2023/05/08 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場」にアスリーンさんが現れました。
アスリーン > 貴方がどのような意図で、この主戦場に足を踏み入れたのかは定かではない。
そしてどのような経緯で、敵陣まで向かうことになったのかも理由は問わない。

ただ、貴方が昼間は王国軍が敵軍とぶつかり戦っている主戦場を夜の内に越えて、敵の本陣近くまで踏み込んだのであれば、次の光景を見るだろう。

────主戦場から少し外れた敵の本陣では、異常な現象が起きていた。
おびただしい程の、悍ましい、純白の羽で出来た蚕の繭のようなものが敵陣の中に広がっていた。
かがり火が炊かれている。風が吹いて陣幕が揺れる。けれど歩哨の姿はない。
敵であるはずの兵は殆ど姿がなく、その無数の繭だけが存在する。

否。
その中央に、遠くからでも見えるような巨大な女がいた。
長い銀糸の髪を月明かりに照らし、羽根のように白く輝かせてなびかせる。
人間の平均的な身長をゆうに超える、3メートルに届かないぐらいの姿でなければ、可憐な少女性を残す美しい女に見えるだろう。
その女の背には、三対の六翼が、月の光で美しくきらめいていた。

この異様な光景を目にして、引き返すもよし、近づくもよし。
ただし近づいてきたならば、"聴こえる"筈だ。

天上高く掌を差し伸べ、月に捧ぐよう朗らかに、一つの乱れもなく美しく紡がれる、その歌声を。
言語は理解できまい。異国の言語にも聞こえるかもしれない。
その歌を聴いた貴方が、状態異常に抗体を持つのならば、異様な光景に見えるだけだが。
もし何の耐性もなく聞いてしまったならば、貴方の聴覚を『幸福感』という場にそぐわぬ違和感が襲うだろう。

ご案内:「ハテグの主戦場」にあやめさんが現れました。
あやめ > 正規兵でもなければ魔族の人間の諍いにも興味はない。
しかし、今回は王国側のある人物に受けた借りを返すために参陣の腹を決めた。

その戦場が大局的な意味での勝敗にどの程度の影響を及ぼすかは、
未知数ではあるが、一時的な勝利にしかなるまい。

何にしても、今回は王国側に分があったようだ。
こうして本陣に単身切り込めるということは。

しかし、想像していた迎撃はなく。
内心首を傾げる女の目に映ったのは、いきり立った敵兵たちなどでもなく。

繭。そして、巨大な女。
自分も成人男性の平均より上背があるほうだが、恐らく近くに立ったら見上げるほどになるだろう。
それは何かの本で読んだことがある……

「──天使──?」

まっしく天使という見た目の女。
まったく殺気は感じられないが、周囲には謎の繭がまるではべるように置かれている。
王国軍に与する存在なのだろうか?
女は近付いて行く。勿論得物を手放しはしない。

しかしそんなそなえは、意味をなさなかった。

歌が……聴こえる。未知の言語の。
歌舞音曲を愛でる風流は持ち合わせているが、初めて聴く歌だ、
脚が天使に近づいて行く。
何せ、もっと近くで聴きたいのだから。
どこか胸が軽くなるような、幸せな気持ちを喚起する歌だ。
相手が何者なのかなどと、考える必要は……ないではないか。

女はおかしくなっていた。

アスリーン > ────まさしく、天使に見えるだろう。

玲瓏な歌声は、貴女の耳に好ましい音に聞こえる筈だ。
貴女が歩み寄ってくるならば、それを阻む者は誰もいない。
天使の足元、天使の背丈に及ばぬ敵兵たちは、皆夢うつつに天使を見上げ、幸福に浸っている。
中には、多少なり正常な意識を持つ者もいたが、天使が撫でれば喘ぐように叫び、とろりと双眸が蕩けていく。
天使のコンサートを観賞していた者たちは足元から生える無数の羽に侵蝕され、呑まれ、月のように光り輝く繭となっていった。

「────まぁ、初めて出逢う愛しい貴女、こんばんは。
 貴女もわたくしの歌を聴きに来てくれたのね」

嬉しいわ、と天使がはにかんで、貴女を見下ろす。
音もなく近づいて、1mほどは身長差によって上から覗き込むように、天使の蒼い瞳が貴女の紅緋の瞳を見つめる。
視線を反らせと警鐘を鳴らすかもしれない。
反らさなければ貴女の視界を侵蝕するモノがある。
見るだけで幸せな心地になる、そんな幸福感が、聴覚に続き視覚を犯していくだろう。
天使は微笑んでいる。
貴女に害意も敵意も悪意もなく、純粋な好意と愛情を込めた眼差しで、貴女を見つめている。

貴女の頭すら片手で掴んでしまえそうな大きな掌が、貴女の頬へと伸びていく。

「美しくて愛しい貴女。貴女の名前を教えて頂戴?」

優しく、愛しさを込めて、天使が問うた。

あやめ > 「──はっ──」

女の場合は、正常な思考力がそのまま狂う、という形で幸福の波動の影響が出ていた。
本人は平常心を保っているつもりなのだが、確実におかしくなっている。

自分の精神にそんな影響力を及ぼす効果にさらされていたら、
本来ならとっくに相手を敵として認識している。
しかし、そもそも相手を敵として認識するという発想自体がぽっかりと抜け落ちてしまっているのだった。

しかし一瞬、近付いたことで目に入った光景に、ぼうっとしていた頭がはっきりする。
が。
ほとんど同時、天使が直接女に語り掛ける。
その内容に答えることが優先事項になり、はっとさせた光景について考えるのは後回しにされ。

「ええ、とても……素敵な歌です」

何を平然と会話しているんだ、ともう一人の自分が頭の中で言っている気がしたが、
平然と会話をしてはいけない理由がよくわからない。
眼を見るな、きっとその視線にも何か力が──
もう一人の自分の鳴らす警鐘がそこで聴こえなくなった。

「私は──あやめ──」

突っ立ったまま、そう、問いかけに答えるのだった。

アスリーン > 「▮▮▮────あやめ。そう、素敵な名前だわ。
 わたくしはアスリーン。貴女に幸福を与えるモノ」

貴女の聴覚から脳へ、幾重も重なって反響するような声で、天使は告げる。
貴女の頭の中で、幸福を遮るものがないように、見えない何かが侵蝕していっている。
真正面に立ち、答える貴女の頬を天使が両手で包み込む。
熱すぎず、冷たすぎず、人肌の温もりと呼ぶにふさわしい温度。
産まれたばかりの赤子を愛おしむように、貴女という存在を無条件で愛する御手。
頬を撫で、首筋を撫で、背中まで伸びてもっと近くへと貴女を抱き寄せるだろう。
そうして至近距離にまで身を委ねれば、天使から貴女が安心するような、好む香りがするはずだ。

貴女の触覚を。
貴女の嗅覚を。
同時に侵蝕し、心地よく波に揺蕩うような幸福を、貴女に注ぐ。

「さあ、あやめ────すべてをわたくしに"委ねて"。
 貴女に、快楽(こうふく)を与えましょう」

月を背に翼を広げ、荘厳な宣告が貴女に託される。
警鐘を鳴らすものがいなくなり、貴女が受け入れ委ねる姿勢が整ったなら──貴女のその唇へ、天使は顔を寄せて口付けよう。
唇を開いて、舌を差し込んで、甘くも瑞々しい、貴女の好む幸せの味がする唾液を注いで。
味覚から脳へ────完全なる"幸福付与"を行おう。

アスリーン > 【移動します】
ご案内:「ハテグの主戦場」からアスリーンさんが去りました。
ご案内:「ハテグの主戦場」からあやめさんが去りました。