2021/05/05 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場」にギデオンさんが現れました。
ギデオン > 激烈な戦闘により、未だ風には血臭がまつわりついていた。
殺し合いの狂熱から覚めた兵達は、命の永らえたことを誰に感謝するでもなく、疲れた身体をマントに包み、焚火の周りに寝転がる…。

狂熱未だ醒めやらぬ者達は、野営地の周りに建てられた娼館へと姿を消していた。

決して、兵の士気は高くない。
その規律も保たれているとは言い難い。

そういう虚無的な兵の醸し出す空気をこの騎士風の男は、忘れてはいなかった。

かつて、遥か遠い昔。
探求の長い旅のその途次には、そういう戦場をいくつも渡り歩いていたものだ。

結句、この騎士風の男が手っ取り早く金というものを稼ぐには…売剣稼業が最も手に馴染んでいた、ということだ。

真紅の、随所に竜の意匠を刻んだ鎧を男は身に纏う。
かつて、己の忌まわしき祝福…輝かしき呪いを解き放ってくれた真紅の古竜…。
その竜に、男なりの敬意を込めた意匠だった。

一人、他の兵達とは離れて焚火にあたり、男はただ黙って佩いていた剣を磨いている…。

突撃する騎兵の側面支援部隊といえば聞こえはいい。要は、捨て石とされる傭兵部隊に編制され、見事に敵陣を壊乱させて帰陣した。

報酬は…今日一日の戦働きだけでも、騎士風のこの男が求めるには十分なほどに得られていた。

その思わざる戦果により、いくさは早期に終わりそうだ。
早ければ、明日には陣払いとなるだろう。

「…よいものでは、ないな」

苛烈に強者と闘うことを求めてきた。
ただの兵達を相手に、力を振るう。一方的な虐殺になる剣を振るうことは…やはりこの騎士の本懐には遠かった…。

ギデオン > 夜烏が啼く。どこか不吉な響きが戦場に、野営地に響く。
乾いた咳が、焚火を囲む兵達の一人から零れる…。

一人、離れて焚火にあたる騎士風の男の手元からは、ただただ刃を研ぐために、砥石を滑らせる澄んだ音だけが流れていた…。

ご案内:「ハテグの主戦場」からギデオンさんが去りました。