2016/11/28 のログ
ご案内:「ゾス村」にウェーバーさんが現れました。
ウェーバー > 「ぷはぁ…」

日も高い内から、村外れの空き家の軒先で、適当に運んできた切り株に座ってパイプを吹かす偉丈夫の姿は嫌でも目立つ。
それが余所者とあれば尚更で、時折通る農作業を終えた村人たちは皆それぞれ胡乱そうな目を向けてくる。
それ自体は、男も耐えられない程のことではなかった。
余所者への警戒心は強いが少なくともその感情は目に見えてわかる。
逆に人の多い都市では、何を考えているかわからない手合いがゴロゴロいると思えばいっそ気も楽になるという話だ。

しかし男とて何も無許可で居座っているわけではない。
来る途中に丸腰と侮ってちょっかいをかけてきた野盗を適当にのしたことで、村に略奪に来る途中だったのではないかと心配した村人たちから護衛の依頼があった。
そして村で集めた少ない報酬を補うために空き家を一つ押し付けるような形で借りることになっていた。
無論空き家のため雨風をしのぐ以上の使い道もなく、やることと言えば村人から買った煙草を吹かしながら来るかもわからない野盗の影を見つけようと村に続く道の向こうを睨むぐらいであった。

「ぬぬ…いっそ、山狩りの依頼でも受けた方がよかったかもしれんぞ…」

用心棒と言うと聞こえはいいが、何もない平和な時間が続けば、男にとってもひどく退屈な時間となる。
下手に鍛錬のために立ち木を打ち出せば村人が怯えるためとはいえ、夜に人目のない時に型稽古をするに留めていては身体も鈍る。
呟きながら、村長に直談判して依頼を変えさせようかとも思い浮かびながら、大きく煙草の煙を吐き出した。

ウェーバー > 「クソッ、もう切らしたか…」

ぼんやりとしていると、パイプの中の煙草は燃え尽きて灰のみとなっていた。
ため息を吐きながら、切り株の端にパイプをカンカンと叩いて灰を落とし、ベストの内側へと手を伸ばして気づいた。
村人から買い込んだ刻み煙草も、いつの間にかすべて灰となってしまっていたようだった。
元々多く吸うことを想定してそこそこ大量に買っていたはずであったが、それが全てである。

「ええい、このままではケチな報酬より煙草代が高くつく」

男はそう独り言ちながら、もはや用のないパイプを投げ捨てて立ち上がる。
身体も鈍り放題で、煙草を吸い続けるだけの日々ではいけないと思い立った。
そして切り株を蹴り飛ばして退けていけば、そこにどかっと胡坐をかいて座り込み、目を閉じてゆっくりとした重々しい呼吸を始めた。
単純に身体の気を高めるだけなら、貴重な札は必要とせずに、集中と特別な呼吸だけで行うことができる。
それは札を用いる特殊な術のような効果はないものの、それらの基礎と言える技術でもあるため、欠かすことはない。
大っぴらに鍛錬をしていてはいざという時に動けないと困ると村人に文句を言われるが、ただ座って呼吸をしているだけなら、周囲に気を配っているし、故郷に伝わる瞑想の仕方だとでも適当に言いくるめてやればいいと考えていて。
呼吸の度、何かが口を通して身体の中に降りてくるような感覚がして、全身に力が満ちていく。
師匠には龍が降りてくる、だのなんだのと説かれたこともあったが、男にははっきりとしたことはわからないままその師の元を離れた。
少なくとも、普段の地道な積み重ねがいざ戦いの場において信頼のおける手段になるという点ははっきりしているので、男は今もその師の術を真似ていた。

ウェーバー > 「フゥゥゥゥゥ…ん、ここまでか」

暫く続けていた呼吸が、ある時を皮切りに身体に満ちるような力が不意に失せていく。
師の曰く、馴染んだ、満たされたという状態で、これを繰り返せばもとから高い魔力をさらに高めることができる。
閉じていた瞳を開けて、ゆっくりと立ち上がっていく。
身体に大きな負荷がかかったような感覚があるが、それで動けなくなるほど身体は鈍ってはいないことに男はひとまず安心する。
身体が温まり良い準備運動になったとばかりに一つ大きな伸びをした。

「さて、村長に行って物見台をこさえるとしよう」

魔力を高めている間に思いついた案を実行するべく、村長の家まで歩いていく。
その後村長に許しを得た男は斧も持たずに近くの森に入っていき、いくつもの丸太を抱えて村へと戻って一日で物見台を立ち上げたが、結局それは用心棒の仕事の間身体を鍛える役にしか立たなかった。

ご案内:「ゾス村」からウェーバーさんが去りました。