の提案を拒否したとしても深追いするつもりは無かったのだ。興が覚めた、と言わんばかりの態度で終わりにする筈だったのだ。
——だが、そうはならなかった。少女は、己の興味を。或いは、獣の様な攻撃性を。僅かにではあるが、灯してしまったのだから。

「そうだな。私も、特に聞きたい事は無い。お前に話を聞きたがるのは、野蛮で粗雑で、女に餓えた兵士達だろうさ。
……だが、彼等に渡してやるというのもつまらぬ、な」

元より、接近戦の術を持たぬ此方としては、距離を取ってくれるのなら万々歳。
落ち着いて、余裕を以て。練り上げた魔力が型枠に流し込まれる様に魔術が発動し、新たな従僕が召喚される。
それは、8本足の黒馬。所謂スレイプニルと呼称される魔獣。一際大きな鼻息を吐き出した黒馬の紛い物は、尋常ならざるスピードで少女を追う。
それより一歩遅れる形で、反転したグリフォンは、その翼をはためかせ、天空へ飛翔して少女へと滑空する。

知性の欠片も無い様な、単純な肉体能力に寄る追撃。
少年本人は其の場から動く事無く、次の一手を思案しながら愉快そうに少女の逃避行の様を眺めているだろう。

ティクス > 「実際、先だの底だの。見えていないと容易に動けないというか…動くべきかを悩んでしまう、というか。
そういう同職は多々居ります。…踏み入って良いか、それを判断しかねるという意味でも」

頷いてみせる。実際の所、少女にとっての同職とは。冒険者ではなく、盗賊、という事になるのだが…
だからと言って、決して的外れな事を口にしている訳ではない。
実際、忍び込む、盗み出す、等の行為には。下調べが何よりも大事であって。
警備状況や施錠の難易度によっては、速やかにターゲットを切り替えた方が良いと。割り切らねばならない事も多い。
…現在は。人目を忍んで盗むよりも、力に倦かせて奪い取った方が効率的だと。そう考えてしまう程、団が肥大化してしまっているのだが。

「もう少し、繋がってられたら良かったんだ、けど…いや、どんな関係でも、長引きすぎると…ろくな事無いや…!」

正直、想像もしたくない。もし、少年の言うように。捕まってしまった後、兵士達の方にでも回されたなら。
なまじ敵である、捕虜である、という要因がある以上。普段よりも遙かに酷い目が待っているだろう。
距離を取り始めた段階で。彼等に渡すのも…、と聞こえはしたのだが。
それを信用する程、仲を深めた訳でもなく。そもそも上っ面の言葉を、どれだけ信じるか、という話。

何はともあれ、駆ける。今出来る事はそれだけでしかない。
近付く羽音が聞こえる為、盲目滅法の背面撃ちで、羽音の主を狙いつつも。終始足を止める事はない。
が。射撃が当たろうと当たるまいと、嫌な予感は消えるどころか。増すばかり。
更に急激に接近してくるのは蹄の音。それも、飛翔する翼よりも尚早く。
何をどうして、どんな魔術で、化け物を呼び出しているのか。気にならないと言えば嘘になるのだが。
それよりは、蹄に踏まれる末期を迎えかねない…という方が大問題だった。

「本当、に――どうして、あの国の人間って大概、何でもアリなんだ……!」

何でもない、只の人間でしかない為に。この辺毎度嫌になる。
僅かに逡巡し…近付く蹄の音に急き立てられて、横っ飛び。
最短距離で戻る事を諦め、直ぐ横合いの木立、林の中を迂回しようと。
木々が、下生えが、数多存在していれば。頭上からの視線も通り辛い、それ以上に馬は入って来にくい筈、と。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「ふむ。まあ、貴様がどう思おうと構わぬさ。とはいえ、敵対する者同士が長く慣れ合うのは確かに良くないだろうな。早々に諦めて掴まってくれれば、此方も楽で良いのだがね」

距離を詰めようとしたグリフォンは、あと一歩のところで矢に阻まれて詰め切れない。目くら撃ちにしては良い腕をしているな、と暢気な感想を抱いていたが、少女が跳躍する様な勢いで林の中に潜り込めば、己の表情は僅かに曇るだろう。

「……流石に視認出来ないままでは、殺してしまうかも知れんな。……汚れるのは嫌なんだが…」

応援の兵士を呼ぶにも、その間に少女は逃げおおせてしまうだろう。それに、折角訪れた"狩り"の時間を自ら短縮してしまう事も無い。

「身体を動かすのは苦手なんだがな。まあ、精々楽しませて貰おうか」

少女が叫んだ呪詛めいた言葉は耳に届かなかったものの。
"何でもアリ"とはいかずとも、己の魔術の中で最も汎用性に優れたものを発動する。
それは、単なる肉体強化。魔術が筋線維を強化し、補強し、皮膚を硬質化させる。同年代の貴族子弟以下の体力しか持ち合わせぬ己の躰が、歴戦の勇士さながらの力を得られるのは実に便利なものだ。

「鬼ごっこなど、何年ぶり…かな!」

駆け出した身体は、踏鞴を踏んで立ち止まった黒馬を追い抜き、文字通り砲弾の様な勢いで林の中へと突き進む。
纏わりつく深緑も。石柱の様に立ち並ぶ木々も。時にすり抜け、時になぎ倒し、踏み砕く。
とはいえ、少女とはある程度の距離があった事も事実。己が林の中に至るまでに、少女が身を隠すか、距離を取るだけの間は十二分にあるだろう。

ティクス > 「よし、よ、っし、よぉー…し……」

林に入ったその段階で。息が荒い。今にも膝が崩れそうになるのを、辛うじて耐えている…といった所。
幸い。魔術で生み出されたにしろ、生物は生物である、らしく。猛禽の目と馬の俊足とを、妨害する事は出来た。
後は次なる手が打たれる前に、武器を回収する事だ。と、決め込んで。そろそろと木々の間を移動し始める。
一番面倒なのは、兵達を呼ばれる事だ。数に頼られてしまうと、一人では手の打ちようが無くなってしまう。
今なら未だ。招集が掛かった所で、数が集まる前に。逃げきれるのかもしれないと、考えているのだが――。

「どの、道。来るなら向こうから、だな―― いや、早い?…速い?何だ、また、何してるんだ――」

考え込む時間すら。どうやら与えて貰えないらしく。
程無く後方から聞こえてくるのは、暴風じみた音…木々が掻き分けられ、押し退けられ、へし折れる音。
けたたましい鳴き声を上げて、野性の獣達が慌てふためきながら逃げていく。
一体何が追い掛けて来ているのか。気になりはするのだが、きっと、振り向いている余裕すら無く。
兎にも角にも。是が非でも。元来たポイントまでの帰還だけを目論んで。

そして。やがて少年の視界に飛び込んで来る筈だ。
改めて外套を肩から羽織り、接近してくる彼へと真っ直ぐに――両手で携えた大型のボウガンを。構え向ける少女の姿。

「――――動かないで。ここからは、鬼ごっこじゃないよ…だるまさんがころんだ、だ」

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 威勢良く林の中に飛び込んだ代償は、中々に大きなものだった。
先ず、礼服の上着は既に用を成さない。擦り切れ、小枝が絡まり、何だか良く分からない植物の破片が纏わりついている。富裕地区で屋敷が買える、と豪語出来る程の値がつく礼服は、唯の襤褸切れと化してしまっていた。

次に、追い付いた少女が既に己に対しての迎撃態勢を取っていたこと。もう少し逃げ惑うものかと思っていたが、存外準備の良い賊だったらしい。己に向けられた大型のボウガンに装填された鏃が、鈍く輝いている様が視界に映る。

「……成程。とはいえ、その児戯で貴様が有利になる事があるのかね?時間は私の味方だ。兵士の巡回が先か。貴様が私を出し抜いて逃亡するのが先か。或いは、此処で大人しく私に下るか」

それでも、向けられた鏃に対して緩やかに。ひらひらと軽い動作ではあるが両手を上げてみせる。
それは無抵抗の意思表示、というよりも、己に武器を向けるまでに至った事への賞賛。
それ故に、両手を上げた儘傲慢に。慢心を持って一歩足を踏み出した。

「撃つが良い。だるまさんがころんだ、とやらは動いた者が敗者となる児戯であったな。だが生憎、此処には審判はいない。私を止めたければ、、止められるのならば。引き金を引け、賊」

襤褸切れとなった上着を脱ぎ捨て、ゆっくりと。殊更足音を響かせる様な足取りで、少女へと歩みを進めていく。

ティクス > 等しく木々の隙間を駆けたのだ、同一の代償は、少女の身にも降り掛かっている事だろう。革の防具以外は、酷い有様なのだろうが…
此方は元より衣服に、大した金など掛かっていない。被害額など微々たるものだ。
生き残れば、逃げおおせれば、それで勝ち。勝利条件は変わっていない。

「児戯ではあるけど、遊びだからって、手を抜くのはお薦めしないよ?
子供だろうと、危ない武器を玩具にすれば。うっかり人死にを出す事も有るんだし――」

彼が一歩目を踏み出す…一瞬前。ちらりと脇に目を向けた。
此方の言葉を真に受けて、少年が足を止めているのなら。構えた侭にじりじりと距離を空け、後退する素振りを思わせて。

だが、少年は止まらない為に。…同時に、僅かな隙に一気に距離を詰めてくる、とはならなかった為に。
…ほんの少し。唇を綻ばせた。

「そうだね、審判が居ないなら。正々堂々、自己申告制…で、どうかな!」

二歩目。そして、三歩目が踏み出された瞬間。躊躇無く引き金は引かれ。真っ直ぐに矢は飛来する。
矢張り狙いは先と変わらず、一撃の下に仕留めんとする急所を目掛け。

だが、仮に少年の魔術が、その瞳をも強化していたなら…気付くかもしれない。
高速で迫る矢の尖端が。貫く為の鋭い鏃ではなく。何らか、丸い物を――何かの詰め物が入った器を取り付けられている事に。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「成程?であれば、きちんと教育してやらねばなるまいな。危険な玩具を取り上げ、縛り付け、折檻でもしてやらねばならぬだろうか」

尊大な口調と共に零れる含み笑い。
わざとらしいまでに緩慢な足取りも、その口ぶりも、全ては己の能力への自負と慢心有るが故に。
少女が己に背を向けて逃げ出せば、強化された肉体で追い付けば良い。後退する素振りを見せても、その余裕を含ませた態度に変化は無いだろう。

「……一つ忠告しておいてやろう。貴様の獲物を見て、それでも私が足取りを止めず、撃てば良いとまで言ったのだ。無策な儘、私が此処迄至ったと思ったのか?」

確かに、魔術に寄って瞳——所謂動体視力——も強化されてはいた。しかし、己が少女に劣る部分。即ち、実戦経験の少なさは、放たれた鏃に取り付けられた物を視認するだけで留まるだろう。
己の弱点。戦慣れした者と対峙した際の対応力に劣る事。それを理解した上で、此の場所で対峙しているのなら。
己の不足を補う駒を、増やせば良いだけの事。

その結果は、突如大地を割く様に伸びた木の根が、放たれた鏃を掴み取って空中で静止させるという事実で現れる。
その根の主は、苦悶に歪む女性の貌を幹に生やし、這い寄る様に現れた魔物——ドリアードの紛い物のもの。
鏃を掴んだ根はそのままに、ドリアードの本体から無数の根が少女を捕えようと蛇の様に迫るだろうか。

ティクス > 「そいつは御免だよ、こちとら…とっくに働いてる身でね。
お坊ちゃんみたいに遊んでられる程、暇じゃないんだから」

勿論少年がやっていた事も。立場上の仕事であって、遊戯ではないのだろう。
それでも口にするのは。挑発…なら良かったのだが。実際の所、売り言葉に買い言葉、という程度。
ただ少しでも。言葉の応酬が、相手の判断能力を鈍らせられるなら。都合が良い、という心算で。

「まさか。…ちゃんと、対処すると。思うからこそに決まってるじゃないか…!」

確かに、少女は少年よりも。実戦経験という物は多いだろう。
しかしそれはあくまでも、少女という年齢の割に…であって。百戦錬磨とは言い難い。
だから二つ、失敗を犯す事となった。
一つは、少年の言う対策が。最初と同じく防御だろうと踏んだ事。
もう一つは…これは仕方がないのかもしれないが、魔術という物の汎用性を、知らなかったという事だ。
それによって、盾の出現を目論んで放たれた矢は――

「…!?」

残念ながら、少年の元まで届くよりも先に、「掴まれた」。
大型の動物が入り込んで来ない場所に、だが、植物が蠢いて。

うねる木の根に握られ、潰れ。途端弾けたのは煙幕。
目に痛い程に赤々しい粉塵は。以前別の冒険者に盗られたのと同じ、唐辛子その他がふんだんに混ぜ込まれた物であり。
影響を受けたのなら、正しく、目と言わず鼻と言わず、激痛に苛まれるであろう催涙煙。
但し今回、目標へと至らぬ距離で爆ぜた為。どこまで影響が及ぶのかは判らない。

そして。樹木ならば当然と言うべきか、視力など関係なく伸びてくるのだろう根が…一つ。
跳び下がる少女に追い付き、足に絡み…引き、倒される。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「……ハッハ!違いない。そうさな。所詮は遊びに過ぎぬ。貴様に取っては生死を賭けていようが、何某らの目的があろうが私には関係無い。所詮は児戯。私にとってはな」

少女の挑発に返すのは、愉快そうに嗤う言葉。
結局、己に取っては此の瞬間の攻防も遊びでしかないのだと、声を上げて嗤うだろう。
尤も、それは図らずも少女の思惑通り、此方の判断力を一瞬鈍らせる結果になっているのだが。

「成程。では、お手並み拝見と……!?」

少女と同様に、此方も失敗を犯す。数は一つ。しかして、それは中々に致命的。
鏃の先に取り付けられた袋に気付きながらも、従僕にて対応出来ると慢心したが故に、舞い上がる深紅の煙幕に一瞬対応が遅れる。
ドリアードによって直撃と呼べる距離で浴びる事は避けられたものの、当然風に舞う粉塵を全て避ける事など無理な道理。咄嗟に抑えた口元はまだしも、目と鼻から侵入した粉塵は、己の判断力と思考を奪うに十分過ぎた。

「……げほっ……ご、ほっ……!
…こ、の。やってくれたな……溝鼠風情、が…!」

己の深紅の瞳は、粉塵によって更に朱く。生理的な涙を零し、瞳を開けるのもままならない。息を吐き出す度に咳き込み、荒く息を吐き出す。直撃していれば、少女の思惑通り此方は完全に身動きなど取れなくなっていただろう。

そんな無様な有様でも尚、真っ赤な瞳で少女を見据える。先程迄の余裕は無い。己の自尊心を。無様な姿を曝け出すに至った事への怒りと矜持が、膝をつく事を許さない。

「……兵士になどくれてはやらぬ。貴様が噛み付いた相手が何であったのか、その身に分からせるまではな」

未だ癒えぬ瞳と呼吸器の痛みを堪えながら、ドリアードへ緩く手を振る。
主の命じるが儘、無遠慮に、乱暴に。引き倒した少女を少年の下へ引き摺ろうと根が蠢き始めるが――