2020/05/04 のログ
シア > 木々の間を抜けて、建物の影を進む。
幸いにしてというか、見回りしているような兵士や冒険者がどこにもいない。
油断しきっているのか、村の中は安全だと信じ切っているのか。
そのどちらなのかは分からないけれど。

やがてさほどの時を置くこともなく、倉庫の傍にまで辿り着く。
さすがに物資が運び込まれた倉庫の前には見張りが立っている。
それは外部の襲撃を警戒してというよりも、内部での争奪を警戒してのこと。

欠伸を漏らす警戒心の薄い兵士がひとり。
屋根の上から、その背後へと降り立つと、身体強化を施した手刀を一撃。
見張りの兵士は、短い呻き声だけを残して、その場に崩れ落ちる。

「………見張りがひとりとか、やる気がないとしか思えない…」

ぽつりと零してから、崩れ落ちた兵士を倉庫脇の物陰へと引きずり込んでから、倉庫の中へと忍び込む。
見張りが居ないことを訝しむものがいるかどうか。
居たとしても、そもそも長居するつもりはない。
持てるだけのものを盗み出せば、すぐに撤退する予定。
上の方からの指示では、場合によっては火を放っても良いとのことではあったけれど…
さすがにそれは躊躇われ。
偶然にも倉庫にやって来た者が居れば、少女のその一連の行動を見ることが出来たかどうか。

ブレイド > 村の倉庫傍へとやってきた。
現在の状況を考えると、警備も厳重であろうと思っていたのだが…
見回りも見当たらず、ましてや見張りが立っている様子も見えない。
いや、こんな状態でなくても食料庫のそばをがら空きにしておくことなど農村ではありえない。

訝しみ、倉庫に歩み寄ってみれば…そこには兵士のすがたはなかった。
いや、兵士の姿はあった。
ただし、不自然に引きずられていく脚が目に入ったにすぎない。
しかし、それは明らかな異常な事態。
盗賊…もしくは、なにかしらの敵対者が兵士を昏倒させ隠そうとしている、まさにその状況だった。

緩まっていた気を、瞬時に引き締め
倉庫の入り口に駆け寄る。
兵士を隠した何者か…放っておくわけにはいかない。

「誰かいるだろ!!でてこい!」

兵士の姿が完全に隠されたとはいえ、隠すところを目撃しているのだ。
決め打ちで、倉庫の中に声を響かせる。

シア > 倉庫の中には、大量の食糧や薬の類。
それに武器や防具、衣服といった装備品が積まれていた。
武具には微塵も興味を示さずに、まっすぐに向かうのは食料品が積まれた山
木箱の中から、とりあえず干し肉を探し当てると、それを口に放り込む。
これくらいでは腹の虫が鳴りやむことはないけれど、本格的に物色し始めるまでの時間稼ぎにはなるだろう。
隣の木箱を空けようとしたところで、不意に倉庫内に声が響き渡り――

「………予想より早く見つかった…」

窓がないわけではないものの、その位置はかなり高く、そこから抜け出せるかというと微妙なところ。
それよりは目の前の相手をどうにかした方が早いだろう。
幸いにも聞こえた声はひとりだけ。
他に外で騒ぐような物音も聞こえない。

出てこいと言われて素直に出ていく盗賊が居るはずもなく。
息を殺して物陰に隠れたまま。
相手が倉庫の中へと足を踏み入れれば、その瞬間に仕留めるつもりで、投げナイフを摘まみ上げる。

ブレイド > 当然返事はなく、姿を表すわけもない。
そんな盗賊がいるわけもない。気配も薄く、あらされた食料の箱だけみれば
ネズミか何かの仕業だと言われても納得できるかもしれない。
だが、倉庫に一歩踏み込み扉の脇をみれば、気絶した兵士の姿。
知性のあるものの手によるものだという証拠だ。

そして、倉庫の窓は高所、しかも狭い。
人間を運べるほどの体格をもつものであれば抜け出すにしても時間がかかる。
気を張り詰めつつ、倉庫の入り口から少しずつ前へ

「血の旅団ってやつか?オレは別に依頼を受けたってわけじゃねえんだが…」

こんな事を言ったとして、相手が気を緩めるはずもないだろう。
聴力を強化するためにイメージを強め、身体強化を施す。

シア > ――息ばかりか鼓動さえも止めたかのような静寂。
相手がよほど気配に敏感でなければ、こちらの居場所を特定することはできないだろう。
当然、話しかけてくる内容に返事を返すわけもなく。

入り口に見えた人影が、一歩、倉庫の中へと足を踏み込めば。
その脚を狙ってナイフを投擲する。
続けざまに胸元――心臓を狙っての第2射。

仮に灯りを持っていたのなら、その凶刃がギラリと禍々しく閃いたのが見えたかもしれず。
空を切り裂きながら、その2条の軌跡が相手へと襲い掛かる。

同時に、少女は隠れていた物陰から飛び出した。
入り口にいる相手に飛び掛かるには、少し距離がある。
けれども、同じ場所に居続けていても、ナイフの軌道から場所を特定されてしまうだろう。
脚に身体強化の魔法を施して、その距離を一気に詰める。

ブレイド > 通常であれば、気づくことはないだろう。
それほどの隠形。
だが強化した聴覚に届いたナイフの風切り音。
脚を狙ったそれを一歩下がり、紙一重で躱せばすぐさま右手で腰のシースから大型ナイフを引き抜き
心臓狙いのナイフを弾く。

「チッ…」

舌打ち一つ。
灯りでもあれば良かったのだが、状況が状況。
流石に相手の姿を映し出すこともできない。
だが、強化された聴覚でだいたいの居場所は把握できる。
相手が地を蹴りこちらに近づいてくることも。
だが、思ったよりも疾い…!

「ッ…そ…がっ!!」

左手、もう一本のナイフに手を伸ばし距離を詰めてくるであろう敵…つまり眼前に当たりをつけて抜き打ちのように大型ナイフで斬りつけた。

シア > 投げナイフは避けられ、もう一本は弾かれる。
けれどももとより、それだけで仕留められるとは思っていない。
相手との距離を一気に詰めて、そのまま一撃を加えようと襲い掛かる。

「――――!」

振り下ろすかのような軌道で斬り付けられる。
咄嗟のことにそれを躱すだけの余裕がなかった。
これが普通の一撃ならば、見てからでも十二分に躱せたはず。
けれども、ただの人間が放った一撃にしては、それはあまりに鋭いもの。
手にしていたダガーでそれを受けたのだけれど。

―――パキンッ

甲高い金属音。
その後に襲い掛かる衝撃に続いて、少女が手にしたダガーが砕ける。
それだけの鋭い一撃を受け止めたのだから、安物のなまくらが耐えきれるはずもない。
そのまま振り下ろされる一撃を、身を捩ることでどうにか躱す。

ぎりぎりでどうにか躱すので精一杯。
次の攻撃を放とうとするけれど、それには一度体勢を立て直さなければならず。

ブレイド > 暗闇の中、金属がぶつかり合う音と火花が散り、ほんの一瞬だけ賊の姿を映す。
思った以上に小柄…
流石に火花程度の一瞬では顔まではわからなかったが…
男の冒険者の中では小柄な自分よりも更に小さい…おそらくは女か。

苦し紛れにはなった一撃はなんとか相手の得物を破壊することができたようだ。
こちらが大型で肉厚のナイフであったことが幸いしたようだ。
肉体強化が間に合ったのもあるだろうが…

「させっ…っか!!」

攻撃そのものは回避されたが…
相手は体勢を崩している。
強化された脚力で一気に間合いを詰め、肩からの体当たりを敢行する

シア > ほんの僅か。
戦場ではその僅かの差が生死を分けることになる。
崩れた態勢を元に戻す、その一瞬の隙に、相手の身体が間近に迫る。
それは先程自分がやったのと同じような動きで。

「―――――きゃっ!?」

無防備なところに繰り出された体当たり。
パワーよりもスピード重視の少女に耐えきれるはずもなく。
小柄な身体が簡単に拭き飛ばされる。

倉庫の床を転がり、そのまま壁に激突してようやく止まる。
身体強化の魔法は掛けたままだったから、どうにか気を失うことは避けられた。
けれど体当たりと激突の二重の衝撃に、まともに息をすることも出来ず。

土埃に塗れた灰墨色のローブの下で、けほけほと咳き込む声は、まだ年端も行かない少女のもの。
すぐに起き上がって逃げなきゃと脳が警鐘を鳴らすけれども、強かに打ち付けられた身体はすぐには起き上がれず。

ブレイド > 女の声。
それは予想通り…だが、思ったより声が幼い。
子供か?だが、油断する理由にはならない。

身体を壁に叩きつけられ、動きの鈍くなった賊に対し、強化された脚力そのままに肉薄し
その小さな体を抑え込むように、上から覆いかぶさる。
その首にナイフを突きつけ、ようやく息を吐く。

「っは……てめぇ!妙な動きはするんじゃねぇ!!」

身体のどこかに武器を隠していてはたまらない。
腕の自由を許しはせず、ナイフの刃を首に押し当てつつ相手を恫喝するように
声を荒げた

「いいか、動くな。首を切り落とされてもいきてるってなら構わねぇが…
とにかく、顔を見せろ」

シア > 打ち付けられた衝撃のせいで、肺の中の空気が足りない。
喘ぐように咳き込む喉元に、禍々しい刃が突き付けられる。
さすがにこうなってしまったら、ここから形勢逆転できるような奥の手は持ち合わせておらず。

「――――首を落とされたら、死ぬに決まってる。」

相手がフードに手を掛ければ、いくら暗がりであったとしても、その頭に獣の――猫のような耳がはっきりと見えることだろう。
次いで目につくものがあるとすれば、その首に巻かれた黒い首輪。
そしてその幼げな顔は、吹き飛ばされた恨みとばかりに、相手を睨み付けていた。

平坦な声音ではあったけれど、何を馬鹿なこと言ってるのと言わんばかり。
ここで命乞いをしたところで、待遇が良くなるとは経験的にも思えやしない。
そんな自棄っぱちな感情も透けて見え。

ブレイド > 皮肉めいた言葉を返すが、抵抗はない。
素直にフードを剥ぎ取れば、声からの予測どおりの幼さのある顔。
だが、それ以上に目を引くのがミレーの証…獣の耳。

「だろうな。おとなしくしてろ。死ぬに決まってるってならな」

睨みつけてくるが、先にナイフを投擲してきたのは彼女の方だ。
意にも介さず、彼女の身体をあちこち弄る。
素早さを売りとする…野伏や斥候のような連中は武器を隠し持っていることが多い。
自分も軽戦士だ。小型のナイフなどはいつでも使えるように隠し持っている。

首輪が気になるが…
ともあれ、冒険者や兵士ではないだろう。
略奪するのにこんな手間をかける必要はないのだから。
野盗…の線も薄い。
このあたりは最近王国軍により奪還された場所で、兵士の出入りも多い。
こんな所にいちいち盗みに入るやつはいない。
ならば……

シア > 身体のダメージは抜けたものの、未だナイフは突きつけられたまま。
隙があれば、いつでも抜け出せるように様子をは窺っているのだけれど、その隙が見当たらない。

「………むぅ……」

それにこっちの挑発的な言葉にも乗って来ない。
しかも丹念に身体を調べてくる始末。
結果として残していた投げナイフや投擲用の鉄球があっさりと見つかってしまう。
あとはベルトに通して隠してあるワイヤーくらいか。
そのどれもが市販品としても廉価な粗雑品だと見れば分かるだろう。

「………いつまで触ってるの、ヘンタイ」

何やら考え込んでいる様子の相手。
他に仲間を呼ばれてしまったら余計に逃げられなくなる。
そうでなくても、ここで時間をかけ過ぎれば、他に見つかってしまう可能性も出てくるわけで。
ダメ元で、そうやって挑発する。
大人しくはしているものの、喉元に突き付けられた刃を恐れている様子は見せず。

ブレイド > 身体を漁れば、出るわ出るわ…暗器、隠し武器…
蛇の道は蛇とはよく言ったもの。
とはいえ…粗悪な品が多く、賊としては質が良くない。
彼女の身のこなしを見る限り、体捌きは一流のそれなのだが、道具が足を引っ張っている。
今の戦いだって、相手の短剣がもう少し頑丈で上等なものであれば
どう転んでいたかはわからない。

ひと通り見て、気づけた武器はそれくらいか。
裸にひん剥いてしまうのが、一番手っ取り早いが…
その前に一つ、動揺を誘ってみるか。
彼女の挑発を聞き流しつつも、じぃっと見つめ、目を細め

「…この装備……斥候か工作員ってとこか?」

こんなところの倉庫を…わざわざ隠れて狙う者となれば、そんなに多くはない。
おそらくは血の旅団の構成員。もしくは混乱に乗じた脱走奴隷くらいなものだ。
そして、奴隷はあんな動きは普通はできない。

シア > やっぱり挑発には乗って来ない。
やりにくいことこの上ない。
逃げ出す隙が見当たらずに嫌になる。
それでもこのまま捕まってしまったら、どうなるかなんて想像もしたくないもので。

「………だったら何?」

別に隠すようなことでもない。
バレたからと言って、扱いが良くなるとも思えないし、盗賊団の内情について特別情報を持っているわけでもない。
けれども素直に答えるのも何だか癪で、そんな風に答えてしまう。
ついでに覗き込んでくる瞳を、そのまままっすぐに睨み返してやる。
意訳するなら、そんなの見たらわかるでしょ、といったところ。

ブレイド > 拙い挑発…単細胞や、調子に乗ったやつであればのったかもしれないが
ここまで不利な状況で反抗的に出る理由など
挑発に乗せて隙を作る以外にはない。
だが、残念ながら有利なのはこちらだ。

「いや、兵士に引き渡しゃ謝礼でも出るかなってな。
何にせよ、盗みの現場を抑えたんだ。
今日の宿くらいは困らねぇかもな」

にらみつけるミレーの少女の視線を受け流すように笑って見せて。
まぁ、自分は血の旅団討伐には参加していないので、偶然もいいところなのだが…

「あと、この程度で変態ってのは心外だな」

ローブの襟元、首を抑えていたナイフで切込みを入れて。

シア > いくら煽っても、隙を見せない冷静な相手
これ以上は煽っても仕方がないと口を噤むことにした。

相手の言う内容は、特に嘘も含まれてはいないだろう。
その謝礼がいかほどかは分かりかねるけれども、
そうした場合に自分が辿る運命は目に見えている。
好きにしたらいいとばかりに、睨み付けていた視線をぷいっと外す。

「……………やっぱり変態」

口を噤んでいこうとは思ったのだけれど、ローブを切り裂こうとする動きに、冷たい声音を返す。
そのままローブが切り裂かれれば、身体に密着した黒装束が見てとれるだろう。
身体のラインは成熟というにはほど遠く、しかも痩せっぽっち。
女性としての魅力には欠けるどころか、欠片があるかどうかといったところ。

それでも胸の膨らみは多少は分かるし、お尻には僅かばかりの肉付きもある。
団員たちに玩具にされる程度には、開発もされているから、そういうことには慣れているわけで。

ブレイド > ナイフでローブを切り裂き、ベルトにもナイフを滑り込ませる。
挑発に乗った形にも見えるが、念には念。
強気に出られる材料がなければ執拗に煽ってくるとは思えない。
斥候や工作員であるならばなおさら。

「変態で結構だ。
賊に罵倒されるだけで安全が買えるってなら安いもんだ」

黒装束に包まれた痩せた身体。
少しばかり女性らしさは垣間見えるが
性的魅力という点は一般的な視点から見ればあまりないと言えるだろう。
自分はその限りではないが…今は、そんなことを考えるべきではないだろう。

「まぁ、このまましょっ引いてもいいんだが……同族のよしみだ
少しのくいもんだけ持っておとなしく帰るってなら見逃してやらねぇでもねぇ」

シア > 他人から見れば襤褸布でも、自分にとっては一張羅
そんなローブを台無しにされて、更には貴重なベルトまでも真っ二つにされてしまう。
当然忍ばせておいたワイヤーも、使い物にはならなくなっている。

相手の言い分には、それが納得できてしまうだけあって、余計に憎たらしい。
けれども、手を出されるかと思って身構えていたのに、それ以上は何もされず。

「………どうぞく?
 何、企んでるの……?」

予想を裏切られて、そればかりか見逃すと言われてしまうと、睨み付けることも忘れて素で訊き返してしまう。
けれども、そんな甘い話があるはずがない。
それに乗ったら最後、またひどいことをされるに決まっている。
年相応の表情を見せたのは、ほんの一瞬。すぐに警戒した疑いのまなざしを相手に向け。

ブレイド > やはり何か仕込みがあったか。
ナイフを通して感じる手応えは、薄っぺらいベルトにしては強い抵抗を感じた。
薄い刃か、鋼線か…そんなところだろう。
おそらくはこれが奥の手と言ったところか。
これで、抵抗する術は全部奪った…と思いたい。
ようやく、普通に話せるといったところか。

「同族。まぁ、オレもこのとおりだ」

フードを下ろせば、黒い髪、金の双眸、そして猫のような耳。
拘束を緩め、覆いかぶさっているからだから立ち上がる。
無論、油断はなしだ。
先の速度を見れば、体術だけでもそれなりに驚異。

「企んでるとかじゃねぇよ。血の旅団も王国もオレにゃ関係ねーからな。
同族売ってどうこうしようってのは、オレの性に合わねぇだけだ」

ナイフを持ったままに、呆気にとられたような少女に言葉を投げる。

シア > 疑いの眼差しは、けれども相手がフードを取ったことで困惑へと変わる。
正確には、そこにあった自分とよく似た、色違いのそれを目にしたため。

「……う、そ………そんな……」

それまでは、逃げ出す機会を窺って何時でも飛び出せるようにと僅かに身体を起こしていたのだけれど。
自分よりもわずかに年上といった感じの相手の顔をまじまじと見つめて、ペタンと腰を落としてしまう。

「………そう、なんだ……
 うん、そっか………わかった。」

しばらく考えがまとまらずに呆けていたけれど。
同族だというのなら、正面からぶつかって負けてしまったのも納得できるわけで。
まだ若干の警戒心は残っているものの、睨み付けることもなく、先ほど見せた年相応の表情を相手に向ける。
急に気が抜けてしまったせいなのか、干し肉をひと欠片口にしただけだった腹の虫が騒ぎ出し。
静かな倉庫の中に、きゅぅ~と間の抜けた音が響いてしまう。

ブレイド > 何かよくわからないが、少女はややうろたえた様子を見せる。
同族であることがそんなに珍しいことだったのだろうか?
確かに、ミレーであることは隠しているが…顔に妙なものでもついていたか?

「なんだかわかんねーが…納得してくれたってならいい。
オレもこれ以上、同族の…しかも女は痛めつけたかねぇからな」

大きく息を吐いて、くるりと手の中で大型のナイフを反転させれば腰のホルダーに収める。
相手もこちらと同じく気が抜けたようで、へたり込んでしまった。
そして、響く腹の虫の声。
思わず吹き出してしまう。

「くっ……はははは、血の旅団ってのは飯もまともに食わせてもらえねぇみてぇだな。
まぁいいか。村のもんはこれ以上手ぇつけさせるわけにゃ行かねぇが…」

自分の荷物袋から、パンと水袋、保存食をいくつか取り出し。

シア > 「………思ったよりも良い人」

パチパチと瞳を瞬かせてから、ぽつりとそう零す。
同族に会うこと自体が稀で、こうやって話をしたことなど数えるくらいしかない。
そんな滅多にない体験だけに、わずかに残っていた警戒の色もすっかり置き去りに。

「うぅ………シアは、下っ端だから。
 …………食べて、良いの?」

腹の音を笑われてしまうと、無性に恥ずかしくて真っ赤になってしまう。
けれども、取り出された食べ物に視線は釘付けに。
きらきらした瞳をパンと相手の顔へと交互に向けて。

「た、食べてから……お金請求されても、ないから。
 ……ほんとに、食べちゃうよ?」

手を付けていいものかと、何度か伸ばしかけ。
パンを掴んでからも、何度も念を押す。
そうして言質を取ってからは、がつがつと勢いよく食べ始め。

ブレイド > 一気に毒気が抜けたかのようで
先程からの刺々しさから一転、急に素直になったように見える。
言動もやや、幼さを増しているようで
おそらくこれが彼女の素なのだろう。

「変態扱いからだいぶ格が上がったな。
シアっつーのか。オレはブレイドだ」

真っ赤に頬を染めているあたり、女の子らしい恥じらいも持ち合わせているようで
服を切り裂いたのが少しばかり気の毒に思えてしまった。

「金がねーのは言われなくてもわかってらぁ。
その服のどこに金隠すってんだ。
ま、気にすんな。こっから王都に帰るだけなら、そんぐらい無くなっても問題はねぇし」

ついでにと、自分の替えのフード付きのマントを彼女の方に投げ渡す。

シア > はぐはぐと喉に詰まらせそうな勢いでパンに齧り付く。
その姿だけを見れば、どうみても女の子らしいとは言えないのだろうけれど。
とりあえず手元のそれがなくなると、少し落ち着いたらしく。

「………美味しかった。その、ありがと。
 ブレイド………」

手に付いたパン屑を丁寧に舐めとりながら、ほんの少し居心地悪そうに御礼を口にする。
こんな風に食べ物を貰えたことなんて、あったかどうか。
教えて貰った名前を口の中で転がすように呟いて。

身体を調べても1ゴルドも出て来はしない。
まさに無一文で放り出されたのだから仕方がない。
何も要求されないことに、未だに信じられないといった表情で。

「ふぇ……これ……?」

投げられたマントを受け取る。
パンだけでなく、マントまで使って良いの?と首を傾げつつ、くんくんと匂いを嗅ぐ仕草。
眠そうに欠伸をひとつ漏らして、そのままマントへと顔を埋めて。

ブレイド > 彼女の食べっぷりを見る限り、どうやらなんの誇張も比喩もなくろくに食わせてもらっていないらしい。
その姿を見守りつつ、自身も保存食をいくらか口に運ぶ。
味はまぁ、店のそれに比べれば大したものではないが
彼女にとってはそれでも上等なごちそうらしい。

「別にかまわねーよ。
服の代金だと思っとけ」

礼を言われると、なんだかくすぐったい。
したたかに体を打ちつけたはずだが、それほどダメージもなかったようで一安心というところか。
ついでで服の代わりにと投げ渡したマントの意図は伝わらなかったようだ。
誰かに頼る…といったことは出来なかったのだろう。
そして、誰かに何かを与えられるということもなかったと思われる。

「その格好じゃ、道中襲われちまうだろ。
オレみてーに、細っこい身体が好きってやつは少なくねーし」

少し眠そうな彼女に笑いつつ、彼女が空けた保管庫の箱を丁寧に閉じ
兵士が起きてもばれないようにしておく。
彼女は眠そうだが…兵士がいつ起きるかもわからない。
どこかに連れて行ったほうがいいだろう。

シア > 気を抜くとそのまま寝てしまいそう。
マントの触り心地を感じつつ、少女にしては珍しく何の警戒心もなく。

「服の……? 使って良いなら、使わしてもらうの。
 ………? 細いのが好きなの?」

そういう人は確かに居たけれど。
大抵の男たちは、みんな胸が大きい方が好みだった。
思いがけない情報に、首を傾げ。

相手が片付けに入ると、眠そうにしながらもこちらも立ち上がる。
ベルトを切られてしまったズボンは少しずれ落ちてしまいそうだけれど、なんとかなる。
その場で少し飛び跳ねて、身体の調子を確認。
問題なさそうなら、マントを着込んでフードをすっぽりとかぶる。

「ブレイド、だいじょうぶなの……?」

これ、とフードを指さして。
本当に使ってしまっていいのかと、再度、念を押す。

ブレイド > 眠そうだが、敵地だというのにやや警戒心に欠ける…というか
先程に比べだいぶ緩んでしまっているようだ。
少しばかり心配になるほどに。

「構わねーよ。替わりはいくつかあるからな。
…あー、まあ、そうだな…。
さっきは状況が状況だったんで、何もしなかったがよ」

余計なことを言ってしまった。
少し渋い表情を見せつつ肯定する。
少女のような体型が好みというのは少しばかり自分でも困りものなのだ。

彼女がマントに身を包むのを確認すれば
自身も荷物をまとめて

「あ?ヘーキだって言ってんだろ?
妙な気回すなよ。
あと、村出るならオレも付き合うからな。ついてこい
ここに残ってたら何言われるかわかんねぇ…」

気絶中の兵士を指差し、嫌そうな表情で。
それに、万が一見回りが追加されていた場合、自分と一緒にいたほうが彼女は怪しまれないだろう。

シア > 変わってはいるけれど、だから何だということもなく。
それとも、やっぱりするの?と瞳を向ける。
先ほどとは違って、嫌悪の色はその瞳には見えないけれど。

フードを心配したけれど、問題がないというならありがたく使わせてもらおう。
村を出たところで行く先は、森の中にあるいくつかある盗賊団の拠点。
戻ったところで、どうせすぐにまた偵察に駆り出されるのだろうけれど。

「……うん、わかった。」

先ほどまでの緩んでいた雰囲気から一変。
視線が鋭くなり、倉庫の外を窺うように耳がせわしなく動く。
どうやら他に見張りが来る様子はない。
付いて来いと言われると、少年にピタリとくっついて。
そうして夜のうちに村を出ることになる。

ブレイド > 「アテがねえってなら、一旦王都までついてくりゃいい。
オレのせいだが、任務ってやつ…失敗してんだろうしな。
帰ったところでいいことねえだろ」

自分のせいではあるものの、やはり帰ったところでひどい目に合うというのであれば
同族としていい気持ちはしない。
彼女の反応を見る限り、おそらく彼女を扱っているのもミレーではない者
つまり奴隷扱いしているような連中だ。

「ま、そりゃいいか…いこうぜ」

彼女を連れ立ってあるき出す。
斥候としては優秀なようで、外に出れば警戒を強めた。
こんな時間だ…
しばらく歩いたあとどこかで野営をすることになるが、それはそれだ。

シア > 村に入るのも簡単だったけれど、出るのも簡単。
暗闇に乗じて、あっさりと抜け出してしまう。

誘われはしたものの、困ったような表情を浮かべるばかり。
相手の言うことはそれはもう事実なので、頷くしかないのだけれど。

少なくともその夜だけは、一緒に過ごすことになる。
朝になれば、その姿は消えているかもしれないけれど―――

ご案内:「◆ゾス村(イベント開催中)」からシアさんが去りました。
ご案内:「◆ゾス村(イベント開催中)」からブレイドさんが去りました。