2017/09/26 のログ
ご案内:「ゾス村」にホウセンさんが現れました。
ホウセン > ”少し風変わりな集団が、村の外れで野営している”という話は、広くもない村の中で、殆どの住民の耳目に届いていただろう。
その素性は、王国軍の依頼を受けて、タナール砦周辺に展開している部隊に補給物資を届ける為の隊商。
道程の半ばまでは順調に進んできたものの、トラブルに見舞われての不本意な滞在だという。
曰く、この村の程近くを流れる川が増水し、破損した橋の修復が終わるまで通行止めになっているとのこと。
ここまで急ぎ足だった疲労を癒す意図も含み、川の近くまで進まず手前の村で足を止めているのだ。

「そら、そろそろ交代の時間じゃ。
 前の時間帯の者で、未だ戻ってきておらぬ不届き者はおらぬか?」

荷馬車の幌の上という脆く不安定な場所で、小さなシルエットがふんぞり返っている。
荷馬車二十台と、其々の御者や荷降ろし役兼護衛の元締めたる商人は、一見すると子供にしか見えない。
この村に先触れとして到着するや否や、村の外れの平地を貸して欲しいと交渉したのも、この存在だというのに。
全員を旅人向けの宿屋に泊まらせることも考えたが、人だけならともかく荷馬車までを収容するキャパシティはないようで、人と荷物を分断させるわけにはいかぬと、隊を三つに分けて一日ずつ自由時間を与えたのだ。
柔らかな寝具で横になり、或いは酒色にありつき、休息を謳歌していたグループの年貢の納め時。
幸いにも遅刻するような輩はいなかったようで、引継ぎはスムーズなものだ。

「善し、申し送りが終わった者から、村で羽を伸ばすがよい。
 但し、依頼主が依頼主じゃ。
 くれぐれもお行儀よくせねば、儂らが縛り首になろうぞ。」

其処まで深刻な罰を受けることはなかろうが、威信を失墜させた等と言いがかりを付けられるのも業腹だ。
何しろ、それを口実に報酬を値引きしてくるであろう事は、明らかなのだから。
軽い注意喚起を行うと、滑るように幌の上から地面へ降り立つ。
談笑しながら村に向かう使用人達を見送りつつ、さて自分は如何したものかと思案顔。

ホウセン > 平素なら、一も二もなく村に向かう連中の後を追うであろう事に、議論の余地はない。
成金趣味を標榜する訳ではないが、何もない野営地に留まるよりは、村の酒場なり何なりに顔を出す方を好む道楽人である。
そんな道楽人が、交代の見届けという一仕事を終えても尚留まっているかといえば、幌に縫い付けられたどこぞの騎士団の紋章のせいだ。
王国軍の依頼ではあるけれど、妖仙達自身は軍に属していない。
お高く留まったお歴々の感性だと、大事な大事な紋章をどこの馬の骨とも知れぬ雇い人に掲げさせるのは、好ましい事態ではない。
その辺の機微は知悉しているから妖仙の側から特に求めずにいたというのに、逆に半ば押し付ける形で掲出させられている。

「利益と不利益は、どっこいどっこいじゃな。」

隊商にとってというより、依頼者にとって。
利益は、魔族の侵攻を抑えようと、王国軍が活動していることを街道沿いの住民や旅人にアピールできること。
不利益は、王国軍の行動を邪魔しようと企図する輩がいた場合、標的がここにいると教えているようなものであること。
まだまだ魔族の勢力圏は遠く、隊商の存在を察知されるか怪しいところで、察知されても実行力を以って襲撃する酔狂な敵対者がいるというのは、更に稀有な話だろう。
だが、民衆の上に立っていると信じて疑わない貴族出身の軍幹部が、態々宣伝の為だけに紋章を貸し出すとも考えにくい。
その収まりの悪さが、少しばかり気がかりといえば気がかりだった。

「…考えても仕方ないかのぅ。」

ゆるりと息を吐き出し、小さな歩幅でトテトテと村の中心部に向かって進み始める。