2021/10/14 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場 王国軍陣地」にジギィさんが現れました。
ジギィ > 夜になって風が強くなり、天を流れる雲が月明かりを覆って地上に月光の波を造る。
無数にテントが並ぶ王国軍陣地は帰って来たばかりの兵士が行き交って忙しない。篝火に照らされる顔は疲労の色は隠せない様子だが、意気が下がっているようなものは見当たらなかった。バタバタ音を立ててテントの帆布と掲げられた王国旗がたなびく中、武具が立てる金属音がそれに負けない程夜を騒がす。

そんな立ち並ぶテントの一角、療術師が主に駐留している所へ、少し場違いに呑気な鼻歌交じりに歩く女エルフが一人。
通りかかったテントの天幕を少しめくっては中を確認して、或いは声を掛けて、漸く目的のものを見付けるとするりと滑り込んだ。

入口そばのランプを点ければ漸くと中が伺える。ほどほどに広いが、空間を閉めているのは三棹の薬草棚。
そのためだろう、テントの中は独特の香りで充満して、苦いというか渋いというか、兎に角そんな味を舌に連想させる。

「うーへぇ……劇薬ぞろい」

思わず鼻をつまんで女エルフは中を見回す。
自分が持って来た薬類は自然の手を借りた原料と手順で生成されたもので、あまりここまで香ったことが無い。補充の依頼を受けて持って来たはいいものの、果たして効果が見合うかどうか。

「ただ量がいっぱいあるだけ、のせい、だと助かるなぁ……」

すこし不安げに呟きを漏らすと、入口のランプはそのまま、薄暗いテント内の薬草棚へと近付く。小さな引き出しに薬種の名前を確認して、中身を確認して、問題なさそうであれば補充していく。

「―♪σεληνια-…κή φάσηー…」

そうして棚の間を動き回りながらついつい鼻歌まじりになるのは、集中してきた証拠だ。

ジギィ > 外は金属音が満ちているが、このテントの中に聞こえてくるのはくぐもった帆布のばたつく音、入口のランプが時折油を焦がす音、そして女エルフが戸棚を探る音―――と、鼻歌。

ふと通りかかったものが覗いたのならば、部屋の中の香りのせいもあってすこし幻覚のように見えたかもしれない。

そんな、欠けた月が中天に煌々とのぼって流れる雲間から月明りを零す、戦場の夜。
エルフは一晩、その薬草棚にかかりきりで
翌朝棚の間で丸くなって寝ていたのを、当番の治療師にどやされたとか――――

ご案内:「ハテグの主戦場 王国軍陣地」からジギィさんが去りました。