2020/05/19 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場」にジナイアさんが現れました。
■ジナイア > 日暮れの戦場。
本来ならば緑萌ゆる丘陵を、踏みにじり荒らして焼いた戦闘も双方退却の様相で、鬨の声は鳴りをひそめ残るは炎の匂いと地を未だに焼くぱちぱちという音。
さてどちらの陣営が優勢だったか、前線の者たちは解らぬままに陣営へと引いていく。ある者は未だ意気軒高に、ある者は疲弊して這う這うの体で。
丘陵にある兵だれもが一息つくような、一種空白の時間。
その引いていく王都側の隊からひとつ、零れるように丘を、陣営とは少し違う方向へと下っていく影が一騎。
並足で黒毛馬を駆り、丘を取り巻く影深い森へと単騎、入っていく。
緑深い森の中は丘陵での戦闘が嘘のように静かだ。
その森影に入ってしまえば、馬は歩調を更に緩め、根太を慎重に避けながら進む。
(――…これから夜行性の動物たちでに賑わうのかもしれないが…)
馬上の人物、面頬つきの兜を被った女は思いながら更に森の中を進む。
―――聊か今日は蒸し暑すぎた。
直接陣営へと戻って湯で身体を拭くのも捨て難かったが…
それよりも、以前探索ついでにこの森で見付けた清流で以て少し、せめて顔だけでも清めたかった。
記憶と、遠く聞こえる清流の音を頼りに、女は森の中馬をゆっくりと進めていく。
着慣れない甲冑が―――それでも胸当てと肩だけと随分軽装だったが―――身に重く、森にそぐわない音を立てて、女はもの憂げに熟れた唇から溜息を零した。
■ジナイア > 森をやや深くまで進んで、ようやく木陰の向こうに月光を照り返す清流を見つける。
女は馬を止めるとするりとその背から降り、辺りと清流の周囲を伺う。この季節らしく小さな花を付けた植物が川辺のそこかしこに黄や白の彩を添えて、女はそれに翠の瞳を細め、煩わしい兜を外す。
さらりとこぼれた黒髪をかきあげて、今度は安堵のような吐息。
馬の傍まで戻ると、無粋な音を立てる肩当と胸当てとを外して、まとめて馬の鞍へと括りつけて
「―――…今日はありがとう…先に帰っていてくれ。
ゆっくり、休むといい……」
黒毛の馬の鼻面を労うように撫で、首の辺りを軽く叩く。
馬はひとつ、首を傾げてから小さく嘶きを上げて
心得たようにひとり、元来た辻を辿って……その姿が草を踏み分ける音と共に森影に消える。
「―――さて…」