2020/01/09 のログ
ご案内:「ゾス村」にプレデランターさんが現れました。
プレデランター > ひっそりと咲いた蕾。

村人はそれが何かを知っている。
見た通りの、さも美しい花を咲かせるかの如き蕾としなやかな緑の茎が見た通りのものではないのだと。

過去に村人が捕食され、村娘が捕食されるよりも恐ろしい苗床として延々と体内に囚われ飼い殺される事態となった時点で村の中、村の近隣で一輪だけの蕾を見たら絶対に近づいてはいけないというのが暗黙の了解となっていた。

それは一度獲物だと認識すると狡猾に待ち続ける姿勢から一転して自ら移動し獲物を追い回す習性を持つ獰猛な捕食植物の魔物である。

地中を通り、茎の根本を辿ればよく見ると村の広場の隅に昨日までは無かった緑色の苔むした岩が鎮座していた。

実際は岩ではない。
蕾は魔物の擬態した眼、岩は岩と見紛う人はおろか馬や牛などの家畜さえ丸呑みできる程の魔物の巨体だ。

村人達は今日は村の中にいるのか、と忌々し気に吐き捨てながら子供達に絶対近づくなと言い含めてなるべく魔物が反応しない距離を保って生活せざるを得なかった。

獲物が手に入らなかったら違う狩場を求めて移動する場合もあるが、同じぐらい凶暴化して家畜や村人を襲う可能性もある。
かといって討伐しようとしても凶暴且つ強力なこの魔物は今迄報奨金に釣られて討伐に訪れた冒険者、物珍しさから飼育しようと試みた魔族等、法外な金額を吹っ掛けてきた騎士崩れの傭兵団さえ等しく腹の中に納めてしまった。

村人にとっては触れず近寄らず、祟りしかない害悪だ。

自分達の安全の為、村長はどうせ失敗したら報酬を払う必要がないし成功すれば儲けものだと外部に新たな討伐者を募っているだとか、村に立ち寄った何も知らない余所者が宿泊しているならこの魔物が腹に食糧か苗床がいる間は大人しくなる性質を知るからこそ近づくように仕向けるかもしれないだとか。

そんな村の事情など知らず、興味も無く、捕食植物は肌寒い風に蕾のような瞳を揺らめかせて獲物を待ちじっと擬態し続け。

プレデランター > 幸い、この日は犠牲者がでることはなかった。
時間の問題であり、この魔物が討伐されるか完全に別の生息地へと狩場を移さない限りは解決には至らないとしても、その日を無事に済ませられたのは村人にとっても外部の者からしても幸いだと言っても良いのであろう。

ご案内:「ゾス村」からプレデランターさんが去りました。