2015/10/20 のログ
ご案内:「ゾス村」にシドさんが現れました。
■シド > 遮るものなく晴れた天上に座す月が満ち満ちた明かりを古ぼけた村に注いでいる。
月明りすら眩いと感じる村には一軒の家しか明かりが燈されていない。
粗末な家が立ち並ぶ中、王都にあっても遜色ないその村長の家の窓辺にと貴族が煙草を燻らせていた。
待たされた時間が明確に半分ほど削がれた紙巻が告げている。
流れる紫煙を溶かす夜気は昼の暑さも凍てつかせたように冷える。そんな夜に訪問した所以は――
「おう。村長。夜分遅くすまんな。手短に要件だけ言おう。私の家に盗みを働いたものがいた。大切な家宝を盗んだ輩を追っていたらこの村に辿り着いてな。」
低頭一徹に美辞麗句並べる老人を掌で制しながら我が物顔で室内を歩きまわる。小さな村には似合わぬ調度の数々に葡萄色の眸が鈍く閃く。
「お前を疑うつもりはない。然し、引き返す訳には行かずここまで来た次第だ。
――しかし村長。中々、趣味がいいな。」
裸婦をモチーフにした彫像を指でなぞりながら嘯く。
■シド > 「いや……なに。これと同じものを見たような気がしてな。
おお、これも。それも。よく見たものばかりだ。同じ趣味を持つ輩は少なくてな。今度茶会にでも招待してやろうか。」
その掌で室内の調度の数々愛でていく。語る言葉は笑みが囀るも眸は笑ってはいない。背後より萎縮し、然して眸だけは殺気立つ眼差しを肩越しに絡ませてゆく。
「何を怒っている。この彫像が盗まれたものだなんて一言もいってないだろう。
だが盗みを働いたものには容赦はしない…… 必ず償ってもらう。」
酷くゆっくりと側にある石に腰を下ろし膝を組んだ。未だ佇む長老は仰ぎ眺めるような姿勢。
捲し立てる言葉は丁寧なれど震わせる肩は決して歓迎されたものではない。
それでも平然と億劫そうに溜息をついて長い前髪を掌で掻きあげて挑発を続ける。
「が、もし手荒な事になる前に、盗んだものが返ってくるならば……
私もこの件は鞘に納めると約束しよう。
どうだ、村長。悪い取引じゃああるまい。」
にんまりと葡萄色の眸を柔らかにそよがせ反応を待つ。その背後で凶刃を構えて襲いかかろうとする数名のものがいるにも関わらず……
■シド > 卓に置かれた洒落たランタンの、鏡のように磨かれた表面越しに襲いかかる男と視線があった。
平身低頭としていた老人が汚らしい歯を剥き出し恫喝を。そして二の句もなく、背後の男が凶器で斬りつける。首筋に鋭い風が吹き抜ける。
小綺麗な卓に鮮血の飛沫が巻き散らかされた――
「最悪の選択をしたな村長。お坊ちゃま育ちの貴族だとタカを括っていたのかい?」
防ぐには造作も無かった。腰を下ろした儘、見向きもせずに剣を振りぬく。
確かな手応えと共に生暖かいものが振りかかるのにも表情を崩さず、怯える老人に鋭く視射したままに剣を振りかざす。
此度は手応えがない。その枯れ木にも似た首筋に掛かる前に止めたのだ。
「最悪の選択というのは。お前の命の危険じゃない。 ……手塩に育てた手駒を失うことだ。
――こいつだろう?俺の家に盗みに入ったのは…… その腕をもっと別のところに使えば良いのに。バカなやつだ。」
初めて背後にある首がない死体に一瞥する葡萄色にはもう殺気はない。
■シド > 援軍はない。たったひとりの貴族に手勢を用意していなかったのだろう。瞬間に起きた事実を理解して膝を崩す村長を見届けるに溜息を零す。
血に濡れた白刃を己が外套で拭いゆくに、また一つ溜息を。
「望むなら赤い雨を降らすのだって吝かではない男だと分かっただろう?
村長。盗んだものを全て返せ。この約束を違えれば次は命はないぞ。
――なに?お前も人殺しだ。訴えるだと?ならば俺は自領の兵を率いてここを滅ぼしてやろう。小さな村一つなくなるなんてこの時世珍しくはない。」
綺麗に拭い終えた剣を鞘に納めれば青年は立ち上がり、小さな欠伸を零す。眠気が訪れた。早く帰路に着こうと村の外に出て行く。
掌に感じる嫌な感触、忘れようと紫煙をくゆらせながら、その姿は郊外の闇に紛れていった――
ご案内:「ゾス村」からシドさんが去りました。