2018/04/24 のログ
ご案内:「ゾス村」にロカさんが現れました。
ロカ > 商店街、と言うにはささやか過ぎる商業区域の一角、食材店カウンター前。頭から襤褸布めいた、否、襤褸布そのものを被った青年は、恰幅の良い店主の前で蛇に睨まれた蛙の如く硬直していた。
有無を言わせぬ視線に頬は無駄に熱くなり、冷えた指先に滴る程手汗が滲む。けれども、言わねばならなかった。ごくり、喉を鳴らして生唾を飲み込む。

「ぁああ、あの……」

じろり、店主の眼が動く。それだけで双肩が跳ね上がり、握り締めた指先が戦慄く。浅い呼吸を繰り返し、前髪で覆い隠した双眸に涙を滲ませて

「……ぉ、お金、ま、前より、少なくな、『しょーがねぇええんだよ坊ちゃんよお!!』

丁寧に鞣された毛皮幾つか、処理済みの肉塊、森に群生する野草。多少の手間を厭わねばある程度は手に入る数々ではあるが、それにしても、青年が提供した獲物への代価として差し出された対価は少な過ぎた。どれ程かと言えば、村の足りない子供ですら気付く程の足許見られまくりの値段であった。
流石の青年ですら文句を言う程―…まあ、被せ気味に遮られたのではあるが、ともかく―…
子供の小遣いに多少毛が生えた様な値段に、青年にしては珍しく抗おうとする。するが、店主の放った『嫌なら王都にまで行きな』に押し黙り、迷った末にカウンターへ置かれた数枚の対価へと手を伸ばす。

ご案内:「ゾス村」にセレーナさんが現れました。
セレーナ > 寂れた寒村、なんて表現の似合うゾス村。そこに一人の少女がいた。
道をてくてく歩いて、きょろきょろと風景を見ている。

「……ん~。なんとも」

寂しい村だなぁ、とはさすがに口にしないものの。
少女は、ちょっと退屈、というように溜め息を吐いたが。

「おや?」

どこからか、人の声。しかも怒鳴り声が聞こえた。
これは何事か、とその声のほうに向かう少女。
かなりの速さで声の発生地点にたどり着けば。

「ねぇ、そこの坊や。何かあったのかしら?
 ちょっとお話、聞かせてもらえない?」

食材店の前で、なにやら穏やかではない状況を発見し。
少女は、胸を張って青年に声をかける。
なお、坊や、と言っているが。見た目的に判断すれば、少女のほうが明らかに年下なのだが。
そこは少女、気にしていない。

ロカ > 絶望、失望、悲しみ、恐怖、様々な感情に視界が揺らぎ、臨界点を迎え滲もうとした涙が、驚愕によって引っ込む。
ついでに、腕も引っ込んだ事に気づいた店主が舌打ちを零すも、それに気づく余裕すら無い。
少女へ視線を向けた後、左右を見渡し、震える指で己を指し示し

「ぼ、ぼ、…坊や、て、ぼ、僕っ…の、こ、事、かな、…です、か?レディ……」

どもりながらも言い直し、乏しい語彙力で懸命に彼女を尊重しようと努力する。
詰まった鼻を鈍く啜り、胸の前で指を落ち着きなく擦り合わせて

「ぁあの、あの、……これ、これ『いやぁ!しょうもない話ですよお嬢さん!!コイツがね!どこにも所属してねぇ、はぐれ寸前乞食野郎を憐れんで正体不明の肉を善意で買い取ってやってんのに!その恩も忘れて対価が少ないと言い出しましてねぇ!!』

再度店主の声に遮られる。先程の怒声と異なり、店主の声は明らかな猫撫で声であった。
何て言ったって少女は身なりが良い。目の前の水を掛けられた野良犬の様な青年と、良く言えば朴訥、悪く言えば田舎者丸出しの店主に比べ、断トツで洗練されている上、この中で一番資産を有してそうであった。

セレーナ > 「えぇ、あなたのことよ。坊や。あら、レディだなんて。
 やっぱり、超絶無敵、可憐にして聡明。一流冒険者への未来が確約されている……。
 この、セレーナ様のオーラに当てられれば、レディ、なんて形容詞が自然と出てきてしまうのね!」

少女は、相手の言葉に尊大な様子で答える。無論、これは少女の演技だ。
少女はそんな大層な存在ではない。だが、少女はこの演技をしている時は、自分がとても強くなれた気がした。

「ふむ? ……店長さん、ちょっと失礼するわね。
 ……へぇ。……ほぉほぉ。
 ……それで? 店長さん。この毛皮。肉。野草。その対価はお幾ら払おうとしたって訳?」

自身に向けて話しかけてきた店主の言葉を聞き、少女は目ざとく店の中と、カウンターなどの状況を把握する。
少女は、この一瞬で状況を理解した。店主の態度、言葉。
坊や、という青年の態度。そこから、状況を把握しきった。
経験が少ないとはいえ、冒険者としての経験が。少女の判断力を鍛え上げていたのだ。

「もう一度だけ聞くわ。この私、超絶最強、流麗にして栄華が約束されているセレーナ様に、聞かせてもらえる?
 ……対価は。幾ら。払うつもりだったのかしら」

その声は、少女の見た目からは想像もできぬほど。まっすぐであり……重く響くものだった。

ロカ > 何だかわからないがとにかく凄い。店主の恫喝とは異なる硬直をした青年の頭に浮かんだ言葉が、それであった。
そこには感動と、初対面且つどう考えても年下の少女に向けているにも関わらず、憧憬すら滲んでいた。
青年にしては珍しく、仄かに口許が綻んだのは、年下である気安さであろうか、それとも、とにかく敵では無いらしい、と言う認識からであろうか。
圧倒されたのは、店主も同様ではあったが、そこは田舎商人とは言え海千山千の中年男、肉付きの良い顔に満面の笑みを浮かべ

『いやね、ここらの者じゃないお嬢さんにはわからねぇだろうけど、こいつはこの辺ならどこでもとれるもんで、ねぇ…?』

取り繕う言葉が、徐々に弱々しくなる。
丁寧、を通り越し神経質めいた繊細さで鞣された毛皮には綻びや傷一つ無く、同様に処理された肉塊は小動物特有の小骨すらも丁寧に処理され、鮮やかなピンク色の筋繊維には血塊の一つも無い。
照明で誤魔化してはいるが、店に並べられている肉の質、無造作に束ねられた毛皮のけば、どこにでもあるらしい、野草の入るであろう瓶には干からびた蕾が一欠けら……言い逃れの出来ぬ、状況であった。
店主の芋虫めいた指が動き、銅貨を、一枚、少女の目を見てまた一枚、忌々し気な顔をし、銀貨を数枚上乗せする。
そして、完全蚊帳の外となった青年は、その様子を、初めて魔法を見た子供の様、隠れた双眸を輝かせて見つめていた。

「レディ……、せ、セレーナ、様、す、す、すごい、すごい!ぼ、僕、こんな、たくさん、見たの、は、初めて…!」

セレーナ > 目の前の青年が、自分をどう思っているか。考えるとちょっと怖い。
変な人に思われてないかな。もしかして逃げられるかも。
でも、退けない。この場で青年の味方は自分だけなんだ。
そんな思いが、少女を奮い立たせていた。

「……はい? 良く聞こえないんだけど?
 例えばこの毛皮。この周辺に生息する狼の毛皮よね。
 これだけ大きくて、上質に切り取られた毛皮、私はそうそう見たことないわ。
 これだけでも、北方なら金貨1枚は取れるんじゃあないかしら。
 この肉。血の抜き方。骨の除き方。かなりの腕前よね。
 まぁ、サイズが小さいから。銅貨3枚って所かしら。
 野草は確かに。対して珍しい物ではないわね。でも、まとまった量があるじゃあない。銀貨1枚って所?
 ……で? これに、幾ら払おうとしてたの?」

少女の表情が、怒気に彩られる。商人が明らかな誤魔化し、そして詐欺まがいの行為を行っていたのは明らかだ。
ゆっくり、ゆっくりと報酬の上乗せをする相手。その表情が忌々しげになれば、少女は懐からリボルバーを取り出し店主に向ける。

「何? その顔。アンタがこの坊やから不当に搾取をしようとしてたんでしょ?
 これだけの物をしっかりと仕入れた坊やに対して、はぐれ寸前乞食野郎? その上で詐欺?
 オマケに……ここらの者じゃないからって、私にはわからないだろうけど、とかぬかした?」

少女はリボルバーの撃鉄起こし、思いっきり息を吸う。肺一杯に酸素を満たし、ぴた、と動きを止めきっかり二秒後。
村中に響く大音量の怒声が炸裂した。

「舐めるな! 下賎な田舎商人風情が!!
 この私を誰だと思ってる! 王都マグメール、トゥルネソル商会マグメール支店所属!
 広報担当契約冒険者セレーナ様よ! 物を見る目など、日々鍛えてるわ! 恥を知りなさい俗物!!」

見た目に似合わぬ大音声を放ち、少女は青年を見てウインクする。
当然、この後どうなるか、とかそういう小難しいことは考えてない。

ロカ > 『金貨なんてとんでも無い!こんな小さな商店で、買い付けで金貨なんざぁ出してたら店が潰れちまうよ!
……なぁ嬢ちゃん、嬢ちゃんは多分、どっかの商人の娘で、パパの金勘定をよーっく見て勉強してたのはわかった。
けどよぉ、大人の男に対する言葉遣いだの、態度だのは、躾けられちゃぁ……

己の行為に対する後ろ暗さか、彼女は己の客では無いどころか、利益を損ねる敵であると言う認識からか、呼称、言葉遣いが徐々に荒くなり、先程の怒声と然程変わらぬ声質へと変化する。
道理だの、正義だのは何の金にもならない。己の分が悪いと知った瞬間、店主は単純な力―…暴力、で青年諸共少女を捩じ伏せようとした、が、つきつけられた凶器によりパワーバランスは呆気なく少女へと傾いた。
むっちりとついた肉のせいで小さく見える目を幾度も瞬かせ、生きながら肉を裂かれた哀れな獲物の様な表情で、金貨を1枚、上乗せした。
最初にカウンターにあったのは銅貨5枚。だと言うのに、今はどうだ。
銅貨十数枚、銀貨数枚、そして、青年が今まで一度も手にした事の無い金貨。
疾風の如く現れた少女によって、その奇跡は齎された。
田舎町の、そして品揃えが然程良くない店の店主にとっては、本当にこれが限界の様だ。
しょぼくれた店主にとって代わり、息を吹き返した青年は店主の気が変わらぬ内にと素早く対価を握り締めて袋に突っ込み、

「セ、せ、セレーナ様、は、ち、小さいの、に、すす、凄いね……!」

彼女の見目、そして背丈。少女と言う物に縁遠い青年は、幼く見える彼女の外見年齢より更に二つ三つ、下と受け取っている様であった。興奮で戦慄く声に、賞賛だか侮辱だか何ともアレな言葉を乗せ、落ち着きなく口許の布地を握る。
わぁ、わぁ、とどちらが子供だか分らぬはしゃいだ声を零し、叶うならば、少女の手を取らんとする。何故ならば……

「えっと、ぁ、ああ、あの、ね。ぼ、僕、商売…わからない、デス、けど……街中で、そ、その、危ない物、振り回すの……」

青年の容量を得ない説明よりも、次々と集まる野次馬や、騒ぎを聞きつけた自警団の足音が、少女に逃走を促す。
店主の悪徳具合を差し引いても、年端の行かぬ少女が凶器を振り回しているこの状況、そして田舎特有の地元贔屓の癒着…等考えるに、面倒な事にはなりそうである。

セレーナ > 「そりゃあそっちの事情。代価が払えないなら買取をしなければいい。
 残念。私はただの冒険者よ。将来的にはこの国に名を轟かせる予定だけれども。
 ……まーだ分かってないみたいね。こんな子から搾取するのが大人の男のやりかた? それと……。
 アタシはもう夫もいるってのよ! 主婦の生活眼ナメんなブタ店主!!」

相手のいいわけじみた言葉を一刀両断する少女。金銭が払えないなら買取をしなければいい、と言った次の瞬間。
相手の様子が変わりそうになる、その僅か一瞬前の気配を読み取り、少女がさらに機先を制する。
オマケに、空に向かってリボルバーを発砲する始末だ。空気切り裂く銃声。
目の前で代価がしっかりと払われたのを確認すれば、少女はうん、と頷く。

「ふっ……こんなこと、チョロくって欠伸が出るわ。
 あと、小さい言うな」

青年がしっかりと代金を手にしたのを見て、少女はリボルバーをくるくるくる、と回してホルスターに仕舞う。
だが、相手の指摘を聞けば。少女は息を吐き。

「チッ、これだからこの村は嫌いなのよ……ってのは、私じゃない私の感想か。
 オッケ、逃げましょ。一緒に逃げてくれる? 坊や。それと……」

少女は相手に手を握られれば、一緒に逃げようか、と提案するが。
振り返り、完全にしょげてしまっている店主に向けて、金貨の入った袋を投げつける。

「迷惑料よ。取っておきなさい。これに懲りたら、全うな商売を心がけるのね。
 ご近所の皆さんも! もしも王都に来た際は、トゥルネソル商会をどうぞご贔屓に!」

笑顔で野次馬に宣言すると、少女は青年の手を引いて駆け出す。
事が終わってから、心臓がバクバクと跳ねていた。
だが、人を救えたという思いから。少女の表情は明るいもので。

ロカ > 「!?」

夫の件に眼を見開いたのは、店主、青年、野次馬の内の何人かであった。ある程度子を為す準備が出来れば未成年の内に嫁ぐのはそう珍しい話では無い。特にミレー族は早熟と聞く。しかし、思わず「そんな……」と言う失望の声が出る程、少女は幼く、その活躍は華やかであった。
それは、小さく柔い手を握り、密かに心臓を弾ませた青年も同様である。仄かに芽生えかけた甘酸っぱい何かの代わり、純粋な好意と尊敬、そして未知なる物に対する好奇心に青年は思わず破顔し

「ご、ごめん、ね?セレーナ様。あ、あと、あと、ぼぼ、僕、も。坊やじゃ、無…っ…ぁ、あの、ロカ。ロカ、だよ、僕」

謝罪の途中ではっと気づき、今更ながらに恩人に名乗る。
その間にも、青年は少女と共に駆け出す。どっと沸き立つ野次馬の歓声を背中、懐の重たい感触に、何時も以上に足が軽い。

「とーるね、そ、る……商会…、な、何か、聞いた事がある様、な…、…ぁ」

田舎者の己でさえ、どこか聞き覚えのある様なそれ。首を傾いでの思案は、途中で途切れる。暫し少女の表情に見惚れ

「せ、セレーナ、様、は。かわい、い、ですね。……さっきは、凄く、格好良かった、の、に…手、し、痺れて無い?ぁ、あの、有難うございます。ぼ、僕なんかのため、に…」

田舎町に轟く銃声、それを放った銃の衝撃が、少女の細腕を苛んでやいないかとの心配。人ごみの喧騒より離れてから、幾らか速度を緩めつつ言葉を発し)

セレーナ > なぜか周囲から驚愕の気配を感じるが。少女はそれを、女だてらに冒険者をやっているから、ということだと勘違いする。
なので、むしろなぜか誇らしそうに笑顔になってしまうのだ。

「謝らなくていいわ。謝るならアタシの方だし。
 ……そう。じゃあロカって呼ぶわ」

ことを大げさにしたのは少女のほうだ。少女は少し申し訳なさそうな顔になりながら、相手と一緒に走り出す。
触れた手は暖かい。相手の格好のこととかなんて、気にもならない。

「ふふ。このアタシが広報担当として務めてるだけあって。
 超一流のお店よ。ほとんど何でも揃っちゃうんだから」

相手の小声をしっかりと聞き、改めてお店の宣伝をする少女。
相手が自分の顔に見惚れているなんて、考えもしない。

「……ま、まぁ!? 当然だけどね!?
 アタシは、可愛くて美しくて強いのよ!
 手? あぁ、さっきの発砲? 大丈夫よ。これ、小口径だから。
 ……それと」

ある程度現場から離れ、少女も速度を落とし、走るのを止める。
心配してくれた相手に説明しつつも、少女はくるり、と向き直り。
相手のことを、べちん、と軽く叩く。

「僕なんか、とか言わない! そういう所が、付け込まれる所なのよ!
 もっと自信持って! アナタの納品した商品はすばらしい物だった。
 自分の仕事を誇りなさい! それができなきゃ、アナタ一生そのままよ、ロカ!」

腰に両手を当て、説教モードの少女。まだお腹に赤ちゃんがいるとはいえ。
既に母親としての素質十分であった。