2022/08/07 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場」にロン・ツァイホンさんが現れました。
ロン・ツァイホン > 周囲にはびこる血のにおい。
死体がオブジェクトのようにそこかしこに転がっている。
それは王国の騎士か。それは諸外国からの侵攻軍か。

普段は小競い合いの戦場が、今日に限っては非常に苛烈なものとなっている。
大砲攻撃隊、弓兵遊撃隊、魔法後方隊。それらの部隊が火力を発揮して
それらを崩すために、死ぬ思いで懐へと突破しようとする兵たち。
そんな戦場に一人、死体に隠れている亜人らしき大男が一人。

シェンヤン風の神官服に身を包み、しかしその服からはひどい硝煙の香りがする。
王国側の傭兵として、そうやって戦場で息を潜めることをする者はいる。
彼もその一人だった。

「……首級に挙げられそうな奴は、と……」

そうぼやくその男の姿は、漆黒の鱗に包まれている。
爪先から顔の口先まで、顎から下は白い皮膚になっており、その部分を隠すように。
いや、あるいはその姿勢が普通であるかのように、四足で周囲を見渡している。
パッと見は死体にまぎれているが、ほんの身じろぎすればすぐにでも気づかれかねないだろう。

そんな余裕がある者は、相当な猛者だろうが。

そこまで考えたところで、上空から火薬の詰まった砲弾が飛んでくる。
咄嗟に死体の山へと身を隠して、衝撃が走る。
バラバラになった死体が自身へのダメージを軽減するが、上がった土煙と吹き飛んだ死体の一部が頬をかすめる。

「ごほっ……はぁ、本当にひどいな。報酬も小遣い稼ぎにしかならなそうだ……」

ロン・ツァイホン > ここまで泥試合の様相になると、誰が味方でだれが敵かも判断がつかない。
一度本陣に戻るべきかと考えるが、そこら中に敵も味方も砲弾や弓をばらまいている。
自分の鱗でそれらは防げるが、万が一ということもある、しかしこうして手をこまねいていても、敵が攻めてくる。

―――死んだふりをしてこの戦場はやり過ごすか。

そう、結論が出かけたが、遠くから一人の兵士の怒号に頭を挙げる。

『騎兵が右翼を食い破ってきたぞぉおおお!!!』

そんな怒号と共に、視線を向ければ、大槍を持ち、真横から突撃してくる敵の騎兵隊の姿。
軍馬を駆り、大砲の着弾による衝撃や爆音に怯みもしないよく訓練された馬と兵士たち。
その大槍には血が滴っており、その数は……大体100程度か。
右翼ということは、王国の弓兵部隊がそこに大半はいたはずだ。
大幅に王国軍は遠距離からの歩兵に対する守りが薄れたという事になる。

「……チッ」

思わず舌打ちが出るほど、戦況が悪い。
こちらの歩兵が騎兵隊によって蹂躙されていく。
積み上げられる死体、そして迫る軍馬の姿。
蹄の音が多数近づいてくる……自身の上に乗る死体を踏み越えていく。
それらを感じた後、傭兵神官は騎兵隊が半分ほど過ぎてからその場に立ち上がる。
そう、その進軍する騎兵隊の真ん中で、大きく息を吸って。

キュィィィ……という空気の揺れる音が一瞬、戦場へ響いたと思えば。
そこから、青白い閃光が走る。
竜人の大口から放たれるエネルギーでその騎兵隊を薙ぎ払う。
鎧に包まれた敵兵の体が、鍛え抜かれた軍馬が簡単にその熱線で真っ二つにされていく。

「はぁ、騎兵隊を潰せたなら臨時収入はそこそこ入りますかね」

そう呟き、右翼からは追加で敵の気配はないことを確認して進軍する。
正面の兵士たちはまだまだ勝利、あるいは生きるために戦っている。
自身はそれに殉ずるつもりはないし、なんなら死んだふりをしてやり過ごすことも考えたが。

「やっぱり、負けは嫌ですからねぇ……。神の加護が私にあらんことを」

ご案内:「ハテグの主戦場」にヴェルソートさんが現れました。
ヴェルソート > 戦場から、少し離れた小高い丘の上…とはいっても、眼下すぐに戦場が広がるその場所に、護衛としてつけられた王国側の兵士幾人と立つ男一人。
雇われの歌唄いとしてやってきたそれは、そっと手に七色に艶めく指揮棒を手に持って…大きく息を吸い込み…指揮棒を振り下ろした。
戦場の争音に混じる楽器の音を、気にするものは果たしているだろうか。

『♪…御伽噺 最後のページは破り捨てられて 悲劇に変わり
 たった一つ信じてた想いさえも見失う
 深く深く沈む心 暗い海の底は 凍り付くよう
 想いはたやすく崩れていく 砂で出来た城のように…♪』

戦場に響きだした歌声は、魔法でも併用しているのか、戦場を埋め尽くすように広範囲に甘いテノールと…わずかな魅了、そして強烈な呪歌の響きを伴って、戦場の騒音の中でも不思議と人の耳に届いた。まるで悲恋で凍り付いた心の内を聞かされるような、悲しい歌。
変化が起きたのは、歌が響き始めてからきっかり10秒後。
歌が聞こえる範囲の中、敵対する兵士から、悲鳴が上がる。
「寒い」「鎧が冷たい、皮膚が張り付いた」そして…「凍りそうだ」と。
そんな悲鳴が戦場に混じり始めるが、王国側の兵士にはまったく被害がなく…そして実際、その1分後には戦場でひとりでに凍り付いて動けなくなる敵兵士が、ちらほら出始めるだろう。